◆第伍章 それぞれの想い
貴女のお名前を教えてください
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86〜【逸らし続けた】〜
日向子はずっと長い夢を見ていた気がした。
誰かが、自分に向かって呼び掛けていた感じがしたけど、体がどうしても言う事を聞かなくて、答えられなかったんだ。
目覚めたのは自分でも突然の事で、
ぼーっとした視界に映り込んだのは、愛しい弟の姿だったけれど、一瞬何が起こっているのか分からない程の、至近距離だった。
彼の吐息を感じた瞬間...
咄嗟に名前を呼んでしまった。
日向子とて年頃の娘だ。
そんなに鈍感なわけもない。
あのままされるがままだったなら、どうなっていたかくらい、わかる。
でも..
ごめんね、炭治郎。
本当は、あなたの【想い】に気付いてるんだ。私が倒れる度に、あなたが向ける言葉や眼差しは、あの時の誠一郎さんと瓜二つ。
私は、ただ怖い。何かが音を立てて崩れてしまう、そんな気がして..だから気付かないフリをしている。
あなたの意識を逸らせようとしている。
反射的に離れた炭治郎は、殆ど顔を見せる事なく、ましてや声をかける間もなく部屋から出ていってしまった。
どうしたら、いいのだろう
そんな事を悶々と考えていると、可愛らしい女の子達が部屋を訪ねてきた。
彼女が言うには、ここは胡蝶様のお屋敷で、日向子達の傷を癒す為の療養場所にされているのだと言う。
そうだ、彼等が助けに来てくれなかったら私達は今頃。
禰豆子の事も気になったが、彼女達はわかるだろうか?
テキパキと日向子の身の回りを世話して、寝着も汗で滲んでいたので着替える事になったのだが..
その時、コツコツと廊下を歩いてくる足音が部屋の前で止まる。声変わりしたて位の歳だろうか。
男の子の声だ。
誰だろう..聞いた事のない
すると1秒と経たない内に扉が開け放たれた。
突然の事に固まっていると、看護の女の子が急いで日向子の胸元に寝着を押し当てる。
扉の向こうに立っていたのは
「時透様...」
何故、柱の彼が此処にいるのだろうか。
途中色々とあったが、今は彼と2人きりで部屋にいる。心なしか、彼の眼差しはあまり良いものではない。
どちらかというと、嫌悪されている?
時透は、単刀直入にこう切り出す。
「改めて君の処遇をどうするか、先日の柱合会議で話し合われた。
結果は保留。君が目覚めたら、君の意思と覚悟を、僕の目で確認して検討する事を許された。これだけはね..絶対に譲れないんだ。
何故なら、瑠璃千代様のご意志だからね。」
師範...何故彼女の名前が
今ここで出て来るのだろう。
ーーーーーー
〜87【強き覚悟と意思】〜
「師範を知っているんですか?」
そう日向子が問いかけると、彼は愚問だと言いたげなように顔を歪めた。
「知っているも何も、僕は彼女の元継子だよ。知らないわけないだろ。
あと、気安く師範なんて呼ばないでくれないかな?言っておくけど、君が彼女から目をかけられているって事実も本当は気に入らないんだ。
ぽっと出の君が、瑠璃千代様から星の呼吸を教わるなんて...」
彼はそこまで言うと、乱した呼吸を整えるように息を吐いた。
「話が逸れたね。君は、何故鬼殺隊に入ったの?
以前護衛を拒否して家族の元に戻ったけれど、結局このザマじゃないか。
冨岡さん達が助けに向かわなかったら今頃その家族諸共死んでたんだよ。
結果、お館様や瑠璃千代様を裏切る事になっていたんだ。そんな事なら、君なんて本部に隔離して一切外には出さず、僕ら柱の力添えだけを存在理由に生きていた方がよっぽどマシだと思うよ?」
時透にそう捲し立てられた日向子は、全てが彼の言う通り、図星過ぎて、すぐには返答する事が出来なかった。
確かにそうだ。
己の願望の元動いたはいいが、結局守れないのでは意味がないし、助けられたのでは意味がない。
そんなものは結果、ただの足手纏いだ。
師範は、私の巫の力は特別な能力だと言った。
その力に甘えて、運良く生きながらえてきただけ。
しかし本当に必要な局面で発揮出来ないなんて事になってはならない。
でも..私は、守られているだけのお姫様になりたいわけでもなければ、
足手纏いの負け犬になりたいわけでもない。
大切な人達を守りたい。平和な世の中を作るため。
その為なら
「確かにこの結果、目も当てられませんよね。その自覚はあります。でも、私が鬼殺隊に入ったのは、大切な人達をこの手で守る為です。
それは家族だけじゃない、幸せでなければいけない..この世の全ての生き物達の為です。過去も未来も、この負の連鎖を断ち切れるまで、私は諦めません。
強くなる為にどんな事もやります。弱音だって吐かない。ですからどうか、私を今まで通り前線に置いてください。」
日向子はまっすぐに時透を見つめる。
彼は正直なところ、彼女の心を折ってやるつもりでここに来た。敢えて言葉に圧迫感を加えた。
自分のせいで多くの人間を巻き込んでいる事。
世の中の存亡さえかかっているのだという事。
この二つを突きつけてやれば、呆気ないと思ってた。
けれど違った。
この子は...尚もこんなに強い眼差しを向けるというのか
ーーーーー
〜88【晴れゆく霞】〜
「私は、不条理なこの世界が嫌いなんです。真っ当に生き努力してきた人間は、報われなければいけないし、心の優しい人は幸せにならなきゃおかしい。
絵空事だと馬鹿にされても、無駄だとか、無意味だと言われても、私はそんな正しい世界を創り出せると信じてます。
だから..お願いです。私に時間を下さい。必ず、力をつけて見せますから。」
日向子は病み上がりの身体を起こし、ベッドの上で首を垂れ手をついた。
無一郎は無言でその様子を見つめていた。
なんだか、朧げな記憶の中に
彼女と自分の姿が重なって見えた気がした。
でも決定的に違う部分がある。
彼女は、例え世界に否定されても、
諦めていない。
不条理に呑まれた人々を救済する為に、
己が身を投げ打ってでも、真理を追い求めようとしている。
なんて、強い.....
脱帽 だった。
いくら才能があると言われても
稀少な血筋だと崇められても、剣術を認められても、そんな物は、ただただお飾りに過ぎないと日向子を見ると実感してしまう。
俺なんかよりも断然
ー..無一郎.. 正しく生き信念を持ちなさい。
他人を思いやり優しさを分け与えるのです。そしたらきっと、人は応えてくれますから。あなたは【そういう子】です。ー..
瑠璃千代様に言われた言葉を思い出す。
そうか..わかったよ
だからあなたは、この子を手塩にかけたんだね。
力があるとか無いとか、
礼儀知らずだの恩知らずだのとか、
そんな事は関係なかったんだ。
「顔、あげていいよ」
そう言うと、彼女は恐る恐る無一郎の顔を見上げた。
「..お館様と柱の皆には伝えておく。君を今まで通り鬼殺隊士として、前線に置く事を許可する。そのかわり、僕らは君の事をあからさまに護ったりしないよ。
君は、自分の力で生きるんだ。その覚悟があると、見ていいんだよね?日向子」
大して喜ぶ事を言ったつもりもないのに、
彼女は蔓延の笑みでありがとうございますと丁寧に礼を言った。
言えた義理じゃないけど、不思議な子だなぁと思う。
微笑んだ顔が、少し..瑠璃千代様に似ていて調子が狂う。
「時透様」
「?..」
用が済んだ無一郎がその場を去ろうとした時だった。
「いつかあなたの霞も、晴らす事が出来たらいいです」
.....
え?
ふわりと笑った彼女が、何を意図して言ったのかわからない。
でも、何だろうか。
胸の奥が物凄く暖かく感じられた。
この感覚を、僕は知らない..。
ーーーーー
〜89【自己紹介】〜
「ねぇ、日向子。
さっき力が欲しいと言ってたよね?」
「っ、はい!」
ぴしりと背を正す彼女に、無一郎はとんでもない事を提案する。
「なら、僕の継子になる?」
....
日向子は目を丸くした。
彼は、本気で言っているのだろうか?
先程まであれほど日向子を蔑 んでいた彼が?
動揺して言葉に詰まっていると、
扉が急に開いて炭治郎と善逸が雪崩れ込んできた。
その様子を一瞥した時透は軽い溜息をつく。
「バレてないと思った?
大方全部聞き耳を立ててたんだろうけど、お陰で説明がはぶけたからいいや。」
炭治郎は複雑そうな表情で時透を見上げた。
心なしか冷や汗が滲み出ている気がする。
無一郎は彼女の方へ向き直った。
「じゃあそういう事だから。考えておいてね?日向子」
今まで見た事がない程の笑みを見せると、
彼は颯爽 とその場を去って行った。
残された日向子はほぼ放心状態、炭治郎は無言を貫き、善逸はと言うと..
「だーーっ重い早くどけよ炭治郎!」
我慢ならないというように善逸が起き上がろうとすると、慌てて炭治郎は謝り彼の上から退いた。
ハッとしたように日向子は彼等を見る。
「聞いてたんだね2人とも。」
罰が悪そうな態度をとる2人は揃って顔を見合わせて謝罪した。
炭治郎は言うか言うまいか何かを迷っているようだったけど、ついに口を開く。
「日向子姉さん。彼の、継子になるのか?」
不安げにそう尋ねる炭治郎に、日向子はうーんと唸ってやがてこう答えた。
「少し考えようかなとは思ってるよ。
もっと力が欲しいのは事実だし、彼等から学べる事はたくさんある筈だからね。私もびっくりだけど、せっかく時透様がそう仰ってくださるなら。」
悪気なくそう話すと炭治郎は少し悲しそうにそうかと呟いた。
隣の善逸はハラハラした様に2人を交互に見ている。
「あ、そう言えば善逸君は初めましてだよね?
私は、竈門日向子。炭治郎と禰豆子の姉です。宜しくね?」
ふわりと笑って彼女は善逸に手を差し出した。
びくりと肩を震わした善逸は、隣に炭治郎がいると分かっていても、ついだらしない笑顔を作って、日向子の手を懇切丁寧に握り返した。
しかし、にへら顔を浮かべていられたのも束の間。
隣で炭治郎が物凄くおぞましい音を立てるものだから、善逸はみるみる内に顔を青くして咄嗟に手放す羽目になったのだ。
厄介な事だなぁと善逸は密かに心の中で悪態をついた。
ーーーーー
日向子はずっと長い夢を見ていた気がした。
誰かが、自分に向かって呼び掛けていた感じがしたけど、体がどうしても言う事を聞かなくて、答えられなかったんだ。
目覚めたのは自分でも突然の事で、
ぼーっとした視界に映り込んだのは、愛しい弟の姿だったけれど、一瞬何が起こっているのか分からない程の、至近距離だった。
彼の吐息を感じた瞬間...
咄嗟に名前を呼んでしまった。
日向子とて年頃の娘だ。
そんなに鈍感なわけもない。
あのままされるがままだったなら、どうなっていたかくらい、わかる。
でも..
ごめんね、炭治郎。
本当は、あなたの【想い】に気付いてるんだ。私が倒れる度に、あなたが向ける言葉や眼差しは、あの時の誠一郎さんと瓜二つ。
私は、ただ怖い。何かが音を立てて崩れてしまう、そんな気がして..だから気付かないフリをしている。
あなたの意識を逸らせようとしている。
反射的に離れた炭治郎は、殆ど顔を見せる事なく、ましてや声をかける間もなく部屋から出ていってしまった。
どうしたら、いいのだろう
そんな事を悶々と考えていると、可愛らしい女の子達が部屋を訪ねてきた。
彼女が言うには、ここは胡蝶様のお屋敷で、日向子達の傷を癒す為の療養場所にされているのだと言う。
そうだ、彼等が助けに来てくれなかったら私達は今頃。
禰豆子の事も気になったが、彼女達はわかるだろうか?
テキパキと日向子の身の回りを世話して、寝着も汗で滲んでいたので着替える事になったのだが..
その時、コツコツと廊下を歩いてくる足音が部屋の前で止まる。声変わりしたて位の歳だろうか。
男の子の声だ。
誰だろう..聞いた事のない
すると1秒と経たない内に扉が開け放たれた。
突然の事に固まっていると、看護の女の子が急いで日向子の胸元に寝着を押し当てる。
扉の向こうに立っていたのは
「時透様...」
何故、柱の彼が此処にいるのだろうか。
途中色々とあったが、今は彼と2人きりで部屋にいる。心なしか、彼の眼差しはあまり良いものではない。
どちらかというと、嫌悪されている?
時透は、単刀直入にこう切り出す。
「改めて君の処遇をどうするか、先日の柱合会議で話し合われた。
結果は保留。君が目覚めたら、君の意思と覚悟を、僕の目で確認して検討する事を許された。これだけはね..絶対に譲れないんだ。
何故なら、瑠璃千代様のご意志だからね。」
師範...何故彼女の名前が
今ここで出て来るのだろう。
ーーーーーー
〜87【強き覚悟と意思】〜
「師範を知っているんですか?」
そう日向子が問いかけると、彼は愚問だと言いたげなように顔を歪めた。
「知っているも何も、僕は彼女の元継子だよ。知らないわけないだろ。
あと、気安く師範なんて呼ばないでくれないかな?言っておくけど、君が彼女から目をかけられているって事実も本当は気に入らないんだ。
ぽっと出の君が、瑠璃千代様から星の呼吸を教わるなんて...」
彼はそこまで言うと、乱した呼吸を整えるように息を吐いた。
「話が逸れたね。君は、何故鬼殺隊に入ったの?
以前護衛を拒否して家族の元に戻ったけれど、結局このザマじゃないか。
冨岡さん達が助けに向かわなかったら今頃その家族諸共死んでたんだよ。
結果、お館様や瑠璃千代様を裏切る事になっていたんだ。そんな事なら、君なんて本部に隔離して一切外には出さず、僕ら柱の力添えだけを存在理由に生きていた方がよっぽどマシだと思うよ?」
時透にそう捲し立てられた日向子は、全てが彼の言う通り、図星過ぎて、すぐには返答する事が出来なかった。
確かにそうだ。
己の願望の元動いたはいいが、結局守れないのでは意味がないし、助けられたのでは意味がない。
そんなものは結果、ただの足手纏いだ。
師範は、私の巫の力は特別な能力だと言った。
その力に甘えて、運良く生きながらえてきただけ。
しかし本当に必要な局面で発揮出来ないなんて事になってはならない。
でも..私は、守られているだけのお姫様になりたいわけでもなければ、
足手纏いの負け犬になりたいわけでもない。
大切な人達を守りたい。平和な世の中を作るため。
その為なら
「確かにこの結果、目も当てられませんよね。その自覚はあります。でも、私が鬼殺隊に入ったのは、大切な人達をこの手で守る為です。
それは家族だけじゃない、幸せでなければいけない..この世の全ての生き物達の為です。過去も未来も、この負の連鎖を断ち切れるまで、私は諦めません。
強くなる為にどんな事もやります。弱音だって吐かない。ですからどうか、私を今まで通り前線に置いてください。」
日向子はまっすぐに時透を見つめる。
彼は正直なところ、彼女の心を折ってやるつもりでここに来た。敢えて言葉に圧迫感を加えた。
自分のせいで多くの人間を巻き込んでいる事。
世の中の存亡さえかかっているのだという事。
この二つを突きつけてやれば、呆気ないと思ってた。
けれど違った。
この子は...尚もこんなに強い眼差しを向けるというのか
ーーーーー
〜88【晴れゆく霞】〜
「私は、不条理なこの世界が嫌いなんです。真っ当に生き努力してきた人間は、報われなければいけないし、心の優しい人は幸せにならなきゃおかしい。
絵空事だと馬鹿にされても、無駄だとか、無意味だと言われても、私はそんな正しい世界を創り出せると信じてます。
だから..お願いです。私に時間を下さい。必ず、力をつけて見せますから。」
日向子は病み上がりの身体を起こし、ベッドの上で首を垂れ手をついた。
無一郎は無言でその様子を見つめていた。
なんだか、朧げな記憶の中に
彼女と自分の姿が重なって見えた気がした。
でも決定的に違う部分がある。
彼女は、例え世界に否定されても、
諦めていない。
不条理に呑まれた人々を救済する為に、
己が身を投げ打ってでも、真理を追い求めようとしている。
なんて、強い.....
いくら才能があると言われても
稀少な血筋だと崇められても、剣術を認められても、そんな物は、ただただお飾りに過ぎないと日向子を見ると実感してしまう。
俺なんかよりも断然
ー..無一郎.. 正しく生き信念を持ちなさい。
他人を思いやり優しさを分け与えるのです。そしたらきっと、人は応えてくれますから。あなたは【そういう子】です。ー..
瑠璃千代様に言われた言葉を思い出す。
そうか..わかったよ
だからあなたは、この子を手塩にかけたんだね。
力があるとか無いとか、
礼儀知らずだの恩知らずだのとか、
そんな事は関係なかったんだ。
「顔、あげていいよ」
そう言うと、彼女は恐る恐る無一郎の顔を見上げた。
「..お館様と柱の皆には伝えておく。君を今まで通り鬼殺隊士として、前線に置く事を許可する。そのかわり、僕らは君の事をあからさまに護ったりしないよ。
君は、自分の力で生きるんだ。その覚悟があると、見ていいんだよね?日向子」
大して喜ぶ事を言ったつもりもないのに、
彼女は蔓延の笑みでありがとうございますと丁寧に礼を言った。
言えた義理じゃないけど、不思議な子だなぁと思う。
微笑んだ顔が、少し..瑠璃千代様に似ていて調子が狂う。
「時透様」
「?..」
用が済んだ無一郎がその場を去ろうとした時だった。
「いつかあなたの霞も、晴らす事が出来たらいいです」
.....
え?
ふわりと笑った彼女が、何を意図して言ったのかわからない。
でも、何だろうか。
胸の奥が物凄く暖かく感じられた。
この感覚を、僕は知らない..。
ーーーーー
〜89【自己紹介】〜
「ねぇ、日向子。
さっき力が欲しいと言ってたよね?」
「っ、はい!」
ぴしりと背を正す彼女に、無一郎はとんでもない事を提案する。
「なら、僕の継子になる?」
....
日向子は目を丸くした。
彼は、本気で言っているのだろうか?
先程まであれほど日向子を
動揺して言葉に詰まっていると、
扉が急に開いて炭治郎と善逸が雪崩れ込んできた。
その様子を一瞥した時透は軽い溜息をつく。
「バレてないと思った?
大方全部聞き耳を立ててたんだろうけど、お陰で説明がはぶけたからいいや。」
炭治郎は複雑そうな表情で時透を見上げた。
心なしか冷や汗が滲み出ている気がする。
無一郎は彼女の方へ向き直った。
「じゃあそういう事だから。考えておいてね?日向子」
今まで見た事がない程の笑みを見せると、
彼は
残された日向子はほぼ放心状態、炭治郎は無言を貫き、善逸はと言うと..
「だーーっ重い早くどけよ炭治郎!」
我慢ならないというように善逸が起き上がろうとすると、慌てて炭治郎は謝り彼の上から退いた。
ハッとしたように日向子は彼等を見る。
「聞いてたんだね2人とも。」
罰が悪そうな態度をとる2人は揃って顔を見合わせて謝罪した。
炭治郎は言うか言うまいか何かを迷っているようだったけど、ついに口を開く。
「日向子姉さん。彼の、継子になるのか?」
不安げにそう尋ねる炭治郎に、日向子はうーんと唸ってやがてこう答えた。
「少し考えようかなとは思ってるよ。
もっと力が欲しいのは事実だし、彼等から学べる事はたくさんある筈だからね。私もびっくりだけど、せっかく時透様がそう仰ってくださるなら。」
悪気なくそう話すと炭治郎は少し悲しそうにそうかと呟いた。
隣の善逸はハラハラした様に2人を交互に見ている。
「あ、そう言えば善逸君は初めましてだよね?
私は、竈門日向子。炭治郎と禰豆子の姉です。宜しくね?」
ふわりと笑って彼女は善逸に手を差し出した。
びくりと肩を震わした善逸は、隣に炭治郎がいると分かっていても、ついだらしない笑顔を作って、日向子の手を懇切丁寧に握り返した。
しかし、にへら顔を浮かべていられたのも束の間。
隣で炭治郎が物凄くおぞましい音を立てるものだから、善逸はみるみる内に顔を青くして咄嗟に手放す羽目になったのだ。
厄介な事だなぁと善逸は密かに心の中で悪態をついた。
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