◆第陸章 太陽の息吹
貴女のお名前を教えてください
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〜136【古の伝承】〜
耳飾りの男、日の呼吸
その二つの言葉に執拗に拘る彼を見て、日向子は妙な違和感を覚える。
一体何故、それ程までに【憎悪】を剥き出しにするのか分からない。
何故....
炭治郎が解せないと食いかかると、
日の呼吸について槇寿郎はこう語った。
「日の呼吸は1番初めに生まれた呼吸!最強の御技!そして..星の呼吸を除いた全ての呼吸は、日の呼吸の派生。日の呼吸の猿真似をし、劣化した呼吸だ!」
日向子は、日と星の呼吸、そしてその他の呼吸の成り立ちは既に知っていた。
でも、今の言い方ではまるで
【その他の呼吸全てを貶した】ような言い方だ。
彼は、何かを知っている。もっと、複雑に絡み合う何かを...
それに、耳飾りの男と日の呼吸の使い手は、同一であるという事なのか?
もしそうなら、炭治郎がそれにあたるのなら、
鬼舞辻が炭治郎を狙う理由は、日の呼吸を滅ぼしたいが為だった..
「日の呼吸の使い手だからと調子に乗るなよ小僧!!」
指をさされ怒鳴られた炭治郎は、ふるふると体を震わせると額に青筋を立て反論する。
「乗れるわけないだろうがっ!今俺が、自分の弱さにどれだけ打ちのめされてると思ってんだこの、糞爺っ!!」
彼にしては珍しく荒々しい言葉遣いで、真っ直ぐに突進していく。
それを止めようと千寿郎が慌てて声を張り上げた。
「危ない!父は元柱です!」
シンプルな殴り合いの攻防。
悔し涙を目にいっぱい溜めながら、炭治郎は拳を奮った。
日向子はそれを、止める事ができなかった。
日向子もまた、彼と同じ思いだからだ。
ー原点にして最強と謳われる日の呼吸ー
ー源にして最上と崇められる星の呼吸ー
それだけ潜在的な力を秘めた能力を持ち合わせていながら、煉獄さんを助けられなかったんだ
私達は..
炭治郎のがむしゃらな頭突きが槇寿郎に命中すると、彼はどっと後ろに倒れ気を失ってしまった。我に帰った炭治郎はさっと顔を青くする。
「ぁっ...すみません!!千寿郎君っ」
千寿郎はぽかんとした表情で一部始終を見ていたが、ハッとすると、父の肩を持ち上げて家の中へ引きずっていく。
「大丈夫です。父はそんなにやわじゃないですから。少し寝れば時期に目を覚ますでしょう。
炭治郎さん、日向子さん、宜しければうちに上がってください。
私と父以外はこの家には居ませんので、お気になさらず。兄の事も伺いたいですし...何か気になる事もお有りなようですから。」
彼は丁寧な口調で、そう提案してくれた。
ーーーーー
〜137【絡み合う】〜
「お茶です。どうぞ」
千寿郎は慣れた手付きで2人に湯呑みを差し出す。日向子は沈んでいる炭治郎を宥めつつ礼を言って受け取った。
槇寿郎の様子を気遣えば、大丈夫ですと笑って言った。心なしか、初対面の時よりも晴れ晴れとしているようだ。
「ありがとうございます。兄を悪く言われても僕は、口答えすら出来なかった..。兄は、どんな最期だったのでしょうか」
炭治郎が杏寿郎の最期を伝えると、彼は寂しそうにそうですかと呟いた。
「千寿郎君。お兄様を助けられず、力及ばずに申し訳ありませんでした。」
2人とも畳に頭が付くくらい深く首を垂れて謝罪するが、彼は気にしないでくれと慌てて制する。
「兄もきっと同じ事を言ったでしょう。いいんです。柱として立派に責務を全うした兄を、僕は寧ろ誇らしく思います」
千寿郎は遠い眼差しでそう言った。
素敵な兄弟だと思った。
煉獄家がどんな家訓の元、繁栄してきた一族かは分からないが、少なくとも杏寿郎と千寿郎は、強く固い絆で結ばれていたのだと思う。
千寿郎が奥から古びた書物を取り出してくる。
代々煉獄家に伝わる炎柱の書。
額を寄せ合って書物を開きみるが、一同眉間に皺を寄せる羽目になる
「ずたずたで、殆ど読めない..」
日の呼吸やヒノカミ神楽についててっきり記されているかと思ったが、淡い期待は一瞬にして崩れ去った。
元々このような保存状況だったのかを問えば、何でも炎柱の書は歴代大切に保管されているものである為、それはないと言う。
「恐らく、父が破ったのでしょう。すみません..せっかく遥々足を運んでくださったのに」
彼は申し訳なさそうにしゅんとする。
「気にしないでください千寿郎君。あなたのせいではないわ。私も、師範に聞いてみてるんです。
ヒノカミ神楽については分からないと前に言われたけど、日の呼吸の歴史についてなら、他にも何か分かるかもしれないから。
星の呼吸の使い手として、何か彼の手助けとなれればいいと思ってるんです。それが、巡り巡って、煉獄さんのような偉大な人を救えたらいいと」
日向子が炭治郎を横目にそう言うと、千寿郎は驚いたように目を見開いた。
「貴女は..星の呼吸の使い手なのですか?」
こくりと頷くと、彼は神妙な面持ちで顎に手を当てた。
「父があんな酒乱になったのは、母が亡くなってからです。父は、炎と日を比較されるのを心底嫌います。そして、星の呼吸に見初められなかった歴史を、酷く嘆いていた」
ーーーーー
〜138【誇り】〜
「クソ....あの小僧」
槇寿郎はまだじんわりと痛む額を押さえて通りを歩いていた。
馴染みの酒屋に着くと店主がへこへこと頭を下げて、いつも通りの酒を差し出す。
そんな態度も気に食わなくて、大きく舌打ちし酒瓶をもぎ取った。
息子の訃報を聞いた時、まず感じたのはどうしようもない憤りだった。
それは、複雑な感情が幾重にも絡み合うものであり、今思えば大人気ない、哀れな成れの果てだった。
「杏寿郎、何故お前は柱になる。俺の背中を見ていたら、そうなりたいと..思う筈はない。」
息子が家を出る前夜に、そう問うた。
すると彼はこう答えたのだ。
「貴方の背中を見ていたからこそです、父上。私には、貴方が思う才能は備わっていないかもしれない。
けれど、信念はあります。貴方もそうだったのではないですか?唯一無二の誇りを持つ方だからこそ、柱として剣を奮い続けた。私も同じ思いです。父上」
あぁ、いつの間に
こんなに立派な男になったのだろうと思った。
日の呼吸になりきれなかった劣等感を抱き続けて来た一族。
それは、誇りと紙一重であったからだ。
杏寿郎は、それをしっかりと受け継いでくれた。
けれど...
「こんな形で帰って来いとは、一言も言わなかったぞ。馬鹿息子...」
弱々しい音となって、その言葉はかき消えていった。
美空を見上げると、視界が霞んだ。
こんな事になるのなら、もっと何かしてあげられたのではないか。
父として、師範として
この体たらくでは何も言えるわけはないが、それでも後悔ばかりが先立ってしまう。
あの耳飾りの少年に殴られたのも当然の報いだ。
一羽の白鴉が山の稜線へ向かって飛び立っていく。
槇寿郎はその美しい光景に不意に目が止まった。懐かしい記憶がふと蘇る。
「...瑠璃...」
「星の呼吸に見初められなかった..というのは」
日向子がそう千寿郎に問うと、断片的な情報しかわからないがと言ってぽつりぽつりと話してくれた。
「炎の呼吸は、星を引きつけることは遂に叶わなかったと、以前父が言っていました。
先祖や父に、どういう歴史や過去があったのかはわかりませんが...父にとって星の呼吸が特別だった事は確かだと思います。」
日向子は言葉が出なかった。
あの人は..槇寿郎さんは
ただ横暴なだけの人ではない。
日向子達では想像し得ない深い重荷を抱えて、生きてきたのかもしれない。
私は、何も知らない。
なのに、酷いことをしてしまった..
ーーーーー
〜139【道標の光】〜
「俺も、もっと鍛錬します。舞いの手順を知っているヒノカミ神楽でさえも、俺はまだ使いこなせていないんです。」
炭治郎は膝の上でぎゅっと拳を握り締めた。
ヒノカミ神楽と日の呼吸の関係性がわからなくても、そこに星の呼吸が入り組んだ複雑な事情があるとしても、今、自分が出来ることは決まっている。
「今はまだ、体が技に追いついていない。俺の問題です。地道に足掻くしかない。今の自分が出来る、精一杯で前に進む。どんなに苦しくても悔しくても、そして俺は..杏寿郎さんのような強い柱に、必ずなります」
炭治郎は火の付いた目を千寿郎に向ける。
その凛々しい横顔を、日向子は奪われるように見つめた。
彼は、こんなに逞 しい顔をしていただろうか...?
千寿郎は炭治郎の言葉に涙ぐむと、心の内を語り始めた。
「兄には、継子が居ませんでした。本来なら私が継子となり、柱の控えとして実績を積まなければならなかった」
彼は、自分には剣士としての才が恵まれなかったことを話し、その他の方法で世の人の為に成すべき事を成すと誓った。
千寿郎らしい生き方だと思う。
彼は人の痛みや感情に敏感なようだから、きっと..人々の模範となる人生を歩んでいく事だろう
炭治郎も、千寿郎も、
皆、己の歩む道を自ら見つけ出して歩き出している。
私も肩を並べて行けるだろうか?
いや
そうじゃない
私は...
「お話が出来て良かった。気をつけてお帰りください。」
千寿郎は、ぺこりと頭を下げて2人を門前まで送ってくれた。そして、杏寿郎の日輪刀の鍔を炭治郎へと受け渡す。
形見とも言うべきそれを、炭治郎は最初突き返したのだが、どうしても彼が持っていて欲しいと言うので、丁寧に礼を言って受け取り、大事そうに羽織の内へ仕舞い込んだ。
姿が見えなくなるまで見送ってくれるつもりなのか、笑顔でいつまでも手を振る千寿郎に向かって、どうしても伝えたい事を思い出し、日向子はくるりと振り返って叫んだ。
「千寿郎君!私は、必ずや貴方と、この世界に生ける者達の道標となります!もしも迷っても安心して道を正せるように。
だから、お父様にも宜しくお伝えください。星は...いつも何処からでも、全てを見守っていると」
太陽も、水も、炎も、風も...この世の万物全てを包み込む理として存在する。
私は..【星を司る者】だから
千寿郎は目を丸くして日向子を見つめた。
炭治郎も然りだ。やがて蔓延の笑みで彼は、ありがとうと返した。
ーーーーー
耳飾りの男、日の呼吸
その二つの言葉に執拗に拘る彼を見て、日向子は妙な違和感を覚える。
一体何故、それ程までに【憎悪】を剥き出しにするのか分からない。
何故....
炭治郎が解せないと食いかかると、
日の呼吸について槇寿郎はこう語った。
「日の呼吸は1番初めに生まれた呼吸!最強の御技!そして..星の呼吸を除いた全ての呼吸は、日の呼吸の派生。日の呼吸の猿真似をし、劣化した呼吸だ!」
日向子は、日と星の呼吸、そしてその他の呼吸の成り立ちは既に知っていた。
でも、今の言い方ではまるで
【その他の呼吸全てを貶した】ような言い方だ。
彼は、何かを知っている。もっと、複雑に絡み合う何かを...
それに、耳飾りの男と日の呼吸の使い手は、同一であるという事なのか?
もしそうなら、炭治郎がそれにあたるのなら、
鬼舞辻が炭治郎を狙う理由は、日の呼吸を滅ぼしたいが為だった..
「日の呼吸の使い手だからと調子に乗るなよ小僧!!」
指をさされ怒鳴られた炭治郎は、ふるふると体を震わせると額に青筋を立て反論する。
「乗れるわけないだろうがっ!今俺が、自分の弱さにどれだけ打ちのめされてると思ってんだこの、糞爺っ!!」
彼にしては珍しく荒々しい言葉遣いで、真っ直ぐに突進していく。
それを止めようと千寿郎が慌てて声を張り上げた。
「危ない!父は元柱です!」
シンプルな殴り合いの攻防。
悔し涙を目にいっぱい溜めながら、炭治郎は拳を奮った。
日向子はそれを、止める事ができなかった。
日向子もまた、彼と同じ思いだからだ。
ー原点にして最強と謳われる日の呼吸ー
ー源にして最上と崇められる星の呼吸ー
それだけ潜在的な力を秘めた能力を持ち合わせていながら、煉獄さんを助けられなかったんだ
私達は..
炭治郎のがむしゃらな頭突きが槇寿郎に命中すると、彼はどっと後ろに倒れ気を失ってしまった。我に帰った炭治郎はさっと顔を青くする。
「ぁっ...すみません!!千寿郎君っ」
千寿郎はぽかんとした表情で一部始終を見ていたが、ハッとすると、父の肩を持ち上げて家の中へ引きずっていく。
「大丈夫です。父はそんなにやわじゃないですから。少し寝れば時期に目を覚ますでしょう。
炭治郎さん、日向子さん、宜しければうちに上がってください。
私と父以外はこの家には居ませんので、お気になさらず。兄の事も伺いたいですし...何か気になる事もお有りなようですから。」
彼は丁寧な口調で、そう提案してくれた。
ーーーーー
〜137【絡み合う】〜
「お茶です。どうぞ」
千寿郎は慣れた手付きで2人に湯呑みを差し出す。日向子は沈んでいる炭治郎を宥めつつ礼を言って受け取った。
槇寿郎の様子を気遣えば、大丈夫ですと笑って言った。心なしか、初対面の時よりも晴れ晴れとしているようだ。
「ありがとうございます。兄を悪く言われても僕は、口答えすら出来なかった..。兄は、どんな最期だったのでしょうか」
炭治郎が杏寿郎の最期を伝えると、彼は寂しそうにそうですかと呟いた。
「千寿郎君。お兄様を助けられず、力及ばずに申し訳ありませんでした。」
2人とも畳に頭が付くくらい深く首を垂れて謝罪するが、彼は気にしないでくれと慌てて制する。
「兄もきっと同じ事を言ったでしょう。いいんです。柱として立派に責務を全うした兄を、僕は寧ろ誇らしく思います」
千寿郎は遠い眼差しでそう言った。
素敵な兄弟だと思った。
煉獄家がどんな家訓の元、繁栄してきた一族かは分からないが、少なくとも杏寿郎と千寿郎は、強く固い絆で結ばれていたのだと思う。
千寿郎が奥から古びた書物を取り出してくる。
代々煉獄家に伝わる炎柱の書。
額を寄せ合って書物を開きみるが、一同眉間に皺を寄せる羽目になる
「ずたずたで、殆ど読めない..」
日の呼吸やヒノカミ神楽についててっきり記されているかと思ったが、淡い期待は一瞬にして崩れ去った。
元々このような保存状況だったのかを問えば、何でも炎柱の書は歴代大切に保管されているものである為、それはないと言う。
「恐らく、父が破ったのでしょう。すみません..せっかく遥々足を運んでくださったのに」
彼は申し訳なさそうにしゅんとする。
「気にしないでください千寿郎君。あなたのせいではないわ。私も、師範に聞いてみてるんです。
ヒノカミ神楽については分からないと前に言われたけど、日の呼吸の歴史についてなら、他にも何か分かるかもしれないから。
星の呼吸の使い手として、何か彼の手助けとなれればいいと思ってるんです。それが、巡り巡って、煉獄さんのような偉大な人を救えたらいいと」
日向子が炭治郎を横目にそう言うと、千寿郎は驚いたように目を見開いた。
「貴女は..星の呼吸の使い手なのですか?」
こくりと頷くと、彼は神妙な面持ちで顎に手を当てた。
「父があんな酒乱になったのは、母が亡くなってからです。父は、炎と日を比較されるのを心底嫌います。そして、星の呼吸に見初められなかった歴史を、酷く嘆いていた」
ーーーーー
〜138【誇り】〜
「クソ....あの小僧」
槇寿郎はまだじんわりと痛む額を押さえて通りを歩いていた。
馴染みの酒屋に着くと店主がへこへこと頭を下げて、いつも通りの酒を差し出す。
そんな態度も気に食わなくて、大きく舌打ちし酒瓶をもぎ取った。
息子の訃報を聞いた時、まず感じたのはどうしようもない憤りだった。
それは、複雑な感情が幾重にも絡み合うものであり、今思えば大人気ない、哀れな成れの果てだった。
「杏寿郎、何故お前は柱になる。俺の背中を見ていたら、そうなりたいと..思う筈はない。」
息子が家を出る前夜に、そう問うた。
すると彼はこう答えたのだ。
「貴方の背中を見ていたからこそです、父上。私には、貴方が思う才能は備わっていないかもしれない。
けれど、信念はあります。貴方もそうだったのではないですか?唯一無二の誇りを持つ方だからこそ、柱として剣を奮い続けた。私も同じ思いです。父上」
あぁ、いつの間に
こんなに立派な男になったのだろうと思った。
日の呼吸になりきれなかった劣等感を抱き続けて来た一族。
それは、誇りと紙一重であったからだ。
杏寿郎は、それをしっかりと受け継いでくれた。
けれど...
「こんな形で帰って来いとは、一言も言わなかったぞ。馬鹿息子...」
弱々しい音となって、その言葉はかき消えていった。
美空を見上げると、視界が霞んだ。
こんな事になるのなら、もっと何かしてあげられたのではないか。
父として、師範として
この体たらくでは何も言えるわけはないが、それでも後悔ばかりが先立ってしまう。
あの耳飾りの少年に殴られたのも当然の報いだ。
一羽の白鴉が山の稜線へ向かって飛び立っていく。
槇寿郎はその美しい光景に不意に目が止まった。懐かしい記憶がふと蘇る。
「...瑠璃...」
「星の呼吸に見初められなかった..というのは」
日向子がそう千寿郎に問うと、断片的な情報しかわからないがと言ってぽつりぽつりと話してくれた。
「炎の呼吸は、星を引きつけることは遂に叶わなかったと、以前父が言っていました。
先祖や父に、どういう歴史や過去があったのかはわかりませんが...父にとって星の呼吸が特別だった事は確かだと思います。」
日向子は言葉が出なかった。
あの人は..槇寿郎さんは
ただ横暴なだけの人ではない。
日向子達では想像し得ない深い重荷を抱えて、生きてきたのかもしれない。
私は、何も知らない。
なのに、酷いことをしてしまった..
ーーーーー
〜139【道標の光】〜
「俺も、もっと鍛錬します。舞いの手順を知っているヒノカミ神楽でさえも、俺はまだ使いこなせていないんです。」
炭治郎は膝の上でぎゅっと拳を握り締めた。
ヒノカミ神楽と日の呼吸の関係性がわからなくても、そこに星の呼吸が入り組んだ複雑な事情があるとしても、今、自分が出来ることは決まっている。
「今はまだ、体が技に追いついていない。俺の問題です。地道に足掻くしかない。今の自分が出来る、精一杯で前に進む。どんなに苦しくても悔しくても、そして俺は..杏寿郎さんのような強い柱に、必ずなります」
炭治郎は火の付いた目を千寿郎に向ける。
その凛々しい横顔を、日向子は奪われるように見つめた。
彼は、こんなに
千寿郎は炭治郎の言葉に涙ぐむと、心の内を語り始めた。
「兄には、継子が居ませんでした。本来なら私が継子となり、柱の控えとして実績を積まなければならなかった」
彼は、自分には剣士としての才が恵まれなかったことを話し、その他の方法で世の人の為に成すべき事を成すと誓った。
千寿郎らしい生き方だと思う。
彼は人の痛みや感情に敏感なようだから、きっと..人々の模範となる人生を歩んでいく事だろう
炭治郎も、千寿郎も、
皆、己の歩む道を自ら見つけ出して歩き出している。
私も肩を並べて行けるだろうか?
いや
そうじゃない
私は...
「お話が出来て良かった。気をつけてお帰りください。」
千寿郎は、ぺこりと頭を下げて2人を門前まで送ってくれた。そして、杏寿郎の日輪刀の鍔を炭治郎へと受け渡す。
形見とも言うべきそれを、炭治郎は最初突き返したのだが、どうしても彼が持っていて欲しいと言うので、丁寧に礼を言って受け取り、大事そうに羽織の内へ仕舞い込んだ。
姿が見えなくなるまで見送ってくれるつもりなのか、笑顔でいつまでも手を振る千寿郎に向かって、どうしても伝えたい事を思い出し、日向子はくるりと振り返って叫んだ。
「千寿郎君!私は、必ずや貴方と、この世界に生ける者達の道標となります!もしも迷っても安心して道を正せるように。
だから、お父様にも宜しくお伝えください。星は...いつも何処からでも、全てを見守っていると」
太陽も、水も、炎も、風も...この世の万物全てを包み込む理として存在する。
私は..【星を司る者】だから
千寿郎は目を丸くして日向子を見つめた。
炭治郎も然りだ。やがて蔓延の笑みで彼は、ありがとうと返した。
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