◆第漆章 香しき空へ消えぬ星屑
貴女のお名前を教えてください
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〜148【香しき花】〜
「ふーー...こんなもんか」
やりきったぜとでもいうように汗を拭う動作をする宇随は、傑作とも言える男子、
いや..少女3人を、改めて頭から爪先まで一通り見下ろす。
しかし腕を組みうーんと微妙な反応をする、いや、そりゃそうだろわかってたよと善逸は乾いた笑いを零した。
自分の姿は恐ろしくて鏡も見れないが、少なくとも隣の伊之助と炭治郎を見ると、それはもう酷いものだ。
今時流行るのかよってくらい極端な麻呂眉に、化け物じゃないかと思うくらいねっとりと塗りたくられた口紅や頬紅。
元々顔立ちは悪くない、それどころか眉目秀麗な部類に入る炭治郎と伊之助ですらこんな化け物に成り下がるのだから、彼のセンスは皆無に等しい。
「まぁ、地味でいいんじゃねぇか!」
わははと高笑いする彼に、もうどうにでもなれやと思う善逸であった。ところでさっきから気になるが...
「日向子さんは?」
そう問いかけると、彼女は流石に男の俺が化粧施したり着付けさせたりは出来ないので、この家の大奥方に任せているという。
「潜入捜査というからには、不本意だが地味な出来で頼むとは言ってあるがな。」
間も無くしてコンコンと戸を叩く音が聞こえ、お嬢さんの身なりが整いましたと恭しくお辞儀する老齢の女性が現れた。
「どうも、入れ日向子」
「...はい、失礼します」
おずおずと姿を現した日向子を見て、一同は目を奪われた。
それはそれは、美しかった。
宇随の地味に頼むという注文が見事に功を奏していて、口元の紅は控えめに施され、彼女の端正な顔立ちがより引き立っていたし、元々目が大きい彼女は、切れ長な線で化粧される事で妖艶な大人の女性が演出されていた。
老若男女誰もが見ても、美人と称賛するだろう。
炭治郎は、しばらく動く事もましてや言葉を発するさえ出来ずにいた。
いつもの彼女も可愛らしくて好きだけど...
女性は着飾るとこんなにも、美しくなるものなんだ。
まるで突然地上に舞い降りた、天女を目の当たりにした感覚だ。
これは、自分が彼女へ懸想 を抱いているからこその贔屓目 なのかと思い、3人の反応を見る。
善逸はもちろん、あの伊之助や宇随さんでさえ感嘆の息を漏らしている。
「ほぅー..化けたなぁ。確かに、派手さは抑えられているが...まぁこれはこれで問題ないか。日向子、お前は客を取ってそいつらから情報を聞き出す専門だ。それにしても」
彼は日向子の下唇をツーと撫でた。
「俺が客になって買いたいくらいだがな」
ーーーーー
〜149【少年は空を睨む】〜
「あれ、胡蝶さん。日向子は?」
最近よく蝶屋敷に現れる姿を見て、しのぶは慣れたように返した。
「時透さん、彼女達なら宇随さんと任務に出掛けましたよ。」
宇随?と眉を潜めて彼は考え込む。
しのぶはあえてその任務の潜入先を伝えることはしなかった。
今回の潜入先を知り、ましてや日向子が連れて行かれたことを知って、【彼が】どんな行動をとるのか、ある程度予測は出来るのだから。
「彼、確か行方不明になった奥さん達と鬼の関連性を調べてるんだよね?」
「そうみたいですねぇ。」
頼むからこれ以上踏み込まず暇してくれないだろうかと願う。余計な事は言いたくないのだ。下手したら宇随の任務に支障をきたしかねない。
それは、時透の日向子に対する【異常なまでの執着】を知ればこそ。
「何処に向かったのか、胡蝶さん知ってるの?」
「...聞いてどうするんですか?言っておきますけど、彼らの任務を邪魔する事はなりませんよ。でないと、私が宇随さんに叱られます。」
呆れ気味に話すと、それ以上彼はしつこく聞いて来ることなく退いた。
全く....
時透が彼女に対して特別な感情を抱いていることは、見ていればわかる。
でも、彼はまだある意味では幼い。
公私混同をしてしまう節が否めない。
だからこそ、厄介なのだ。
時透はしのぶに追い返されたものの、どうしてもその潜入先が気になってしまう。
帰り際に蝶屋敷の看護の娘の姿を見かけると、ふっと距離を詰めてこう尋ねた。
「ねぇ君、日向子達どこに行ったか知らない?」
突然背後に現れた無一郎にきゃっと声を上げて恐る恐る首を捻る。
妙な威圧感を本能で感じ取った彼女は、しどろもどろになりながら、かくかくしかじか語り始めた。
「...日向子さん達は、宇随様と共に花街に行かれました。な、何でも..宇随様の奥様方が、そこでの潜入捜査で行方不明になったとかで..」
花街
「吉原って事?」
そう聞くとこくこくと首を縦に振る。
花街という単語を出した後、彼からの殺気が急激に上昇したので泣きそうになりながら、絞るようにそう伝えた。
「そう...ありがとう。」
時透は唇を噛んだ。鉄の匂いが口内に充満するが気にも止めない。
激しい宇随への怒りに拳がミシミシと音を立てる。
「あの筋肉野郎...」
純粋でいたいけな日向子をあんな汚れた街に連れ込むなんて、いくら鬼の尻尾を掴む為とはいえ、何考えてんだ。
許さない
無一郎は空を睨んだ
ーーーーー
〜150【ときと屋へ】〜
ー吉原・遊郭ー
「どうだい女将さん、この中からどうか貰ってくれねぇか?」
宇随がまず着飾った4人を連れてきたのは【ときと屋】やはりというべきか..まず最初に引き抜かれたのは日向子であった。
「こんな上玉はなかなかお目にかかれないねぇ...いい客が間違いなく取れるだろうさ、旦那さんお代は弾むよ!」
いい取引が出来そうだと興奮する遣手の女将に、宇随はそうかそうかと交渉値を弾く。
ちゃっかりしていて案外ゲンキンな奴だなと、宇随にバレないよう善子は憎たらしくため息を吐いた。
「そうだ、こいつも一緒に貰って欲しいんだ。日向子とは姉妹なんだ。日向子をいい値で買ってくれたからこいつのお代はいらねぇからよ。」
そう言って彼はバンと炭子を前に出す。
やむにやまれぬ事情を察知した女将と旦那は、素直そうな子だし構わないと炭子も引き取ってくれた。
ーこうして日向子と炭子は、ときと屋への潜入に成功するー
「ここはあんた達みたいな境遇の子達がたくさんいるのさ。親を失った子や捨て子、身売りされた子まで様々だね。
皆まで訳は聞かないよ、私達としちゃあよく働いてくれれば何も文句はないからね。」
そう言って2人を連れて順々に挨拶まわりを済ませていく。ここの屋敷の少女達は、どの子も素直な気立てのいい子達だった。
しかし、宇随さんの奥さんの姿は無い。彼女達は何処にいるのだろう...
「さて、炭子と言ったかい?少し白粉 が濃いねぇ。こっちにおいで」
女将さんに手招かれた炭子は、目の前にちょこんと座る。彼なりに女性的な所作を意識はしているのだろう。
少し、面白可笑しくて思わず笑みが溢れる。
女将さんが濡れた手拭いで彼の顔をポンポンと拭き取った時、それまで隠れていた額の火傷痕が現れた。
それを見て、彼女はわなわなと震え出す。
「ちょおっとどういうことおぉぉぉぉ?!こんな傷があったら客なんて付きやしないわよぉ!!」
むんずとちょんまげを掴みそう怒声を浴びせる女将を必死に宥める旦那と、髪を引っ張られた痛みに顔を歪める炭治郎。
その様子を見て日向子はいてもたってもいられず、女将さんにせがんだ。
「女将さん、私がこの子の分もうんと働きます!何でもやります!だから、もうよしてやってください。」
日向子がそう懇願すると、ようやく腹の虫が収まった彼女は、まぁあんたがいればいいかねと炭子を解放する。
心配そうに日向子を見上げる炭治郎に、笑って言った。
「姉さんに任せなさい、炭子」
ーーーーー
〜151【本末転倒】〜
「炭治郎は禿 の子達から須磨さんについてや、怪しい動きがないか探ってくれればいいよ。
私は、見世に上がれれば客から情報を取るから。もう...そんな顔しなくても、その辺の男より私の方が強いんだから、心配しなくても大丈夫だからね」
日向子姉さんはああ言ったけれど...
「炭ちゃんそんなにお姉さんが気になるのー?」
炭治郎は少女にそう聞かれてびくりと肩を揺らした。
思った以上に彼女は見世に呼ばれる事が多く、日向子姉さんの指名が入るたびに炭治郎はずんと心が沈み切る思いだった。
でも..今俺は、【炭治郎】ではなく【炭子】であるし、立場上妙な動きをすればそれこそ怪しまれてしまう。
同じ屋敷に潜入すれば、もっと彼女の側で逐一群がる輩を監視出来るものと思っていたが、甘かった。
遊郭は、それこそ内側の人間ですら手の届かない領域というものが多数ある。
鬼にとっては、それらはかなり都合が良いのだろうが...
「うん、やっぱり姉さんが呼ばれるのはちょっと複雑かな」
あははとはぐらかすようにそう言えば、彼女達は炭ちゃんお姉さんに嫉妬してるんだーとはやし立てた。
まぁ、ある意味間違ってはいないなぁとひっそりと心の中で呟く。
彼女に言われた通り、洗濯物や屋敷内を雑巾掛けしたりと雑用を積極的にこなしつつ、内側の動向を探っていた。
そして、須磨さんは【足抜け】として失踪している事実を突き止める事もできた。
ー恐らく...この街には鬼が巣食っているー
日向子姉さんも、客から得た情報の中に、近頃付近の屋敷から多数の足抜け遊女が頻発しているという噂は耳にするという。
そして、不可解な死を遂げる者が多いと。
どの人も、遊郭で名を馳せた位の高い花魁や、遊郭経営に関連する人物ばかり..何かカラクリがあると見ていい。
鬼の目的は、一体何なのだろう?
本来、潜入調査をするにあたり調べなければいけない部分はここなのだけど..
「それにしても炭ちゃんのお姉さん、日向子ちゃんは凄いお人だねぇ!もう振袖新造 だなんて、お客さんもたくさん付き始めてるみたいだし、あっという間に位の高い遊女になってしまうんじゃないかな」
バキッ
突然発せられた鈍い音に禿の少女達はびくりと跳ねる。音の発生元は、炭治郎の手に持っていた竹筆で、見るも無惨な状態で真っ二つに折れてしまっていた。
ーーーーー
「ふーー...こんなもんか」
やりきったぜとでもいうように汗を拭う動作をする宇随は、傑作とも言える男子、
いや..少女3人を、改めて頭から爪先まで一通り見下ろす。
しかし腕を組みうーんと微妙な反応をする、いや、そりゃそうだろわかってたよと善逸は乾いた笑いを零した。
自分の姿は恐ろしくて鏡も見れないが、少なくとも隣の伊之助と炭治郎を見ると、それはもう酷いものだ。
今時流行るのかよってくらい極端な麻呂眉に、化け物じゃないかと思うくらいねっとりと塗りたくられた口紅や頬紅。
元々顔立ちは悪くない、それどころか眉目秀麗な部類に入る炭治郎と伊之助ですらこんな化け物に成り下がるのだから、彼のセンスは皆無に等しい。
「まぁ、地味でいいんじゃねぇか!」
わははと高笑いする彼に、もうどうにでもなれやと思う善逸であった。ところでさっきから気になるが...
「日向子さんは?」
そう問いかけると、彼女は流石に男の俺が化粧施したり着付けさせたりは出来ないので、この家の大奥方に任せているという。
「潜入捜査というからには、不本意だが地味な出来で頼むとは言ってあるがな。」
間も無くしてコンコンと戸を叩く音が聞こえ、お嬢さんの身なりが整いましたと恭しくお辞儀する老齢の女性が現れた。
「どうも、入れ日向子」
「...はい、失礼します」
おずおずと姿を現した日向子を見て、一同は目を奪われた。
それはそれは、美しかった。
宇随の地味に頼むという注文が見事に功を奏していて、口元の紅は控えめに施され、彼女の端正な顔立ちがより引き立っていたし、元々目が大きい彼女は、切れ長な線で化粧される事で妖艶な大人の女性が演出されていた。
老若男女誰もが見ても、美人と称賛するだろう。
炭治郎は、しばらく動く事もましてや言葉を発するさえ出来ずにいた。
いつもの彼女も可愛らしくて好きだけど...
女性は着飾るとこんなにも、美しくなるものなんだ。
まるで突然地上に舞い降りた、天女を目の当たりにした感覚だ。
これは、自分が彼女へ
善逸はもちろん、あの伊之助や宇随さんでさえ感嘆の息を漏らしている。
「ほぅー..化けたなぁ。確かに、派手さは抑えられているが...まぁこれはこれで問題ないか。日向子、お前は客を取ってそいつらから情報を聞き出す専門だ。それにしても」
彼は日向子の下唇をツーと撫でた。
「俺が客になって買いたいくらいだがな」
ーーーーー
〜149【少年は空を睨む】〜
「あれ、胡蝶さん。日向子は?」
最近よく蝶屋敷に現れる姿を見て、しのぶは慣れたように返した。
「時透さん、彼女達なら宇随さんと任務に出掛けましたよ。」
宇随?と眉を潜めて彼は考え込む。
しのぶはあえてその任務の潜入先を伝えることはしなかった。
今回の潜入先を知り、ましてや日向子が連れて行かれたことを知って、【彼が】どんな行動をとるのか、ある程度予測は出来るのだから。
「彼、確か行方不明になった奥さん達と鬼の関連性を調べてるんだよね?」
「そうみたいですねぇ。」
頼むからこれ以上踏み込まず暇してくれないだろうかと願う。余計な事は言いたくないのだ。下手したら宇随の任務に支障をきたしかねない。
それは、時透の日向子に対する【異常なまでの執着】を知ればこそ。
「何処に向かったのか、胡蝶さん知ってるの?」
「...聞いてどうするんですか?言っておきますけど、彼らの任務を邪魔する事はなりませんよ。でないと、私が宇随さんに叱られます。」
呆れ気味に話すと、それ以上彼はしつこく聞いて来ることなく退いた。
全く....
時透が彼女に対して特別な感情を抱いていることは、見ていればわかる。
でも、彼はまだある意味では幼い。
公私混同をしてしまう節が否めない。
だからこそ、厄介なのだ。
時透はしのぶに追い返されたものの、どうしてもその潜入先が気になってしまう。
帰り際に蝶屋敷の看護の娘の姿を見かけると、ふっと距離を詰めてこう尋ねた。
「ねぇ君、日向子達どこに行ったか知らない?」
突然背後に現れた無一郎にきゃっと声を上げて恐る恐る首を捻る。
妙な威圧感を本能で感じ取った彼女は、しどろもどろになりながら、かくかくしかじか語り始めた。
「...日向子さん達は、宇随様と共に花街に行かれました。な、何でも..宇随様の奥様方が、そこでの潜入捜査で行方不明になったとかで..」
花街
「吉原って事?」
そう聞くとこくこくと首を縦に振る。
花街という単語を出した後、彼からの殺気が急激に上昇したので泣きそうになりながら、絞るようにそう伝えた。
「そう...ありがとう。」
時透は唇を噛んだ。鉄の匂いが口内に充満するが気にも止めない。
激しい宇随への怒りに拳がミシミシと音を立てる。
「あの筋肉野郎...」
純粋でいたいけな日向子をあんな汚れた街に連れ込むなんて、いくら鬼の尻尾を掴む為とはいえ、何考えてんだ。
許さない
無一郎は空を睨んだ
ーーーーー
〜150【ときと屋へ】〜
ー吉原・遊郭ー
「どうだい女将さん、この中からどうか貰ってくれねぇか?」
宇随がまず着飾った4人を連れてきたのは【ときと屋】やはりというべきか..まず最初に引き抜かれたのは日向子であった。
「こんな上玉はなかなかお目にかかれないねぇ...いい客が間違いなく取れるだろうさ、旦那さんお代は弾むよ!」
いい取引が出来そうだと興奮する遣手の女将に、宇随はそうかそうかと交渉値を弾く。
ちゃっかりしていて案外ゲンキンな奴だなと、宇随にバレないよう善子は憎たらしくため息を吐いた。
「そうだ、こいつも一緒に貰って欲しいんだ。日向子とは姉妹なんだ。日向子をいい値で買ってくれたからこいつのお代はいらねぇからよ。」
そう言って彼はバンと炭子を前に出す。
やむにやまれぬ事情を察知した女将と旦那は、素直そうな子だし構わないと炭子も引き取ってくれた。
ーこうして日向子と炭子は、ときと屋への潜入に成功するー
「ここはあんた達みたいな境遇の子達がたくさんいるのさ。親を失った子や捨て子、身売りされた子まで様々だね。
皆まで訳は聞かないよ、私達としちゃあよく働いてくれれば何も文句はないからね。」
そう言って2人を連れて順々に挨拶まわりを済ませていく。ここの屋敷の少女達は、どの子も素直な気立てのいい子達だった。
しかし、宇随さんの奥さんの姿は無い。彼女達は何処にいるのだろう...
「さて、炭子と言ったかい?少し
女将さんに手招かれた炭子は、目の前にちょこんと座る。彼なりに女性的な所作を意識はしているのだろう。
少し、面白可笑しくて思わず笑みが溢れる。
女将さんが濡れた手拭いで彼の顔をポンポンと拭き取った時、それまで隠れていた額の火傷痕が現れた。
それを見て、彼女はわなわなと震え出す。
「ちょおっとどういうことおぉぉぉぉ?!こんな傷があったら客なんて付きやしないわよぉ!!」
むんずとちょんまげを掴みそう怒声を浴びせる女将を必死に宥める旦那と、髪を引っ張られた痛みに顔を歪める炭治郎。
その様子を見て日向子はいてもたってもいられず、女将さんにせがんだ。
「女将さん、私がこの子の分もうんと働きます!何でもやります!だから、もうよしてやってください。」
日向子がそう懇願すると、ようやく腹の虫が収まった彼女は、まぁあんたがいればいいかねと炭子を解放する。
心配そうに日向子を見上げる炭治郎に、笑って言った。
「姉さんに任せなさい、炭子」
ーーーーー
〜151【本末転倒】〜
「炭治郎は
私は、見世に上がれれば客から情報を取るから。もう...そんな顔しなくても、その辺の男より私の方が強いんだから、心配しなくても大丈夫だからね」
日向子姉さんはああ言ったけれど...
「炭ちゃんそんなにお姉さんが気になるのー?」
炭治郎は少女にそう聞かれてびくりと肩を揺らした。
思った以上に彼女は見世に呼ばれる事が多く、日向子姉さんの指名が入るたびに炭治郎はずんと心が沈み切る思いだった。
でも..今俺は、【炭治郎】ではなく【炭子】であるし、立場上妙な動きをすればそれこそ怪しまれてしまう。
同じ屋敷に潜入すれば、もっと彼女の側で逐一群がる輩を監視出来るものと思っていたが、甘かった。
遊郭は、それこそ内側の人間ですら手の届かない領域というものが多数ある。
鬼にとっては、それらはかなり都合が良いのだろうが...
「うん、やっぱり姉さんが呼ばれるのはちょっと複雑かな」
あははとはぐらかすようにそう言えば、彼女達は炭ちゃんお姉さんに嫉妬してるんだーとはやし立てた。
まぁ、ある意味間違ってはいないなぁとひっそりと心の中で呟く。
彼女に言われた通り、洗濯物や屋敷内を雑巾掛けしたりと雑用を積極的にこなしつつ、内側の動向を探っていた。
そして、須磨さんは【足抜け】として失踪している事実を突き止める事もできた。
ー恐らく...この街には鬼が巣食っているー
日向子姉さんも、客から得た情報の中に、近頃付近の屋敷から多数の足抜け遊女が頻発しているという噂は耳にするという。
そして、不可解な死を遂げる者が多いと。
どの人も、遊郭で名を馳せた位の高い花魁や、遊郭経営に関連する人物ばかり..何かカラクリがあると見ていい。
鬼の目的は、一体何なのだろう?
本来、潜入調査をするにあたり調べなければいけない部分はここなのだけど..
「それにしても炭ちゃんのお姉さん、日向子ちゃんは凄いお人だねぇ!もう振袖
バキッ
突然発せられた鈍い音に禿の少女達はびくりと跳ねる。音の発生元は、炭治郎の手に持っていた竹筆で、見るも無惨な状態で真っ二つに折れてしまっていた。
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