◆第伍章 それぞれの想い
貴女のお名前を教えてください
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〜82【切なき葛藤】〜
日向子姉さんの気持ちはわかるよ
家族を目の前で殺され、禰豆子も鬼なんかにされて..あなたの性格なら、黙ってないだろう。
自分の手で終わらせたい。
ましてや宿命がある立場と知って
それを全うしないような弱い人でも無責任な人でもないから..
強くなろうと必死に努力したのだろう。
那田蜘蛛山での再会で感じた雰囲気は勿論、
残りの二つの型も宣言通り会得して帰ってきた。
凄いお人だ..尊敬するよ。
でも
「あなたは、俺達竈門家のたった1人の..姉さんなんだ。代わりは他にいないんだ。」
だから奪わないでくれ..
いや
奪わせない
誰にも、例え相手が神であったとしても
炭治郎は彼女の手を握る。
脈を確認すると、トクトクという脈動が感じられた。
あぁ、ちゃんと生きているよ
日向子姉さん
あなたが傷つくたび、瀕死の状態になる度に
俺はある思いに掻き立てられるんだ。
あなたが死んでしまうのかもしれない。
俺が死んでしまうのかもしれない。
永遠の別れというものが脳裏をよぎった時。
後悔するんだ。
それは、守れなかった..こうしたら良かったのにとか、そういう後悔も勿論あるけれど
また別の..情けないくらい単純な
人間の本能だ。
炭治郎は吸い寄せられるように、彼女へと自分の顔を近づけて行った。
こんなにボロボロでも、変わらずに綺麗な顔をしているなと、ぼんやり思った。
彼女が起きている時じゃ、とてもじゃないけれどこんなに近くで顔を見つめるなんて出来やしない。
早鐘のように鳴る心臓に耐えられる気がしないからだ。
ちょっとずるいとは頭ではわかっているけれど、身体が欲してしまうのだから..仕方ないんだ。
微かに漏れ出る寝息。
ほのかに淡く色付く唇。
長く伸びるようなまつ毛。
彫刻のように整った目鼻立ち。
散るようにシーツの上を流れる絹糸の髪。
そして
絶え間なく鼻を掠める日溜りの香り...
あぁ、どうしよう
駄目だぞ炭治郎
我慢しろ
我慢だ
必死に理性を叩き起こすも、
彼女のそれらから全く目が逸らせない。
気付けばドクドクと脈打つ心臓も、無視出来ない物になっていた。
彼女は寝ているから..気付かないさ
大丈夫だ、少しだけなら...
そんな悪魔のような囁 きが頭の中に響くようだ
前のめりになっているからか、ギシリとベッドが軋んだ。
どうしようもなく、いけない事をしているような背徳感。
だがかえってそれが..
炭治郎の興奮に拍車をかける結果となってしまっていた。
ーーーーー
〜83【甘い】〜
「炭治郎..」
「ッ!!....」
鼻先と鼻先が掠めそうな距離まで近付いた時。
微かに彼女の声が聞こえ炭治郎は咄嗟に顔を仰け反らせた。
トロンとした焦点の合わない眼差しで炭治郎を見上げる日向子は、ゆっくりと首を回して辺りを見回す。
「ここは..?」
「ぁっ..俺、人を呼んでくるよ」
ガタリと椅子が倒れたのも気にも止めずに、
炭治郎は逃げるように部屋を後にした。
とにかく、この場に居続ける事が出来なかった。
彼女は、いつから目覚めていたんだ?
どこから聞いてた?見ていた?
俺は
ー日向子姉さんに何をしようとしていたー
アオイ達のいる部屋へと雪崩 れ込む炭治郎。
突然の出来事に、看護の少女達数人が一斉に扉の方へ目を向けた。
「どうされました?日向子様の部屋に行っていたのですよね?ひょっとして急変でも」
アオイがみるみる険しい顔つきになり、ただ事ではないのではと救急箱をかき集めて炭治郎に駆け寄る。
「違いますっ!彼女が目覚めたので、知らせようと思いまして」
そう言う炭治郎を見て、アオイは彼の様子が少しおかしい事に気付いた。
「あの、顔が真っ赤ですけど、また調子をおかしくしましたか?絶対安静と言いましたのにまさか隠れて鍛錬でも
「やってません!大丈夫ですから本当に..日向子姉さんをお願いします」
彼女は訝しげに炭治郎を見るも、アオイは側にいた数人の少女を連れて部屋を出て行った。
バタバタと足音が遠のいていくのを聞いて、炭治郎は1人残された部屋の中でずるずると腰を落とした。
まだ、心臓がバクバクと音を立てて鳴り止まない。
顔が熱い。
呼吸を整えようと必死に深呼吸をしたが、効果はあまりないように思えた。
最悪だ...
あの時、とても言い訳出来るような状況ではないところまで行ってしまったような気がする。
炭治郎自身も無意識な状態だった。
もし彼女に、炭治郎がしようとしてた事がバレてしまっていたらと思うと
「おーい炭治郎?凄い音が聞こえたけど、何かあって」
徐々に手足も伸びてきて、自力で歩行が出来るようになった善逸がひょいと扉から顔を出す。
そして善逸は、炭治郎から聞こえてくる音を聴くや否や、驚きに目を瞬かせた。
「え...お前、どうしたの。」
「っ.....」
炭治郎は咄嗟に顔を背ける様な素振りをみせるが、善逸には何の意味もない事だった。
彼からは、信じられない程に
甘く動揺したような音が響いてきたのだ
ーーーーー
〜84【隠し通さねばならぬ想い】〜
炭治郎から今まで聞いた事もない音を聞いて、
善逸はどうしたものかと言葉に詰まる。
一体何があったのだろうか。確か彼は、姉の日向子さんの様子を見に行ったと言っていたけれど
「日向子さんと何かあったの?」
ストレートにも善逸はこう聞いてしまった。
そして後悔した。
みるみるうちに炭治郎の音が大きくなっていったからだ。
善逸は、顔こそ見た事はないが
炭治郎から彼女の話は聞いていた。
幼い頃から共に暮らしてきた家族で、
実は日向子さんは巫一族という、特別な血を継いだ家系の末裔なのだと言うこと。
だから、敢えて聞かなかったけれど
薄々竈門家とは血が繋がっていないのだろうなぁと思ってたし、実のところそんな女の子と一つ屋根の下に住んでいたなんて、くっそ羨ましいな炭治郎この野郎と思ってたけど。
確かに、炭治郎が日向子さんの事を話す時は、凄く心地よい優しい音がしていた。
ただ、家族なんだという思いが強いように思ったから、【そういう】対象に想っていたとは思わなかったんだ。
「とりあえず落ち着こう炭治郎。悪いけど...
俺、音でわかっちゃうからさ。
伊之助や他の人には誰にも言わないよ。
何となくだけど、あまり公にするつもりないんだろ?」
「善逸...。ありがとう。」
ようやく少し落ち着いた炭治郎は、
善逸の言葉を聞いて力無く項垂れた。
「俺、寝ている日向子姉さんに..」
「...まさか、触ろうとしたのか?それはさすがに」
顔を赤くしてそうじゃない、いや違わな..いや、と口ごもり慌てて否定する炭治郎。
直接的に言わないからよくわからないけれど
「..なるほど、接吻 しそうになったとそういう事か。」
彼の言う事をなんとか要約するとそういうことになる。
羞恥で縮こまり泣きそうになってる彼を見ると、なんと初心で歯痒いのだろうと思うけど、善逸からすれば彼の様子はごくごく当たり前なんじゃないかと思う。
「好きな女の子なら当たり前だろ?
お前何もおかしくないよ。仕方ないって..」
そう炭治郎を励ましたつもりだったが、これじゃ駄目なんだと首を横に振る。
彼女は、炭治郎の事を家族と思っている。
だからこの想いは、隠し通さなければいけないのだと。
こんな事で今、彼女を惑わすわけにはいかないのだと言う。
いや....でもそれって
炭治郎、お前はかなり酷だよなぁ
「ちょっ..時透様!!困ります。まだ彼女は目覚めたばかりで」
そんな慌ただしい声が聞こえてきた。
ーーーーー
〜85【訪問者】〜
何事かと廊下へ顔を出すと、ちょうど柱の時透無一郎が前を横切った。
彼は一目散に日向子のいる部屋の前へと向かう。
引き止めようと後を追うアオイ達には目もくれない。
「竈門日向子、入るよ?」
彼は形状声を掛けたのみで、中から返答が来る前に扉のノブへと手を掛けて捻った。
中にいた看護の少女はぎょっとした様子で、慌てて日向子の胸元を隠す。
「あぁごめん。着替えてたの?君は席を外してくれる?彼女と2人で話があるんだ」
時透は全く動じた様子を見せず淡々とした声色でそう発した。
とにかく衣類を整えるから外へ出ていてくれと言われた時透は仕方なく廊下へ戻る。
「あれ、炭治郎じゃない。もう動けるようになったんだ。良かったね。」
炭治郎に気付くや否やそう言う時透に対して、彼は無遠慮に怒りの篭った眼差しを向ける。
「日向子姉さんは、今し方目が覚めたばかりなんです。そんなに急いで話さなければいけない内容何ですか?
いくら柱とは言え、そんな無礼はあんまりだと思います。」
彼が柱だと知った善逸はひっと悲鳴を上げて遠くのドアの影に身を隠す。
時透は無気力な表情のまま、尚も睨んでくる炭治郎を見つめ返した。
「これは彼女の為の話でもあるんだよ。
柱の殆どはね、日向子を本部に縛りつけたがっている。
そんなの、鬼殺隊じゃないよね?ただの箱入り娘だよ。ただ俺は、彼女の覚悟が見たいんだ」
そろりと中から世話役の少女が出てきて、時透を中へ招く。
「炭治郎は帰っていいよ。僕と彼女で話す事だから」
それでも納得いかない様子で炭治郎はその場を動かない。
「炭治郎、大丈夫だから。彼と2人で話すよ。少しだけ、外で待っててくれる?」
優しくそう彼女がさとすと、テコでも動かなかった炭治郎が渋々ではあるが引いた。
改めて、彼にとって日向子の影響力は物凄いのだなと善逸は実感する。
それにしても...
あの炭治郎が夢中になる女性がどういう人なのかずっと気になっていたわけだけど。
なるほど、少なくとも見た目で言えば、
これは惚れるわけだなぁと思う。
禰豆子ちゃんは可憐な女の子という印象だけれど、彼女は俗に言う聖女のような儚げで美しい女性だった。
そして発せられてくる音も、心地が良い...
何だろう。
美しい自然の中に身を置いているような、そんな心地良さ。
時透がドアを締め切ると、
居ても立っても居られず、炭治郎と共に聞き耳を立てる事にした。
ーーーーー
日向子姉さんの気持ちはわかるよ
家族を目の前で殺され、禰豆子も鬼なんかにされて..あなたの性格なら、黙ってないだろう。
自分の手で終わらせたい。
ましてや宿命がある立場と知って
それを全うしないような弱い人でも無責任な人でもないから..
強くなろうと必死に努力したのだろう。
那田蜘蛛山での再会で感じた雰囲気は勿論、
残りの二つの型も宣言通り会得して帰ってきた。
凄いお人だ..尊敬するよ。
でも
「あなたは、俺達竈門家のたった1人の..姉さんなんだ。代わりは他にいないんだ。」
だから奪わないでくれ..
いや
奪わせない
誰にも、例え相手が神であったとしても
炭治郎は彼女の手を握る。
脈を確認すると、トクトクという脈動が感じられた。
あぁ、ちゃんと生きているよ
日向子姉さん
あなたが傷つくたび、瀕死の状態になる度に
俺はある思いに掻き立てられるんだ。
あなたが死んでしまうのかもしれない。
俺が死んでしまうのかもしれない。
永遠の別れというものが脳裏をよぎった時。
後悔するんだ。
それは、守れなかった..こうしたら良かったのにとか、そういう後悔も勿論あるけれど
また別の..情けないくらい単純な
人間の本能だ。
炭治郎は吸い寄せられるように、彼女へと自分の顔を近づけて行った。
こんなにボロボロでも、変わらずに綺麗な顔をしているなと、ぼんやり思った。
彼女が起きている時じゃ、とてもじゃないけれどこんなに近くで顔を見つめるなんて出来やしない。
早鐘のように鳴る心臓に耐えられる気がしないからだ。
ちょっとずるいとは頭ではわかっているけれど、身体が欲してしまうのだから..仕方ないんだ。
微かに漏れ出る寝息。
ほのかに淡く色付く唇。
長く伸びるようなまつ毛。
彫刻のように整った目鼻立ち。
散るようにシーツの上を流れる絹糸の髪。
そして
絶え間なく鼻を掠める日溜りの香り...
あぁ、どうしよう
駄目だぞ炭治郎
我慢しろ
我慢だ
必死に理性を叩き起こすも、
彼女のそれらから全く目が逸らせない。
気付けばドクドクと脈打つ心臓も、無視出来ない物になっていた。
彼女は寝ているから..気付かないさ
大丈夫だ、少しだけなら...
そんな悪魔のような
前のめりになっているからか、ギシリとベッドが軋んだ。
どうしようもなく、いけない事をしているような背徳感。
だがかえってそれが..
炭治郎の興奮に拍車をかける結果となってしまっていた。
ーーーーー
〜83【甘い】〜
「炭治郎..」
「ッ!!....」
鼻先と鼻先が掠めそうな距離まで近付いた時。
微かに彼女の声が聞こえ炭治郎は咄嗟に顔を仰け反らせた。
トロンとした焦点の合わない眼差しで炭治郎を見上げる日向子は、ゆっくりと首を回して辺りを見回す。
「ここは..?」
「ぁっ..俺、人を呼んでくるよ」
ガタリと椅子が倒れたのも気にも止めずに、
炭治郎は逃げるように部屋を後にした。
とにかく、この場に居続ける事が出来なかった。
彼女は、いつから目覚めていたんだ?
どこから聞いてた?見ていた?
俺は
ー日向子姉さんに何をしようとしていたー
アオイ達のいる部屋へと
突然の出来事に、看護の少女達数人が一斉に扉の方へ目を向けた。
「どうされました?日向子様の部屋に行っていたのですよね?ひょっとして急変でも」
アオイがみるみる険しい顔つきになり、ただ事ではないのではと救急箱をかき集めて炭治郎に駆け寄る。
「違いますっ!彼女が目覚めたので、知らせようと思いまして」
そう言う炭治郎を見て、アオイは彼の様子が少しおかしい事に気付いた。
「あの、顔が真っ赤ですけど、また調子をおかしくしましたか?絶対安静と言いましたのにまさか隠れて鍛錬でも
「やってません!大丈夫ですから本当に..日向子姉さんをお願いします」
彼女は訝しげに炭治郎を見るも、アオイは側にいた数人の少女を連れて部屋を出て行った。
バタバタと足音が遠のいていくのを聞いて、炭治郎は1人残された部屋の中でずるずると腰を落とした。
まだ、心臓がバクバクと音を立てて鳴り止まない。
顔が熱い。
呼吸を整えようと必死に深呼吸をしたが、効果はあまりないように思えた。
最悪だ...
あの時、とても言い訳出来るような状況ではないところまで行ってしまったような気がする。
炭治郎自身も無意識な状態だった。
もし彼女に、炭治郎がしようとしてた事がバレてしまっていたらと思うと
「おーい炭治郎?凄い音が聞こえたけど、何かあって」
徐々に手足も伸びてきて、自力で歩行が出来るようになった善逸がひょいと扉から顔を出す。
そして善逸は、炭治郎から聞こえてくる音を聴くや否や、驚きに目を瞬かせた。
「え...お前、どうしたの。」
「っ.....」
炭治郎は咄嗟に顔を背ける様な素振りをみせるが、善逸には何の意味もない事だった。
彼からは、信じられない程に
甘く動揺したような音が響いてきたのだ
ーーーーー
〜84【隠し通さねばならぬ想い】〜
炭治郎から今まで聞いた事もない音を聞いて、
善逸はどうしたものかと言葉に詰まる。
一体何があったのだろうか。確か彼は、姉の日向子さんの様子を見に行ったと言っていたけれど
「日向子さんと何かあったの?」
ストレートにも善逸はこう聞いてしまった。
そして後悔した。
みるみるうちに炭治郎の音が大きくなっていったからだ。
善逸は、顔こそ見た事はないが
炭治郎から彼女の話は聞いていた。
幼い頃から共に暮らしてきた家族で、
実は日向子さんは巫一族という、特別な血を継いだ家系の末裔なのだと言うこと。
だから、敢えて聞かなかったけれど
薄々竈門家とは血が繋がっていないのだろうなぁと思ってたし、実のところそんな女の子と一つ屋根の下に住んでいたなんて、くっそ羨ましいな炭治郎この野郎と思ってたけど。
確かに、炭治郎が日向子さんの事を話す時は、凄く心地よい優しい音がしていた。
ただ、家族なんだという思いが強いように思ったから、【そういう】対象に想っていたとは思わなかったんだ。
「とりあえず落ち着こう炭治郎。悪いけど...
俺、音でわかっちゃうからさ。
伊之助や他の人には誰にも言わないよ。
何となくだけど、あまり公にするつもりないんだろ?」
「善逸...。ありがとう。」
ようやく少し落ち着いた炭治郎は、
善逸の言葉を聞いて力無く項垂れた。
「俺、寝ている日向子姉さんに..」
「...まさか、触ろうとしたのか?それはさすがに」
顔を赤くしてそうじゃない、いや違わな..いや、と口ごもり慌てて否定する炭治郎。
直接的に言わないからよくわからないけれど
「..なるほど、
彼の言う事をなんとか要約するとそういうことになる。
羞恥で縮こまり泣きそうになってる彼を見ると、なんと初心で歯痒いのだろうと思うけど、善逸からすれば彼の様子はごくごく当たり前なんじゃないかと思う。
「好きな女の子なら当たり前だろ?
お前何もおかしくないよ。仕方ないって..」
そう炭治郎を励ましたつもりだったが、これじゃ駄目なんだと首を横に振る。
彼女は、炭治郎の事を家族と思っている。
だからこの想いは、隠し通さなければいけないのだと。
こんな事で今、彼女を惑わすわけにはいかないのだと言う。
いや....でもそれって
炭治郎、お前はかなり酷だよなぁ
「ちょっ..時透様!!困ります。まだ彼女は目覚めたばかりで」
そんな慌ただしい声が聞こえてきた。
ーーーーー
〜85【訪問者】〜
何事かと廊下へ顔を出すと、ちょうど柱の時透無一郎が前を横切った。
彼は一目散に日向子のいる部屋の前へと向かう。
引き止めようと後を追うアオイ達には目もくれない。
「竈門日向子、入るよ?」
彼は形状声を掛けたのみで、中から返答が来る前に扉のノブへと手を掛けて捻った。
中にいた看護の少女はぎょっとした様子で、慌てて日向子の胸元を隠す。
「あぁごめん。着替えてたの?君は席を外してくれる?彼女と2人で話があるんだ」
時透は全く動じた様子を見せず淡々とした声色でそう発した。
とにかく衣類を整えるから外へ出ていてくれと言われた時透は仕方なく廊下へ戻る。
「あれ、炭治郎じゃない。もう動けるようになったんだ。良かったね。」
炭治郎に気付くや否やそう言う時透に対して、彼は無遠慮に怒りの篭った眼差しを向ける。
「日向子姉さんは、今し方目が覚めたばかりなんです。そんなに急いで話さなければいけない内容何ですか?
いくら柱とは言え、そんな無礼はあんまりだと思います。」
彼が柱だと知った善逸はひっと悲鳴を上げて遠くのドアの影に身を隠す。
時透は無気力な表情のまま、尚も睨んでくる炭治郎を見つめ返した。
「これは彼女の為の話でもあるんだよ。
柱の殆どはね、日向子を本部に縛りつけたがっている。
そんなの、鬼殺隊じゃないよね?ただの箱入り娘だよ。ただ俺は、彼女の覚悟が見たいんだ」
そろりと中から世話役の少女が出てきて、時透を中へ招く。
「炭治郎は帰っていいよ。僕と彼女で話す事だから」
それでも納得いかない様子で炭治郎はその場を動かない。
「炭治郎、大丈夫だから。彼と2人で話すよ。少しだけ、外で待っててくれる?」
優しくそう彼女がさとすと、テコでも動かなかった炭治郎が渋々ではあるが引いた。
改めて、彼にとって日向子の影響力は物凄いのだなと善逸は実感する。
それにしても...
あの炭治郎が夢中になる女性がどういう人なのかずっと気になっていたわけだけど。
なるほど、少なくとも見た目で言えば、
これは惚れるわけだなぁと思う。
禰豆子ちゃんは可憐な女の子という印象だけれど、彼女は俗に言う聖女のような儚げで美しい女性だった。
そして発せられてくる音も、心地が良い...
何だろう。
美しい自然の中に身を置いているような、そんな心地良さ。
時透がドアを締め切ると、
居ても立っても居られず、炭治郎と共に聞き耳を立てる事にした。
ーーーーー