◆第陸章 太陽の息吹
貴女のお名前を教えてください
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〜108【罠】〜
夢を見せて貰える?
この乗客達は皆、既に鬼の手中という事なのか
見た所、子供達から鬼の気配はないが、明らかに様子がおかしい気がする。
もしかしたら鬼に洗脳されているのかもしれない。
仕方ない..ひとまず彼等には気絶しておいて貰うしか...刀に手を伸ばしたその時
っ!
鬼の気配を察知した。
彼等より更に後方部分にそれは現れた。攻撃をしてくるわけではないが、ギョロリとした目玉がぐるぐる動いて日向子を誘うように動く。
ダッと更に後ろの車両へと移動していく。
日向子は抜刀し、咄嗟に子供達を押し退いて鬼の後を追った。
逃すわけにはいかない。
炭治郎達の応援を待っている時間はない。
このままでは、更に鬼の餌食になる人々が増えてしまう。
最後車両に移動し日向子は鬼を間合いに捉えた。
日輪刀を振りかざし鬼の頚を..
「っ!」
すかっと空振る感覚に、状況を瞬時に観察すると鬼の図体が、車両へとずるずる吸収されていく。
どういう事だ。無機物に寄生する事が出来る鬼か?
やがて鬼は完全に姿を眩ましてしまった。
殺しに来る気がないのか。
だとしたら目的は...
ある憶測が脳裏を過ぎって、元来た後方を振り返った。しかし、あと一歩遅かったようだ。
子供達が、車両の接続部分を
切り離した。
途端にガタンと凄まじい音と共に慣性の法則で後ろへつんのめる。みるみるうちに日向子の乗っている車両は速度を失い、前の車両との距離が開けていく。
日向子だけを後方車両に誘導した理由は、この為だったのだ。
理由は恐らく、【(名前)には血鬼術が通用する可能性が極めて低いから】
多分、今回の鬼は弾丸戦を得意としない。
近距離戦や力技に自信があれば、こんなに回りくどい事はしない筈だ。
とすれば、日向子の体質はこの鬼にとって厄介この上ない。
用意周到に、じわりじわりと追い詰めていく。
ー炭治郎達が危ないー
「?...なぁ、何か後ろで音聞こえなかったか?」
「そうか?日向子姉さんに何かあったのかな。俺、ちょっと様子を」
音には人一倍敏感な善逸がそう問いかける。
それを聞いて不安に顔を曇らせた炭治郎が腰を上げようとした
その時、
「切符..拝見...致します...」
車掌がすぐ後ろに迫っていた。
流れがいまいちわからない炭治郎達は、煉獄の言う通り切符を差し出し切られた瞬間
ーなんだ、何か嫌な匂いがー
後方を見ると、
その場にいた全員が気付かぬうちに、
鬼が接近していた。
ーーーーー
〜109【夢の誘い】〜
「ふむ、その巨躯を隠していたのは血鬼術か!気配も探りづらかった、しかし!罪なき人に牙を剥こうならば、この煉獄の赫き炎刀がお前の骨を焼き尽くす!」
煉獄は自らの日輪刀を抜刀すると、型の構えを取る。
一瞬の出来事で、炎を纏った刀が正確に鬼の頚を切り裂いた。
さすがは柱だ。どしゃりと倒れた鬼の体はピクリともしなくなった。
炭治郎達は英雄を奉るかのようにやんややんやとお祭り騒ぎをした。
その光景は、側から見たら【異質】なものであった。
しかし誰一人、誰一人としてその異質に気付くものはいない。
既にこの車両にいる者達は、夢と現実の区別がつかなくなっていた。
そして炭治郎も、呆気なく瞼を閉じて眠り込んでしまった...
「うん、うん。ようやく眠りについたね。幸せな夢を見るといい。あの子もうまく巻いたみたいだ。本当に、血鬼術が効かない体質というのは厄介だねぇ..。まずは、他の鬼狩り達を早々に片付けよう。」
魘夢は余裕の表情で微笑んだ。
どんなに強い鬼狩りでも関係ない。
人間の本能は単純だ、精神はガラス細工のように脆い。
精神の核さえ破壊すれば、後は絶命させるのは容易い。
ーさぁ..君達は
どんな幸せな記憶を持っているのかな?
どんな幸せな夢を見るのかな?
とっても楽しみだなぁ...
そして、
その後はどん底に突き落としてあげる..ー
炭治郎は、気付けば見慣れた雪山の中にいた。
目の前には、炭治郎が生まれ育った家がある。
何故..自分はこんな所に立ち尽くしているのだろう。
炭も売り切ったのだから、早く帰ろう。
視界の向こうに花子と茂の姿が見えた。こちらに気付くと無邪気に二人は駆け寄ってくる。
「おかえり兄ちゃん!」
「炭売れたー?」
あぁ...何だろう
何故こんなにも、涙がとまらないのだ。
炭治郎は堪らず2人を抱き締めた。
「どうしたの炭治郎」
心痛な声色が炭治郎の耳をくすぐる。
涙で霞んだ眼をぐしと拭い見上げると、
日向子姉さんが心配そうに見つめていた。
日向子姉さん...
彼女はこちらに駆け寄ってくると、懐から手拭いを取り出して炭治郎の目元や頬を優しく拭った。
「疲れが溜まってたのかな..あなたには、いつも無理をさせてしまっててごめんね。今日はもう湯浴みして、ゆっくり休んでね。
さぁ、皆で家に帰ろう?」
日向子姉さんは綻ぶような笑顔で手を差し出す。
彼女の温もりが暖かかった。
あぁ...凄く...幸せだ。
ーーーーー
〜110【揺れ動く心】〜
「あれ..禰豆子は?」
炭治郎がそう問いかけると、竹雄が山菜を取りに行っていると答える。
「え、今昼間なのに?!」
突然大声で叫んだ炭治郎を不思議そうに見る弟と妹達。駄目なの?と花子が首を傾げた。
...確かに、
何で昼間だと駄目なんだっけ...?
やっぱり、俺は少し疲れてるんだろうか。
川へ向かう途中にそう考え込んでしまう。
自分の知らない記憶が、あるような気がする。
道中見かけた道具箱のような物も..
どこかで見覚えがあるような、でも
思い出せない。
時折、記憶が薄い絹上布 に包まれているような..そんな感覚になるのだ。
桶を持ち水面を見下ろした時、揺れる水面にはっきりともう1人の自分が映る。
まるで鏡で隔てられたような向こう側にいる自分が、必死に何かを訴えている。
何だ?聞こえない
何を伝えたがっているんだ
掻き消すようにざぶんと水を掻いた
瞬間、強い力でぐいと水底へと腕を引かれる。
ごぼごぼと水の中で空気の泡が音を立てる中、確かに炭治郎の耳に彼の言葉が届いた。
ー起きろっ!攻撃されてる!
夢だ!これは夢だ!目覚めろっ!
ー【起きて戦えっ!】ー
炭治郎はその瞬間全てを思い出した。
自分達は、鬼を倒す為に汽車の中にいた筈だ
皆、眠っているのか、日向子姉さん、姉さんは無事なのかっ!
ゴボリッー...
息苦しさに目を瞑ると、瞬いた瞬間にはまた
家の中に移動していた。
「ちょっと!何でそんなお兄ちゃんから食べ物取るのよ!」
目の前で花子と竹雄が痴話喧嘩をしている。
いつもの、いや...あの頃の平和な日常だ..。
駄目だ、まだ夢の中にいる。
どうしたら醒めるのだろう
炭治郎が焦る一方で、花子は我慢ならないと更に声を荒げた。
「せっかくお兄ちゃんの為に日向子姉ちゃんが作ってくれたタラの芽の天ぷらなのにっ!」
..!
日向子姉さんの作った
タラの芽の天ぷら...
「まぁまぁ花子。まだたくさんあるから大丈夫だよ。皆もたんとお食べ?禰豆子と一緒に取りに行ったのが豊作だったからね。」
ニコニコと笑みを浮かべながら、ザル一杯の天ぷらを持ち日向子姉さんがやってきた。
炭治郎の、大好物だった料理だ...
「いつも頑張ってくれてる炭治郎に食べて欲しくて、張り切って作ったんだよ。」
彼女は一つ天ぷらを箸 で持ち上げると、炭治郎の口元へと運んだ。
あぁ...誘惑に負けそうだ
今までこんな風に、日向子姉さんに甘えた事などなかったんだ
ーーーーー
〜111【現実世界へと】〜
彼女に差し出されたタラの芽の天ぷらに、
かじりつきそうになったその時。
っ!ー
突如ぼおっと炭治郎の体に炎がたち昇った。
花子達は驚き、動揺して泣き叫んでいる。
感じた..。禰豆子の血だ、禰豆子の匂いだ。
その炎がやがて収まりきると共に、隊服や日輪刀が現れ、現実世界の出立ちへと変わっていく。
それは、徐々に炭治郎の精神が覚醒している証拠だった。
心配そうに炭治郎を見つめる家族。
皆にしてやりたい事もたくさんあったなぁ。
いつまでもあの頃のように幸せに暮らせていたら、どんなに良かっただろうと今でも思う。
日向子姉さん、あの頃あの時切望した事もたくさんあった。
思春期を迎えて、少し照れ臭いなと思う事も、
本当は...
でも
日向子姉さんは現実世界で生きてる。
禰豆子も俺が守らないといけない。
母ちゃん、竹雄、花子、茂、六太
父さん...
例え夢でも、もう一度幸せそうな笑顔が見れて、良かったよ。俺は
炭治郎はすくりと立ち上がった。
「ごめん、行かないと。早く戻らないといけない」
家族が呼び止めるのを振り切り、炭治郎は外へと駆け出す。早く鬼の頚を切らなければ
「お兄ちゃんどこ行くの?」
禰豆子が炭治郎を呼び止める。
何も知らないような顔で、ただ純粋に。
母と六太も後からやってきた。
皆、炭治郎を引き戻さんとするかのように、
ここが夢の世界だと忘れさせるように、日常を演出する。
でももう、鬼の罠だと分かっている。
あぁ..これが、本当に最後だ。
そう思ったら、悔しくて苦しくて寂しくて、
油断したらまた、涙が溢れ出そうになった。
戻りたいなぁ..皆の元へ。
それが心の本音だった。でも
俺はもう失ったんだ
だから、前を向いて行かなきゃいけない
一切後ろを振り返らず、心の鎖を立ち切るように炭治郎は駆け出した。六太が置いて行かないでと泣き叫ぶ。途端、大粒の涙が溢れて散っていった。
みんな
ごめんなぁ
そしてありがとう
ーさよならだー..
炭治郎達が夢の中で格闘している一方で
日向子は最後車両と一体化した鬼を消滅させることに成功する。
だいぶ走行している列車との距離が出来てしまったが、列車である事が幸いした。
要は【線路を辿っていけば良いだけの話】
最も、日向子にとって身一つで置いて行かれた事はあまり重要ではない。それは星の呼吸の使い手だからだ。
そしてこの鬼の特性は、概ね把握した。
「もう少し辛抱して下さい、皆」
ーーーーー
夢を見せて貰える?
この乗客達は皆、既に鬼の手中という事なのか
見た所、子供達から鬼の気配はないが、明らかに様子がおかしい気がする。
もしかしたら鬼に洗脳されているのかもしれない。
仕方ない..ひとまず彼等には気絶しておいて貰うしか...刀に手を伸ばしたその時
っ!
鬼の気配を察知した。
彼等より更に後方部分にそれは現れた。攻撃をしてくるわけではないが、ギョロリとした目玉がぐるぐる動いて日向子を誘うように動く。
ダッと更に後ろの車両へと移動していく。
日向子は抜刀し、咄嗟に子供達を押し退いて鬼の後を追った。
逃すわけにはいかない。
炭治郎達の応援を待っている時間はない。
このままでは、更に鬼の餌食になる人々が増えてしまう。
最後車両に移動し日向子は鬼を間合いに捉えた。
日輪刀を振りかざし鬼の頚を..
「っ!」
すかっと空振る感覚に、状況を瞬時に観察すると鬼の図体が、車両へとずるずる吸収されていく。
どういう事だ。無機物に寄生する事が出来る鬼か?
やがて鬼は完全に姿を眩ましてしまった。
殺しに来る気がないのか。
だとしたら目的は...
ある憶測が脳裏を過ぎって、元来た後方を振り返った。しかし、あと一歩遅かったようだ。
子供達が、車両の接続部分を
切り離した。
途端にガタンと凄まじい音と共に慣性の法則で後ろへつんのめる。みるみるうちに日向子の乗っている車両は速度を失い、前の車両との距離が開けていく。
日向子だけを後方車両に誘導した理由は、この為だったのだ。
理由は恐らく、【(名前)には血鬼術が通用する可能性が極めて低いから】
多分、今回の鬼は弾丸戦を得意としない。
近距離戦や力技に自信があれば、こんなに回りくどい事はしない筈だ。
とすれば、日向子の体質はこの鬼にとって厄介この上ない。
用意周到に、じわりじわりと追い詰めていく。
ー炭治郎達が危ないー
「?...なぁ、何か後ろで音聞こえなかったか?」
「そうか?日向子姉さんに何かあったのかな。俺、ちょっと様子を」
音には人一倍敏感な善逸がそう問いかける。
それを聞いて不安に顔を曇らせた炭治郎が腰を上げようとした
その時、
「切符..拝見...致します...」
車掌がすぐ後ろに迫っていた。
流れがいまいちわからない炭治郎達は、煉獄の言う通り切符を差し出し切られた瞬間
ーなんだ、何か嫌な匂いがー
後方を見ると、
その場にいた全員が気付かぬうちに、
鬼が接近していた。
ーーーーー
〜109【夢の誘い】〜
「ふむ、その巨躯を隠していたのは血鬼術か!気配も探りづらかった、しかし!罪なき人に牙を剥こうならば、この煉獄の赫き炎刀がお前の骨を焼き尽くす!」
煉獄は自らの日輪刀を抜刀すると、型の構えを取る。
一瞬の出来事で、炎を纏った刀が正確に鬼の頚を切り裂いた。
さすがは柱だ。どしゃりと倒れた鬼の体はピクリともしなくなった。
炭治郎達は英雄を奉るかのようにやんややんやとお祭り騒ぎをした。
その光景は、側から見たら【異質】なものであった。
しかし誰一人、誰一人としてその異質に気付くものはいない。
既にこの車両にいる者達は、夢と現実の区別がつかなくなっていた。
そして炭治郎も、呆気なく瞼を閉じて眠り込んでしまった...
「うん、うん。ようやく眠りについたね。幸せな夢を見るといい。あの子もうまく巻いたみたいだ。本当に、血鬼術が効かない体質というのは厄介だねぇ..。まずは、他の鬼狩り達を早々に片付けよう。」
魘夢は余裕の表情で微笑んだ。
どんなに強い鬼狩りでも関係ない。
人間の本能は単純だ、精神はガラス細工のように脆い。
精神の核さえ破壊すれば、後は絶命させるのは容易い。
ーさぁ..君達は
どんな幸せな記憶を持っているのかな?
どんな幸せな夢を見るのかな?
とっても楽しみだなぁ...
そして、
その後はどん底に突き落としてあげる..ー
炭治郎は、気付けば見慣れた雪山の中にいた。
目の前には、炭治郎が生まれ育った家がある。
何故..自分はこんな所に立ち尽くしているのだろう。
炭も売り切ったのだから、早く帰ろう。
視界の向こうに花子と茂の姿が見えた。こちらに気付くと無邪気に二人は駆け寄ってくる。
「おかえり兄ちゃん!」
「炭売れたー?」
あぁ...何だろう
何故こんなにも、涙がとまらないのだ。
炭治郎は堪らず2人を抱き締めた。
「どうしたの炭治郎」
心痛な声色が炭治郎の耳をくすぐる。
涙で霞んだ眼をぐしと拭い見上げると、
日向子姉さんが心配そうに見つめていた。
日向子姉さん...
彼女はこちらに駆け寄ってくると、懐から手拭いを取り出して炭治郎の目元や頬を優しく拭った。
「疲れが溜まってたのかな..あなたには、いつも無理をさせてしまっててごめんね。今日はもう湯浴みして、ゆっくり休んでね。
さぁ、皆で家に帰ろう?」
日向子姉さんは綻ぶような笑顔で手を差し出す。
彼女の温もりが暖かかった。
あぁ...凄く...幸せだ。
ーーーーー
〜110【揺れ動く心】〜
「あれ..禰豆子は?」
炭治郎がそう問いかけると、竹雄が山菜を取りに行っていると答える。
「え、今昼間なのに?!」
突然大声で叫んだ炭治郎を不思議そうに見る弟と妹達。駄目なの?と花子が首を傾げた。
...確かに、
何で昼間だと駄目なんだっけ...?
やっぱり、俺は少し疲れてるんだろうか。
川へ向かう途中にそう考え込んでしまう。
自分の知らない記憶が、あるような気がする。
道中見かけた道具箱のような物も..
どこかで見覚えがあるような、でも
思い出せない。
時折、記憶が薄い
桶を持ち水面を見下ろした時、揺れる水面にはっきりともう1人の自分が映る。
まるで鏡で隔てられたような向こう側にいる自分が、必死に何かを訴えている。
何だ?聞こえない
何を伝えたがっているんだ
掻き消すようにざぶんと水を掻いた
瞬間、強い力でぐいと水底へと腕を引かれる。
ごぼごぼと水の中で空気の泡が音を立てる中、確かに炭治郎の耳に彼の言葉が届いた。
ー起きろっ!攻撃されてる!
夢だ!これは夢だ!目覚めろっ!
ー【起きて戦えっ!】ー
炭治郎はその瞬間全てを思い出した。
自分達は、鬼を倒す為に汽車の中にいた筈だ
皆、眠っているのか、日向子姉さん、姉さんは無事なのかっ!
ゴボリッー...
息苦しさに目を瞑ると、瞬いた瞬間にはまた
家の中に移動していた。
「ちょっと!何でそんなお兄ちゃんから食べ物取るのよ!」
目の前で花子と竹雄が痴話喧嘩をしている。
いつもの、いや...あの頃の平和な日常だ..。
駄目だ、まだ夢の中にいる。
どうしたら醒めるのだろう
炭治郎が焦る一方で、花子は我慢ならないと更に声を荒げた。
「せっかくお兄ちゃんの為に日向子姉ちゃんが作ってくれたタラの芽の天ぷらなのにっ!」
..!
日向子姉さんの作った
タラの芽の天ぷら...
「まぁまぁ花子。まだたくさんあるから大丈夫だよ。皆もたんとお食べ?禰豆子と一緒に取りに行ったのが豊作だったからね。」
ニコニコと笑みを浮かべながら、ザル一杯の天ぷらを持ち日向子姉さんがやってきた。
炭治郎の、大好物だった料理だ...
「いつも頑張ってくれてる炭治郎に食べて欲しくて、張り切って作ったんだよ。」
彼女は一つ天ぷらを
あぁ...誘惑に負けそうだ
今までこんな風に、日向子姉さんに甘えた事などなかったんだ
ーーーーー
〜111【現実世界へと】〜
彼女に差し出されたタラの芽の天ぷらに、
かじりつきそうになったその時。
っ!ー
突如ぼおっと炭治郎の体に炎がたち昇った。
花子達は驚き、動揺して泣き叫んでいる。
感じた..。禰豆子の血だ、禰豆子の匂いだ。
その炎がやがて収まりきると共に、隊服や日輪刀が現れ、現実世界の出立ちへと変わっていく。
それは、徐々に炭治郎の精神が覚醒している証拠だった。
心配そうに炭治郎を見つめる家族。
皆にしてやりたい事もたくさんあったなぁ。
いつまでもあの頃のように幸せに暮らせていたら、どんなに良かっただろうと今でも思う。
日向子姉さん、あの頃あの時切望した事もたくさんあった。
思春期を迎えて、少し照れ臭いなと思う事も、
本当は...
でも
日向子姉さんは現実世界で生きてる。
禰豆子も俺が守らないといけない。
母ちゃん、竹雄、花子、茂、六太
父さん...
例え夢でも、もう一度幸せそうな笑顔が見れて、良かったよ。俺は
炭治郎はすくりと立ち上がった。
「ごめん、行かないと。早く戻らないといけない」
家族が呼び止めるのを振り切り、炭治郎は外へと駆け出す。早く鬼の頚を切らなければ
「お兄ちゃんどこ行くの?」
禰豆子が炭治郎を呼び止める。
何も知らないような顔で、ただ純粋に。
母と六太も後からやってきた。
皆、炭治郎を引き戻さんとするかのように、
ここが夢の世界だと忘れさせるように、日常を演出する。
でももう、鬼の罠だと分かっている。
あぁ..これが、本当に最後だ。
そう思ったら、悔しくて苦しくて寂しくて、
油断したらまた、涙が溢れ出そうになった。
戻りたいなぁ..皆の元へ。
それが心の本音だった。でも
俺はもう失ったんだ
だから、前を向いて行かなきゃいけない
一切後ろを振り返らず、心の鎖を立ち切るように炭治郎は駆け出した。六太が置いて行かないでと泣き叫ぶ。途端、大粒の涙が溢れて散っていった。
みんな
ごめんなぁ
そしてありがとう
ーさよならだー..
炭治郎達が夢の中で格闘している一方で
日向子は最後車両と一体化した鬼を消滅させることに成功する。
だいぶ走行している列車との距離が出来てしまったが、列車である事が幸いした。
要は【線路を辿っていけば良いだけの話】
最も、日向子にとって身一つで置いて行かれた事はあまり重要ではない。それは星の呼吸の使い手だからだ。
そしてこの鬼の特性は、概ね把握した。
「もう少し辛抱して下さい、皆」
ーーーーー