◆第陸章 太陽の息吹
貴女のお名前を教えてください
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〜116【相違】
日向子姉さんは信じられない行動を取った。
当然のように善逸に覆いかぶさると、そのまま顔を寄せていく。
ちょっ...
ちょっと待った‼
炭治郎は咄嗟に手を伸ばし、日向子の体を真逆の方向に引き剥がす。
すると何を余計な事をするんだとばかりに眉を吊り上げるではないか
いやいやいや、全く状況が読めないぞ‼
「何してるんだ、正気か?」
蒼ざめた表情で問いかけると、当たり前だと言って強行突破しようとするものだから、炭治郎は堪らず声を荒げる。
「口吸いしようとするのが正気なわけないだろう!」
「...ち、違うよ!私が息を吹き込めばその人の血鬼術が消滅するの。そうすれば夢から目覚めるから」
どうやら彼女なりに根拠があって及ぼうとした行為なようだが、炭治郎はどうしても譲れなかった。
例え夢から目覚めさせる為でも、これが人命救助だったとしても、はいそうですかと見過ごせるわけがない。
彼女が他の男と接吻を交わす光景なんて..想像しただけで狂ってしまいそうだ。
「他に方法がある筈だ。」
「でも、禰豆子の血でも覚醒しないの。時間がないのよ!」
「俺が嫌なんだっ!」
「いい加減にしなさい炭治郎!!」
びくりと肩が震える。
彼女に怒鳴られた事で、炭治郎はそれ以上言葉を発する事が出来なかった。
聞き分けがない子供を叱るような怒り口調。
姉さんの昔からの癖だ。
でも...
こればかりは、流石に辛い。
他の事ならいくらだって我慢出来る。
...何でわかってくれないんだ
大変な状況だと言うのは勿論わかってるつもりだ。でも、日向子姉さんは、誰にでもそういう事が出来てしまうのか?...
そう思うと、酷く悲しい。
炭治郎は深呼吸すると、こう発した。
「....分かった。でもその代わり、俺に先にしてくれ」
「え...」
おい...自分が何を言ってるのかわかってるのか?炭治郎。
そう自問するが、現実の自分は聞く耳を持たない。
彼女がそう来るならこちらもこう出る他に選択肢は無いのだと突っぱねる。
理性的なもう片方の自分を完全に無視した。
「善逸に出来るんだ。俺にも出来るよな?なぁ、日向子姉さん。」
禰豆子が目を見開いている。
俺と繋がっていたらしい少年も口を開けたまま赤面していた。それでも、構わない。
じりじりと彼女に詰め寄ると、とうとう耐えきれなくなったようにこう叫んだのだ。
「た...っ炭治郎にだってしたでしょう!」
ーーーーー
〜117【未熟な感情】〜
...
彼女は今何と言った?
日向子姉さんは顔を真っ赤にして炭治郎を上目遣いで睨みつける。
そんな姿すら洗脳的だなと思うのはひとまず置いておいて、だ。
俺に、さっき善逸にしようとした事を、
したと言うのか?それはつまり...
ブワッと全身に血が駆け巡る。
全然記憶にないけど、気づかなかったけど、
俺が目覚めたのは、彼女のその行為のお陰だったのか?
そうと知れば
うわぁ..
顔も耳も身体も、全てが焼けるように熱い
もうずっと前から焦がれてやまなかった
まさかこんな形で、とは思わなかったけど...
炭治郎は全くもって治まらない熱のやり場に戸惑った。
当然気の効いた言葉が出るわけもなく、気まずい空気が2人の間に流れる。
それを破ったのは禰豆子だった。
ムーームーーッとぷんすか怒りながら、日向子姉さんを庇うように手を広げる。
どうやら、炭治郎が彼女を苛めていると勘違いしているらしい。恐らく、さっき詰め寄ったせいだろう。
「ごめんごめん禰豆子..姉さんを苛めるつもりなんて無かったんだ。許してくれ」
よしよしと撫でると禰豆子はようやく大人しくなった。さて、どうしたものか。
炭治郎は床下に伏せて置いた日輪刀を取ると、禰豆子に皆の縄を焼くように指示をする。
もう我儘は言ってられない。
彼女が言う方法が頼みの綱なら、仕方ないではないか..
「日向子姉さん、お願いします。皆を起こ
「わかった」
間髪入れずにそう言われて、覚悟はしていたけど
心が抉 られるような痛みを感じる。
気のせいか、涙が滲み出てきそうになり顔を逸らすと、日向子姉さんはすくりと立ち上がる。
「鬼の本体を探そう。ここは禰豆子にお願いして、貴方と私は先頭車両に向かう。
それでどうかな?本体を叩けば大抵の血鬼術は消える筈だし、善逸君達を信じましょう。」
「...日向子姉さん。」
「ごめんね炭治郎。こんな方法が唯一なんて、情けなかったよね。私達は鬼殺隊だもの...善逸君や伊之助だってやわじゃないし、煉獄様だっている。彼等はきっと大丈夫。」
彼女はこう言うが、多分、炭治郎の気持ちを汲み取ってくれたのだ。情けないのは俺の方だ。
もしかしたら、この選択が取り返しのつかない事になるかも知れないと言うのに...
禰豆子が縄を全て焼き切ると、繋がれていた子供達は次々と覚醒し始める。
「っ危ない!」
煉獄さんの手から解放された娘が、キリのように鋭利な矛先を日向子姉さんに向かって振り上げた
ーーーーー
〜118【共闘戦線】〜
反射的に娘の攻撃を避ける炭治郎と日向子。
少女は明らかに殺すつもりで2人に向かってキリを振り上げていた。
その表情は必死の形相で、大粒の汗が浮き出ている。
「邪魔しないでよ!!あんた達が来たせいで夢を見せて貰えないじゃない!」
鬼に操られているものと思っていたけれど
これは...
ひょっとすると彼女自身の意思なのか
他の子供達も武器を片手にじりじりと炭治郎達に詰め寄る。
「あんたも起きたなら加勢しなさいよ!結核だかなんだか知らないけど、あの人に言いつけて夢見せてもらえないようにするからね!」
涙を流し立ち尽くす少年に向かって、三つ編みの少女が脅しをかける。
結核...病気なのか、可哀想に..
この子達は、きっと各々何かしらの事情を抱えて現実に絶望してきた子供達だ。
そこに漬け込み利用するなんて...
「許さないわ..」
日向子姉さんの眼は静かな怒りを称えていた。
誰だって幸せな夢を見るし、その中に身を任せていたいと思う。
俺も夢を見ていたかった。
でも、それは結局ただの幻想でしかないから。
辛いけど、苦しいけど、現実を受け入れて立ち向かう強さを持たなければ
この先何も勝ち取る事等出来ない。
ーだから俺達は、戦いに行かなきゃならないんだー
炭治郎は武器を手にしていた子供達の頸をつき気絶させる。
少年を見ると、彼は晴れ晴れとした笑みをたたえ、2人の無事を祈る様に送り出してくれた。
「気をつけて」
2人は大きく返事をして、気を引き締め直す。
禰豆子に縄を焼いてもらっても、やはり日向子の言う通り彼等の意識は目覚めないが、
必ずや後から追ってきてくれると信じている。
まずは鬼本体の性質を見極めなければ
炭治郎が列車の窓を開け放つと、身体中にまとわりつく様な悪気を瞬時に感知する。
日向子姉さんは既にこの臭気を感じた事があるようだ。
「風上から流れてきてる。恐らく本体は..」
「先頭車両だな。禰豆子!危ないからここで待ってろ!皆を起こしてくれ!」
一緒に来ようとしていた禰豆子を制して、2人は車両の屋根へ飛び移る。
高速で走る列車の風をもろともせず、一気に向い風の中駆け出した先に、1人の洋装の男が佇んでいた。
彼はこちらに気付くと、にこやかに笑ってやぁと手を振ると、マイペースにこう発する。
「あれぇ、起きたの?おはよう。2人仲良く来たんだねぇ」
日向子は唇をきつく結んだ。
彼の両の瞳にはやはり、
【下弦の壱】と刻み込まれていたのだった
ーーーーー
〜119【悪趣味】〜
「弟君の方はさ、せっかくいい夢を見せてあげてたでしょう?お前の家族みんな惨殺する夢を見せる事も出来たんだよ。
今度は父親が生き返った夢を見せてやろうか?それとも...」
魘夢はチラリと日向子の方を一瞥 しニタァと笑った。
「姉と情事する夢でも見る?はたまた殺される所を目の前で見せてやろうか?
人間が欲望に翻弄 された末に絶望する顔はさぁ、本当に滑稽 で傑作なんだよ。
ふふふ...あははは!それも楽しそうだなぁ!」
狂気に満ちた高らかな笑い声に日向子は警戒心を強める。
人に幸せな夢を見せて心を現実に戻れなくして、
希望に満ち溢れたところに悪夢を見せて一気に絶望させる。
それがこの鬼の【趣味】という事か。
きっと、先程の子供達にも同様の事をしようとしていたんだ。甘い蜜を吸わせるだけ吸わせておいて..後はどうなろうが知った事ではないんだ。
悪趣味め..
日向子が日輪刀を抜刀すると同時に、炭治郎も刀を抜き取る。
「お前、もう喋るな」
彼からビリビリと感じた..。
ここまで感情を剥き出しにしてキレている炭治郎は..あまり見ない。
「人の心の中に土足で踏み入るな。俺は、
お前を許さない。」
魘夢は目の前の鬼狩りの男が、耳飾りをつけていることに気付く。その瞬間高揚とした笑みを溢した。
ー水の呼吸 拾ノ型 生生流転ー
炭治郎の周りを水の龍がうねり食らいつく機を待つ。
彼がダッと駆け出し刀を振り上げた瞬間、魘夢も血鬼術を発動した。
日向子も呼吸を放とうとしたが足元から凄まじい速さで列車と一体化した鬼の肉片が巻きついていく。
咄嗟に斬り付けて防ぐが、キリがない。
ー星の呼吸 陸ノ型 紅炎ー
日向子の周りに蔓延 る肉片を紅い炎が灼き散らす。
術の効かない日向子には、こうして消耗戦を強いて足止めを喰らわせるのが目的だろう。
これでは思うように炭治郎に加勢出来な..
彼の方を見ると振り上げた刃と共に、鬼の頚が宙に舞っていた。
やった..のだろうか?
本体だとしたら、やけに呆気ない
しかし炭治郎は負に落ちないというような表情を浮かべている。
「あの方が柱と星詠みの巫女に加えて、耳飾りの君を殺せと言った気持ち、凄くよくわかったよ。なんだかこう、存在自体が癪に触ってくる感じ」
本来絶命する筈の鬼の頚が、言葉を連ねる。
【死んでいない】
その事実が、炭治郎達を困惑させた
「素敵だねその顔。そういう顔が見たかった」
ーーーーー
日向子姉さんは信じられない行動を取った。
当然のように善逸に覆いかぶさると、そのまま顔を寄せていく。
ちょっ...
ちょっと待った‼
炭治郎は咄嗟に手を伸ばし、日向子の体を真逆の方向に引き剥がす。
すると何を余計な事をするんだとばかりに眉を吊り上げるではないか
いやいやいや、全く状況が読めないぞ‼
「何してるんだ、正気か?」
蒼ざめた表情で問いかけると、当たり前だと言って強行突破しようとするものだから、炭治郎は堪らず声を荒げる。
「口吸いしようとするのが正気なわけないだろう!」
「...ち、違うよ!私が息を吹き込めばその人の血鬼術が消滅するの。そうすれば夢から目覚めるから」
どうやら彼女なりに根拠があって及ぼうとした行為なようだが、炭治郎はどうしても譲れなかった。
例え夢から目覚めさせる為でも、これが人命救助だったとしても、はいそうですかと見過ごせるわけがない。
彼女が他の男と接吻を交わす光景なんて..想像しただけで狂ってしまいそうだ。
「他に方法がある筈だ。」
「でも、禰豆子の血でも覚醒しないの。時間がないのよ!」
「俺が嫌なんだっ!」
「いい加減にしなさい炭治郎!!」
びくりと肩が震える。
彼女に怒鳴られた事で、炭治郎はそれ以上言葉を発する事が出来なかった。
聞き分けがない子供を叱るような怒り口調。
姉さんの昔からの癖だ。
でも...
こればかりは、流石に辛い。
他の事ならいくらだって我慢出来る。
...何でわかってくれないんだ
大変な状況だと言うのは勿論わかってるつもりだ。でも、日向子姉さんは、誰にでもそういう事が出来てしまうのか?...
そう思うと、酷く悲しい。
炭治郎は深呼吸すると、こう発した。
「....分かった。でもその代わり、俺に先にしてくれ」
「え...」
おい...自分が何を言ってるのかわかってるのか?炭治郎。
そう自問するが、現実の自分は聞く耳を持たない。
彼女がそう来るならこちらもこう出る他に選択肢は無いのだと突っぱねる。
理性的なもう片方の自分を完全に無視した。
「善逸に出来るんだ。俺にも出来るよな?なぁ、日向子姉さん。」
禰豆子が目を見開いている。
俺と繋がっていたらしい少年も口を開けたまま赤面していた。それでも、構わない。
じりじりと彼女に詰め寄ると、とうとう耐えきれなくなったようにこう叫んだのだ。
「た...っ炭治郎にだってしたでしょう!」
ーーーーー
〜117【未熟な感情】〜
...
彼女は今何と言った?
日向子姉さんは顔を真っ赤にして炭治郎を上目遣いで睨みつける。
そんな姿すら洗脳的だなと思うのはひとまず置いておいて、だ。
俺に、さっき善逸にしようとした事を、
したと言うのか?それはつまり...
ブワッと全身に血が駆け巡る。
全然記憶にないけど、気づかなかったけど、
俺が目覚めたのは、彼女のその行為のお陰だったのか?
そうと知れば
うわぁ..
顔も耳も身体も、全てが焼けるように熱い
もうずっと前から焦がれてやまなかった
まさかこんな形で、とは思わなかったけど...
炭治郎は全くもって治まらない熱のやり場に戸惑った。
当然気の効いた言葉が出るわけもなく、気まずい空気が2人の間に流れる。
それを破ったのは禰豆子だった。
ムーームーーッとぷんすか怒りながら、日向子姉さんを庇うように手を広げる。
どうやら、炭治郎が彼女を苛めていると勘違いしているらしい。恐らく、さっき詰め寄ったせいだろう。
「ごめんごめん禰豆子..姉さんを苛めるつもりなんて無かったんだ。許してくれ」
よしよしと撫でると禰豆子はようやく大人しくなった。さて、どうしたものか。
炭治郎は床下に伏せて置いた日輪刀を取ると、禰豆子に皆の縄を焼くように指示をする。
もう我儘は言ってられない。
彼女が言う方法が頼みの綱なら、仕方ないではないか..
「日向子姉さん、お願いします。皆を起こ
「わかった」
間髪入れずにそう言われて、覚悟はしていたけど
心が
気のせいか、涙が滲み出てきそうになり顔を逸らすと、日向子姉さんはすくりと立ち上がる。
「鬼の本体を探そう。ここは禰豆子にお願いして、貴方と私は先頭車両に向かう。
それでどうかな?本体を叩けば大抵の血鬼術は消える筈だし、善逸君達を信じましょう。」
「...日向子姉さん。」
「ごめんね炭治郎。こんな方法が唯一なんて、情けなかったよね。私達は鬼殺隊だもの...善逸君や伊之助だってやわじゃないし、煉獄様だっている。彼等はきっと大丈夫。」
彼女はこう言うが、多分、炭治郎の気持ちを汲み取ってくれたのだ。情けないのは俺の方だ。
もしかしたら、この選択が取り返しのつかない事になるかも知れないと言うのに...
禰豆子が縄を全て焼き切ると、繋がれていた子供達は次々と覚醒し始める。
「っ危ない!」
煉獄さんの手から解放された娘が、キリのように鋭利な矛先を日向子姉さんに向かって振り上げた
ーーーーー
〜118【共闘戦線】〜
反射的に娘の攻撃を避ける炭治郎と日向子。
少女は明らかに殺すつもりで2人に向かってキリを振り上げていた。
その表情は必死の形相で、大粒の汗が浮き出ている。
「邪魔しないでよ!!あんた達が来たせいで夢を見せて貰えないじゃない!」
鬼に操られているものと思っていたけれど
これは...
ひょっとすると彼女自身の意思なのか
他の子供達も武器を片手にじりじりと炭治郎達に詰め寄る。
「あんたも起きたなら加勢しなさいよ!結核だかなんだか知らないけど、あの人に言いつけて夢見せてもらえないようにするからね!」
涙を流し立ち尽くす少年に向かって、三つ編みの少女が脅しをかける。
結核...病気なのか、可哀想に..
この子達は、きっと各々何かしらの事情を抱えて現実に絶望してきた子供達だ。
そこに漬け込み利用するなんて...
「許さないわ..」
日向子姉さんの眼は静かな怒りを称えていた。
誰だって幸せな夢を見るし、その中に身を任せていたいと思う。
俺も夢を見ていたかった。
でも、それは結局ただの幻想でしかないから。
辛いけど、苦しいけど、現実を受け入れて立ち向かう強さを持たなければ
この先何も勝ち取る事等出来ない。
ーだから俺達は、戦いに行かなきゃならないんだー
炭治郎は武器を手にしていた子供達の頸をつき気絶させる。
少年を見ると、彼は晴れ晴れとした笑みをたたえ、2人の無事を祈る様に送り出してくれた。
「気をつけて」
2人は大きく返事をして、気を引き締め直す。
禰豆子に縄を焼いてもらっても、やはり日向子の言う通り彼等の意識は目覚めないが、
必ずや後から追ってきてくれると信じている。
まずは鬼本体の性質を見極めなければ
炭治郎が列車の窓を開け放つと、身体中にまとわりつく様な悪気を瞬時に感知する。
日向子姉さんは既にこの臭気を感じた事があるようだ。
「風上から流れてきてる。恐らく本体は..」
「先頭車両だな。禰豆子!危ないからここで待ってろ!皆を起こしてくれ!」
一緒に来ようとしていた禰豆子を制して、2人は車両の屋根へ飛び移る。
高速で走る列車の風をもろともせず、一気に向い風の中駆け出した先に、1人の洋装の男が佇んでいた。
彼はこちらに気付くと、にこやかに笑ってやぁと手を振ると、マイペースにこう発する。
「あれぇ、起きたの?おはよう。2人仲良く来たんだねぇ」
日向子は唇をきつく結んだ。
彼の両の瞳にはやはり、
【下弦の壱】と刻み込まれていたのだった
ーーーーー
〜119【悪趣味】〜
「弟君の方はさ、せっかくいい夢を見せてあげてたでしょう?お前の家族みんな惨殺する夢を見せる事も出来たんだよ。
今度は父親が生き返った夢を見せてやろうか?それとも...」
魘夢はチラリと日向子の方を
「姉と情事する夢でも見る?はたまた殺される所を目の前で見せてやろうか?
人間が欲望に
ふふふ...あははは!それも楽しそうだなぁ!」
狂気に満ちた高らかな笑い声に日向子は警戒心を強める。
人に幸せな夢を見せて心を現実に戻れなくして、
希望に満ち溢れたところに悪夢を見せて一気に絶望させる。
それがこの鬼の【趣味】という事か。
きっと、先程の子供達にも同様の事をしようとしていたんだ。甘い蜜を吸わせるだけ吸わせておいて..後はどうなろうが知った事ではないんだ。
悪趣味め..
日向子が日輪刀を抜刀すると同時に、炭治郎も刀を抜き取る。
「お前、もう喋るな」
彼からビリビリと感じた..。
ここまで感情を剥き出しにしてキレている炭治郎は..あまり見ない。
「人の心の中に土足で踏み入るな。俺は、
お前を許さない。」
魘夢は目の前の鬼狩りの男が、耳飾りをつけていることに気付く。その瞬間高揚とした笑みを溢した。
ー水の呼吸 拾ノ型 生生流転ー
炭治郎の周りを水の龍がうねり食らいつく機を待つ。
彼がダッと駆け出し刀を振り上げた瞬間、魘夢も血鬼術を発動した。
日向子も呼吸を放とうとしたが足元から凄まじい速さで列車と一体化した鬼の肉片が巻きついていく。
咄嗟に斬り付けて防ぐが、キリがない。
ー星の呼吸 陸ノ型 紅炎ー
日向子の周りに
術の効かない日向子には、こうして消耗戦を強いて足止めを喰らわせるのが目的だろう。
これでは思うように炭治郎に加勢出来な..
彼の方を見ると振り上げた刃と共に、鬼の頚が宙に舞っていた。
やった..のだろうか?
本体だとしたら、やけに呆気ない
しかし炭治郎は負に落ちないというような表情を浮かべている。
「あの方が柱と星詠みの巫女に加えて、耳飾りの君を殺せと言った気持ち、凄くよくわかったよ。なんだかこう、存在自体が癪に触ってくる感じ」
本来絶命する筈の鬼の頚が、言葉を連ねる。
【死んでいない】
その事実が、炭治郎達を困惑させた
「素敵だねその顔。そういう顔が見たかった」
ーーーーー