◆第伍章 それぞれの想い
貴女のお名前を教えてください
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98〜【すれ違い】〜
「えっ...な、どうした?!」
突然の事にテンパり必死に彼女の背をさすり宥めるが、それが逆効果で嗚咽 を漏らしながら咽 び泣いてしまった。
彼女からは、寂しさと、焦り、そんな負の匂いが入り混じっている。
少なくとも、彼女がこうなってしまったのは自分の影響もあったのかもしれない。炭治郎は激しく後悔した。
「ごめんな。日向子姉さん...。落ち着いたら、思っている事聞かせてくれないか?とりあえず、部屋に戻ろう」
そう言うとふるふると彼女は首を振る。
「っまだ...ッ......訓練...っぅしなきゃ、」
この状況でも、訓練を続行しようというのか。
無理だ、とてもじゃないけれど、心が不安定過ぎてそれどころじゃ
「ぁー...炭治郎、泣かせたの?」
後ろを振り向くと、時透が無表情で佇んでいた。
少し..怒っているようだ。
彼は日向子姉さんの頭を一撫でして、猫撫で声でこう囁く。
「よしよし、可哀想にね日向子。
たくさん頑張ってるのに、あともう一歩の所で炭治郎に負けちゃったか。君はいい線いってるよ。才能あるから。だから、僕のとこにおいで?日向子。
僕なら、君を強くしてあげられる。妙な感情に揺さぶられることも無くね。」
彼がそう言うと、日向子姉さんは少し落ち着きを取り戻したようだった。
勿論、無性にこの状況は気に入らない。彼女を慰めたのが自分以外の男と思っただけで、黒い感情が満ちて来る。
でも...
今の炭治郎にはどうする事もできない。
彼女を、こうしてしまった元凶は、少なくとも自分にあるのだから。
どうかな?と再度時透が問いかけると、
日向子姉さんは、ゆっくりと頷いた。
それを見た瞬間、全身の血の気がひいていくような感覚に苛まれた。
「...…日向子姉さんッ..」
悲痛な炭治郎の呟きも虚しく、時透は彼女の肩を抱いて部屋を出て行ってしまった。
残された炭治郎は、ただ呆然とその後を見つめるしかなかった。
予想だにしない展開に、今日はひとまず訓練は中止という事になり、それからはどこを通って部屋に戻ってきたのかも記憶になく、ボスリとベッドに身を投げた。
炭治郎のそんな様子を見て、善逸はそっと声かける。
「大丈夫...じゃ無さそうだな。ずっと訓練サボってた俺が言うのもなんだけど、仕方ないよ。お前はすみちゃん達のサポートありきでここまで来た。彼女は、時透さんのサポートを受けて打破出来ればいい。そう、割り切るしかないだろ?」
あぁ、わかってるよ
ーーーーー
〜99【真っ直ぐな想い】〜
あぁ...やってしまった。
ひとしきり泣いて落ち着きを取り戻した日向子はふと我に帰る。あんな取り乱すつもりなどなかった。
時透様に手を引かれるがままに、空き部屋へと入れられる。
「少しは落ち着いた?」
「..はい。ごめんなさい。あんな見苦しい所をみせてしまって」
泣き腫らした顔を彼に見られたくなくて俯いていたのだが、目線を合わせるように屈まれてしまった。
日向子は恥ずかしさに顔を背けるが、無一郎は追うように彼女の目尻に指を滑らす。
「継子の件、返事貰ってないから聞きにこようと思って来たんだけど、今はそれはいいや。
何で泣いてたの?どうせ、炭治郎には話せない事なんでしょ..」
何故、彼はこんなに優しくしてくれるのだろう。
こんな風に接されたら、つい、甘えたくなってしまうではないか..
日向子は、自分でも処理しきれなかった心のわだかまりを、ポツリポツリと語り始めた。
「私は、強くならなきゃいけないのに、結局炭治郎が先に行ってしまいました。悔しかったし、情けなかった。
私自身も、彼に全集中常中の存在を教えられなかったら、カナヲさんの相手にすらならなかった。炭治郎に、一緒に鍛錬しないかと言われてたけど、私それを断ったんです。
彼はすみちゃん達と一緒に訓練してた。そこに入るのは何となく、嫌だったんです。だから自業自得なの。私の中の問題だから...。」
そう話すと、無一郎はみるみるうちに優しい眼差しから暗い瞳に変貌した。
「ねぇ..それってさ、
日向子は炭治郎の事が好きってこと?」
ストレートにそう言われて日向子は必死に否定する。
「いやっ、好きというか..
家族ですから、ただ寂しい気持ちになっただけだと思います。あと、置いてかれたような、疎外感というかっ..多分そんな感じだとおもっ
.....
今
何が起きたの
目の前に無一郎の翡翠色の瞳が迫った。
そして、一瞬で離れていったその温もりは、僅かに余韻を残していた。
その場所が
唇だと気付いたのは
一寸後の出来事だった。
途端にぶわりと顔が赤くなるのを感じる。
そんな日向子の様子を他所に、
無一郎は、怒っているような不満気のような
そんな表情をあからさまに貼り付けていた。
「日向子をそんな気持ちにさせられる炭治郎が、羨ましいよ。でも、悲しい気持ちにさせるのは許せない。俺なら...そんな気持ちにさせない。ねぇ、俺じゃ、駄目なの?」
無一郎は縋 るような眼差しで日向子を見つめた
ーーーーー
〜100【純粋なる拒絶】〜
日向子は真剣な眼差しを向ける無一郎にたじろぐ。
「一応確認したいのですが、それはどういう意味ですか?」
すると彼はしばらく考えて、こう返した。
「多分...僕は君に懸想 を抱いてるんだと思う。炭治郎よりも僕を頼って欲しいし、見てほしい。そういう意味で言ってる」
何がきっかけだったのかはわからないけど、どうも彼を、【本気】にさせてしまったらしい。
しかし...これとそれとは別で、
ちゃんと今の状況に向き合わなければいけない義務が日向子にはある。
ここで、無一郎を拠り所にしてしまっては、
それはただの逃げ、彼自身にも失礼だ。
「時透様のお気持ちは嬉しいです。でも、ごめんなさい。私、ちゃんと今の自分の素直な気持ちを炭治郎に言います。」
そう言うと、無一郎は悲しそうに眉を下げる。
「...日向子は真面目で、優し過ぎるよ。俺の事だって..利用してくれたっていいんだよ。それでもいいって思うんだ。日向子ならいいよ。」
しかし日向子はふるふると首を横に振った。
彼の誘いを受ける事は、即ち情を与えるだけ。
私はそんな、ずるい女にはなりたくない。
日向子は丁寧に頭を下げた。
「心の内を吐き出させて貰えて、お陰で元気が出ました。ありがとうございます。ただ、時透様の気持ちには答えられません。
ごめんなさい。私、誰かを頼るとか気持ちを吐くとか、あんまり得意じゃないけど、これから...頑張ります。
あと、継子の件もお断りしますね。あなたから習う事はたくさんあると思うし、凄く魅力的な誘いでしたが、あんまり他の人に入れ込むと、弟が機嫌を悪くしてしまうので」
日向子はへらりと笑いそう告げると、部屋を後にした。
その後ろ姿を無言で見送った無一郎は、
まるで別の人格が乗り移ったように、唇を噛んだ。
「...諦めるもんか」
一方、
未だに覇気のない炭治郎を見て、
いい加減にしろと喝を入れたのは意外にも伊之助だった。
思い切り頭をひっ叩く。あまりにも勢いがあり過ぎたので、いくら石頭の炭治郎とは言え、油断していた状態で悶絶 する。
「うじうじしてんじゃねぇよ男だろっ!!きな子に聞きたい事や言いたい事があるなら直接会って話してくればいいだろが!」
ふんすと鼻息を荒くしてそう叫ぶ伊之助。
お陰で炭治郎も吹っ切れた。
そうだ、このまま彼女を傷付けて放っておく方が、男として情けない話じゃないか。
「すまない伊之助、善逸、ありがとう。」
ーーーーー
〜101【不器用】〜
炭治郎は日向子の匂いを辿るように駆けた。
優等生のアオイに見つかったら廊下を走るなんて非常識ですと怒られそうだが、炭治郎はとにかく無我夢中だった。
日向子姉さんの気持ちが知りたい...
俺は善逸と違って無頓着だし、女心もわからない。
でも、彼女の事ならなんでも知りたいし、
知ろうと努力したい。
傷つけた原因が何なのか
俺のせいなら全身全霊で誠意を込めて謝罪したい。
大切な人に、そんな辛い思いをさせる等、情けない
彼女の匂いが徐々に濃くなっていく。
廊下の角を曲がり切ると、日向子姉さんもまた
こちらへ向かって走ってきていた。
お互い息を切らして、見つめ合う。
「日向子ね
「ごめんなさい!!」
バッと効果音がつきそうなくらい勢いよく頭を下げて先に謝られてしまう。
いや、いやいやいや!それは俺の台詞なんだけどな!
そう思って口を開こうとする前に、彼女は息継ぎすらせずに自分の事を炭治郎に話し始めた。
「私!炭治郎がすみちゃん達と稽古をしてるのを見てすっごく嫌だったの!あの子達に笑いかける炭治郎にもすっごく腹がたったの!
だから混ざりたくなかったの!どんどん全集中常中を我がモノにするあなたを見て、焦って置いてけぼりにされる疎外感を勝手に私が味わってたの!」
はぁはぁと肩で息をしながら、言ってやったという表情で炭治郎を真っ直ぐに見る日向子。
酸素不足から顔を真っ赤にする彼女とは、また別の意味で顔を赤くする炭治郎。
思わず手の平で口元を隠す。そうしないと、だらしない顔を作ってしまいそうだったから。
どうしよう....
一所懸命なのに、ほんとに不謹慎 な事を思って申し訳ないのだが
可愛いらしい
もの凄く嬉しい
だって、それはつまり
俺が他の女の子と一緒にいて嫉妬したと言うことだ。
なんていたいけなのだろう。
それをあからさまにせずに隠そうとしたなんて、なんていじらしいのだろう。
我慢出来なくて感情的になって、言葉で吐き出す前に身体が限界を訴えるなんて、なんて不器用なのだろう。
あぁ、好きな人に嫉妬されて嬉しくない男なんていない。
炭治郎も同じく頭を丁寧に下げた。
「俺も..気付かなくてごめん日向子姉さん。
明日からは一緒に訓練しよう?俺が教えるよ。善逸達も焦ってさ、また訓練再開するってやる気だ。
すみちゃん達からのお誘いや頂き物は丁重にお断りする。あなたが....嫌な思いをするくらいなら、俺もそれが一番嫌だから」
ーーーーー
「えっ...な、どうした?!」
突然の事にテンパり必死に彼女の背をさすり宥めるが、それが逆効果で
彼女からは、寂しさと、焦り、そんな負の匂いが入り混じっている。
少なくとも、彼女がこうなってしまったのは自分の影響もあったのかもしれない。炭治郎は激しく後悔した。
「ごめんな。日向子姉さん...。落ち着いたら、思っている事聞かせてくれないか?とりあえず、部屋に戻ろう」
そう言うとふるふると彼女は首を振る。
「っまだ...ッ......訓練...っぅしなきゃ、」
この状況でも、訓練を続行しようというのか。
無理だ、とてもじゃないけれど、心が不安定過ぎてそれどころじゃ
「ぁー...炭治郎、泣かせたの?」
後ろを振り向くと、時透が無表情で佇んでいた。
少し..怒っているようだ。
彼は日向子姉さんの頭を一撫でして、猫撫で声でこう囁く。
「よしよし、可哀想にね日向子。
たくさん頑張ってるのに、あともう一歩の所で炭治郎に負けちゃったか。君はいい線いってるよ。才能あるから。だから、僕のとこにおいで?日向子。
僕なら、君を強くしてあげられる。妙な感情に揺さぶられることも無くね。」
彼がそう言うと、日向子姉さんは少し落ち着きを取り戻したようだった。
勿論、無性にこの状況は気に入らない。彼女を慰めたのが自分以外の男と思っただけで、黒い感情が満ちて来る。
でも...
今の炭治郎にはどうする事もできない。
彼女を、こうしてしまった元凶は、少なくとも自分にあるのだから。
どうかな?と再度時透が問いかけると、
日向子姉さんは、ゆっくりと頷いた。
それを見た瞬間、全身の血の気がひいていくような感覚に苛まれた。
「...…日向子姉さんッ..」
悲痛な炭治郎の呟きも虚しく、時透は彼女の肩を抱いて部屋を出て行ってしまった。
残された炭治郎は、ただ呆然とその後を見つめるしかなかった。
予想だにしない展開に、今日はひとまず訓練は中止という事になり、それからはどこを通って部屋に戻ってきたのかも記憶になく、ボスリとベッドに身を投げた。
炭治郎のそんな様子を見て、善逸はそっと声かける。
「大丈夫...じゃ無さそうだな。ずっと訓練サボってた俺が言うのもなんだけど、仕方ないよ。お前はすみちゃん達のサポートありきでここまで来た。彼女は、時透さんのサポートを受けて打破出来ればいい。そう、割り切るしかないだろ?」
あぁ、わかってるよ
ーーーーー
〜99【真っ直ぐな想い】〜
あぁ...やってしまった。
ひとしきり泣いて落ち着きを取り戻した日向子はふと我に帰る。あんな取り乱すつもりなどなかった。
時透様に手を引かれるがままに、空き部屋へと入れられる。
「少しは落ち着いた?」
「..はい。ごめんなさい。あんな見苦しい所をみせてしまって」
泣き腫らした顔を彼に見られたくなくて俯いていたのだが、目線を合わせるように屈まれてしまった。
日向子は恥ずかしさに顔を背けるが、無一郎は追うように彼女の目尻に指を滑らす。
「継子の件、返事貰ってないから聞きにこようと思って来たんだけど、今はそれはいいや。
何で泣いてたの?どうせ、炭治郎には話せない事なんでしょ..」
何故、彼はこんなに優しくしてくれるのだろう。
こんな風に接されたら、つい、甘えたくなってしまうではないか..
日向子は、自分でも処理しきれなかった心のわだかまりを、ポツリポツリと語り始めた。
「私は、強くならなきゃいけないのに、結局炭治郎が先に行ってしまいました。悔しかったし、情けなかった。
私自身も、彼に全集中常中の存在を教えられなかったら、カナヲさんの相手にすらならなかった。炭治郎に、一緒に鍛錬しないかと言われてたけど、私それを断ったんです。
彼はすみちゃん達と一緒に訓練してた。そこに入るのは何となく、嫌だったんです。だから自業自得なの。私の中の問題だから...。」
そう話すと、無一郎はみるみるうちに優しい眼差しから暗い瞳に変貌した。
「ねぇ..それってさ、
日向子は炭治郎の事が好きってこと?」
ストレートにそう言われて日向子は必死に否定する。
「いやっ、好きというか..
家族ですから、ただ寂しい気持ちになっただけだと思います。あと、置いてかれたような、疎外感というかっ..多分そんな感じだとおもっ
.....
今
何が起きたの
目の前に無一郎の翡翠色の瞳が迫った。
そして、一瞬で離れていったその温もりは、僅かに余韻を残していた。
その場所が
唇だと気付いたのは
一寸後の出来事だった。
途端にぶわりと顔が赤くなるのを感じる。
そんな日向子の様子を他所に、
無一郎は、怒っているような不満気のような
そんな表情をあからさまに貼り付けていた。
「日向子をそんな気持ちにさせられる炭治郎が、羨ましいよ。でも、悲しい気持ちにさせるのは許せない。俺なら...そんな気持ちにさせない。ねぇ、俺じゃ、駄目なの?」
無一郎は
ーーーーー
〜100【純粋なる拒絶】〜
日向子は真剣な眼差しを向ける無一郎にたじろぐ。
「一応確認したいのですが、それはどういう意味ですか?」
すると彼はしばらく考えて、こう返した。
「多分...僕は君に
何がきっかけだったのかはわからないけど、どうも彼を、【本気】にさせてしまったらしい。
しかし...これとそれとは別で、
ちゃんと今の状況に向き合わなければいけない義務が日向子にはある。
ここで、無一郎を拠り所にしてしまっては、
それはただの逃げ、彼自身にも失礼だ。
「時透様のお気持ちは嬉しいです。でも、ごめんなさい。私、ちゃんと今の自分の素直な気持ちを炭治郎に言います。」
そう言うと、無一郎は悲しそうに眉を下げる。
「...日向子は真面目で、優し過ぎるよ。俺の事だって..利用してくれたっていいんだよ。それでもいいって思うんだ。日向子ならいいよ。」
しかし日向子はふるふると首を横に振った。
彼の誘いを受ける事は、即ち情を与えるだけ。
私はそんな、ずるい女にはなりたくない。
日向子は丁寧に頭を下げた。
「心の内を吐き出させて貰えて、お陰で元気が出ました。ありがとうございます。ただ、時透様の気持ちには答えられません。
ごめんなさい。私、誰かを頼るとか気持ちを吐くとか、あんまり得意じゃないけど、これから...頑張ります。
あと、継子の件もお断りしますね。あなたから習う事はたくさんあると思うし、凄く魅力的な誘いでしたが、あんまり他の人に入れ込むと、弟が機嫌を悪くしてしまうので」
日向子はへらりと笑いそう告げると、部屋を後にした。
その後ろ姿を無言で見送った無一郎は、
まるで別の人格が乗り移ったように、唇を噛んだ。
「...諦めるもんか」
一方、
未だに覇気のない炭治郎を見て、
いい加減にしろと喝を入れたのは意外にも伊之助だった。
思い切り頭をひっ叩く。あまりにも勢いがあり過ぎたので、いくら石頭の炭治郎とは言え、油断していた状態で
「うじうじしてんじゃねぇよ男だろっ!!きな子に聞きたい事や言いたい事があるなら直接会って話してくればいいだろが!」
ふんすと鼻息を荒くしてそう叫ぶ伊之助。
お陰で炭治郎も吹っ切れた。
そうだ、このまま彼女を傷付けて放っておく方が、男として情けない話じゃないか。
「すまない伊之助、善逸、ありがとう。」
ーーーーー
〜101【不器用】〜
炭治郎は日向子の匂いを辿るように駆けた。
優等生のアオイに見つかったら廊下を走るなんて非常識ですと怒られそうだが、炭治郎はとにかく無我夢中だった。
日向子姉さんの気持ちが知りたい...
俺は善逸と違って無頓着だし、女心もわからない。
でも、彼女の事ならなんでも知りたいし、
知ろうと努力したい。
傷つけた原因が何なのか
俺のせいなら全身全霊で誠意を込めて謝罪したい。
大切な人に、そんな辛い思いをさせる等、情けない
彼女の匂いが徐々に濃くなっていく。
廊下の角を曲がり切ると、日向子姉さんもまた
こちらへ向かって走ってきていた。
お互い息を切らして、見つめ合う。
「日向子ね
「ごめんなさい!!」
バッと効果音がつきそうなくらい勢いよく頭を下げて先に謝られてしまう。
いや、いやいやいや!それは俺の台詞なんだけどな!
そう思って口を開こうとする前に、彼女は息継ぎすらせずに自分の事を炭治郎に話し始めた。
「私!炭治郎がすみちゃん達と稽古をしてるのを見てすっごく嫌だったの!あの子達に笑いかける炭治郎にもすっごく腹がたったの!
だから混ざりたくなかったの!どんどん全集中常中を我がモノにするあなたを見て、焦って置いてけぼりにされる疎外感を勝手に私が味わってたの!」
はぁはぁと肩で息をしながら、言ってやったという表情で炭治郎を真っ直ぐに見る日向子。
酸素不足から顔を真っ赤にする彼女とは、また別の意味で顔を赤くする炭治郎。
思わず手の平で口元を隠す。そうしないと、だらしない顔を作ってしまいそうだったから。
どうしよう....
一所懸命なのに、ほんとに
可愛いらしい
もの凄く嬉しい
だって、それはつまり
俺が他の女の子と一緒にいて嫉妬したと言うことだ。
なんていたいけなのだろう。
それをあからさまにせずに隠そうとしたなんて、なんていじらしいのだろう。
我慢出来なくて感情的になって、言葉で吐き出す前に身体が限界を訴えるなんて、なんて不器用なのだろう。
あぁ、好きな人に嫉妬されて嬉しくない男なんていない。
炭治郎も同じく頭を丁寧に下げた。
「俺も..気付かなくてごめん日向子姉さん。
明日からは一緒に訓練しよう?俺が教えるよ。善逸達も焦ってさ、また訓練再開するってやる気だ。
すみちゃん達からのお誘いや頂き物は丁重にお断りする。あなたが....嫌な思いをするくらいなら、俺もそれが一番嫌だから」
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