◆第陸章 太陽の息吹
貴女のお名前を教えてください
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〜124【夜明けの宙】〜
炭治郎が汽車を真っ二つに斬り裂くと、
悍ましい断末魔をあげながらボコボコと膨れ上がり、猛スピードで駆け抜けていた汽車は大きく傾く。
立っていられない程の揺れに日向子達は放り出されそうになった。
生身の人間がもろに地面に叩きつけられればひとたまりもない。
弐ノ型なら..衝撃を和らげる事が出来るかも知れない
炭治郎は腹部を刺され重症。伊之助も大技を連発し疲弊していて、禰豆子達もひたすら持久戦を強いられていた。
皆、頑張った..
私が最後、ここで皆を守らなければ、
どんなに肺が痛んでも、体が鉛のように重くても、視界が霞んでも、気力で持ち堪えろ。
【私がやれる事】を全力でやり切る。
ー誰も死なせないからー
こんな状況でも炭治郎は必死に伊之助に乗客を守る様に叫んだ。日輪刀はどこかへ飛んで行ってしまったが、彼女の腕はしっかりと掴む。
日向子姉さんは俺が死んでも守る。
炭治郎はもうずっと前から、自分の心にそう誓っていた。
あの車掌には申し訳ないが、彼女の命を天秤にかけるならば..
「ー星の呼吸、弐ノ型、改...天球(てんきゅう)天羽衣...」
あぁ、やめてくれ
何で、あなたはいつも
懐から天の川のように煌く帯が2人を取り巻く。
凄まじい重力は消失し、炭治郎達を軸とするように帯は汽車全体を包み込むように伸びていった。
気付けば、汽車から数間離れた場所に2人は横たわっていた。
脱線の衝撃は、彼女のお陰でほぼ無い。
「日向子姉さん...なんて無茶を」
炭治郎は自分の腹の傷などそっちのけで、仰向けで横たわる彼女を労わる。
虚な眼差しで天を仰ぐ日向子姉さんは、満ち足りた笑みを浮かべていた。
上下する胸が体の疲労を物語っているのに、なんでそんな表情をするのか
「炭治郎...手を...」
彼女は摺 り寄せるように炭治郎の手を辿り求める。
俺はここにいると、そう伝えるように
彼女の手を優しく握り返した。
はぁ..と息をついて、彼の手を何度も、何度も頬に擦り寄せる。
「....乗客や皆は...無事?」
「おいきな子っ!お前..また」
伊之助が珍しく焦ったように彼等の元に駆け寄ってくる。
「大丈夫だ。姉さんのお陰で大した衝撃じゃなかった。皆生きてるよ。だからもう、休んで..」
それを聞くと、そっかぁと安堵したように目を細める。炭治郎は妙な胸騒ぎを、覚えた。
「暖かい...ようやく夜が明けたのね..」
彼女はそう呟いた。
しかし、辺りはまだ暗闇に包まれている
ーーーーー
〜125【強き者達】〜
「駄目だ..姉さん!日向子姉さんっ!起きてくれ頼む!!ぅっ」
意識が途絶えた彼女を掻き抱き、必死に呼びかける。
しかし自分の怪我の程度をすっかり忘れていた炭治郎は、ズキリと刺すような腹の痛みに襲れうずくまる。
嫌だ...
死なないでくれ
頼むから!
「竈門少年!」
煉獄さん..生きていた
炭治郎は縋るように懇願した。
「日向子姉さんがっ!...お願いします、助けてください!早く蝶屋敷に連れて行かないとっ」
煉獄は我を失っている炭治郎を見て事態を概ね把握する。側で倒れ込んでいる日向子の脈と呼吸を確認すると、彼は眉間に皺を刻んだ
「呼吸が小さい、肺と心臓を酷使し過ぎたな。」
このままでは最悪...心肺停止で蘇生は難しくなると煉獄は悟った。
無茶をし過ぎだと叱るのは後だ。とにかく早々に医者に診せる必要があった。
その時、
突如としてドンと激しい地鳴りが響く。
現れた姿に、一同は我目を疑う。
ー上弦の 参だとー...
何故、今ここに
「猪頭少年、日向子君を連れて蝶屋敷に向かうのだ。容体は一刻を争う。胡蝶への伝達は既に彼女の白鴉が飛んでいる、急げ!」
指示を受けた伊之助は、言われた通り彼女の身体を抱き上げ姿を消した。
煉獄は新手の鬼と相対する。
しかし、鬼が勢いよく地を蹴り飛んだ先は..
ー炎の呼吸 弍ノ型 昇り炎天ー
鬼は、炭治郎を狙った。
この場から去っていった伊之助と日向子には目もくれずに、煉獄がすぐ様反応して敵の攻撃を退ける。
「何故、手負いの者から狙うのか理解出来ない」
煉獄がそう言うと、彼は話の邪魔になると思ったと答えた。こいつは..何の為にここにやってきたんだ。
自分達を皆殺しにする気か..しかしそうなら、話し合いというのは
「俺は弱い人間が嫌いだ。煉獄杏寿郎、鬼になろう。そうすれば老いる事もない。永遠に強さを手に入れられる」
彼は煉獄をそちら側へ引き込もうという魂胆だった。けれど、当然彼はそれを拒否する。
平行線を辿りついに両者は戦闘態勢に入る。
助太刀しなければ..刀を探すが何処にも見当たらない。
くそっ!
炭治郎はダンッと地面を拳で叩いた。
悔しい
上弦の鬼は、強い。いくら煉獄さんでも厳しいかもしれない。
やっと前進出来たと思っても、
俺はまだこんなにも...
「一つ教えてやろう。強さとは、肉体に対してのみ使う言葉ではない。この少年は...彼等は決して弱くない。侮辱するな」
ーーーーー
〜126【煉獄の信念】〜
そうだ..
どんな生き物でも、例え生まれながらに
種族の優劣があったとしても
一言で、強い弱いと語れるわけがない
それぞれの生き方
母上ー...
貴女が、俺にそれを教えてくれた
炭治郎は、彼等の戦いを目で追う事が出来なかった。
これが...歴然とした差。圧倒的な柱の力なのか。
彼は炭治郎達の事を、決して弱くないと言った。
わからない、何故彼はそんな事を言ったのか。
煉獄さん
けれど、徐々に彼が流す血の量が多くなっていく。
ほぼ互角と思われた均衡は、次第に崩れていく。認めたくない。信じたくない。でも
あの鬼の言う通り、
人間は生身で、疲労も溜まるし体が傷付けば体は動かなくなっていく。
ただ鬼は不死身で、何事も無かったかのように巻き戻っていくのだ。
そんなの...
「どう足掻いても、人間では鬼には勝てない」
卑怯だろう
煉獄を取り巻く炎が尚一層大きく高く燃え上がった。
「俺は俺の責務を全うする。ここにいる者は、誰1人死なせない」
両者最大火力の技が激突し合う。激しい爆風と土煙が辺りに充満し視界が遮られた。
姿が見えない..。どうなった?彼は..無事なのか..煉獄さ
ーあぁ
この世にもし神がいるならば
何という仕打ちだろうかー
鬼の腕が彼の胸を貫く。
おびただしい量の血が飛び散る。
それでも煉獄は、
右腕を奮い鬼の頚を捉えた。
鬼は予想外の反撃に目の色を変えた。まさか、ここまで追い詰められた煉獄が、筋を動かせる筈がないと思ったのだろう。
肉体の限界を超えた抵抗。
それは、
煉獄の信念が鬼の想像を凌駕 しているからに他ならない。
夜明けが近い
もたもたしている間に、空が薄く白み始めていた。
鬼は焦ったように腕を引き抜く動作を見せる。
しかし、煉獄がそれを許さない。
もはや...
良くて相討ちである事はわかりきっていた。
それでも彼は【最期の牙】を抜かない
「「ウオォォォォォオォォッ!!!!!」」
今ここで動かなければ
俺はこの先一生後悔することになるだろう
炭治郎は気力を振り絞り己の日輪刀を手にする。
彼が突き立てた刃を無駄にしちゃ駄目だ
例え微力だとしても、少しでも、彼を助ける力に変えたいんだ
いよいよ朝日が昇ろうとした瞬間
鬼は力任せにその場から飛び上がり、
陽光が当たらぬ林の影へと身を眩ませようとする。
炭治郎は一矢報いらんとするように、鬼の背に向かって勢いよく刀を投げつけた。
その切っ先は炎を纏って、鬼の鳩尾を貫いた
ーーーーー
〜127【黎明の門出】〜
「逃げるな卑怯者ッ!!!」
闇に消えゆく背中に向かって炭治郎は叫ぶ。
そうさ、いつだって人間は
お前たち鬼に有利な闇の中で戦っている。
もがれた手足も流れた血も戻ることはないんだ。それでも、奪われまいとして、必死に戦ってるんだ。
「煉獄さんの方がずっと強いんだ!煉獄さんは負けてない!誰も死なせなかった!戦い抜いた!守り抜いた!お前の負けだ!煉獄さんの勝ちだッ!」
炭治郎は心の底からそう叫んだ。
とにかく、煉獄の勝利と偉大さを認めさせなければ気が済まなかった。
とめどなく涙が溢れかえった。
「もうそんなに叫ぶんじゃない。腹の傷が開く..君も軽傷じゃないんだ。君が死んでしまったら、俺の負けになってしまうぞ?
煉獄の声色は恐ろしく優しかった。
炭治郎は、涙と鼻水で悲惨な表情のまま、彼の方へと振り向く。
「こっちにおいで、最後に少し話をしよう...」
彼は、生家である煉獄家に行く事を炭治郎に勧めた。
代々伝わる手記。
そこに、ヒノカミ神楽に関する伝承が書き記されているかもしれないと言う。
炭治郎にとっては真実と希望に繋がる情報だったが、今はそんな事どうでもいい。
「煉獄さん、もういいですから。呼吸で止血してください..何とか傷を塞ぐ方法は」
ドクドクと彼の体から流れ出る血を見て酷い恐怖心に駆られた。このままでは彼は死に絶えてしまう。
なのに、残酷にもこう発するのだ。
「無い。喋れるうちに喋ってしまうから、聞いてくれ...」
彼と初めて会った時、何て変わった人だろうと思った。言うなれば、感情のいくつかを母の腹の中にうっかり忘れてきてしまったような。
単調で、単純な印象を受けた。
でもその実は、己の中に強い信念を持つまさに柱の鏡のような人だった。
禰豆子も含め、炭治郎達の事を信じると言った。若い芽は摘ませないのだと。
前を見て生きろと...。
「竈門少年、君達は誰1人欠けてはならない。
この世界を..正しい世界に変える事が出来るのは、若い君達だ。後は宜しく..頼んだ。」
そう言い残して
彼は最後に、微笑んで逝った。
本当に..こんなに偉大な人が
「死んじゃうなんてそんな...本当に上弦の鬼、来たのか?」
善逸が信じられないというようにぽかんとした表情で呟く。炭治郎は頷く事しか出来なかった。
己の不甲斐なさに、心が負けてしまいそうになる。でも煉獄さんが、誇れと言ってくれたから
俺達は、どんなに失っても
前を向いていかないといけないんだ
ーーーーー
炭治郎が汽車を真っ二つに斬り裂くと、
悍ましい断末魔をあげながらボコボコと膨れ上がり、猛スピードで駆け抜けていた汽車は大きく傾く。
立っていられない程の揺れに日向子達は放り出されそうになった。
生身の人間がもろに地面に叩きつけられればひとたまりもない。
弐ノ型なら..衝撃を和らげる事が出来るかも知れない
炭治郎は腹部を刺され重症。伊之助も大技を連発し疲弊していて、禰豆子達もひたすら持久戦を強いられていた。
皆、頑張った..
私が最後、ここで皆を守らなければ、
どんなに肺が痛んでも、体が鉛のように重くても、視界が霞んでも、気力で持ち堪えろ。
【私がやれる事】を全力でやり切る。
ー誰も死なせないからー
こんな状況でも炭治郎は必死に伊之助に乗客を守る様に叫んだ。日輪刀はどこかへ飛んで行ってしまったが、彼女の腕はしっかりと掴む。
日向子姉さんは俺が死んでも守る。
炭治郎はもうずっと前から、自分の心にそう誓っていた。
あの車掌には申し訳ないが、彼女の命を天秤にかけるならば..
「ー星の呼吸、弐ノ型、改...天球(てんきゅう)天羽衣...」
あぁ、やめてくれ
何で、あなたはいつも
懐から天の川のように煌く帯が2人を取り巻く。
凄まじい重力は消失し、炭治郎達を軸とするように帯は汽車全体を包み込むように伸びていった。
気付けば、汽車から数間離れた場所に2人は横たわっていた。
脱線の衝撃は、彼女のお陰でほぼ無い。
「日向子姉さん...なんて無茶を」
炭治郎は自分の腹の傷などそっちのけで、仰向けで横たわる彼女を労わる。
虚な眼差しで天を仰ぐ日向子姉さんは、満ち足りた笑みを浮かべていた。
上下する胸が体の疲労を物語っているのに、なんでそんな表情をするのか
「炭治郎...手を...」
彼女は
俺はここにいると、そう伝えるように
彼女の手を優しく握り返した。
はぁ..と息をついて、彼の手を何度も、何度も頬に擦り寄せる。
「....乗客や皆は...無事?」
「おいきな子っ!お前..また」
伊之助が珍しく焦ったように彼等の元に駆け寄ってくる。
「大丈夫だ。姉さんのお陰で大した衝撃じゃなかった。皆生きてるよ。だからもう、休んで..」
それを聞くと、そっかぁと安堵したように目を細める。炭治郎は妙な胸騒ぎを、覚えた。
「暖かい...ようやく夜が明けたのね..」
彼女はそう呟いた。
しかし、辺りはまだ暗闇に包まれている
ーーーーー
〜125【強き者達】〜
「駄目だ..姉さん!日向子姉さんっ!起きてくれ頼む!!ぅっ」
意識が途絶えた彼女を掻き抱き、必死に呼びかける。
しかし自分の怪我の程度をすっかり忘れていた炭治郎は、ズキリと刺すような腹の痛みに襲れうずくまる。
嫌だ...
死なないでくれ
頼むから!
「竈門少年!」
煉獄さん..生きていた
炭治郎は縋るように懇願した。
「日向子姉さんがっ!...お願いします、助けてください!早く蝶屋敷に連れて行かないとっ」
煉獄は我を失っている炭治郎を見て事態を概ね把握する。側で倒れ込んでいる日向子の脈と呼吸を確認すると、彼は眉間に皺を刻んだ
「呼吸が小さい、肺と心臓を酷使し過ぎたな。」
このままでは最悪...心肺停止で蘇生は難しくなると煉獄は悟った。
無茶をし過ぎだと叱るのは後だ。とにかく早々に医者に診せる必要があった。
その時、
突如としてドンと激しい地鳴りが響く。
現れた姿に、一同は我目を疑う。
ー上弦の 参だとー...
何故、今ここに
「猪頭少年、日向子君を連れて蝶屋敷に向かうのだ。容体は一刻を争う。胡蝶への伝達は既に彼女の白鴉が飛んでいる、急げ!」
指示を受けた伊之助は、言われた通り彼女の身体を抱き上げ姿を消した。
煉獄は新手の鬼と相対する。
しかし、鬼が勢いよく地を蹴り飛んだ先は..
ー炎の呼吸 弍ノ型 昇り炎天ー
鬼は、炭治郎を狙った。
この場から去っていった伊之助と日向子には目もくれずに、煉獄がすぐ様反応して敵の攻撃を退ける。
「何故、手負いの者から狙うのか理解出来ない」
煉獄がそう言うと、彼は話の邪魔になると思ったと答えた。こいつは..何の為にここにやってきたんだ。
自分達を皆殺しにする気か..しかしそうなら、話し合いというのは
「俺は弱い人間が嫌いだ。煉獄杏寿郎、鬼になろう。そうすれば老いる事もない。永遠に強さを手に入れられる」
彼は煉獄をそちら側へ引き込もうという魂胆だった。けれど、当然彼はそれを拒否する。
平行線を辿りついに両者は戦闘態勢に入る。
助太刀しなければ..刀を探すが何処にも見当たらない。
くそっ!
炭治郎はダンッと地面を拳で叩いた。
悔しい
上弦の鬼は、強い。いくら煉獄さんでも厳しいかもしれない。
やっと前進出来たと思っても、
俺はまだこんなにも...
「一つ教えてやろう。強さとは、肉体に対してのみ使う言葉ではない。この少年は...彼等は決して弱くない。侮辱するな」
ーーーーー
〜126【煉獄の信念】〜
そうだ..
どんな生き物でも、例え生まれながらに
種族の優劣があったとしても
一言で、強い弱いと語れるわけがない
それぞれの生き方
母上ー...
貴女が、俺にそれを教えてくれた
炭治郎は、彼等の戦いを目で追う事が出来なかった。
これが...歴然とした差。圧倒的な柱の力なのか。
彼は炭治郎達の事を、決して弱くないと言った。
わからない、何故彼はそんな事を言ったのか。
煉獄さん
けれど、徐々に彼が流す血の量が多くなっていく。
ほぼ互角と思われた均衡は、次第に崩れていく。認めたくない。信じたくない。でも
あの鬼の言う通り、
人間は生身で、疲労も溜まるし体が傷付けば体は動かなくなっていく。
ただ鬼は不死身で、何事も無かったかのように巻き戻っていくのだ。
そんなの...
「どう足掻いても、人間では鬼には勝てない」
卑怯だろう
煉獄を取り巻く炎が尚一層大きく高く燃え上がった。
「俺は俺の責務を全うする。ここにいる者は、誰1人死なせない」
両者最大火力の技が激突し合う。激しい爆風と土煙が辺りに充満し視界が遮られた。
姿が見えない..。どうなった?彼は..無事なのか..煉獄さ
ーあぁ
この世にもし神がいるならば
何という仕打ちだろうかー
鬼の腕が彼の胸を貫く。
おびただしい量の血が飛び散る。
それでも煉獄は、
右腕を奮い鬼の頚を捉えた。
鬼は予想外の反撃に目の色を変えた。まさか、ここまで追い詰められた煉獄が、筋を動かせる筈がないと思ったのだろう。
肉体の限界を超えた抵抗。
それは、
煉獄の信念が鬼の想像を
夜明けが近い
もたもたしている間に、空が薄く白み始めていた。
鬼は焦ったように腕を引き抜く動作を見せる。
しかし、煉獄がそれを許さない。
もはや...
良くて相討ちである事はわかりきっていた。
それでも彼は【最期の牙】を抜かない
「「ウオォォォォォオォォッ!!!!!」」
今ここで動かなければ
俺はこの先一生後悔することになるだろう
炭治郎は気力を振り絞り己の日輪刀を手にする。
彼が突き立てた刃を無駄にしちゃ駄目だ
例え微力だとしても、少しでも、彼を助ける力に変えたいんだ
いよいよ朝日が昇ろうとした瞬間
鬼は力任せにその場から飛び上がり、
陽光が当たらぬ林の影へと身を眩ませようとする。
炭治郎は一矢報いらんとするように、鬼の背に向かって勢いよく刀を投げつけた。
その切っ先は炎を纏って、鬼の鳩尾を貫いた
ーーーーー
〜127【黎明の門出】〜
「逃げるな卑怯者ッ!!!」
闇に消えゆく背中に向かって炭治郎は叫ぶ。
そうさ、いつだって人間は
お前たち鬼に有利な闇の中で戦っている。
もがれた手足も流れた血も戻ることはないんだ。それでも、奪われまいとして、必死に戦ってるんだ。
「煉獄さんの方がずっと強いんだ!煉獄さんは負けてない!誰も死なせなかった!戦い抜いた!守り抜いた!お前の負けだ!煉獄さんの勝ちだッ!」
炭治郎は心の底からそう叫んだ。
とにかく、煉獄の勝利と偉大さを認めさせなければ気が済まなかった。
とめどなく涙が溢れかえった。
「もうそんなに叫ぶんじゃない。腹の傷が開く..君も軽傷じゃないんだ。君が死んでしまったら、俺の負けになってしまうぞ?
煉獄の声色は恐ろしく優しかった。
炭治郎は、涙と鼻水で悲惨な表情のまま、彼の方へと振り向く。
「こっちにおいで、最後に少し話をしよう...」
彼は、生家である煉獄家に行く事を炭治郎に勧めた。
代々伝わる手記。
そこに、ヒノカミ神楽に関する伝承が書き記されているかもしれないと言う。
炭治郎にとっては真実と希望に繋がる情報だったが、今はそんな事どうでもいい。
「煉獄さん、もういいですから。呼吸で止血してください..何とか傷を塞ぐ方法は」
ドクドクと彼の体から流れ出る血を見て酷い恐怖心に駆られた。このままでは彼は死に絶えてしまう。
なのに、残酷にもこう発するのだ。
「無い。喋れるうちに喋ってしまうから、聞いてくれ...」
彼と初めて会った時、何て変わった人だろうと思った。言うなれば、感情のいくつかを母の腹の中にうっかり忘れてきてしまったような。
単調で、単純な印象を受けた。
でもその実は、己の中に強い信念を持つまさに柱の鏡のような人だった。
禰豆子も含め、炭治郎達の事を信じると言った。若い芽は摘ませないのだと。
前を見て生きろと...。
「竈門少年、君達は誰1人欠けてはならない。
この世界を..正しい世界に変える事が出来るのは、若い君達だ。後は宜しく..頼んだ。」
そう言い残して
彼は最後に、微笑んで逝った。
本当に..こんなに偉大な人が
「死んじゃうなんてそんな...本当に上弦の鬼、来たのか?」
善逸が信じられないというようにぽかんとした表情で呟く。炭治郎は頷く事しか出来なかった。
己の不甲斐なさに、心が負けてしまいそうになる。でも煉獄さんが、誇れと言ってくれたから
俺達は、どんなに失っても
前を向いていかないといけないんだ
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