◆第伍章 それぞれの想い
貴女のお名前を教えてください
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〜74【柱合裁判】〜
「事情は本部で伺う事にします。冨岡さん、あなたの処遇も恐らくそこで話されるでしょうし」
彼女は本部からの伝令と聞くや否やあっさり刃を引いた。
駆け付けた隠に日向子を蝶屋敷へ連れ帰り治療を施すように指示を出すと、炭治郎達が駆けた方へと去って行く。
残された義勇もまた、鬼殺隊本部へと自ら足を向けた。
ーっ.. ぃ...おい..っ
「いつまで寝てんださっさと起きねぇか!!」
「っ!」
炭治郎が誰かの怒号で目覚めると、見た事のない顔ぶれに囲まれていた。総勢8名の屈強な男から日向子姉さんと同じ歳程の女性まで
彼等は一体..
あの女の子に踵落としをきめられ、そこで意識を手離したであろう事は覚えている。
禰豆子はっ
「ここは鬼殺隊の本部です。あなたは今から裁判を受けるのですよ。竈門炭治郎君」
裁判..だと?
柱と名乗る彼等は、口々にその必要はないだの
諸共斬首 するだのと物騒な事を言い始める。
「そんなことより冨岡と竈門日向子はどうするのかね?彼女は今この場にはいないようだがそれもおかしな話だ。鬼を庇っていたなら同罪だろう。彼女は何処だ?」
「彼女はうちで治療を受けています。外傷だけではなく内臓まで肉体全域がやられていました。仕方ありません。」
木の上からそう咎める伊黒に対し、しのぶが日向子の状況を伝える。
日向子姉さん....
そんなに傷が酷いのか
炭治郎は自分のせいで、周りを巻き込んでいる事に酷く打ちひしがれた。
俺はただ..禰豆子を、妹を元の人間に戻したいだけだったのに
それが本来罪を着る必要のない人達まで..
そう思ったが、とにかく禰豆子が鬼殺隊にとって安全である事を証明しなければ。
だが口でどう言っても、彼等は訝しげに見るばかりだった。
「鬼を連れてた馬鹿隊員はそいつかい?」
どうするべきかと考えあぐねていると、体中に古傷を負った男が禰豆子の木箱を片手に近づいて来た。
隠の反応を見ると、彼もまた柱の一員であるようだったが..
禰豆子をどうするつもりなのだ。
「不死川さん。勝手な事をしないでください。」
しのぶが珍しく語尾を強めて牽制 する。
どうやら、鬼殺隊としてではなく彼の個人的な行動であるようだ。
彼女の言葉など気に留めずに不死川は己の腰へと手を伸ばした。
「鬼殺隊として人を守る為に闘えるゥ?そんな事はなァ..あり得ねェんだよ馬鹿がァ‼」
そして、彼の日輪刀が木箱を貫き
血が滴り落ちた。
ーーーーー
〜75【処罰】〜
炭治郎はその光景を見て怒り狂う。
禰豆子が何をしたと言う。人を傷付けた所を見たこともない癖に、ただ鬼というだけで無差別に殺すだなんて、そんな奴等が鬼殺隊の柱だなんて‼
「あっおい!」
隠の男が呼び止めるのを無視して、炭治郎は飛び出した。
「俺の妹を傷付ける奴は!柱だろうが何だろうが許さないっ‼」
何も間違っちゃいない、人間に善良な人と悪人がいるように、鬼だってそうだ。
禰豆子のように人を傷付けるどころか守ろうとする者もいれば、珠世さん達のように困った人を助けようと慈善活動をしている者だっている。
炭治郎は、先入観で全てを片付けようとする人が嫌いだ。本質を見ようとしない奴はっ
炭治郎は思い切り頭を彼にぶち当てた。
不死川は鼻から血を流し、2人諸共地面に倒れる。
「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないなら、柱なんてやめてしまえ!!」
その光景が何故かツボに入ったらしい甘露寺を除き、その場にいた者は皆騒然とした。
不死川は青筋をたてて、血走った眼を炭治郎へと向ける。
「てめぇ..ぶっ殺してやる!」
「お館様のお成りです!」
!!
屋敷の奥から、1人の男性がこちらに歩み寄ってくる。
「よく来たね。私の可愛いこども達」
炭治郎は彼の容姿を見て驚く。
目が..見えてないのかも知れない。
何かに蝕 まれていくような病気でも患っているのか
ドガンッ
不死川に無理やり頭を地面に叩きつけられる。
見ると、他の柱も一斉に膝をつきお館様という男性に忠誠を誓っていた。
不死川が丁寧な言葉でお館様の創建を祝うと共にこう発した。
「この竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士について、ご説明頂きたく存じます。」
それを聞くと、お館様は驚かせてすまなかったと謝ると、柱に対してこう伝えたのだった。
「炭治郎と禰豆子の事は私が容認していた。それから、この場には居ないが日向子と彼等は家族関係にあり、行動をほぼ共にしていた事も知っていた。皆にもこれらを、認めて欲しいと思っている。」
いくらなんでもそれは..と反対派の意見が多い。
煉獄が恐れながらとこう発する。
「巫一族の竈門日向子は、少なくとも本部へ隔離するべきではないだろうか。
確かに鬼の妹を容認していた罪は消えるものではないが、我々鬼殺隊にとって失うわけにはいかない人材だ。彼等とは引き剥がすべきだ。」
「妹は抹殺、日向子は本部にて隔離及び監視の対応、竈門炭治郎と冨岡の両名の処罰、以上を願います。」
ーーーーー
〜76【星柱】〜
産屋敷は柱の訴えに耳を傾けるも一切調子を乱す事なく、娘に手紙を読み上げるように伝えた。
「はい。
こちらの手紙は元柱である鱗滝左近次様から頂いたものです。一部抜粋して読み上げます。」
その手紙の内容とは、
鬼の禰豆子を炭治郎の側に置く事を許して欲しいと言う事と、
もしも...
人を襲った場合は、鱗滝と冨岡が腹を切り詫びるという内容。
要するに、炭治郎達の過去から未来まで、一切合切に身を挺した責任を持つという物だった。
そこまで、考えていてくれてたとは思いもしなかったから、自然と涙が溢れてしまう。
「そしてもう一人、この屋敷に直接出向き皆と話をしたいという者がここに来ている。どうか静粛 に願おう。」
後ろから現れた人物を見て、何人かは言葉を失い幻を見ているかのような表情に変わる。
炭治郎は初めて見る人物だったが、よく話に聞いていた市女傘で、この人が誰なのか、おおよそ検討がついた。
「...瑠璃千代様」
今まで一言も発さず、この場に興味なさげな様子で美空を見上げていた時透が、彼女の姿を見るや否やそう呟いた。
志麻瑠璃千代(しまるりちよ)
彼女の存在は、炭治郎は日向子からよく聞かされていた。
日向子姉さんの師範である彼女は、その昔、鬼殺隊にいたらしいという事までは知っていたが、それ以上の事は何もわからなかった。
周りの反応を見ると、彼女が今この場にいる事自体が珍しい事なのだろうという空気はそれとなく感じたが
「生きて、いらっしゃったのですか..。何故今ここに」
不死川が珍しくしおらしい雰囲気でそう尋ねた。
産屋敷への崇拝 感情とはまた別の思いを持ち合わせているようだった。
彼女はようやく口を開く。
「隠居生活をしていた私がここへ出向いたのは、一つ、皆様方に謝罪を申し上げたかったからです。
私が未熟なばかりに..星柱でありながら本来の務めを果たせなかった事、深くお詫び致します。
そして二つ目に竈門日向子の事ですが、彼女は大義名分を掲げがちな性格故、扱いづらい所もあるでしょうが、何卒、意思を尊重してやってくださいませ。
素質と覚悟は私が認めました。妹の事も、話には聞いており知っておりましたが...」
そこで彼女は炭治郎を垣間見た。
どきりとして思わず瞬きをしてしまう。
この人の眼差しは、少し日向子姉さんに似ている。
全てを抱き、聖母のような包容力を感じた。
「禰豆子さんが人を襲わない事は、私が証明致します」
ーーーーー
〜77【稀血の誘惑に】〜
「人を襲わない証明...どうやって」
不死川がそう問いかけた瞬間、微かに風を切る音がし、横を見ると、禰豆子の入っている木箱が消えていた。瞬く間の出来事だった。
木箱は、瑠璃千代の手元に移っていたのだ。
この場にいた柱でさえも、気付けるものは殆ど居なかった。
彼女は、丁寧に木箱を開く。
しかし禰豆子は警戒しているのか、日陰に移っても外に出て来ようとしない。
「禰豆子さん、あなたを傷付けるつもりも、傷付けさせるつもりもありません。あなた自身を..そしてお兄さんとお姉さんを守る為にも、今ここで証明しなければならないのです。
わかりますね?」
すると、恐る恐るといった様子で禰豆子は外に出てきた。不安気に瑠璃千代を見上げる。
焦った様子を隠し切れない柱達とは反面、
鬼の禰豆子を目の前にしても、彼女は微笑みを絶やさなかった。
そして、瑠璃千代は信じられない行動をとる。
日輪刀を抜刀したかと思えば、
己の腕を斬りつけようと刀を振り上げた。
その時
「時透様、手を離してくださいな。」
彼女の刀の切っ先が、肌に触れるか触れないかの距離で間一髪、瞬時に飛んできた時透が抑え込む。
彼らしくもなく、必死な様子で...
その様を、彼を知る面々は意外な光景を目の当たりにしたように見つめていた。
「嫌だ。【稀血】であるあなたの血を見たら、この鬼はきっと食らいつく。出来ない...。」
辛そうな表情でそう言う彼は、一切力を緩めようとしない。瑠璃千代は小さく溜息をついた。
「柱になったあなた様ならお分かりになるでしょう。感情に流されず、見定めなければいけないものが何か。
私は今は育手です。未来に可能性を繋いでいかなければいけない。さぁ、手を離してくださいな。」
彼女の言葉を聞いた時透は、するりと力を抜き手離した。
刀はあっさりと彼女の肌を切り裂き、血が滲み出る。
それを見て匂いを嗅いだ禰豆子は、途端に
目の色を変え、みるみる内に鬼特有の肌に浮き出た血管が目視でわかる程になっていった。
フーッフーーッと荒い息遣いで、瑠璃千代の傷口から眼を逸らせないでいる。
炭治郎は匂いでわかる。
彼女は、禰豆子を全く警戒していない。
それは、万が一襲われたとしても
対処が出来ない。
下手をすれば死ぬ。
その最悪のヴィジョンさえも覚悟した上で、
証明してくれようとしているのだ。
【稀血】
それがいかに鬼にとって甘美なご馳走であるか、炭治郎も知っている。
「禰豆子っ!!」
ーーーーー
「事情は本部で伺う事にします。冨岡さん、あなたの処遇も恐らくそこで話されるでしょうし」
彼女は本部からの伝令と聞くや否やあっさり刃を引いた。
駆け付けた隠に日向子を蝶屋敷へ連れ帰り治療を施すように指示を出すと、炭治郎達が駆けた方へと去って行く。
残された義勇もまた、鬼殺隊本部へと自ら足を向けた。
ーっ.. ぃ...おい..っ
「いつまで寝てんださっさと起きねぇか!!」
「っ!」
炭治郎が誰かの怒号で目覚めると、見た事のない顔ぶれに囲まれていた。総勢8名の屈強な男から日向子姉さんと同じ歳程の女性まで
彼等は一体..
あの女の子に踵落としをきめられ、そこで意識を手離したであろう事は覚えている。
禰豆子はっ
「ここは鬼殺隊の本部です。あなたは今から裁判を受けるのですよ。竈門炭治郎君」
裁判..だと?
柱と名乗る彼等は、口々にその必要はないだの
諸共
「そんなことより冨岡と竈門日向子はどうするのかね?彼女は今この場にはいないようだがそれもおかしな話だ。鬼を庇っていたなら同罪だろう。彼女は何処だ?」
「彼女はうちで治療を受けています。外傷だけではなく内臓まで肉体全域がやられていました。仕方ありません。」
木の上からそう咎める伊黒に対し、しのぶが日向子の状況を伝える。
日向子姉さん....
そんなに傷が酷いのか
炭治郎は自分のせいで、周りを巻き込んでいる事に酷く打ちひしがれた。
俺はただ..禰豆子を、妹を元の人間に戻したいだけだったのに
それが本来罪を着る必要のない人達まで..
そう思ったが、とにかく禰豆子が鬼殺隊にとって安全である事を証明しなければ。
だが口でどう言っても、彼等は訝しげに見るばかりだった。
「鬼を連れてた馬鹿隊員はそいつかい?」
どうするべきかと考えあぐねていると、体中に古傷を負った男が禰豆子の木箱を片手に近づいて来た。
隠の反応を見ると、彼もまた柱の一員であるようだったが..
禰豆子をどうするつもりなのだ。
「不死川さん。勝手な事をしないでください。」
しのぶが珍しく語尾を強めて
どうやら、鬼殺隊としてではなく彼の個人的な行動であるようだ。
彼女の言葉など気に留めずに不死川は己の腰へと手を伸ばした。
「鬼殺隊として人を守る為に闘えるゥ?そんな事はなァ..あり得ねェんだよ馬鹿がァ‼」
そして、彼の日輪刀が木箱を貫き
血が滴り落ちた。
ーーーーー
〜75【処罰】〜
炭治郎はその光景を見て怒り狂う。
禰豆子が何をしたと言う。人を傷付けた所を見たこともない癖に、ただ鬼というだけで無差別に殺すだなんて、そんな奴等が鬼殺隊の柱だなんて‼
「あっおい!」
隠の男が呼び止めるのを無視して、炭治郎は飛び出した。
「俺の妹を傷付ける奴は!柱だろうが何だろうが許さないっ‼」
何も間違っちゃいない、人間に善良な人と悪人がいるように、鬼だってそうだ。
禰豆子のように人を傷付けるどころか守ろうとする者もいれば、珠世さん達のように困った人を助けようと慈善活動をしている者だっている。
炭治郎は、先入観で全てを片付けようとする人が嫌いだ。本質を見ようとしない奴はっ
炭治郎は思い切り頭を彼にぶち当てた。
不死川は鼻から血を流し、2人諸共地面に倒れる。
「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないなら、柱なんてやめてしまえ!!」
その光景が何故かツボに入ったらしい甘露寺を除き、その場にいた者は皆騒然とした。
不死川は青筋をたてて、血走った眼を炭治郎へと向ける。
「てめぇ..ぶっ殺してやる!」
「お館様のお成りです!」
!!
屋敷の奥から、1人の男性がこちらに歩み寄ってくる。
「よく来たね。私の可愛いこども達」
炭治郎は彼の容姿を見て驚く。
目が..見えてないのかも知れない。
何かに
ドガンッ
不死川に無理やり頭を地面に叩きつけられる。
見ると、他の柱も一斉に膝をつきお館様という男性に忠誠を誓っていた。
不死川が丁寧な言葉でお館様の創建を祝うと共にこう発した。
「この竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士について、ご説明頂きたく存じます。」
それを聞くと、お館様は驚かせてすまなかったと謝ると、柱に対してこう伝えたのだった。
「炭治郎と禰豆子の事は私が容認していた。それから、この場には居ないが日向子と彼等は家族関係にあり、行動をほぼ共にしていた事も知っていた。皆にもこれらを、認めて欲しいと思っている。」
いくらなんでもそれは..と反対派の意見が多い。
煉獄が恐れながらとこう発する。
「巫一族の竈門日向子は、少なくとも本部へ隔離するべきではないだろうか。
確かに鬼の妹を容認していた罪は消えるものではないが、我々鬼殺隊にとって失うわけにはいかない人材だ。彼等とは引き剥がすべきだ。」
「妹は抹殺、日向子は本部にて隔離及び監視の対応、竈門炭治郎と冨岡の両名の処罰、以上を願います。」
ーーーーー
〜76【星柱】〜
産屋敷は柱の訴えに耳を傾けるも一切調子を乱す事なく、娘に手紙を読み上げるように伝えた。
「はい。
こちらの手紙は元柱である鱗滝左近次様から頂いたものです。一部抜粋して読み上げます。」
その手紙の内容とは、
鬼の禰豆子を炭治郎の側に置く事を許して欲しいと言う事と、
もしも...
人を襲った場合は、鱗滝と冨岡が腹を切り詫びるという内容。
要するに、炭治郎達の過去から未来まで、一切合切に身を挺した責任を持つという物だった。
そこまで、考えていてくれてたとは思いもしなかったから、自然と涙が溢れてしまう。
「そしてもう一人、この屋敷に直接出向き皆と話をしたいという者がここに来ている。どうか
後ろから現れた人物を見て、何人かは言葉を失い幻を見ているかのような表情に変わる。
炭治郎は初めて見る人物だったが、よく話に聞いていた市女傘で、この人が誰なのか、おおよそ検討がついた。
「...瑠璃千代様」
今まで一言も発さず、この場に興味なさげな様子で美空を見上げていた時透が、彼女の姿を見るや否やそう呟いた。
志麻瑠璃千代(しまるりちよ)
彼女の存在は、炭治郎は日向子からよく聞かされていた。
日向子姉さんの師範である彼女は、その昔、鬼殺隊にいたらしいという事までは知っていたが、それ以上の事は何もわからなかった。
周りの反応を見ると、彼女が今この場にいる事自体が珍しい事なのだろうという空気はそれとなく感じたが
「生きて、いらっしゃったのですか..。何故今ここに」
不死川が珍しくしおらしい雰囲気でそう尋ねた。
産屋敷への
彼女はようやく口を開く。
「隠居生活をしていた私がここへ出向いたのは、一つ、皆様方に謝罪を申し上げたかったからです。
私が未熟なばかりに..星柱でありながら本来の務めを果たせなかった事、深くお詫び致します。
そして二つ目に竈門日向子の事ですが、彼女は大義名分を掲げがちな性格故、扱いづらい所もあるでしょうが、何卒、意思を尊重してやってくださいませ。
素質と覚悟は私が認めました。妹の事も、話には聞いており知っておりましたが...」
そこで彼女は炭治郎を垣間見た。
どきりとして思わず瞬きをしてしまう。
この人の眼差しは、少し日向子姉さんに似ている。
全てを抱き、聖母のような包容力を感じた。
「禰豆子さんが人を襲わない事は、私が証明致します」
ーーーーー
〜77【稀血の誘惑に】〜
「人を襲わない証明...どうやって」
不死川がそう問いかけた瞬間、微かに風を切る音がし、横を見ると、禰豆子の入っている木箱が消えていた。瞬く間の出来事だった。
木箱は、瑠璃千代の手元に移っていたのだ。
この場にいた柱でさえも、気付けるものは殆ど居なかった。
彼女は、丁寧に木箱を開く。
しかし禰豆子は警戒しているのか、日陰に移っても外に出て来ようとしない。
「禰豆子さん、あなたを傷付けるつもりも、傷付けさせるつもりもありません。あなた自身を..そしてお兄さんとお姉さんを守る為にも、今ここで証明しなければならないのです。
わかりますね?」
すると、恐る恐るといった様子で禰豆子は外に出てきた。不安気に瑠璃千代を見上げる。
焦った様子を隠し切れない柱達とは反面、
鬼の禰豆子を目の前にしても、彼女は微笑みを絶やさなかった。
そして、瑠璃千代は信じられない行動をとる。
日輪刀を抜刀したかと思えば、
己の腕を斬りつけようと刀を振り上げた。
その時
「時透様、手を離してくださいな。」
彼女の刀の切っ先が、肌に触れるか触れないかの距離で間一髪、瞬時に飛んできた時透が抑え込む。
彼らしくもなく、必死な様子で...
その様を、彼を知る面々は意外な光景を目の当たりにしたように見つめていた。
「嫌だ。【稀血】であるあなたの血を見たら、この鬼はきっと食らいつく。出来ない...。」
辛そうな表情でそう言う彼は、一切力を緩めようとしない。瑠璃千代は小さく溜息をついた。
「柱になったあなた様ならお分かりになるでしょう。感情に流されず、見定めなければいけないものが何か。
私は今は育手です。未来に可能性を繋いでいかなければいけない。さぁ、手を離してくださいな。」
彼女の言葉を聞いた時透は、するりと力を抜き手離した。
刀はあっさりと彼女の肌を切り裂き、血が滲み出る。
それを見て匂いを嗅いだ禰豆子は、途端に
目の色を変え、みるみる内に鬼特有の肌に浮き出た血管が目視でわかる程になっていった。
フーッフーーッと荒い息遣いで、瑠璃千代の傷口から眼を逸らせないでいる。
炭治郎は匂いでわかる。
彼女は、禰豆子を全く警戒していない。
それは、万が一襲われたとしても
対処が出来ない。
下手をすれば死ぬ。
その最悪のヴィジョンさえも覚悟した上で、
証明してくれようとしているのだ。
【稀血】
それがいかに鬼にとって甘美なご馳走であるか、炭治郎も知っている。
「禰豆子っ!!」
ーーーーー