◆第陸章 太陽の息吹
貴女のお名前を教えてください
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〜112【返り咲き】〜
日向子は刀を構え深く息を吸い込む。
ー星の呼吸 弍ノ型 天羽衣ー
刀を振った後を薄い霧状の帯が引き、日向子の体に渦巻いていく。
そして重力を無視するように、彼女の体が宙に浮かんだ。
ー天羽衣ー
重力は勿論、ありとあらゆる万物の方向性を無視し、
古き伝承さながら、天女が天空を駆け巡るように、使い手の意のままに物体を移動させる事が可能な御技。
地を駆けるより遥かに速度が出る為列車に追いつくのも容易い。日向子にとっては幼い子供と駆けっこをするようなものだ。
グンと風を切り遥か上空に飛び上がる。
疾風と共に帯がたなびくと、一瞬にして日向子は神速で飛んだ。前方の列車を瞬く間に捉える。
日向子は炭治郎達が眠っているであろう車両の真上に着地する。勢い余って数回転してしまったが、まぁまだ良い方だと思うようにして、すぐさま体勢を整えた。
炭治郎...禰豆子
皆
もしかして既に鬼にやられてしまってないだろうか。
煉獄様がいるから大丈夫だろうか。
鬼の気配はひしひしとまだ肌に感じる。
前方の方だろう、おどろおどろしい悪気が漂いそれが風に乗って後方へ流れている。
けれど、彼等が戦闘を行なっている気配は全くない。
やられてしまったのか、はたまたまだ眠らされているのか?後者であってくれと願うが、
どのみち状況を把握しなければこちらも動けない。
日向子は側面の窓から車内に降り立った。
すると、禰豆子がムーーッと唸りながら炭治郎の側でじたばたしていた。
恐らく、那田蜘蛛山で使用したという彼女の血鬼術だろう。
炭治郎の体は暖かい炎に包まれているが、一向に起きる気配がないから禰豆子が駄々をこねているのだ。
「禰豆子っ!!」
くるんとこちらを振り向く禰豆子。
うーうーと何かを訴えるように眉をハの字にする。
近寄ってみると、彼等は縄でそれぞれ先程の子供達と腕が繋がれており皆昏睡状態だ。
炭治郎のものは、禰豆子が焼き切ってくれたようだが、でも..
「禰豆子の血鬼術でも夢から醒めない。効ききってない強い血...」
まさか、この列車の鬼も
十二鬼月だと言うのだろうか
その可能性があるなら、やはり日向子だけで太刀打ちは出来ないかもしれない。
どうにかして、彼等を夢から目覚めさせなければ...
ふと横を見ると、炭治郎と繋がれていたであろう男の子が涙を零しながら放心していた。
先程あったときとは、まるで別人のようだ。
まるで暖かい日の光に照らされたかのよう
ーーーーー
〜113【共鳴】〜
「君、どうやったら彼等が目を覚ますかわかる?」
日向子は焦る。
煉獄を見ると、縄で繋がれた先の女の子の首を締め上げている。
でも何となくだが、それを止めたら煉獄様の方がまずい事になる予感がした。日輪刀で切るのも、いけない気がする。
禰豆子に縄を焼いてもらうか..でも、子供達が覚醒しても彼等が起きなければ多勢に無勢。
幸い炭治郎と繋がれていた彼は放心して殺気は消滅してるけれど、他の子供達はどうかわからない。
男の子にそう問いかけると、彼は首を横に振る。
「ごめんなさい。わからないんだ...僕らは、ただ命令されている通りのことをやっている。それ以外の事は、教えて貰ってない。本当にごめんなさい」
彼は崩れるようにその場で手をつき謝罪した。
しかし、日向子はそれを責める事など出来ない。
彼等もまた、
鬼の被害者なのだから...
「大丈夫、君達は悪い鬼に利用されていた。あなたを咎 めないわ。私達が何とかするから」
頭を優しく撫でると、彼は涙を流した。
あぁ..
こんなに心優しい少年の弱みに漬け込み洗脳し、利用するなど許さない。日向子は怒りを露わにする。
自分は安全圏で高見の見物、臆病者、卑怯者だ。
そういうのが一番嫌いなのだ。
鬼の顔面に一発ぶち込まないと気が済まない。
日向子は拳をぎゅっと握りしめた。
「....っ...」
皆を起こす方法。
一つだけ、脳裏に浮かんでいる。
でもこれは....
ー師範、巫の異能は私の体にのみ発せられるのですか?他人にそれを移す方法があればもっと戦闘が有利になると思うのですがー
ー移す、という事は残念ながら出来ません。
ですが、血鬼術にかかった者の毒などを中和させる方法なら、あるにはありますー
ー...その方法とは?ー
師範はかつて、少しだけ言いづらそうにこう答えたのを、日向子は思い出した。
「あなたの息吹を他人に吹き込む方法です」
あなたの体に宿るヒノカミ様の息吹を、他人の呼吸器官に直接吹き込むことで、その者の呼吸により全身に血液が巡り、禍を退ける事が出来る。
それを聞いた日向子は、即ち【そういう行為】をしなければいけないんだなという事を理解した。
日向子は燃え盛る炎の中尚も眠り続ける炭治郎の近くへと寄る。
時折、荒い息遣いが聞こえる、彼もまた必死に、淡く幸せな夢の世界から現実へ帰ろうとしているのだ。
炭治郎
お願い
戻ってきて
日向子は彼に覆いかぶさると、迷わず唇を合わせた。
ーーーーー
〜114【日溜りの呼吸】〜
魘夢は未だに精神の核を誰1人として破壊できない状況に、眉をひそめる。
気のせいで無ければ、
撒いたはずの星の呼吸の娘..あの距離からこの列車に追い付いたというのか?
せっかく【最後車両から一体化】し足止めを喰らわしたというのに、
厄介だなぁ..厄介だけれど、
魘夢は小さくほくそ笑んだ。
「まぁいい。どの道、時間稼ぎにはなった」
一方夢の中
炭治郎は雪山を駆けていた。
微かに鬼の匂いは漂っている。しかし微量ながら、四方八方からその匂いが流れてくるから場所を特定出来ない。
ひょっとしたら夢の中から鬼の本体へは干渉出来ないのかもしれない。
早く目覚めないと禰豆子が危ない。
他の皆も眠っているなら相当まずい状況だし、
日向子姉さんも、やはり単独で行動させるべきではなかった。あの時の子供..もしかしたら罠だったのかもしれない、だとしたら..
炭治郎は頭をブンブンと横に振る。
最悪のヴィジョンが頭をよぎる中、必死に出口を探し求める。
せっかく夢だと理解しても、走っても走っても、いくら探しても鬼の姿が見つからない。現実世界に戻れない......
焦り始めたその時だった
「炭治郎、刃を持て。斬るべきものはもう在る」
ふと、背後で父の声が聞こえた。
バッと振り返るが姿を捉える事は出来なかった。
「っ....」
斬るべきものは、もう在る。
斬るべきもの
目覚めるために..
はぁ、はぁと自分の息遣いだけがその場に響き渡る。
やけに、心音が耳元に響いて煩い。
冷や汗が滲み出てツーーと頬を伝い落ち、ごくりと喉が鳴った。
わかった、と思う
でも、もし違っていたら
取り返しが...
ーいや..!!迷うな‼ー
炭治郎は意を決して勢いよく抜刀すると、己の首元に日輪刀の刃を当てがった。
【夢の中の死が、現実世界への目覚めに繋がる】
きっと父さんは、そう暗示していたのではないか。
微かに震える指に力を込めた..
「大丈夫」
!
ふわりと日向子姉さんの声が耳をくすぐる。
彼女は後ろから手を伸ばし、日輪刀の柄を握る炭治郎のそれに滑るように重ねた。
「私がついてるから」
その瞬間
先程までの浅い呼吸が嘘のように収まり、
全身に暖かさが満ち渡るような感覚を覚える。
それは、彼女が後ろから包み込んでくれているからなのだろうか。
不思議と..恐怖も無くなった。
安心感すら、芽生えた。
彼女が側に居てくれる
そう感じるだけで、炭治郎は迷いを捨てられた
ーーーーー
〜115【覚醒】〜
彼女と共に在れば何も怖くない。
炭治郎はこの心地良さを、知っている。
遠い記憶から継がれている血が、歓喜に騒いでいるのだ。やっと巡り逢えたと...
炭治郎はすっと目蓋を閉じた。
いよいよ刃を立て、腕に力をこめていく。
「日向子姉さん、ありがとう」
ブシャッと血飛沫が飛び散り、視界は一気に失われた。
体がぐんと上に引っ張り上げられていく感覚を認知すると、その勢いに乗らんとして腕をこれでもかと目一杯伸ばした。
父さんの言葉と、彼女の温もりを信じて、炭治郎は願う。
目覚めろ!
目覚めろ‼
目を覚ませッ!!
「あぁぁぁッ!!」
深い水底から水面に浮き上がったような、まるで久方ぶりの酸素を吸い上げたかのような感覚で、炭治郎は現実世界へと目覚めた。
瞬間
「いったーーっ!!」
ゴチンと鈍い音を立てて誰かが苦悶の声を上げ尻餅をつく。
目覚めたばかりの炭治郎は、何が起きたかすらわからず混乱しつつも頭突きをかましてしまった相手を見やると、さぁっと血の気を引かせた。
「日向子姉さん?!...だ、ごめん!どうしようっ大丈夫か?!」
彼女は咄嗟にのけ反りダメージは緩和させたようだが、それでも涙目でおでこを押さえていた。
まさか不可抗力とは言え、なんて失態をかましてしまったんだと頭を抱える。
「大丈夫..こっちこそごめん!それより良かったよ目覚めて」
彼女の言葉でハッとし周りの状況を確認すると、やはり善逸達はまだ眠っていた。
むーーっという唸り声が後ろから聞こえて、下を見ると禰豆子が声に驚いた様子でぶすくれている。
そうだ、彼女は血を流してっ...
見ると、それほど大きな怪我と言うわけではなさそうで、ひとまず安堵する。
切符や千切れた縄をくんと嗅ぐと、そこには微かに鬼の匂いが漂っていた
眠らされた原因はこれだったのか...微量でこの威力。
もしかしたらこの鬼も
「炭治郎、説明している時間はあまりないわ。私、この列車と一体化した鬼と闘ったの、でも多分それは本体じゃない。
本体はまだ形 を潜めてる。
まだ襲ってこないという事は、何かの時間稼ぎかもしれない。急がないと、とにかく早く皆を起こさなくちゃ」
確かに眠る前煉獄さんが倒した鬼も、やけに呆気なかった。日向子姉さんの言う通り、鬼の本体が攻撃を仕掛けて来る前に、動ける人間を増やしておいた方が得策だ
ふと彼女の方を見ると、
何故か善逸に覆いかぶさっていた。
....何をしようとしてるんだ
ーーーーー
日向子は刀を構え深く息を吸い込む。
ー星の呼吸 弍ノ型 天羽衣ー
刀を振った後を薄い霧状の帯が引き、日向子の体に渦巻いていく。
そして重力を無視するように、彼女の体が宙に浮かんだ。
ー天羽衣ー
重力は勿論、ありとあらゆる万物の方向性を無視し、
古き伝承さながら、天女が天空を駆け巡るように、使い手の意のままに物体を移動させる事が可能な御技。
地を駆けるより遥かに速度が出る為列車に追いつくのも容易い。日向子にとっては幼い子供と駆けっこをするようなものだ。
グンと風を切り遥か上空に飛び上がる。
疾風と共に帯がたなびくと、一瞬にして日向子は神速で飛んだ。前方の列車を瞬く間に捉える。
日向子は炭治郎達が眠っているであろう車両の真上に着地する。勢い余って数回転してしまったが、まぁまだ良い方だと思うようにして、すぐさま体勢を整えた。
炭治郎...禰豆子
皆
もしかして既に鬼にやられてしまってないだろうか。
煉獄様がいるから大丈夫だろうか。
鬼の気配はひしひしとまだ肌に感じる。
前方の方だろう、おどろおどろしい悪気が漂いそれが風に乗って後方へ流れている。
けれど、彼等が戦闘を行なっている気配は全くない。
やられてしまったのか、はたまたまだ眠らされているのか?後者であってくれと願うが、
どのみち状況を把握しなければこちらも動けない。
日向子は側面の窓から車内に降り立った。
すると、禰豆子がムーーッと唸りながら炭治郎の側でじたばたしていた。
恐らく、那田蜘蛛山で使用したという彼女の血鬼術だろう。
炭治郎の体は暖かい炎に包まれているが、一向に起きる気配がないから禰豆子が駄々をこねているのだ。
「禰豆子っ!!」
くるんとこちらを振り向く禰豆子。
うーうーと何かを訴えるように眉をハの字にする。
近寄ってみると、彼等は縄でそれぞれ先程の子供達と腕が繋がれており皆昏睡状態だ。
炭治郎のものは、禰豆子が焼き切ってくれたようだが、でも..
「禰豆子の血鬼術でも夢から醒めない。効ききってない強い血...」
まさか、この列車の鬼も
十二鬼月だと言うのだろうか
その可能性があるなら、やはり日向子だけで太刀打ちは出来ないかもしれない。
どうにかして、彼等を夢から目覚めさせなければ...
ふと横を見ると、炭治郎と繋がれていたであろう男の子が涙を零しながら放心していた。
先程あったときとは、まるで別人のようだ。
まるで暖かい日の光に照らされたかのよう
ーーーーー
〜113【共鳴】〜
「君、どうやったら彼等が目を覚ますかわかる?」
日向子は焦る。
煉獄を見ると、縄で繋がれた先の女の子の首を締め上げている。
でも何となくだが、それを止めたら煉獄様の方がまずい事になる予感がした。日輪刀で切るのも、いけない気がする。
禰豆子に縄を焼いてもらうか..でも、子供達が覚醒しても彼等が起きなければ多勢に無勢。
幸い炭治郎と繋がれていた彼は放心して殺気は消滅してるけれど、他の子供達はどうかわからない。
男の子にそう問いかけると、彼は首を横に振る。
「ごめんなさい。わからないんだ...僕らは、ただ命令されている通りのことをやっている。それ以外の事は、教えて貰ってない。本当にごめんなさい」
彼は崩れるようにその場で手をつき謝罪した。
しかし、日向子はそれを責める事など出来ない。
彼等もまた、
鬼の被害者なのだから...
「大丈夫、君達は悪い鬼に利用されていた。あなたを
頭を優しく撫でると、彼は涙を流した。
あぁ..
こんなに心優しい少年の弱みに漬け込み洗脳し、利用するなど許さない。日向子は怒りを露わにする。
自分は安全圏で高見の見物、臆病者、卑怯者だ。
そういうのが一番嫌いなのだ。
鬼の顔面に一発ぶち込まないと気が済まない。
日向子は拳をぎゅっと握りしめた。
「....っ...」
皆を起こす方法。
一つだけ、脳裏に浮かんでいる。
でもこれは....
ー師範、巫の異能は私の体にのみ発せられるのですか?他人にそれを移す方法があればもっと戦闘が有利になると思うのですがー
ー移す、という事は残念ながら出来ません。
ですが、血鬼術にかかった者の毒などを中和させる方法なら、あるにはありますー
ー...その方法とは?ー
師範はかつて、少しだけ言いづらそうにこう答えたのを、日向子は思い出した。
「あなたの息吹を他人に吹き込む方法です」
あなたの体に宿るヒノカミ様の息吹を、他人の呼吸器官に直接吹き込むことで、その者の呼吸により全身に血液が巡り、禍を退ける事が出来る。
それを聞いた日向子は、即ち【そういう行為】をしなければいけないんだなという事を理解した。
日向子は燃え盛る炎の中尚も眠り続ける炭治郎の近くへと寄る。
時折、荒い息遣いが聞こえる、彼もまた必死に、淡く幸せな夢の世界から現実へ帰ろうとしているのだ。
炭治郎
お願い
戻ってきて
日向子は彼に覆いかぶさると、迷わず唇を合わせた。
ーーーーー
〜114【日溜りの呼吸】〜
魘夢は未だに精神の核を誰1人として破壊できない状況に、眉をひそめる。
気のせいで無ければ、
撒いたはずの星の呼吸の娘..あの距離からこの列車に追い付いたというのか?
せっかく【最後車両から一体化】し足止めを喰らわしたというのに、
厄介だなぁ..厄介だけれど、
魘夢は小さくほくそ笑んだ。
「まぁいい。どの道、時間稼ぎにはなった」
一方夢の中
炭治郎は雪山を駆けていた。
微かに鬼の匂いは漂っている。しかし微量ながら、四方八方からその匂いが流れてくるから場所を特定出来ない。
ひょっとしたら夢の中から鬼の本体へは干渉出来ないのかもしれない。
早く目覚めないと禰豆子が危ない。
他の皆も眠っているなら相当まずい状況だし、
日向子姉さんも、やはり単独で行動させるべきではなかった。あの時の子供..もしかしたら罠だったのかもしれない、だとしたら..
炭治郎は頭をブンブンと横に振る。
最悪のヴィジョンが頭をよぎる中、必死に出口を探し求める。
せっかく夢だと理解しても、走っても走っても、いくら探しても鬼の姿が見つからない。現実世界に戻れない......
焦り始めたその時だった
「炭治郎、刃を持て。斬るべきものはもう在る」
ふと、背後で父の声が聞こえた。
バッと振り返るが姿を捉える事は出来なかった。
「っ....」
斬るべきものは、もう在る。
斬るべきもの
目覚めるために..
はぁ、はぁと自分の息遣いだけがその場に響き渡る。
やけに、心音が耳元に響いて煩い。
冷や汗が滲み出てツーーと頬を伝い落ち、ごくりと喉が鳴った。
わかった、と思う
でも、もし違っていたら
取り返しが...
ーいや..!!迷うな‼ー
炭治郎は意を決して勢いよく抜刀すると、己の首元に日輪刀の刃を当てがった。
【夢の中の死が、現実世界への目覚めに繋がる】
きっと父さんは、そう暗示していたのではないか。
微かに震える指に力を込めた..
「大丈夫」
!
ふわりと日向子姉さんの声が耳をくすぐる。
彼女は後ろから手を伸ばし、日輪刀の柄を握る炭治郎のそれに滑るように重ねた。
「私がついてるから」
その瞬間
先程までの浅い呼吸が嘘のように収まり、
全身に暖かさが満ち渡るような感覚を覚える。
それは、彼女が後ろから包み込んでくれているからなのだろうか。
不思議と..恐怖も無くなった。
安心感すら、芽生えた。
彼女が側に居てくれる
そう感じるだけで、炭治郎は迷いを捨てられた
ーーーーー
〜115【覚醒】〜
彼女と共に在れば何も怖くない。
炭治郎はこの心地良さを、知っている。
遠い記憶から継がれている血が、歓喜に騒いでいるのだ。やっと巡り逢えたと...
炭治郎はすっと目蓋を閉じた。
いよいよ刃を立て、腕に力をこめていく。
「日向子姉さん、ありがとう」
ブシャッと血飛沫が飛び散り、視界は一気に失われた。
体がぐんと上に引っ張り上げられていく感覚を認知すると、その勢いに乗らんとして腕をこれでもかと目一杯伸ばした。
父さんの言葉と、彼女の温もりを信じて、炭治郎は願う。
目覚めろ!
目覚めろ‼
目を覚ませッ!!
「あぁぁぁッ!!」
深い水底から水面に浮き上がったような、まるで久方ぶりの酸素を吸い上げたかのような感覚で、炭治郎は現実世界へと目覚めた。
瞬間
「いったーーっ!!」
ゴチンと鈍い音を立てて誰かが苦悶の声を上げ尻餅をつく。
目覚めたばかりの炭治郎は、何が起きたかすらわからず混乱しつつも頭突きをかましてしまった相手を見やると、さぁっと血の気を引かせた。
「日向子姉さん?!...だ、ごめん!どうしようっ大丈夫か?!」
彼女は咄嗟にのけ反りダメージは緩和させたようだが、それでも涙目でおでこを押さえていた。
まさか不可抗力とは言え、なんて失態をかましてしまったんだと頭を抱える。
「大丈夫..こっちこそごめん!それより良かったよ目覚めて」
彼女の言葉でハッとし周りの状況を確認すると、やはり善逸達はまだ眠っていた。
むーーっという唸り声が後ろから聞こえて、下を見ると禰豆子が声に驚いた様子でぶすくれている。
そうだ、彼女は血を流してっ...
見ると、それほど大きな怪我と言うわけではなさそうで、ひとまず安堵する。
切符や千切れた縄をくんと嗅ぐと、そこには微かに鬼の匂いが漂っていた
眠らされた原因はこれだったのか...微量でこの威力。
もしかしたらこの鬼も
「炭治郎、説明している時間はあまりないわ。私、この列車と一体化した鬼と闘ったの、でも多分それは本体じゃない。
本体はまだ
まだ襲ってこないという事は、何かの時間稼ぎかもしれない。急がないと、とにかく早く皆を起こさなくちゃ」
確かに眠る前煉獄さんが倒した鬼も、やけに呆気なかった。日向子姉さんの言う通り、鬼の本体が攻撃を仕掛けて来る前に、動ける人間を増やしておいた方が得策だ
ふと彼女の方を見ると、
何故か善逸に覆いかぶさっていた。
....何をしようとしてるんだ
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