◆第陸章 太陽の息吹
貴女のお名前を教えてください
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〜140【藤の花の家】〜
しばらく蝶屋敷に向かって歩いていると、行きより更に上気している炭治郎を見て、
日向子はとうとう耐えきれず声を掛けることにした。
「炭治郎、禰豆子の籠私が持つから。貸してちょうだい」
案の定彼は拒否するが、有無を言わさずに奪い取った。
「大丈夫だよ日向子姉さん、このくらっ...
コツン
日向子は炭治郎の額に、己の額とを合わせて熱を測るような仕草をする。
必然と近くなる顔に炭治郎は動揺し、ただでさえ上気した頬を更に赤めたが、彼女は気にしない。
「大丈夫じゃないでしょう?凄い熱だよ。どこか手頃な所で休んだ方がいいわ」
あんまり歩かせない方がいいだろうと思う。そこで日向子は考えた。
背中に背負った禰豆子の籠はそのままに、炭治郎の背中と足に手を回そうとする。
「ちょ..日向子姉さん何を、わっ!」
展開についていけない炭治郎は、今の自分の格好を見て衝撃を受ける。
彼女はまさかの姫抱きで炭治郎の体を軽々と支えていた。
いい考えだというようにドヤ顔を作る日向子を見て、思わず顔全体を手の平で覆ってしまう。
いや...
さすがに色々と失いそうだし、心がずたぼろになりそうだ
だって、好きな人に姫抱きされるなんて
女の子がされる分には嬉しいのかもしれないけど
俺は男だし
どうしても嫌だ、無理だと言えば彼女は渋々おろしてくれた。
籠だけは譲ってくれなかったけど、仕方ない。その気持ちは今の炭治郎にとっても嬉しい。
何とか蝶屋敷への距離を稼ごうと、姉さんに気遣われながら歩みを進める。
「炭治郎、あそこの家..藤の花の家紋だわ」
厳粛な佇まいで、見慣れた家紋が描かれたのれんが門前にかかっている屋敷が見えた。
「ごめんください!」
日向子姉さんが大声でそう呼びかけると、中からとことこ出て来たのは幼い男の子だった。
「鬼狩り様ですか?」
少年はきびきびとした丁寧な口調でそう尋ねたので、そうだと頷けば、どうぞ中へと案内された。
「あの、弟が熱を出しているので、少しだけでいいので休ませて頂けますか?」
思わずこちらも敬語でそう聞くと、少年は母を呼びつけた。奥からすぐ様出て来たのは若夫婦だった。
少年が訳を話すと、それは大変だと言って炭治郎達を屋敷の中へと招いてくれた。
「ご家族ですか?お部屋はご一緒が宜しいですか?それとも..
「別でお願いしますっ!」
炭治郎が間髪入れずにそうお願いすると、主人は快く了承してくれた。
「少しと言わずいつまででも」
ーーーーー
〜141【安息】〜
この屋敷の奥さんは炭治郎の部屋を度々訪れて、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
お陰で日が傾く頃には体も軽くなったような気がする。
「ありがとうございました。本当に、助かりました。」
そう礼を言うと彼女は、気にしないでくれと微笑み冷えた手拭いを再び炭治郎の額に乗せる。
「もう外はじきに暗くなりますから、今日は泊まって行くといいです。お姉さんにも先程お伝えしました。」
日向子姉さんが了承したのならと、炭治郎もお言葉に甘える事にした。
禰豆子の入った籠は日向子姉さんの部屋にある。
どうやら禰豆子は眠っているらしいので今は静かだけれど、あまり長居は出来ないなと思っている。
「後ほど夕餉をお持ちします、ごゆるりと。」
丁寧に彼女が障子を閉じると、また静寂が戻る。
炭治郎は首を横に向けた。このふすまの向こうに日向子姉さんの部屋があてがわれている。
ふすま一枚だけの隔たりというのは心許ないが、これ以上我儘は言えない。
「日向子姉さん」
そう呼ぶと、彼女はそっとふすまを横に引き、顔だけ出してこちらの様子をひょっこり伺い見る。
途中眠ってしまったりしたけど、ずっと気にしてくれてたのかな..
そう思うと心がほっこりと暖かくなった。
「気分はどう?傷口の炎症があって、熱発はそのせいだったみたい。」
熱は下がりだいぶいい事を伝えると、彼女はほっと胸を撫で下ろした。そちらに行ってもいいかと聞かれたので頷く。
更にふすまが引かれ全身の姿が見えると、炭治郎はくんと喉を鳴らす。
浴衣姿だ...
すっかり隊服や蝶屋敷での病衣姿は見慣れたが、浴衣の寝着姿は久しく見ていなかった。
普段は結っている髪の毛を下ろしているのも相まって凄く..妖艶だなぁと思う。
彼女は炭治郎の側に腰を下ろすと、じっとこちらを見つめる。
思わず顔を背けてしまった。
そんなに穴があくほど見つめられたら..こうもなる。高鳴る鼓動は、さすがに気づかれていないと思うが..
「ヒノカミ神楽の事は、残念だったね。でも、きっと手掛かりは見つかるよ。星の呼吸にも古くからの書物等が残っていれば、辿り着けるかもしれない。」
「ありがとう。俺も、まだわからない事だらけだ。この耳飾りも、父さんの形見ってだけだと思っていたけど、何か..何か意味があるんだと思う。鬼舞辻やその手下が狙う程の、もう少しで何かが繋がりそうな気がする」
炭治郎は思案するように顎に手を当てた。
真実はまだ先か、或いはすぐそこにあるのか
ーーーーー
〜142【川の字】〜
夕餉を済ませると、禰豆子がむくりと起きて籠から出てくる。
心置きなく日向子姉さんとじゃれあえる禰豆子は今は彼女の膝の上でゴロゴロしている。
そんな無邪気な妹が可愛いのか、しきりに禰豆子の頭を撫でたり髪の毛をすいたりして遊んでいた。
そんな様子を見ていると微笑ましくもあり、ちょっぴり禰豆子が羨ましいなと思ったりする。
でも、いざ場所を代わってとなれば、羞恥で悶え死にそうになるのは目に見えているのだけど...
「やっぱり善逸達には行き場所を伝えておくべきだっただろうか。」
今更ながら心配をかけているのではという事に気付きそう話すと、姉さんはちゃっかり置き手紙をして来たと言う。
さすが日向子姉さん...抜かりがない人だと炭治郎は感心する。
「そろそろ寝ようか?明日は早めにここを出ましょう。禰豆子は私の部屋で寝る?」
そう禰豆子に日向子姉さんが問いかけるが、首を傾げるばかりだ。
炭治郎の部屋の方が安心するのかと思ったらしく、それならと立ち上がって隣の部屋に戻ろうとする姉さんの浴衣の裾を、禰豆子がひしと掴んだ。
「こら、禰豆子。姉さんはもう寝るんだから離すんだ」
炭治郎がそう言うが、いやいやと首を横に振り依然としてその手を離そうとしない。
「....禰豆子。皆で一緒に寝たいの?」
そう禰豆子に彼女が問いかけると、思い切り首を縦に振って蔓延の笑みを浮かべた。
困ったように溜息を吐くと、やがて彼女はそういう事だから仕方ないと言って隣の部屋からずるずると布団を引いてくる。
いや...
いやいや、駄目だそれは!
「日向子姉さん!何の為に部屋を別にして貰ったと思ってるんだ。」
「...でも、禰豆子が聞かないし。真ん中に禰豆子が寝るから何の問題もないでしょう?それに、私達3人で川の字で寝るなんて初めてだし、いいじゃない」
何で、彼女は意気揚々としているんだろう。
少なからず、俺の気持ちだって気付いてるはずなのに、何とも思わないのか?
炭治郎は1人頭を抱える。
いくら禰豆子がいるとは言え...
「炭治郎、そんなに意識する事じゃないよ。ただ同じ部屋で寝るだけ、家にいた前と同じよ。」
...。
日向子姉さんはそう言うけれど
あれから何年経ったと思ってるんだ。
それに、川の字で寝るってなんだか...
けろりとした表情を向ける彼女が、この時ばかりは憎たらしく思えた。
まるで夫婦と子供みたいだなんて
面と向かって言える筈もない。
ーーーーー
〜143【夜風の語らい】〜
なんやかんやで結局二つの布団をくっつけて、そこに3人並んで寝る事になった。
床につくやいなや禰豆子は幸せそうな寝顔でまたもぐっすりだ。
もう少し妹には起きていて欲しかった..。
せめて彼女か自分どちらか一方が寝付くまでは。
日向子姉さんは行燈の灯りを消してもぞりと布団に戻ってくる。
自分は背中を向けているけど、何となくそれはわかる。
出来る限り気配は消して、また彼女の気配にも意識を逸らしつつぎゅっと目を瞑る。
しかし、なかなか寝付けずに炭治郎は困り果てた。
昼間少し寝てしまったからか
はたまた日向子姉さんの匂いが、嫌でも鼻を掠めるからか..。
「眠れないの?炭治郎」
びくりと肩を震わせる。彼女もまだ寝付けていないらしいのはわかっていたが、話しかけられるとは思っていなかった。
「あぁ...。日向子姉さんこそ、眠れないのか?」
「うーん..なんだか目が冴えちゃって、少し縁側で夜風に当たってこようかな。」
そう言って彼女は布団から抜け出して羽織を着た。
「俺も、行っていいですか?..」
障子に手をかける日向子姉さんの背中に向かって、何となく敬語でそうお願いする。振り返った彼女は穏やかな笑みで勿論と言った。
ひやりとする縁側に2人並んで腰を下ろす。先に口を開いたのは日向子姉さんだった。
「こうして家族で寝てると、昔を思い出しちゃって。大家族で雑魚寝してた日々が懐かしいなぁと思ってたら、眠れなくなっちゃったんだよね。」
彼女は屈託のない笑みを浮かべた。
その横顔を見つめていると、胸の奥がきゅっと締まるような感覚がした。痛みではない、切ないような疼きだ。
「...槇寿郎さん、ああ言ってたけど、煉獄様の事愛してなかったわけないよね。ただきっと、受け入れられてないんだ。そりゃそうだよね..大切な家族が突然居なくなったら、絶望するもの。」
炭治郎も、わかっていた。
槇寿郎から発せられていた匂いは、悲しみと後悔と、自責の念だったのだ。
なのに、最愛の息子の事を悪くいうのは理解できなくて、つい殴ってしまったけど..
今思えばあれは、心を保つ彼なりの逃避術だったのかもしれない。
「皆が無惨に殺された、炭治郎が帰って来なかったあの夜、母さんは寝ずにずっと戸の方を見つめて、あなたの帰りを待っていたよ。親が子を思う気持ちって、凄く尊いなぁって..。その時思ったんだ。」
穏やかな、けれど少し寂しそうな匂い。
彼女は..今何を考えているのだろう。
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しばらく蝶屋敷に向かって歩いていると、行きより更に上気している炭治郎を見て、
日向子はとうとう耐えきれず声を掛けることにした。
「炭治郎、禰豆子の籠私が持つから。貸してちょうだい」
案の定彼は拒否するが、有無を言わさずに奪い取った。
「大丈夫だよ日向子姉さん、このくらっ...
コツン
日向子は炭治郎の額に、己の額とを合わせて熱を測るような仕草をする。
必然と近くなる顔に炭治郎は動揺し、ただでさえ上気した頬を更に赤めたが、彼女は気にしない。
「大丈夫じゃないでしょう?凄い熱だよ。どこか手頃な所で休んだ方がいいわ」
あんまり歩かせない方がいいだろうと思う。そこで日向子は考えた。
背中に背負った禰豆子の籠はそのままに、炭治郎の背中と足に手を回そうとする。
「ちょ..日向子姉さん何を、わっ!」
展開についていけない炭治郎は、今の自分の格好を見て衝撃を受ける。
彼女はまさかの姫抱きで炭治郎の体を軽々と支えていた。
いい考えだというようにドヤ顔を作る日向子を見て、思わず顔全体を手の平で覆ってしまう。
いや...
さすがに色々と失いそうだし、心がずたぼろになりそうだ
だって、好きな人に姫抱きされるなんて
女の子がされる分には嬉しいのかもしれないけど
俺は男だし
どうしても嫌だ、無理だと言えば彼女は渋々おろしてくれた。
籠だけは譲ってくれなかったけど、仕方ない。その気持ちは今の炭治郎にとっても嬉しい。
何とか蝶屋敷への距離を稼ごうと、姉さんに気遣われながら歩みを進める。
「炭治郎、あそこの家..藤の花の家紋だわ」
厳粛な佇まいで、見慣れた家紋が描かれたのれんが門前にかかっている屋敷が見えた。
「ごめんください!」
日向子姉さんが大声でそう呼びかけると、中からとことこ出て来たのは幼い男の子だった。
「鬼狩り様ですか?」
少年はきびきびとした丁寧な口調でそう尋ねたので、そうだと頷けば、どうぞ中へと案内された。
「あの、弟が熱を出しているので、少しだけでいいので休ませて頂けますか?」
思わずこちらも敬語でそう聞くと、少年は母を呼びつけた。奥からすぐ様出て来たのは若夫婦だった。
少年が訳を話すと、それは大変だと言って炭治郎達を屋敷の中へと招いてくれた。
「ご家族ですか?お部屋はご一緒が宜しいですか?それとも..
「別でお願いしますっ!」
炭治郎が間髪入れずにそうお願いすると、主人は快く了承してくれた。
「少しと言わずいつまででも」
ーーーーー
〜141【安息】〜
この屋敷の奥さんは炭治郎の部屋を度々訪れて、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
お陰で日が傾く頃には体も軽くなったような気がする。
「ありがとうございました。本当に、助かりました。」
そう礼を言うと彼女は、気にしないでくれと微笑み冷えた手拭いを再び炭治郎の額に乗せる。
「もう外はじきに暗くなりますから、今日は泊まって行くといいです。お姉さんにも先程お伝えしました。」
日向子姉さんが了承したのならと、炭治郎もお言葉に甘える事にした。
禰豆子の入った籠は日向子姉さんの部屋にある。
どうやら禰豆子は眠っているらしいので今は静かだけれど、あまり長居は出来ないなと思っている。
「後ほど夕餉をお持ちします、ごゆるりと。」
丁寧に彼女が障子を閉じると、また静寂が戻る。
炭治郎は首を横に向けた。このふすまの向こうに日向子姉さんの部屋があてがわれている。
ふすま一枚だけの隔たりというのは心許ないが、これ以上我儘は言えない。
「日向子姉さん」
そう呼ぶと、彼女はそっとふすまを横に引き、顔だけ出してこちらの様子をひょっこり伺い見る。
途中眠ってしまったりしたけど、ずっと気にしてくれてたのかな..
そう思うと心がほっこりと暖かくなった。
「気分はどう?傷口の炎症があって、熱発はそのせいだったみたい。」
熱は下がりだいぶいい事を伝えると、彼女はほっと胸を撫で下ろした。そちらに行ってもいいかと聞かれたので頷く。
更にふすまが引かれ全身の姿が見えると、炭治郎はくんと喉を鳴らす。
浴衣姿だ...
すっかり隊服や蝶屋敷での病衣姿は見慣れたが、浴衣の寝着姿は久しく見ていなかった。
普段は結っている髪の毛を下ろしているのも相まって凄く..妖艶だなぁと思う。
彼女は炭治郎の側に腰を下ろすと、じっとこちらを見つめる。
思わず顔を背けてしまった。
そんなに穴があくほど見つめられたら..こうもなる。高鳴る鼓動は、さすがに気づかれていないと思うが..
「ヒノカミ神楽の事は、残念だったね。でも、きっと手掛かりは見つかるよ。星の呼吸にも古くからの書物等が残っていれば、辿り着けるかもしれない。」
「ありがとう。俺も、まだわからない事だらけだ。この耳飾りも、父さんの形見ってだけだと思っていたけど、何か..何か意味があるんだと思う。鬼舞辻やその手下が狙う程の、もう少しで何かが繋がりそうな気がする」
炭治郎は思案するように顎に手を当てた。
真実はまだ先か、或いはすぐそこにあるのか
ーーーーー
〜142【川の字】〜
夕餉を済ませると、禰豆子がむくりと起きて籠から出てくる。
心置きなく日向子姉さんとじゃれあえる禰豆子は今は彼女の膝の上でゴロゴロしている。
そんな無邪気な妹が可愛いのか、しきりに禰豆子の頭を撫でたり髪の毛をすいたりして遊んでいた。
そんな様子を見ていると微笑ましくもあり、ちょっぴり禰豆子が羨ましいなと思ったりする。
でも、いざ場所を代わってとなれば、羞恥で悶え死にそうになるのは目に見えているのだけど...
「やっぱり善逸達には行き場所を伝えておくべきだっただろうか。」
今更ながら心配をかけているのではという事に気付きそう話すと、姉さんはちゃっかり置き手紙をして来たと言う。
さすが日向子姉さん...抜かりがない人だと炭治郎は感心する。
「そろそろ寝ようか?明日は早めにここを出ましょう。禰豆子は私の部屋で寝る?」
そう禰豆子に日向子姉さんが問いかけるが、首を傾げるばかりだ。
炭治郎の部屋の方が安心するのかと思ったらしく、それならと立ち上がって隣の部屋に戻ろうとする姉さんの浴衣の裾を、禰豆子がひしと掴んだ。
「こら、禰豆子。姉さんはもう寝るんだから離すんだ」
炭治郎がそう言うが、いやいやと首を横に振り依然としてその手を離そうとしない。
「....禰豆子。皆で一緒に寝たいの?」
そう禰豆子に彼女が問いかけると、思い切り首を縦に振って蔓延の笑みを浮かべた。
困ったように溜息を吐くと、やがて彼女はそういう事だから仕方ないと言って隣の部屋からずるずると布団を引いてくる。
いや...
いやいや、駄目だそれは!
「日向子姉さん!何の為に部屋を別にして貰ったと思ってるんだ。」
「...でも、禰豆子が聞かないし。真ん中に禰豆子が寝るから何の問題もないでしょう?それに、私達3人で川の字で寝るなんて初めてだし、いいじゃない」
何で、彼女は意気揚々としているんだろう。
少なからず、俺の気持ちだって気付いてるはずなのに、何とも思わないのか?
炭治郎は1人頭を抱える。
いくら禰豆子がいるとは言え...
「炭治郎、そんなに意識する事じゃないよ。ただ同じ部屋で寝るだけ、家にいた前と同じよ。」
...。
日向子姉さんはそう言うけれど
あれから何年経ったと思ってるんだ。
それに、川の字で寝るってなんだか...
けろりとした表情を向ける彼女が、この時ばかりは憎たらしく思えた。
まるで夫婦と子供みたいだなんて
面と向かって言える筈もない。
ーーーーー
〜143【夜風の語らい】〜
なんやかんやで結局二つの布団をくっつけて、そこに3人並んで寝る事になった。
床につくやいなや禰豆子は幸せそうな寝顔でまたもぐっすりだ。
もう少し妹には起きていて欲しかった..。
せめて彼女か自分どちらか一方が寝付くまでは。
日向子姉さんは行燈の灯りを消してもぞりと布団に戻ってくる。
自分は背中を向けているけど、何となくそれはわかる。
出来る限り気配は消して、また彼女の気配にも意識を逸らしつつぎゅっと目を瞑る。
しかし、なかなか寝付けずに炭治郎は困り果てた。
昼間少し寝てしまったからか
はたまた日向子姉さんの匂いが、嫌でも鼻を掠めるからか..。
「眠れないの?炭治郎」
びくりと肩を震わせる。彼女もまだ寝付けていないらしいのはわかっていたが、話しかけられるとは思っていなかった。
「あぁ...。日向子姉さんこそ、眠れないのか?」
「うーん..なんだか目が冴えちゃって、少し縁側で夜風に当たってこようかな。」
そう言って彼女は布団から抜け出して羽織を着た。
「俺も、行っていいですか?..」
障子に手をかける日向子姉さんの背中に向かって、何となく敬語でそうお願いする。振り返った彼女は穏やかな笑みで勿論と言った。
ひやりとする縁側に2人並んで腰を下ろす。先に口を開いたのは日向子姉さんだった。
「こうして家族で寝てると、昔を思い出しちゃって。大家族で雑魚寝してた日々が懐かしいなぁと思ってたら、眠れなくなっちゃったんだよね。」
彼女は屈託のない笑みを浮かべた。
その横顔を見つめていると、胸の奥がきゅっと締まるような感覚がした。痛みではない、切ないような疼きだ。
「...槇寿郎さん、ああ言ってたけど、煉獄様の事愛してなかったわけないよね。ただきっと、受け入れられてないんだ。そりゃそうだよね..大切な家族が突然居なくなったら、絶望するもの。」
炭治郎も、わかっていた。
槇寿郎から発せられていた匂いは、悲しみと後悔と、自責の念だったのだ。
なのに、最愛の息子の事を悪くいうのは理解できなくて、つい殴ってしまったけど..
今思えばあれは、心を保つ彼なりの逃避術だったのかもしれない。
「皆が無惨に殺された、炭治郎が帰って来なかったあの夜、母さんは寝ずにずっと戸の方を見つめて、あなたの帰りを待っていたよ。親が子を思う気持ちって、凄く尊いなぁって..。その時思ったんだ。」
穏やかな、けれど少し寂しそうな匂い。
彼女は..今何を考えているのだろう。
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