◆第陸章 太陽の息吹
貴女のお名前を教えてください
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〜132【切望の時】〜
「善逸、お前は先に休んでくれ。禰豆子もすぐ寝かせるから、すまない」
炭治郎は静かにそう言った。
月明かりに照らされた彼の瞳はどこか悲しげで、心ここにあらずといった感じだ。
彼等もかなり疲労が溜まっている筈だった。自分でさえ、全身の倦怠感と筋肉痛が酷くて、今すぐにでもベッドにダイブしたいと思うくらいだ。
それでも、今夜が山場の彼女から離れようとしないのは、それだけ日向子さんが大切で心配なのだ。
いつ息を引き取ってしまうんじゃないかと不安で、どうしようもないんだ。
そんな竈門兄妹を見ていると..何ともやるせない気持ちになってしまう。
「....日向子さんなら大丈夫だよ。心音もちゃんと規則正しく動いてる。だから...早く体を休めろよ。」
「善逸...ありがとう」
その言葉を聞いて、ほっとしたのだろう。
そんな音が彼から聞こえて来た。
良かった、少しでも彼等の不安を解消させてあげられたなら、それでいい。
善逸が部屋を後にすると、炭治郎は禰豆子の頭をゆっくりと撫でる。
「禰豆子。日向子姉さんはじきに目を覚ますよ。善逸が大丈夫だと言ったんだ。
大丈夫に決まってる。たくさん戦って皆を守ってくれて..ありがとうな。
疲れただろう。後は兄ちゃんが見ているから、禰豆子はもう眠っていいぞ。」
安心させるように彼女の頭を撫で続けると、そのうち目蓋をうつらうつらさせて、禰豆子は日向子姉さんの手を握りながら、ベッドに寄りかかり眠り込んだ。
炭治郎はその横に腰を下ろすと、じっと日向子の顔を見つめる。
早く、目覚めてくれ..。またあの朗らかな太陽のような笑顔を見せてくれ。
そう祈りを込めながら、禰豆子と日向子の手の上から、包み込むように炭治郎もまた手の平を覆う。
すると、僅かにピクリと指が動いた。
「..日向子姉さん?」
ゆっくりと、彼女の目蓋が開いていく。
炭治郎の姿に気付くと、そのまま右手に視線を下ろしていく。
禰豆子が手を握っているのを見て、動揺の色を見せた。手を引っ込めようとする仕草を見せるので、炭治郎はそれを引き留める。
「大丈夫だ。珠世さんが、禰豆子の体に触れても大丈夫だと言ってくれた。もう、触れても平気なんだ..。」
そう聞くと、日向子姉さんは恐る恐る禰豆子の頬を撫でた。
そして、彼女は静かにいくつもの細い涙を流した。
彼女にとって、待ち望んでいた瞬間だったからだ。
ーもう一度、妹をこの手で撫でてあげたいとー
ーーーーー
〜133【慟哭の涙】〜
「私は、また気を失ってしまったんだね..。その、あれからどのくらい経ったの?」
炭治郎がまだ1日も経っていない事を伝えると、彼女は狼狽 した。
「私の事はもういいから、部屋に戻って休んで?」
「俺は大丈夫だよ。日向子姉さんが無事なら...今回ばかりは、もう本当に駄目かと...。
珠世さんとしのぶさんが治療してくれたんだ。禰豆子の血を使って」
当然驚いた様子を見せた彼女に経緯を説明すると、そうかと納得したようだった。
「そっか...そういうことね。
そうだ、他の皆は無事だった?煉獄さん達は」
そう聞くと炭治郎は、言いづらそうに目線を背ける。やがて、意を決したようにこう発した。
「煉獄さんは、亡くなった。」
彼女は愕然 として瞳を揺らした。信じられないとばかりに訳を問う。
上弦の鬼が後から現れた事、身を挺して炭治郎達の盾となってくれた事、全てを話した。
聞き終わると震えた声色で、そんな...と呟き肩を落とす。
「...ごめん。何て、言ったらいいか...。
ちょっと、頭が追いつかないや。
炭治郎..申し訳ないけど、禰豆子連れて部屋に戻ってくれる?少し1人に、なりたい」
そう言って、日向子姉さんは窓側の方へ体を向ける。
煉獄さんの、最期を見届けた自分ですら、今でも現実が信じがたい。
彼女は尚更そうだろう。
それは、小さく震える肩が物語っていた。
彼女は、1人になりたいと言ったけれど
炭治郎は真逆の行動を取る。
「っ...」
震える日向子姉さんの肩を掻き抱く。
彼女の匂いがいっぱいに広がり、炭治郎の脳髄まで満たしていくようだ。
けれど..その匂いは、激しい慟哭 を秘めていた。
こんな状態の彼女を、放っては置けなかった。
「っ...何が、巫一族よ。鬼殺隊の切り札よ。特別な力なら、なんで助けられないの。
力が発揮出来なきゃ、何の意味もない。もっと私が強ければ、煉獄さんの手助けとなれてれば、彼は死ななかったかもしれないのに」
彼女の発する言葉の一つ一つが、今の炭治郎にも重く響いていく。
自分も同じだ。次元すら異なる圧倒的な力の差に、うしひしがれ、何も出来なかった。
彼は最期に、俺が死ぬ事は気にするなと言ったが、奪われた命は..戻らない。
それは、炭治郎達が最もよく身にしみている事なのだから。
炭治郎は、壊れ物を抱くように
声を上げて泣く日向子の背中を撫で続けた。
そうしなければ、消えて無くなってしまいそうな気がしたんだ。
ーーーーー
〜134【共同体】〜
思えば、炭治郎の前であんなにも情けなく弱い心を曝け出したのは、初めてかも知れなかった。
私は竈門家の長女だから、下の子達を守らないといけない。
そういう立場だと、母の腕に抱かれた赤子の炭治郎を見た時から誓っていた。
それなのに..
私は、その誓いを自ら破ってしまったのだ。
小さくて、少しやきもち焼きで、可愛らしい弟。
だけれどいつの間にか自分よりも大きくなって、強い眼差しを向けるようになって、己の情け無さを必死に受け止めて前を向こうとする。
そんな、偉大な背中を見る事が多くなった。
炭治郎に抱かれた時、堰を切ったように悲しみが溢れ返った。
皆、私の力に期待している。
けれども私はそれに全く答えられない。
酷い罪責感に襲われて、しばらく体を動かす気力がなくなってしまった。
こんな私が、世界を変える事なんて本当に出来るの、と。
炭治郎は、重症を負っていたけれど
しのぶさんの制止も小言も無視して、鍛錬に励んでいた。
そんな姿を見ていると、自分もこのままじゃいけないという気持ちにさせられたのだ。
辛くとも彼は前を向き続けている。
ならば、私も立ち止まってなどいられない。
「炭治郎」
皆の目を盗んで、禰豆子の入った籠を背負う彼を呼び止める。
彼はぎくりと肩を揺らして恐る恐るこちらを振り返った。
「日向子姉さん..。俺、煉獄さんの生家に行く。どうしてもヒノカミ神楽について、今知りたいんだ。善逸達には黙っててくれないか。頼む」
頭を下げる彼に、日向子はこう発した。
「私も一緒に行きたい」
「!っ...でも、姉さんはまだ体が」
「炭治郎、立ち止まっていられないのは私も
一緒なんだ。考えたの...たくさん色々と。
結局、私だけの力じゃ限界がある。
けど、貴方達と一緒なら、強くなれる。
だから私にも、あなたの道を辿らせて欲しい。炭治郎。」
そう言うと彼は口を噤んだ。
真っ直ぐに彼を見つめると、観念したように眉をハの字にするのだった。
「奇遇だよ。俺も、そう思ってたんだ。
俺は、竈門家の長男だから。家族や女性である姉さんを守るのは当たり前だけど、強くなる為には地道に歩いていくしかないと思ってた。
けど、貴女が側にいてくれたら、俺はもっと強くなれる」
彼が、ヒノカミ神楽を放ったあの時
懐かしい暖かさを感じたのを思い出した。
それは、禰豆子の炎に包まれた瞬間も同じ。
私達は、共に在れば
この先もっと豊かな世界が開けていく。
そう思うんだ。
ーーーーー
〜135【煉獄家】〜
荒い息遣いで歩く炭治郎を、日向子は内心案じていた。
日向子はあの時瀕死の状態でありながらも、禰豆子の血液で精製された薬剤のお陰で通常より早い回復を遂げたが、炭治郎は、傷が治り切る前に鍛錬していた事もあり、あまり体調は良好ではないようだ。
そうこうしているうちに、2人は煉獄家の門前に辿り着く。
門の前では、煉獄さんに瓜二つの少年が藁箒 を掃いていた。
「千寿郎くん?...」
そう問いかけると彼はくるりとこちらを振り向く。予期せぬ突然の訪問者に驚きを隠せない様子だった。
「煉獄杏寿郎さんの訃報はお聞きでしょうか?
彼から、お父上と千寿郎さんへの言葉を預かりましたので、お伝えに来ました。」
日向子も丁寧に頭を下げて挨拶をする。
千寿郎は慌ててそれに習った。
「兄の事は存じてますが、あなた達、大丈夫ですか?
あまり体調が宜しくないように見えますが..」
その時、突如奥の母屋から怒鳴り声が聞こえ、ガラリと戸が開いた。
中から現れたのは、酒瓶を片手に無精髭 を生やした強面の男性だった。容姿は何処となく煉獄さんに似ている。
恐らく彼は..
「大した才能もないのに剣士になどなるからだ、だから死ぬんだ!くだらない..愚かな息子だ杏寿郎はっ」
彼は、煉獄さんの父親だった。
日向子らを歓迎するどころか、追い返そうとする始末で、何より実の息子を貶すような言い方。あんまりだった。
「..その耳飾り。そうかお前、【日の呼吸】の使い手だなっ!?」
日の呼吸
日向子はその言葉を聞いて胸を騒つかせる。
しかし安静でいられたのは束の間。
彼は凄まじい早さで間合いを詰めて、炭治郎をはたき倒した。
地面に勢いよく叩きつけられた炭治郎は、顔を激しく歪める。
なんて事をっ...
千寿郎が駆け寄ろうとするが、それよりも前に日向子は渾身の力で彼の父親を殴り飛ばした。
思い掛けない横入りに彼は頬を押さえて日向子を睨む。
「あなたの事情は知りませんが、初対面の子供を殴り倒すなどどういう了見ですか!生恥もいいとこですよ!」
「...お前はなんだ。部外者がしゃしゃり出るんじゃないっ!」
怒りに唇をわななかせながら、男は日向子の襟を掴み上げる。その光景を見て、今度は炭治郎が黙っていなかった。
「その手を離せ、いい加減にしろ!さっきから一体何なんだあんた!」
そう叫ぶと彼はこう言った。
「お前、【俺達を】馬鹿にしてるだろう!」
ーーーーー
「善逸、お前は先に休んでくれ。禰豆子もすぐ寝かせるから、すまない」
炭治郎は静かにそう言った。
月明かりに照らされた彼の瞳はどこか悲しげで、心ここにあらずといった感じだ。
彼等もかなり疲労が溜まっている筈だった。自分でさえ、全身の倦怠感と筋肉痛が酷くて、今すぐにでもベッドにダイブしたいと思うくらいだ。
それでも、今夜が山場の彼女から離れようとしないのは、それだけ日向子さんが大切で心配なのだ。
いつ息を引き取ってしまうんじゃないかと不安で、どうしようもないんだ。
そんな竈門兄妹を見ていると..何ともやるせない気持ちになってしまう。
「....日向子さんなら大丈夫だよ。心音もちゃんと規則正しく動いてる。だから...早く体を休めろよ。」
「善逸...ありがとう」
その言葉を聞いて、ほっとしたのだろう。
そんな音が彼から聞こえて来た。
良かった、少しでも彼等の不安を解消させてあげられたなら、それでいい。
善逸が部屋を後にすると、炭治郎は禰豆子の頭をゆっくりと撫でる。
「禰豆子。日向子姉さんはじきに目を覚ますよ。善逸が大丈夫だと言ったんだ。
大丈夫に決まってる。たくさん戦って皆を守ってくれて..ありがとうな。
疲れただろう。後は兄ちゃんが見ているから、禰豆子はもう眠っていいぞ。」
安心させるように彼女の頭を撫で続けると、そのうち目蓋をうつらうつらさせて、禰豆子は日向子姉さんの手を握りながら、ベッドに寄りかかり眠り込んだ。
炭治郎はその横に腰を下ろすと、じっと日向子の顔を見つめる。
早く、目覚めてくれ..。またあの朗らかな太陽のような笑顔を見せてくれ。
そう祈りを込めながら、禰豆子と日向子の手の上から、包み込むように炭治郎もまた手の平を覆う。
すると、僅かにピクリと指が動いた。
「..日向子姉さん?」
ゆっくりと、彼女の目蓋が開いていく。
炭治郎の姿に気付くと、そのまま右手に視線を下ろしていく。
禰豆子が手を握っているのを見て、動揺の色を見せた。手を引っ込めようとする仕草を見せるので、炭治郎はそれを引き留める。
「大丈夫だ。珠世さんが、禰豆子の体に触れても大丈夫だと言ってくれた。もう、触れても平気なんだ..。」
そう聞くと、日向子姉さんは恐る恐る禰豆子の頬を撫でた。
そして、彼女は静かにいくつもの細い涙を流した。
彼女にとって、待ち望んでいた瞬間だったからだ。
ーもう一度、妹をこの手で撫でてあげたいとー
ーーーーー
〜133【慟哭の涙】〜
「私は、また気を失ってしまったんだね..。その、あれからどのくらい経ったの?」
炭治郎がまだ1日も経っていない事を伝えると、彼女は
「私の事はもういいから、部屋に戻って休んで?」
「俺は大丈夫だよ。日向子姉さんが無事なら...今回ばかりは、もう本当に駄目かと...。
珠世さんとしのぶさんが治療してくれたんだ。禰豆子の血を使って」
当然驚いた様子を見せた彼女に経緯を説明すると、そうかと納得したようだった。
「そっか...そういうことね。
そうだ、他の皆は無事だった?煉獄さん達は」
そう聞くと炭治郎は、言いづらそうに目線を背ける。やがて、意を決したようにこう発した。
「煉獄さんは、亡くなった。」
彼女は
上弦の鬼が後から現れた事、身を挺して炭治郎達の盾となってくれた事、全てを話した。
聞き終わると震えた声色で、そんな...と呟き肩を落とす。
「...ごめん。何て、言ったらいいか...。
ちょっと、頭が追いつかないや。
炭治郎..申し訳ないけど、禰豆子連れて部屋に戻ってくれる?少し1人に、なりたい」
そう言って、日向子姉さんは窓側の方へ体を向ける。
煉獄さんの、最期を見届けた自分ですら、今でも現実が信じがたい。
彼女は尚更そうだろう。
それは、小さく震える肩が物語っていた。
彼女は、1人になりたいと言ったけれど
炭治郎は真逆の行動を取る。
「っ...」
震える日向子姉さんの肩を掻き抱く。
彼女の匂いがいっぱいに広がり、炭治郎の脳髄まで満たしていくようだ。
けれど..その匂いは、激しい
こんな状態の彼女を、放っては置けなかった。
「っ...何が、巫一族よ。鬼殺隊の切り札よ。特別な力なら、なんで助けられないの。
力が発揮出来なきゃ、何の意味もない。もっと私が強ければ、煉獄さんの手助けとなれてれば、彼は死ななかったかもしれないのに」
彼女の発する言葉の一つ一つが、今の炭治郎にも重く響いていく。
自分も同じだ。次元すら異なる圧倒的な力の差に、うしひしがれ、何も出来なかった。
彼は最期に、俺が死ぬ事は気にするなと言ったが、奪われた命は..戻らない。
それは、炭治郎達が最もよく身にしみている事なのだから。
炭治郎は、壊れ物を抱くように
声を上げて泣く日向子の背中を撫で続けた。
そうしなければ、消えて無くなってしまいそうな気がしたんだ。
ーーーーー
〜134【共同体】〜
思えば、炭治郎の前であんなにも情けなく弱い心を曝け出したのは、初めてかも知れなかった。
私は竈門家の長女だから、下の子達を守らないといけない。
そういう立場だと、母の腕に抱かれた赤子の炭治郎を見た時から誓っていた。
それなのに..
私は、その誓いを自ら破ってしまったのだ。
小さくて、少しやきもち焼きで、可愛らしい弟。
だけれどいつの間にか自分よりも大きくなって、強い眼差しを向けるようになって、己の情け無さを必死に受け止めて前を向こうとする。
そんな、偉大な背中を見る事が多くなった。
炭治郎に抱かれた時、堰を切ったように悲しみが溢れ返った。
皆、私の力に期待している。
けれども私はそれに全く答えられない。
酷い罪責感に襲われて、しばらく体を動かす気力がなくなってしまった。
こんな私が、世界を変える事なんて本当に出来るの、と。
炭治郎は、重症を負っていたけれど
しのぶさんの制止も小言も無視して、鍛錬に励んでいた。
そんな姿を見ていると、自分もこのままじゃいけないという気持ちにさせられたのだ。
辛くとも彼は前を向き続けている。
ならば、私も立ち止まってなどいられない。
「炭治郎」
皆の目を盗んで、禰豆子の入った籠を背負う彼を呼び止める。
彼はぎくりと肩を揺らして恐る恐るこちらを振り返った。
「日向子姉さん..。俺、煉獄さんの生家に行く。どうしてもヒノカミ神楽について、今知りたいんだ。善逸達には黙っててくれないか。頼む」
頭を下げる彼に、日向子はこう発した。
「私も一緒に行きたい」
「!っ...でも、姉さんはまだ体が」
「炭治郎、立ち止まっていられないのは私も
一緒なんだ。考えたの...たくさん色々と。
結局、私だけの力じゃ限界がある。
けど、貴方達と一緒なら、強くなれる。
だから私にも、あなたの道を辿らせて欲しい。炭治郎。」
そう言うと彼は口を噤んだ。
真っ直ぐに彼を見つめると、観念したように眉をハの字にするのだった。
「奇遇だよ。俺も、そう思ってたんだ。
俺は、竈門家の長男だから。家族や女性である姉さんを守るのは当たり前だけど、強くなる為には地道に歩いていくしかないと思ってた。
けど、貴女が側にいてくれたら、俺はもっと強くなれる」
彼が、ヒノカミ神楽を放ったあの時
懐かしい暖かさを感じたのを思い出した。
それは、禰豆子の炎に包まれた瞬間も同じ。
私達は、共に在れば
この先もっと豊かな世界が開けていく。
そう思うんだ。
ーーーーー
〜135【煉獄家】〜
荒い息遣いで歩く炭治郎を、日向子は内心案じていた。
日向子はあの時瀕死の状態でありながらも、禰豆子の血液で精製された薬剤のお陰で通常より早い回復を遂げたが、炭治郎は、傷が治り切る前に鍛錬していた事もあり、あまり体調は良好ではないようだ。
そうこうしているうちに、2人は煉獄家の門前に辿り着く。
門の前では、煉獄さんに瓜二つの少年が
「千寿郎くん?...」
そう問いかけると彼はくるりとこちらを振り向く。予期せぬ突然の訪問者に驚きを隠せない様子だった。
「煉獄杏寿郎さんの訃報はお聞きでしょうか?
彼から、お父上と千寿郎さんへの言葉を預かりましたので、お伝えに来ました。」
日向子も丁寧に頭を下げて挨拶をする。
千寿郎は慌ててそれに習った。
「兄の事は存じてますが、あなた達、大丈夫ですか?
あまり体調が宜しくないように見えますが..」
その時、突如奥の母屋から怒鳴り声が聞こえ、ガラリと戸が開いた。
中から現れたのは、酒瓶を片手に
恐らく彼は..
「大した才能もないのに剣士になどなるからだ、だから死ぬんだ!くだらない..愚かな息子だ杏寿郎はっ」
彼は、煉獄さんの父親だった。
日向子らを歓迎するどころか、追い返そうとする始末で、何より実の息子を貶すような言い方。あんまりだった。
「..その耳飾り。そうかお前、【日の呼吸】の使い手だなっ!?」
日の呼吸
日向子はその言葉を聞いて胸を騒つかせる。
しかし安静でいられたのは束の間。
彼は凄まじい早さで間合いを詰めて、炭治郎をはたき倒した。
地面に勢いよく叩きつけられた炭治郎は、顔を激しく歪める。
なんて事をっ...
千寿郎が駆け寄ろうとするが、それよりも前に日向子は渾身の力で彼の父親を殴り飛ばした。
思い掛けない横入りに彼は頬を押さえて日向子を睨む。
「あなたの事情は知りませんが、初対面の子供を殴り倒すなどどういう了見ですか!生恥もいいとこですよ!」
「...お前はなんだ。部外者がしゃしゃり出るんじゃないっ!」
怒りに唇をわななかせながら、男は日向子の襟を掴み上げる。その光景を見て、今度は炭治郎が黙っていなかった。
「その手を離せ、いい加減にしろ!さっきから一体何なんだあんた!」
そう叫ぶと彼はこう言った。
「お前、【俺達を】馬鹿にしてるだろう!」
ーーーーー