◆第漆章 香しき空へ消えぬ星屑
貴女のお名前を教えてください
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〜152【無情なる時の針】〜
「...っごめんなさい!」
やってしまった。
極力目立たないようにしろと宇随さんに言われていたし、女子が片手の握力のみで筆を折るなど、普通に考えたらあり得ない。
性別も素性も怪しまれかねない行動を取ってしまった事に、炭治郎は頭を抱えた。
ひとまず、その筆は安物であった為女将さんにも内緒にしてくれるという事で事なきを得たが、炭治郎は気が重かった。
日向子姉さんが
見世に上がってどんな客に指名されているのか?
どんな会話をしているのか?
どんな表情をしていてどんな眼差しを向けられているのか?
それでは飽き足らず身体に...触れられてはいまいか?
考えただけでも気が狂ってしまいそうになる。
位の高い遊女?
ふざけるな、そんなものにさせてたまるものか
あぁ...
こんな事なら、意地でも彼女を任務から外させるべきだったのかもしれない。
「日向子ちゃん!ちょっといいかい?」
日向子は楼主の奥様に呼ばれ何事だろうかと彼女の元へ駆け寄る。
すると奥様は神妙な面持ちで口を開いた。
「あのね、あまり言いたくはないんだけど...日向子ちゃんのその、売り方についてなんだけどねぇ。あんたの数人の固定客から、苦情が来てるのよ。」
「...苦情?」
何か接客態度に、不手際があったのだろうか?
情報搾取が目的ではあるが、呼ばれた客には丁寧に酌をしたり話に耳を傾けたりと、相手を丁寧にもてなす配慮はしていたつもりだった。
しかし、こんな商売生まれてこの方経験した事のない自分だから、気づかぬうちに粗相 をしてしまった可能性もある。
恐る恐るその苦情の内容とやらを聞くと、彼女はこう答えた。
「あんた、夜伽 はしていないんでしょう?客もそれを承知であんたを指名しているし、そういう初心な所が魅力だという客も大勢いるんだけどねぇ...やっぱり、中にはそこまでを求めて金をはたく男の人が大半なのよ。【ここ】はそういう場所なの。」
....女将さんの言いたいことはわかる。
要するに、日向子も娼婦らしい売り方をしなさいと言うことなのだ。
「今夜もまた忙しくなるからね、宜しく頼むわよ。あなたには期待しているのだから。」
そう言い残して女将さんは部屋を後にした。
わかってはいたが..さすがに男の人の夜の相手をするのは
怖い...
正直それが先に来てしまう。
須磨さんは、こういう任務もなんなくこなせてしまうのだろうか?
どうしよう..まだ鬼の全貌は掴めていないのに
時は無情にも過ぎていった
ーーーーー
〜153【仮初め】〜
大丈夫..
最初から酌を進めて、もし迫られでもしたら気絶させる。泥酔し眠り込んでしまったという風を装えば不自然ではない。
ただこの方法がいつまでも続けられるかというとそうじゃない。私が相手をする男の人が皆、朝には泥酔していると周りに知れれば、何か盛っているのではないかと疑いをかけられかえって目立ってしまう。
やはり、そろそろ潮時だろう。
潔く身を売れば、話は別だけれど
「炭治郎..どう?奥さんと鬼の情報、何か掴めた?こっちは、決定打がまだ..。
近頃足抜けしている遊女、ここ最近入った人ばかりなんだって。
多分、宇随さんの奥さん達だわ。鬼の仕業だろうけど、まるで特徴が掴めない。
皆、自然死を装ってるから側から見たらただ偶然事件が重なっているようにしか見えないみたい。」
禿の少女達の留守を狙って、2人は小部屋で額を寄せ合い進捗を伝え合う。
「俺の方も、須磨さんが足抜けしたと偽装されている事はわかった。凄く巧妙なんだ。
今回の鬼、かなり用心深いと思う。
ただ、ごめん。潜伏場所はまだわからない。
匂いは常に辿っているけど、何というかここ...鼻があまり効かなくて...」
炭治郎は最後、少し顔を赤くし尻すぼんだ言い方をした。その様子を見て日向子は、あー..と納得する。
そうか..炭治郎は鼻が効くから、
【ある意味可哀想】だ。
「明日の昼に皆で情報交換するから、善逸君や伊之助も何か掴んでるかもしれない。」
そろそろ行かなければと伝え、腰を上げようとした時、炭治郎が確認の意味を込めてこう問いかけてきた。
「日向子姉さん、絶対に身売りはしないでください。絶対に...。
明日、宇随さん達が何か掴めていれば、こんなところもう用済みなんだ。
やっぱり、無理やりでも任務から外させればよかったって後悔してる。申し訳ない」
膝の上でぎゅっと拳を握りしめる炭治郎。
心配してくれているのだ..。
最も彼の場合、別の独占欲から来るものかもしれないけど。
女将さんに指摘された件を炭治郎に伝えようかと思ったが、やめた。
彼に言ったところで不安がらせるだけだし、もしかしたら今夜の私の立ち回り方次第で、最後の砦になるかもしれない。
「ありがとう。身売りは絶対しないよ。私、そんなたまじゃないしね。」
あははとおどけて見せても、炭治郎はやっぱり辛そうな表情で日向子を見る。
廊下で女の子達の笑い声が聞こえると、彼女は炭治郎の頭をさっと撫でた。
「そんな顔しないで。せっかくの美人が台無しよ」
ーーーーー
〜154【花一匁】〜
ー遊郭・繁華街ー
「おい見ろ、京極屋の蕨姫だ。別嬪だなぁ...花魁道中が見れるなんてこりゃあついてる」
「上玉も上玉、悲しいかな、俺達にゃまだ手が届かねぇがな」
ひそひそと聞こえてくる男達の褒め言葉に、蕨姫は気を良くしたように口元に笑みを浮かべる。
庶民の憧れ、高見の花である最高位の花魁である彼女は、自分こそが最も美しく器量良しの遊女であると疑わない。
【人間共】は単純で愚かだ。
この街の人間は、全て見栄と欲望で生きている。
男共は少しその気にさせれば呆気なく堕ち転がす事など容易。
女共に関しては婆達は金で動き、若い女は権力でどうにでもなる。
まさに、この吉原遊郭は、私の為に廻る楽園。
何人たりとも、この楽園の歯車を壊す事は許さない。
なのに....
「確かに花魁は煌びやかで憧れだが、俺はときと屋のあの子がいいなぁ。最近入った..確か名前は日向子と言ったか。」
「あぁ、いいよなぁあの子。これから贔屓にしようと思ってるんだ俺も。何というか、純真無垢で儚げなんだよなぁ。遊女らしくない素朴さというか、そこが堪らない。」
蕨姫は僅かに殺気を男達に向けて飛ばす。
しかし、一般人の彼等は全くもってそれに気付かない。周りに気付かれぬ加減で、舌打ちする。
最近、よく噂を耳にするときと屋の日向子。
遊女見習いであるようだが、その人気はここのところ凄まじく、固定客が付きつつあると言う。
蕨姫は許せなかった。
自分以外の女が周りにちやほやされることが、花魁ならまだしもそれが新参者であるというではないか。
千代に培ってきた私の権威が、小娘如きに揺らがされている。そんな事があってはならない。
ー必ず食ってやるわー
日向子はいつも通り見世に上がると、早い者勝ちだとでも言うように男達は日向子を指名する。
中には我先にと大金をはたく者も現れる始末で、呆れ気味に小さく溜息を吐く。
本当に..こんなところ、早く立ち去ってしまいたい
そう思っていた時、硬貨がどっさり入った麻袋を放った男が目の前に現れた。
生まれてこの方、ましてやここに来てからでさえ、こんなに大金の詰め込まれた袋を見た事がなく、目をパチクリさせる。
見ると、日向子よりも幾つか上ではあるが、
涼しげな目元が特徴的な好青年が彼女に向かって微笑んでいた。
「あなたを買いたい。是非とも今夜は、僕を座敷に連れて行ってはくれないだろうか?」
彼はそう言って格子越しに手を差し伸べてきた。
ーーーーー
〜155【救いの手】〜
見たところ物腰が柔らかく真面目そうなその人は、下卑た周りの男達とは明らかに印象が違った。
落ち着いた雰囲気と小綺麗にした身なりを見ると、そこそこ、ここに【慣れている】のかもしれない。
情報網に長けた人物は、日向子にとっては決して悪くない相手だった。
それに、何より優しそうな第一印象からして、きっと紳士的な人であろうと思ったのだ。
今夜は、この人と話をしてみよう...
日向子はその人を座敷へと招き入れた。
「見習いの私を指名してくださってありがとうございます。周りにはもっと綺麗なお姉様方がたくさんいるのに、貴方は物好きな方ですね。吉原にはよくいらっしゃるので?」
体裁よくそう言うと、彼はくくっと笑い声を漏らした。
「えぇ、よくここには来ますよ。ただ....煌 びやかに着飾る女は僕は好かんのですよ。そういうのは大抵、高慢ちきであざとい女ばかりだ。」
彼は印象とは裏腹にえげつない毒を吐く。
想像とは少し違った内面に、日向子は面食らう。
じゃあ何で...
「何で、あしげなく吉原に通うんだと思ったでしょう?それはですね」
っ!!
気付けば日向子は目の前の男に押し倒されており、馬乗りにされていた。
この豪華だが重苦しい振袖のせいで、咄嗟に反応が出来なかった。
下から抜け出そうと試みるが、うまくいかない。
まずい...
「あなたのような純真無垢で清らかな女性が、ごくたまにいるんですよ。この荒んだ遊郭にもね。僕は、そんな女性をめちゃくちゃに犯すのが堪らなく快感なんです」
男は興奮したように日向子の耳に口元を押し付け、深く息を吐く。
ぞぞっとした感覚に身の毛がよだち、頭の中がフリーズした。
紳士な人かと思って油断していたのかもしれない。
この人は、蓋を開ければとんでもない性癖の持ち主で厄介この上ない迷惑客だった。
これでは情報を掴むどころか..
「さぁて...どんな風に虐めて差し上げましょう」
にたぁと笑う男に恐怖感を覚える。
手が動かない。男の人の力はこんなにも強い。
どうしよう、どうしよう
逃げられないっ
ー誰か...炭治郎っ!ー
「がっ!」
目をぎゅっと瞑り耐え忍んでいると、瞬間男の呻き声が響き体が軽くなった。
気付けば男が壁伝いに完全に伸びており、辺りに霞 の気を感じる。
「全く世話が焼けるんだから君は」
見上げると、怒ったような安堵したような、複雑な表情を浮かべて日向子を見下ろしている時透の姿があった。
ーーーーー
「...っごめんなさい!」
やってしまった。
極力目立たないようにしろと宇随さんに言われていたし、女子が片手の握力のみで筆を折るなど、普通に考えたらあり得ない。
性別も素性も怪しまれかねない行動を取ってしまった事に、炭治郎は頭を抱えた。
ひとまず、その筆は安物であった為女将さんにも内緒にしてくれるという事で事なきを得たが、炭治郎は気が重かった。
日向子姉さんが
見世に上がってどんな客に指名されているのか?
どんな会話をしているのか?
どんな表情をしていてどんな眼差しを向けられているのか?
それでは飽き足らず身体に...触れられてはいまいか?
考えただけでも気が狂ってしまいそうになる。
位の高い遊女?
ふざけるな、そんなものにさせてたまるものか
あぁ...
こんな事なら、意地でも彼女を任務から外させるべきだったのかもしれない。
「日向子ちゃん!ちょっといいかい?」
日向子は楼主の奥様に呼ばれ何事だろうかと彼女の元へ駆け寄る。
すると奥様は神妙な面持ちで口を開いた。
「あのね、あまり言いたくはないんだけど...日向子ちゃんのその、売り方についてなんだけどねぇ。あんたの数人の固定客から、苦情が来てるのよ。」
「...苦情?」
何か接客態度に、不手際があったのだろうか?
情報搾取が目的ではあるが、呼ばれた客には丁寧に酌をしたり話に耳を傾けたりと、相手を丁寧にもてなす配慮はしていたつもりだった。
しかし、こんな商売生まれてこの方経験した事のない自分だから、気づかぬうちに
恐る恐るその苦情の内容とやらを聞くと、彼女はこう答えた。
「あんた、
....女将さんの言いたいことはわかる。
要するに、日向子も娼婦らしい売り方をしなさいと言うことなのだ。
「今夜もまた忙しくなるからね、宜しく頼むわよ。あなたには期待しているのだから。」
そう言い残して女将さんは部屋を後にした。
わかってはいたが..さすがに男の人の夜の相手をするのは
怖い...
正直それが先に来てしまう。
須磨さんは、こういう任務もなんなくこなせてしまうのだろうか?
どうしよう..まだ鬼の全貌は掴めていないのに
時は無情にも過ぎていった
ーーーーー
〜153【仮初め】〜
大丈夫..
最初から酌を進めて、もし迫られでもしたら気絶させる。泥酔し眠り込んでしまったという風を装えば不自然ではない。
ただこの方法がいつまでも続けられるかというとそうじゃない。私が相手をする男の人が皆、朝には泥酔していると周りに知れれば、何か盛っているのではないかと疑いをかけられかえって目立ってしまう。
やはり、そろそろ潮時だろう。
潔く身を売れば、話は別だけれど
「炭治郎..どう?奥さんと鬼の情報、何か掴めた?こっちは、決定打がまだ..。
近頃足抜けしている遊女、ここ最近入った人ばかりなんだって。
多分、宇随さんの奥さん達だわ。鬼の仕業だろうけど、まるで特徴が掴めない。
皆、自然死を装ってるから側から見たらただ偶然事件が重なっているようにしか見えないみたい。」
禿の少女達の留守を狙って、2人は小部屋で額を寄せ合い進捗を伝え合う。
「俺の方も、須磨さんが足抜けしたと偽装されている事はわかった。凄く巧妙なんだ。
今回の鬼、かなり用心深いと思う。
ただ、ごめん。潜伏場所はまだわからない。
匂いは常に辿っているけど、何というかここ...鼻があまり効かなくて...」
炭治郎は最後、少し顔を赤くし尻すぼんだ言い方をした。その様子を見て日向子は、あー..と納得する。
そうか..炭治郎は鼻が効くから、
【ある意味可哀想】だ。
「明日の昼に皆で情報交換するから、善逸君や伊之助も何か掴んでるかもしれない。」
そろそろ行かなければと伝え、腰を上げようとした時、炭治郎が確認の意味を込めてこう問いかけてきた。
「日向子姉さん、絶対に身売りはしないでください。絶対に...。
明日、宇随さん達が何か掴めていれば、こんなところもう用済みなんだ。
やっぱり、無理やりでも任務から外させればよかったって後悔してる。申し訳ない」
膝の上でぎゅっと拳を握りしめる炭治郎。
心配してくれているのだ..。
最も彼の場合、別の独占欲から来るものかもしれないけど。
女将さんに指摘された件を炭治郎に伝えようかと思ったが、やめた。
彼に言ったところで不安がらせるだけだし、もしかしたら今夜の私の立ち回り方次第で、最後の砦になるかもしれない。
「ありがとう。身売りは絶対しないよ。私、そんなたまじゃないしね。」
あははとおどけて見せても、炭治郎はやっぱり辛そうな表情で日向子を見る。
廊下で女の子達の笑い声が聞こえると、彼女は炭治郎の頭をさっと撫でた。
「そんな顔しないで。せっかくの美人が台無しよ」
ーーーーー
〜154【花一匁】〜
ー遊郭・繁華街ー
「おい見ろ、京極屋の蕨姫だ。別嬪だなぁ...花魁道中が見れるなんてこりゃあついてる」
「上玉も上玉、悲しいかな、俺達にゃまだ手が届かねぇがな」
ひそひそと聞こえてくる男達の褒め言葉に、蕨姫は気を良くしたように口元に笑みを浮かべる。
庶民の憧れ、高見の花である最高位の花魁である彼女は、自分こそが最も美しく器量良しの遊女であると疑わない。
【人間共】は単純で愚かだ。
この街の人間は、全て見栄と欲望で生きている。
男共は少しその気にさせれば呆気なく堕ち転がす事など容易。
女共に関しては婆達は金で動き、若い女は権力でどうにでもなる。
まさに、この吉原遊郭は、私の為に廻る楽園。
何人たりとも、この楽園の歯車を壊す事は許さない。
なのに....
「確かに花魁は煌びやかで憧れだが、俺はときと屋のあの子がいいなぁ。最近入った..確か名前は日向子と言ったか。」
「あぁ、いいよなぁあの子。これから贔屓にしようと思ってるんだ俺も。何というか、純真無垢で儚げなんだよなぁ。遊女らしくない素朴さというか、そこが堪らない。」
蕨姫は僅かに殺気を男達に向けて飛ばす。
しかし、一般人の彼等は全くもってそれに気付かない。周りに気付かれぬ加減で、舌打ちする。
最近、よく噂を耳にするときと屋の日向子。
遊女見習いであるようだが、その人気はここのところ凄まじく、固定客が付きつつあると言う。
蕨姫は許せなかった。
自分以外の女が周りにちやほやされることが、花魁ならまだしもそれが新参者であるというではないか。
千代に培ってきた私の権威が、小娘如きに揺らがされている。そんな事があってはならない。
ー必ず食ってやるわー
日向子はいつも通り見世に上がると、早い者勝ちだとでも言うように男達は日向子を指名する。
中には我先にと大金をはたく者も現れる始末で、呆れ気味に小さく溜息を吐く。
本当に..こんなところ、早く立ち去ってしまいたい
そう思っていた時、硬貨がどっさり入った麻袋を放った男が目の前に現れた。
生まれてこの方、ましてやここに来てからでさえ、こんなに大金の詰め込まれた袋を見た事がなく、目をパチクリさせる。
見ると、日向子よりも幾つか上ではあるが、
涼しげな目元が特徴的な好青年が彼女に向かって微笑んでいた。
「あなたを買いたい。是非とも今夜は、僕を座敷に連れて行ってはくれないだろうか?」
彼はそう言って格子越しに手を差し伸べてきた。
ーーーーー
〜155【救いの手】〜
見たところ物腰が柔らかく真面目そうなその人は、下卑た周りの男達とは明らかに印象が違った。
落ち着いた雰囲気と小綺麗にした身なりを見ると、そこそこ、ここに【慣れている】のかもしれない。
情報網に長けた人物は、日向子にとっては決して悪くない相手だった。
それに、何より優しそうな第一印象からして、きっと紳士的な人であろうと思ったのだ。
今夜は、この人と話をしてみよう...
日向子はその人を座敷へと招き入れた。
「見習いの私を指名してくださってありがとうございます。周りにはもっと綺麗なお姉様方がたくさんいるのに、貴方は物好きな方ですね。吉原にはよくいらっしゃるので?」
体裁よくそう言うと、彼はくくっと笑い声を漏らした。
「えぇ、よくここには来ますよ。ただ....
彼は印象とは裏腹にえげつない毒を吐く。
想像とは少し違った内面に、日向子は面食らう。
じゃあ何で...
「何で、あしげなく吉原に通うんだと思ったでしょう?それはですね」
っ!!
気付けば日向子は目の前の男に押し倒されており、馬乗りにされていた。
この豪華だが重苦しい振袖のせいで、咄嗟に反応が出来なかった。
下から抜け出そうと試みるが、うまくいかない。
まずい...
「あなたのような純真無垢で清らかな女性が、ごくたまにいるんですよ。この荒んだ遊郭にもね。僕は、そんな女性をめちゃくちゃに犯すのが堪らなく快感なんです」
男は興奮したように日向子の耳に口元を押し付け、深く息を吐く。
ぞぞっとした感覚に身の毛がよだち、頭の中がフリーズした。
紳士な人かと思って油断していたのかもしれない。
この人は、蓋を開ければとんでもない性癖の持ち主で厄介この上ない迷惑客だった。
これでは情報を掴むどころか..
「さぁて...どんな風に虐めて差し上げましょう」
にたぁと笑う男に恐怖感を覚える。
手が動かない。男の人の力はこんなにも強い。
どうしよう、どうしよう
逃げられないっ
ー誰か...炭治郎っ!ー
「がっ!」
目をぎゅっと瞑り耐え忍んでいると、瞬間男の呻き声が響き体が軽くなった。
気付けば男が壁伝いに完全に伸びており、辺りに
「全く世話が焼けるんだから君は」
見上げると、怒ったような安堵したような、複雑な表情を浮かべて日向子を見下ろしている時透の姿があった。
ーーーーー