◆第陸章 太陽の息吹
貴女のお名前を教えてください
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〜120【攻防戦の幕開け】〜
「君達がすやすやと眠り、足止めを喰らっているうちに、俺はこの汽車と融合した。
この列車全てが俺の血であり肉であり、そして骨となった。いいねぇ、わかって来たかな?つまり...」
ーこの列車にいる全ての乗客が俺の餌となり人質になったんだー
みるみるうちに顔色を変える炭治郎らの様子を見て、楽しくて堪らないというように嘲笑う。
日向子が先程戦った鬼は、それ自体が個体ではなかった。
まさか、この汽車全てが【鬼の本体】になり得るだなんて..まんまと時間稼ぎにされてしまったわけだ。
日向子は唇を噛む。自分は眠らなかったのに..なんて不甲斐ない
「ねぇ、守り切れる?この列車にいる全ての人間を、俺におあずけさせられるかな?」
炭治郎の刃は届かず、くすくすと笑いながら鬼は汽車の中に沈んでいった。
本体を叩かなければこの列車は止まらない。
けれど、それを乗客を守りながらとなると...
相当に骨が折れる。非常にまずい状況だ。
2人は顔を見合わせ打開策を巡る。
しかし、どう考えても鬼の急所を探しつつ乗客全員を守り切るのは厳しかった。
「煉獄さん!伊之助!善逸!寝てる場合じゃない起きてくれ頼むっ!」
「炭治郎私が戻る!鼻が効くあなたがこのまま先頭車両へ向かった方がいい!
後からすぐ追いつくから、あそこが一番匂いが濃いんでしょう?」
「...っ、あぁ、だけど」
「迷ってる暇はないわ、急がないと」
その時、後方車両から雄叫びが上がる。その声に2人は歓喜した。
「伊之助!!」
自力で目覚めた伊之助が、双刀を突き上げて列車の屋根を突き破り降り立つ。
「猪突猛進っ!伊之助様のお通りじゃァァァっ!」
炭治郎が手早く状況説明すると、彼は瞬時にやるべき事を察知して列車内で大技を連発する。
伊之助が目覚めたのは心強かった。
後は煉獄さん達が目覚めてくれれば..
「日向子姉さん、お願いしていいか?」
「うん、任せて」
2人は再度車内に降り立つと、それぞれ逆方向に散開した。
車内は既に地獄絵図と化していた。まるで鬼の体内に迷い込んだようだ。四方八方から鬼の肉片が伸びて来て、人々を取り込もうとする。
日向子が拾ノ型を放つとしばらく鬼の攻撃は沈静化された。
多少体に無理を強いても仕方ない。
この型が1番広範囲かつ効果的ならば
日向子は迷わず呼吸を連発する。
さすがに息が上がって来た頃、ほぼ同時期に激しい雷音や轟音が聞こえる。
「煉獄様!善逸君!」
彼等も目覚めたのだ
ーーーーー
〜121【急所を断て】〜
再びドンという轟音が響くと、白と赤の鮮やかな羽織が揺れた。
「煉獄様!」
「日向子君!すまなかったな、今までよく持たせてくれた。竈門少年は前の方か?」
頷くと、彼は瞬時に状況判断を行い日向子に手短に指示を出す。
「後方5車両は俺が守る。残りの2車両は黄色い少年と竈門妹が守る。日向子君と竈門少年、猪頭少年は車両の状態に注意しつつ鬼の頚を探す。以上を竈門少年達と合流した際に伝えてくれ!」
鬼の本体が列車と融合した今となっては、急所が一見わからぬ以上探知能力が突破の鍵となる。
煉獄は、鼻の効く炭治郎。空間把握能力に優れ俊敏な伊之助。血鬼術を無効化する日向子を選んだ。
日向子は必ず彼等に伝える事を約束する。
適材適所、各々がやれるべき事をやっている。
先手を取られた今、一瞬たりとも油断は出来ない。
日向子は元来た道を走り、炭治郎と伊之助の名を叫んだ。
「日向子姉さん!」
「炭治郎!煉獄様から指示を受けたわ。あなたと私と伊之助は鬼の頚を探す事に集中する。乗客は煉獄様達が守ってくれているから」
そう伝えると炭治郎は困惑する。
「でも、頚なんて見つかるのか..」
「煉獄様はあると言ってた。鬼なら必ず急所はあるって」
伊之助が屋根の上から話は聞いたぞと声を張り上げた。
「俺は既に見つけてるぞ!この主の急所、全力の漆ノ型でなぁァァァ!!」
伊之助曰く、やはり先頭車両の付近が気色悪いと言う。炭治郎達がそういうなら間違いないのだろう。私は、自分の持てる力全てで彼等を全力サポートしなければ...
先頭車両、石炭が積まれた汽車の動力部分へ、先陣切って降り立つ伊之助。
車掌がひぃっと声を上げて追い返そうとする。
懐に潜り込むように伊之助が飛び出すと、四方八方から無数の腕がにゅっと飛び出てきた。
掴み潰されそうになったところを、炭治郎がすんでの所で退け、真下の部分が怪しいと攻撃をすかさず繰り出す。
そこに現れた光景に皆息を呑んだ。
「これは...」
あまりにも巨大な、頚の骨だ...
しかし、せっかく斬りつけて急所を露出させても、屋根や壁からの攻撃に阻まれなかなかとどめが差せない
どうしたら..
「周りの攻撃は私が止めるわ!」
ー星の呼吸 拾ノ型 天照!!ー
彼女が攻撃を放つと灼きただれた肉の匂いが充満する。催眠を促す無数の眼は、熱さに耐えきれず怯んだ。
日向子姉さんが与えてくれた好機だ
無駄にしない‼
ーーーーー
〜122【抗う心】〜
伊之助が肉を斬り裂くと再び鬼の頚が現れる。
敵は無防備だ。
炭治郎は渾身の力を込め生生流転を放つ。
既に複数回使用しているため、技の回転度は増しているはず。
これで...
キンッ
「っ!」
ー弾かれたー
水の龍は瞬く間に形を失い水飛沫が舞う。
肉までは何とか斬り裂く事は出来ても、骨は最大威力の拾ノ呼吸を持ってしても、
びくともしないのかっ..
炭治郎は唇を噛む。
まずい..怯んでいた鬼の細胞が活性化し始め、再び傷口が塞がっていく。
せっかく彼女が作ってくれた好機だと言うのに..
「日向子姉さん?!」
がくりと膝を突き額部分を抑える彼女に気付き、急いで駆け寄る。
表情を確認すると、焦点が合ったり合わなかったりを繰り返していた。
それはまるで...
【酷い睡魔に堪えているように見えた】
何故、彼女には鬼の血鬼術は効かない筈だ。
だからあの鬼もわざわざ回りくどいやり方で足止めを喰らわしたと言っていた
俺達と引き離してまで....
俺達と
「っ...ごめん、日向子姉さん。少し服を」
彼女の詰襟のボタンを数個外して肩を露出させる。炭治郎はひゅっと息を呑んだ。
彼女の皮膚には鬼の眼がドクドクと脈打ち寄生していた。まだそれは閉じているが、これが開眼したら...
くそっ...俺とした事が気付かなかった。いつからだ。まだ匂いの発生源が限られていれば早々に気付けたかもしれない。
でも、汽車と一体化した今、匂いはあちらこちらから漂ってくるんだ
日向子は凄まじい睡魔に突如襲われた。
炭治郎が駆け寄ってくれるが気を抜くと意識が飛びそうになる。
あの鬼の声が脳内にこだまする。
ー言っただろう?俺は【油断】しないから..どんな鬼狩りでも、確実に殺すよ
血が効かないのなら、他に色々やりようはある。人間は脆い。
だから、【生気を吸い取って、人間の単純な欲求、睡眠欲にひれ伏せさせればいいだけ】の話さ
ふふふ..さぁ君には、どんな夢を見せてやろうー
日向子はその声を打ち消すように頭を振る。
お前の好きにさせてたまるものか
「っ、やめるんだ何を!!」
炭治郎の制しを振り切り、日向子は日輪刀で己の肩を斬りつけた。
当然紅い血が飛び散り、鬼の眼にも降りかかる。
傷口に激痛が迸り顔が歪む。
でもそれこそ、日向子の狙いだった。
彼女は痛みで睡魔を退けた
「私は何度でも灼く。だから炭治郎、もう一度、今度はヒノカミ神楽を」
貴方なら出来るから
ーーーーー
〜123【太陽の息吹】〜
彼女は必死に鬼の猛攻に抗っている。
自分の身を斬り裂いてまで
炭治郎は拳を固く握りしめた。
時間がない。早々にケリをつけなければ、皆鬼の餌食とされてしまう。
「..姉さんは少し休んでてくれ」
日向子姉さんはああ言ったが、恐らくこの状態を見ると、もって呼吸が使えるのはあと一度だ。無理はさせられない。
「伊之助!呼吸を合わせて乱撃だ!」
顔を上げる頃には、既に無数の眼が壁一面に開眼していた。
ギョロリと眼が動き、炭治郎の視線とかち合う。
ーしまったー
血鬼術をもろに喰らってしまう。
眠る間際に覚醒方法を伊之助に伝え、己はすぐさま先程夢の中から這い出た時と同様に、夢の中の自分を殺した。
しかし何度覚醒しても気付けばどこかの眼に術をかけられてしまう。
やはり、彼女の天照があるのとないとでは雲泥の差だ...
覚醒しては眠り、眠っては覚醒するを繰り返す。
「っ夢じゃねぇ!!これは現実だ!!」
「!!」
腕を引かれてハッとする。
炭治郎は、現実と夢の判別がつかなくなっていたらしい。
つまらねぇ死に方をするなと伊之助に怒声を浴びせられた。
彼は猪頭をかぶっているせいか、視線が合いづらく上手く敵の術を回避しているようだ。
だが、伊之助の悪い癖がここで出てしまう。
それに気をよくした彼は、有頂天になりながらがむしゃらに周りを斬り裂く。
そのせいか、背後から車掌がキリを持って襲い掛かるのに気づいていない。
「伊之助っ!」
ドッという鈍い音と共に、左腹部に激痛が走った。
威力は弱めたが、半分程切っ先が肉にめり込む。
じわりと血が滲み出るが、炭治郎は冷静に相手の頸をつき気絶させた。
「大丈夫だ!早く鬼の頚を切らないと善逸達がもたない!」
バッと目の前に日向子姉さんの羽織りが靡 く。
彼女が渾身の拾ノ型を放ち、すべての鬼の眼が完全に閉じ、腕は焼け焦げた。
そこに伊之助が肆ノ牙を放つ。
彼等の素早い連携で、再び剥き出しにされた鬼の頚を、炭治郎は瞬き一つせず的に定めた。
頼む父さん
守ってくれ
この一撃で断つ‼
彼等を、姉さんを守らせてくれ‼
ゴォォッと炎が炭治郎を守るように渦巻く。
彼の黒い日輪刀が、赤く爆ぜていく。
ーヒノカミ神楽 碧羅の天‼ー
この時日向子は、初めて彼のヒノカミ神楽を目に焼き付けた。
そして不思議と身体が高揚したのだ。
それは身震いする程に、両腕でひしと己の体を抱く。
これは..
「太陽の息吹だわ」
ーーーーー
「君達がすやすやと眠り、足止めを喰らっているうちに、俺はこの汽車と融合した。
この列車全てが俺の血であり肉であり、そして骨となった。いいねぇ、わかって来たかな?つまり...」
ーこの列車にいる全ての乗客が俺の餌となり人質になったんだー
みるみるうちに顔色を変える炭治郎らの様子を見て、楽しくて堪らないというように嘲笑う。
日向子が先程戦った鬼は、それ自体が個体ではなかった。
まさか、この汽車全てが【鬼の本体】になり得るだなんて..まんまと時間稼ぎにされてしまったわけだ。
日向子は唇を噛む。自分は眠らなかったのに..なんて不甲斐ない
「ねぇ、守り切れる?この列車にいる全ての人間を、俺におあずけさせられるかな?」
炭治郎の刃は届かず、くすくすと笑いながら鬼は汽車の中に沈んでいった。
本体を叩かなければこの列車は止まらない。
けれど、それを乗客を守りながらとなると...
相当に骨が折れる。非常にまずい状況だ。
2人は顔を見合わせ打開策を巡る。
しかし、どう考えても鬼の急所を探しつつ乗客全員を守り切るのは厳しかった。
「煉獄さん!伊之助!善逸!寝てる場合じゃない起きてくれ頼むっ!」
「炭治郎私が戻る!鼻が効くあなたがこのまま先頭車両へ向かった方がいい!
後からすぐ追いつくから、あそこが一番匂いが濃いんでしょう?」
「...っ、あぁ、だけど」
「迷ってる暇はないわ、急がないと」
その時、後方車両から雄叫びが上がる。その声に2人は歓喜した。
「伊之助!!」
自力で目覚めた伊之助が、双刀を突き上げて列車の屋根を突き破り降り立つ。
「猪突猛進っ!伊之助様のお通りじゃァァァっ!」
炭治郎が手早く状況説明すると、彼は瞬時にやるべき事を察知して列車内で大技を連発する。
伊之助が目覚めたのは心強かった。
後は煉獄さん達が目覚めてくれれば..
「日向子姉さん、お願いしていいか?」
「うん、任せて」
2人は再度車内に降り立つと、それぞれ逆方向に散開した。
車内は既に地獄絵図と化していた。まるで鬼の体内に迷い込んだようだ。四方八方から鬼の肉片が伸びて来て、人々を取り込もうとする。
日向子が拾ノ型を放つとしばらく鬼の攻撃は沈静化された。
多少体に無理を強いても仕方ない。
この型が1番広範囲かつ効果的ならば
日向子は迷わず呼吸を連発する。
さすがに息が上がって来た頃、ほぼ同時期に激しい雷音や轟音が聞こえる。
「煉獄様!善逸君!」
彼等も目覚めたのだ
ーーーーー
〜121【急所を断て】〜
再びドンという轟音が響くと、白と赤の鮮やかな羽織が揺れた。
「煉獄様!」
「日向子君!すまなかったな、今までよく持たせてくれた。竈門少年は前の方か?」
頷くと、彼は瞬時に状況判断を行い日向子に手短に指示を出す。
「後方5車両は俺が守る。残りの2車両は黄色い少年と竈門妹が守る。日向子君と竈門少年、猪頭少年は車両の状態に注意しつつ鬼の頚を探す。以上を竈門少年達と合流した際に伝えてくれ!」
鬼の本体が列車と融合した今となっては、急所が一見わからぬ以上探知能力が突破の鍵となる。
煉獄は、鼻の効く炭治郎。空間把握能力に優れ俊敏な伊之助。血鬼術を無効化する日向子を選んだ。
日向子は必ず彼等に伝える事を約束する。
適材適所、各々がやれるべき事をやっている。
先手を取られた今、一瞬たりとも油断は出来ない。
日向子は元来た道を走り、炭治郎と伊之助の名を叫んだ。
「日向子姉さん!」
「炭治郎!煉獄様から指示を受けたわ。あなたと私と伊之助は鬼の頚を探す事に集中する。乗客は煉獄様達が守ってくれているから」
そう伝えると炭治郎は困惑する。
「でも、頚なんて見つかるのか..」
「煉獄様はあると言ってた。鬼なら必ず急所はあるって」
伊之助が屋根の上から話は聞いたぞと声を張り上げた。
「俺は既に見つけてるぞ!この主の急所、全力の漆ノ型でなぁァァァ!!」
伊之助曰く、やはり先頭車両の付近が気色悪いと言う。炭治郎達がそういうなら間違いないのだろう。私は、自分の持てる力全てで彼等を全力サポートしなければ...
先頭車両、石炭が積まれた汽車の動力部分へ、先陣切って降り立つ伊之助。
車掌がひぃっと声を上げて追い返そうとする。
懐に潜り込むように伊之助が飛び出すと、四方八方から無数の腕がにゅっと飛び出てきた。
掴み潰されそうになったところを、炭治郎がすんでの所で退け、真下の部分が怪しいと攻撃をすかさず繰り出す。
そこに現れた光景に皆息を呑んだ。
「これは...」
あまりにも巨大な、頚の骨だ...
しかし、せっかく斬りつけて急所を露出させても、屋根や壁からの攻撃に阻まれなかなかとどめが差せない
どうしたら..
「周りの攻撃は私が止めるわ!」
ー星の呼吸 拾ノ型 天照!!ー
彼女が攻撃を放つと灼きただれた肉の匂いが充満する。催眠を促す無数の眼は、熱さに耐えきれず怯んだ。
日向子姉さんが与えてくれた好機だ
無駄にしない‼
ーーーーー
〜122【抗う心】〜
伊之助が肉を斬り裂くと再び鬼の頚が現れる。
敵は無防備だ。
炭治郎は渾身の力を込め生生流転を放つ。
既に複数回使用しているため、技の回転度は増しているはず。
これで...
キンッ
「っ!」
ー弾かれたー
水の龍は瞬く間に形を失い水飛沫が舞う。
肉までは何とか斬り裂く事は出来ても、骨は最大威力の拾ノ呼吸を持ってしても、
びくともしないのかっ..
炭治郎は唇を噛む。
まずい..怯んでいた鬼の細胞が活性化し始め、再び傷口が塞がっていく。
せっかく彼女が作ってくれた好機だと言うのに..
「日向子姉さん?!」
がくりと膝を突き額部分を抑える彼女に気付き、急いで駆け寄る。
表情を確認すると、焦点が合ったり合わなかったりを繰り返していた。
それはまるで...
【酷い睡魔に堪えているように見えた】
何故、彼女には鬼の血鬼術は効かない筈だ。
だからあの鬼もわざわざ回りくどいやり方で足止めを喰らわしたと言っていた
俺達と引き離してまで....
俺達と
「っ...ごめん、日向子姉さん。少し服を」
彼女の詰襟のボタンを数個外して肩を露出させる。炭治郎はひゅっと息を呑んだ。
彼女の皮膚には鬼の眼がドクドクと脈打ち寄生していた。まだそれは閉じているが、これが開眼したら...
くそっ...俺とした事が気付かなかった。いつからだ。まだ匂いの発生源が限られていれば早々に気付けたかもしれない。
でも、汽車と一体化した今、匂いはあちらこちらから漂ってくるんだ
日向子は凄まじい睡魔に突如襲われた。
炭治郎が駆け寄ってくれるが気を抜くと意識が飛びそうになる。
あの鬼の声が脳内にこだまする。
ー言っただろう?俺は【油断】しないから..どんな鬼狩りでも、確実に殺すよ
血が効かないのなら、他に色々やりようはある。人間は脆い。
だから、【生気を吸い取って、人間の単純な欲求、睡眠欲にひれ伏せさせればいいだけ】の話さ
ふふふ..さぁ君には、どんな夢を見せてやろうー
日向子はその声を打ち消すように頭を振る。
お前の好きにさせてたまるものか
「っ、やめるんだ何を!!」
炭治郎の制しを振り切り、日向子は日輪刀で己の肩を斬りつけた。
当然紅い血が飛び散り、鬼の眼にも降りかかる。
傷口に激痛が迸り顔が歪む。
でもそれこそ、日向子の狙いだった。
彼女は痛みで睡魔を退けた
「私は何度でも灼く。だから炭治郎、もう一度、今度はヒノカミ神楽を」
貴方なら出来るから
ーーーーー
〜123【太陽の息吹】〜
彼女は必死に鬼の猛攻に抗っている。
自分の身を斬り裂いてまで
炭治郎は拳を固く握りしめた。
時間がない。早々にケリをつけなければ、皆鬼の餌食とされてしまう。
「..姉さんは少し休んでてくれ」
日向子姉さんはああ言ったが、恐らくこの状態を見ると、もって呼吸が使えるのはあと一度だ。無理はさせられない。
「伊之助!呼吸を合わせて乱撃だ!」
顔を上げる頃には、既に無数の眼が壁一面に開眼していた。
ギョロリと眼が動き、炭治郎の視線とかち合う。
ーしまったー
血鬼術をもろに喰らってしまう。
眠る間際に覚醒方法を伊之助に伝え、己はすぐさま先程夢の中から這い出た時と同様に、夢の中の自分を殺した。
しかし何度覚醒しても気付けばどこかの眼に術をかけられてしまう。
やはり、彼女の天照があるのとないとでは雲泥の差だ...
覚醒しては眠り、眠っては覚醒するを繰り返す。
「っ夢じゃねぇ!!これは現実だ!!」
「!!」
腕を引かれてハッとする。
炭治郎は、現実と夢の判別がつかなくなっていたらしい。
つまらねぇ死に方をするなと伊之助に怒声を浴びせられた。
彼は猪頭をかぶっているせいか、視線が合いづらく上手く敵の術を回避しているようだ。
だが、伊之助の悪い癖がここで出てしまう。
それに気をよくした彼は、有頂天になりながらがむしゃらに周りを斬り裂く。
そのせいか、背後から車掌がキリを持って襲い掛かるのに気づいていない。
「伊之助っ!」
ドッという鈍い音と共に、左腹部に激痛が走った。
威力は弱めたが、半分程切っ先が肉にめり込む。
じわりと血が滲み出るが、炭治郎は冷静に相手の頸をつき気絶させた。
「大丈夫だ!早く鬼の頚を切らないと善逸達がもたない!」
バッと目の前に日向子姉さんの羽織りが
彼女が渾身の拾ノ型を放ち、すべての鬼の眼が完全に閉じ、腕は焼け焦げた。
そこに伊之助が肆ノ牙を放つ。
彼等の素早い連携で、再び剥き出しにされた鬼の頚を、炭治郎は瞬き一つせず的に定めた。
頼む父さん
守ってくれ
この一撃で断つ‼
彼等を、姉さんを守らせてくれ‼
ゴォォッと炎が炭治郎を守るように渦巻く。
彼の黒い日輪刀が、赤く爆ぜていく。
ーヒノカミ神楽 碧羅の天‼ー
この時日向子は、初めて彼のヒノカミ神楽を目に焼き付けた。
そして不思議と身体が高揚したのだ。
それは身震いする程に、両腕でひしと己の体を抱く。
これは..
「太陽の息吹だわ」
ーーーーー