◆第陸章 太陽の息吹
貴女のお名前を教えてください
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〜128【彼岸】〜
カナヲは澄んだ青空を見上げていた。
ー炭治郎達...無事かしらー
身内以外の人間などどうでもいい筈だった。
自分には関係ないと、そう思っていたから。
でも、炭治郎から言われた言葉が、あの日からこだまする。
ー頑張れ!人は心が原動力だから、心は何処までも強くなれるー
心...
今まで自分の心など、気にした事もなかった。
彼は、心が強かった。自分にない長所が、なんだかとても羨ましくて、とても惹かれた。
こんなにも心が震えるのは、何でかしら...
そうぼんやりと思いながら、師範の横で空を見上げていた時だった。
遠くから一羽の白鴉が一目散にこちらへ近づいて来る。あれは..
あれは、竈門日向子の
鴉はしのぶの元へ突っ込んできて、周りからキャアと悲鳴があがる。
鴉は非常に衰弱していた。自分が出せる最高速度で休みなく飛んできたのだろう。
ただごとでは無いと見て、しのぶが鴉に耳をそば立てると、彼女は大きく目を見開く。
「カナヲ!今すぐ私は日向子さん達の元へ向かいます!貴女は屋敷に戻ってアオイ達に伝えてください。緊急事態、医療設備を備え待機せよと」
師範はそれだけ言うとその場から去った。
詳しい事情も何もわからないけれど、
彼等に、何かあったのだと言うことだけはわかった。
動揺しつつも蝶屋敷へと駆ける。
実を言うと、カナヲは日向子が少し苦手だった。
雰囲気は柔らかいし優しい。けど、
彼女はあまりにも真っ直ぐな瞳を向ける。
それがどうしても駄目だった。
結局、彼女が羨ましかったのだ。
あんな風に全てを包み込めるような包容力が
きっとそんな所に、炭治郎も...
「伊之助君!」
しのぶと合流した伊之助は、息も絶え絶えにこう発した。
「しのぶ!頼むっ、日向子を助けてくれ!わかるんだ、こいつっ..心音が弱くなってる」
彼の様子や怪我を見れば何があったのかおよそ察しがついた。
「状況は彼女の鴉から聞いて大体わかっていますよ。彼女をこちらへ」
しのぶが蝶屋敷へ彼女を連れ帰ると、既に状況を把握していたアオイ達が駆けつけた。
「しのぶ様!!」
「心肺補助を急いでください、危険な状態です!」
彼女達は治療室へ日向子を運んでいく、その途中でしのぶは報告すべきか言いあぐねているアオイの様子に気付く。
「どうしました?アオイ」
「...それが」
「私が無理を言ってお願いをしたのです。」
しのぶが声のする方へ目を向けると、
珠世が憂いを帯びた表情で佇んでいた。
ーーーーー
〜129【途絶えさせぬ灯火】〜
「何故..あなたがここに」
本来ここに居るはずがない姿を見て理解が追い付かないしのぶだったが、経緯を確認するよりも先に、日向子の治療を行うのが先決だと判断した。
「悪いですが、今あなたに構っている余裕はありません」
そう言って珠世の横を通り過ぎようとした時
「私は医者としてここに来ました。」
彼女は凛とした声色でそう発した。しのぶは足を止め振り返る。
「日向子さんには恩があります。貴女がいくら私を憎もうとも構わない。
私は、どう足掻こうとも鬼ですから...でも少なくとも、彼女を助けたい気持ちは一緒です。
彼女の体を1番よく理解しているのは現状私。必ず、助け出して見せます」
ーそんな目をするな、医者だとよくそんな人間気取りの言葉が言える、【鬼】の分際でー
己に頑なに言い聞かせようとする。
でも
認めたくはないが、彼女の技術や知識は本物だ。
それは皮肉にも、しのぶ自身が1番わかっている事でもあった。
もはや頚動脈も触れなくなり始めている日向子を見て、しのぶは苦渋の決断を迫られた。
「...あなたも治療室へ」
まさか、こんな形で共同するとは思っても見なかった。
しのぶが薬学に精通している一方で、医療に精通した珠世は目を見張るほどの腕を見せる。
そして彼女は注射器に注入されたある薬剤を取り出す。
「何ですかそれは」
「これは、禰豆子さんの血液成分を分離し製薬したものです。彼女達の血液を研究していて分かったことがあります。
それは、本来鬼の血を無効化する日向子さんの血が、【禰豆子さんの血と合わさる事で血液細胞が活性化】するということ。
臨床試験はまだですが...有効な筈です」
珠世は迷う事なく日向子の腕に薬剤を注入した。
ー数刻前ー
竹藪の中を1人歩いていた無一郎は、木漏れ日が煌 めく様をぼーっとした眼差しで見つめていた。
この時まだ彼は、煉獄の訃報も日向子の危篤 も知る由もない。
今回、数名の隊士と一般人が行方不明となる事件で、潜入調査に白羽の矢が立ったのは、柱の中でも老練者の煉獄であった。
彼は単独任務だったが、後に日向子達も同じ列車に乗り込んだ事を知った。
偶然なのか、彼等の意図なのかはわからないが..
何も
無ければよいが
何となく、無一郎は胸騒ぎがしていた。
その時、
頭上で彼の鎹烏が旋回する。
こんな時は、決まって何か一斉伝達がある場合だ。耳を傾けると、無一郎は大きく目を見開いた。
「....嘘だ」
ーーーーー
〜130【温もりの奇跡】〜
「善逸...俺、早く蝶屋敷に行かないと」
「え...何で、まさか」
炭治郎の音を聞いて状況を察した善逸は、さぁっと顔を青くした。
出血部位の横腹をぐっと抑え、無理に立ち上がる炭治郎の肩を慌てて支える。
すぐに隠の人達がやってきて、手負いの彼等の応急処置を行おうとするが、炭治郎はとにかく一刻も早く蝶屋敷へ急ぎたいのだと言って、構おうとしない。
その光景を見て、善逸は何かが頭の中でぷつりと切れた。
「馬鹿炭治郎っ!!お前が今ここで倒れたりした方が日向子さんは辛い思いをするだろ!」
炭治郎は豆鉄砲を喰らったような顔で善逸を見た後、悪かったと言ってしゅんとした表情に変わる。
本当に..
らしくないよ炭治郎
日向子さんの事になると
隠の人達の助けを借りて蝶屋敷へと急いだ。
屋敷に着くと、アオイが待っていたとばかりに炭治郎達を出迎える。
彼等の様子を見ると、辛そうに眉を寄せる。
「あなた達も怪我を負っていますね..。」
「俺達は応急処置をして貰ったから大丈夫だ。それより..
「日向子さんなら、何とか一命は取り留めました。伊之助君達も居ます。あなた達も中へどうぞ」
部屋から出て来たのは炭治郎もよく知る人物。
だが、さすがに予想外で驚きを隠せない。
何故彼女が..
「珠世さん...」
促されるままに病室へ入ると、見た事のない器具に繋がれた痛々しい彼女の姿があった。
部屋には他に伊之助と
「...。」
時透が彼女のベッド横に佇んでいた。
炭治郎の気配には気付いているだろうが、目線は一切よこさずに、日向子姉さんを見つめている。
炭治郎は放心状態でただ立ち尽くすしかなかった
「命に別状はないと言いましたが、いつ目覚めるかは定かではない。最善は尽くしました。後は..祈るしかありません」
彼女にしては珍しく険しい表情でそう語る。
後ろから禰豆子がとことこ歩いて来て、彼女のベッド脇に膝をつく。
しばらく無表情で、日向子姉さんの顔を見つめていたが、徐々に体が震え始め、やがてぽろぽろと大粒の涙を溢した。
うー..うーと訴えかけるように、彼女に目覚めて欲しい一心なのだろう。
触れてはいけないと、わかっているから。
手は爪が食い込む程ベッドのシーツを固く握り締めていた。
その様子をどうしても見ていられず、炭治郎は顔を背ける。
珠世は禰豆子に近づくと、優しく頭を撫でた。
「禰豆子さん。もう日向子さんに触れても大丈夫ですよ。貴女の温もりを、分けてあげてください」
ーーーーー
〜131【寄り添う心】〜
禰豆子は珠世にそう言われると、恐る恐る彼女の手を探し求め、ぎゅうっと握り締める。
禰豆子の手の平が焼ける事もない。
鬼の血を拒絶する筈の日向子姉さんの体質は、禰豆子に影響を及ぼしていないという事なのだろうか..
炭治郎が疑問に思っていると、珠世はこう語り出す。
「日向子さんの体は、鬼舞辻を始めとする一般的な鬼の血は拒絶します。でも、禰豆子さんだけは例外だった」
「例外?」
珠世はこくりと頷く。
「驚く事に、拒絶するどころか、相乗効果を発したのです。禰豆子さんの血鬼術は日向子さんの生命力を高め、日向子さんの体は禰豆子さんの爆血の効果を上げた。これは...大変興味深い事でした。」
珠世は、禰豆子の血液成分を分離させた薬がなければ、もしかしたら彼女は助からなかったかも知れないと言った。
禰豆子のお陰だ..。
皮肉にも、【禰豆子の鬼の血】で、日向子姉さんは救われたのだ。
こんな事が、あるのか。
久々に触れる事ができた姉の温もりに、禰豆子は心無しか顔が綻んでいた。
それだけで今は、
心の底から、良かったなぁと思えるのだ。
「日向子の無事を確認出来た、僕は帰るよ」
時透はすくりと立ち上がると炭治郎の横を通り過ぎようとする。
炭治郎は咄嗟に彼を後ろから呼び止めた。
「君は何故そこまで、日向子姉さんを気に掛けるんだ」
そう問いかけると、ややあって彼はこう答える。
「ねぇ...炭治郎がそれ言うの?」
あまりにも、物悲しげにそう言うものだから、
一瞬思考が停止した。
そして、望まない確信に至ってしまう。
あぁ、やはり
【俺と同じ】なんだな、彼も
その日は、夜になっても日向子姉さんが目を醒ますことはなかった。
やはり、極限まで生気を抜かれた状態で莫大 な力を放ったのが要因らしい。
彼女は、意識を手放す直前に、乗客や皆の無事を確認した。
全員無事だから大丈夫だと言ったら、安心したような笑みを浮かべていたのだ。
なのに
彼女が目覚めた時、
煉獄さんの訃報をどのように伝えたらいいのだろう...
彼女は自分と似ている。
だからこそ
事実を、伝えることが辛い
「なぁ...そろそろ寝なきゃ駄目だ。炭治郎..禰豆子ちゃんも」
善逸が悲痛な眼差しで禰豆子の肩に手を置く。
しかし、禰豆子はあれからずっと彼女の側をついて離れない。
あれだけ激しい戦闘を行ったのだから、
酷い眠気や倦怠感に襲われていてもおかしくない筈。
それでも
彼女は眠らなかった
ーーーーー
カナヲは澄んだ青空を見上げていた。
ー炭治郎達...無事かしらー
身内以外の人間などどうでもいい筈だった。
自分には関係ないと、そう思っていたから。
でも、炭治郎から言われた言葉が、あの日からこだまする。
ー頑張れ!人は心が原動力だから、心は何処までも強くなれるー
心...
今まで自分の心など、気にした事もなかった。
彼は、心が強かった。自分にない長所が、なんだかとても羨ましくて、とても惹かれた。
こんなにも心が震えるのは、何でかしら...
そうぼんやりと思いながら、師範の横で空を見上げていた時だった。
遠くから一羽の白鴉が一目散にこちらへ近づいて来る。あれは..
あれは、竈門日向子の
鴉はしのぶの元へ突っ込んできて、周りからキャアと悲鳴があがる。
鴉は非常に衰弱していた。自分が出せる最高速度で休みなく飛んできたのだろう。
ただごとでは無いと見て、しのぶが鴉に耳をそば立てると、彼女は大きく目を見開く。
「カナヲ!今すぐ私は日向子さん達の元へ向かいます!貴女は屋敷に戻ってアオイ達に伝えてください。緊急事態、医療設備を備え待機せよと」
師範はそれだけ言うとその場から去った。
詳しい事情も何もわからないけれど、
彼等に、何かあったのだと言うことだけはわかった。
動揺しつつも蝶屋敷へと駆ける。
実を言うと、カナヲは日向子が少し苦手だった。
雰囲気は柔らかいし優しい。けど、
彼女はあまりにも真っ直ぐな瞳を向ける。
それがどうしても駄目だった。
結局、彼女が羨ましかったのだ。
あんな風に全てを包み込めるような包容力が
きっとそんな所に、炭治郎も...
「伊之助君!」
しのぶと合流した伊之助は、息も絶え絶えにこう発した。
「しのぶ!頼むっ、日向子を助けてくれ!わかるんだ、こいつっ..心音が弱くなってる」
彼の様子や怪我を見れば何があったのかおよそ察しがついた。
「状況は彼女の鴉から聞いて大体わかっていますよ。彼女をこちらへ」
しのぶが蝶屋敷へ彼女を連れ帰ると、既に状況を把握していたアオイ達が駆けつけた。
「しのぶ様!!」
「心肺補助を急いでください、危険な状態です!」
彼女達は治療室へ日向子を運んでいく、その途中でしのぶは報告すべきか言いあぐねているアオイの様子に気付く。
「どうしました?アオイ」
「...それが」
「私が無理を言ってお願いをしたのです。」
しのぶが声のする方へ目を向けると、
珠世が憂いを帯びた表情で佇んでいた。
ーーーーー
〜129【途絶えさせぬ灯火】〜
「何故..あなたがここに」
本来ここに居るはずがない姿を見て理解が追い付かないしのぶだったが、経緯を確認するよりも先に、日向子の治療を行うのが先決だと判断した。
「悪いですが、今あなたに構っている余裕はありません」
そう言って珠世の横を通り過ぎようとした時
「私は医者としてここに来ました。」
彼女は凛とした声色でそう発した。しのぶは足を止め振り返る。
「日向子さんには恩があります。貴女がいくら私を憎もうとも構わない。
私は、どう足掻こうとも鬼ですから...でも少なくとも、彼女を助けたい気持ちは一緒です。
彼女の体を1番よく理解しているのは現状私。必ず、助け出して見せます」
ーそんな目をするな、医者だとよくそんな人間気取りの言葉が言える、【鬼】の分際でー
己に頑なに言い聞かせようとする。
でも
認めたくはないが、彼女の技術や知識は本物だ。
それは皮肉にも、しのぶ自身が1番わかっている事でもあった。
もはや頚動脈も触れなくなり始めている日向子を見て、しのぶは苦渋の決断を迫られた。
「...あなたも治療室へ」
まさか、こんな形で共同するとは思っても見なかった。
しのぶが薬学に精通している一方で、医療に精通した珠世は目を見張るほどの腕を見せる。
そして彼女は注射器に注入されたある薬剤を取り出す。
「何ですかそれは」
「これは、禰豆子さんの血液成分を分離し製薬したものです。彼女達の血液を研究していて分かったことがあります。
それは、本来鬼の血を無効化する日向子さんの血が、【禰豆子さんの血と合わさる事で血液細胞が活性化】するということ。
臨床試験はまだですが...有効な筈です」
珠世は迷う事なく日向子の腕に薬剤を注入した。
ー数刻前ー
竹藪の中を1人歩いていた無一郎は、木漏れ日が
この時まだ彼は、煉獄の訃報も日向子の
今回、数名の隊士と一般人が行方不明となる事件で、潜入調査に白羽の矢が立ったのは、柱の中でも老練者の煉獄であった。
彼は単独任務だったが、後に日向子達も同じ列車に乗り込んだ事を知った。
偶然なのか、彼等の意図なのかはわからないが..
何も
無ければよいが
何となく、無一郎は胸騒ぎがしていた。
その時、
頭上で彼の鎹烏が旋回する。
こんな時は、決まって何か一斉伝達がある場合だ。耳を傾けると、無一郎は大きく目を見開いた。
「....嘘だ」
ーーーーー
〜130【温もりの奇跡】〜
「善逸...俺、早く蝶屋敷に行かないと」
「え...何で、まさか」
炭治郎の音を聞いて状況を察した善逸は、さぁっと顔を青くした。
出血部位の横腹をぐっと抑え、無理に立ち上がる炭治郎の肩を慌てて支える。
すぐに隠の人達がやってきて、手負いの彼等の応急処置を行おうとするが、炭治郎はとにかく一刻も早く蝶屋敷へ急ぎたいのだと言って、構おうとしない。
その光景を見て、善逸は何かが頭の中でぷつりと切れた。
「馬鹿炭治郎っ!!お前が今ここで倒れたりした方が日向子さんは辛い思いをするだろ!」
炭治郎は豆鉄砲を喰らったような顔で善逸を見た後、悪かったと言ってしゅんとした表情に変わる。
本当に..
らしくないよ炭治郎
日向子さんの事になると
隠の人達の助けを借りて蝶屋敷へと急いだ。
屋敷に着くと、アオイが待っていたとばかりに炭治郎達を出迎える。
彼等の様子を見ると、辛そうに眉を寄せる。
「あなた達も怪我を負っていますね..。」
「俺達は応急処置をして貰ったから大丈夫だ。それより..
「日向子さんなら、何とか一命は取り留めました。伊之助君達も居ます。あなた達も中へどうぞ」
部屋から出て来たのは炭治郎もよく知る人物。
だが、さすがに予想外で驚きを隠せない。
何故彼女が..
「珠世さん...」
促されるままに病室へ入ると、見た事のない器具に繋がれた痛々しい彼女の姿があった。
部屋には他に伊之助と
「...。」
時透が彼女のベッド横に佇んでいた。
炭治郎の気配には気付いているだろうが、目線は一切よこさずに、日向子姉さんを見つめている。
炭治郎は放心状態でただ立ち尽くすしかなかった
「命に別状はないと言いましたが、いつ目覚めるかは定かではない。最善は尽くしました。後は..祈るしかありません」
彼女にしては珍しく険しい表情でそう語る。
後ろから禰豆子がとことこ歩いて来て、彼女のベッド脇に膝をつく。
しばらく無表情で、日向子姉さんの顔を見つめていたが、徐々に体が震え始め、やがてぽろぽろと大粒の涙を溢した。
うー..うーと訴えかけるように、彼女に目覚めて欲しい一心なのだろう。
触れてはいけないと、わかっているから。
手は爪が食い込む程ベッドのシーツを固く握り締めていた。
その様子をどうしても見ていられず、炭治郎は顔を背ける。
珠世は禰豆子に近づくと、優しく頭を撫でた。
「禰豆子さん。もう日向子さんに触れても大丈夫ですよ。貴女の温もりを、分けてあげてください」
ーーーーー
〜131【寄り添う心】〜
禰豆子は珠世にそう言われると、恐る恐る彼女の手を探し求め、ぎゅうっと握り締める。
禰豆子の手の平が焼ける事もない。
鬼の血を拒絶する筈の日向子姉さんの体質は、禰豆子に影響を及ぼしていないという事なのだろうか..
炭治郎が疑問に思っていると、珠世はこう語り出す。
「日向子さんの体は、鬼舞辻を始めとする一般的な鬼の血は拒絶します。でも、禰豆子さんだけは例外だった」
「例外?」
珠世はこくりと頷く。
「驚く事に、拒絶するどころか、相乗効果を発したのです。禰豆子さんの血鬼術は日向子さんの生命力を高め、日向子さんの体は禰豆子さんの爆血の効果を上げた。これは...大変興味深い事でした。」
珠世は、禰豆子の血液成分を分離させた薬がなければ、もしかしたら彼女は助からなかったかも知れないと言った。
禰豆子のお陰だ..。
皮肉にも、【禰豆子の鬼の血】で、日向子姉さんは救われたのだ。
こんな事が、あるのか。
久々に触れる事ができた姉の温もりに、禰豆子は心無しか顔が綻んでいた。
それだけで今は、
心の底から、良かったなぁと思えるのだ。
「日向子の無事を確認出来た、僕は帰るよ」
時透はすくりと立ち上がると炭治郎の横を通り過ぎようとする。
炭治郎は咄嗟に彼を後ろから呼び止めた。
「君は何故そこまで、日向子姉さんを気に掛けるんだ」
そう問いかけると、ややあって彼はこう答える。
「ねぇ...炭治郎がそれ言うの?」
あまりにも、物悲しげにそう言うものだから、
一瞬思考が停止した。
そして、望まない確信に至ってしまう。
あぁ、やはり
【俺と同じ】なんだな、彼も
その日は、夜になっても日向子姉さんが目を醒ますことはなかった。
やはり、極限まで生気を抜かれた状態で
彼女は、意識を手放す直前に、乗客や皆の無事を確認した。
全員無事だから大丈夫だと言ったら、安心したような笑みを浮かべていたのだ。
なのに
彼女が目覚めた時、
煉獄さんの訃報をどのように伝えたらいいのだろう...
彼女は自分と似ている。
だからこそ
事実を、伝えることが辛い
「なぁ...そろそろ寝なきゃ駄目だ。炭治郎..禰豆子ちゃんも」
善逸が悲痛な眼差しで禰豆子の肩に手を置く。
しかし、禰豆子はあれからずっと彼女の側をついて離れない。
あれだけ激しい戦闘を行ったのだから、
酷い眠気や倦怠感に襲われていてもおかしくない筈。
それでも
彼女は眠らなかった
ーーーーー