◆第壱章 はじまり
貴女のお名前を教えてください
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〜5【嫉妬】〜
父は突き出された包みと文を見ると、それを受け取り了承した。
誠一郎は再度深々と頭を下げて礼を言うと屋敷に戻って行った。
その一部始終を見ていた炭治郎は、なんとも言えない不快な気持ちに胸が燻 られる。
彼からした、あの匂いは何なのだろうか。
甘ったるく吐き気すら催す。それが、日向子姉さんへの贈り物だと思うとより一層...
山をのぼっている途中も、父の持っているそれが気になって仕方ない。それに気付いた父はこう話した。
「いずれは炭治郎も誰かに贈り物をする時がくるだろう。」
それは、その誰かって何なんだ
そう問えば大切な人に対してだと言う。
そうか、あの誠一郎って人は姉さんを..
炭治郎は無意識に手の拳を固く握りしめた。
気に入らなかった
勿論、誰かに好かれる事はとてもいい事だし、
姉さんにもそういう人がいる事は素敵な事なんだと頭ではわかっている。
筈なのに、心は裏腹な自分が酷く滑稽 に思えた。
家に着く頃には空は橙色に染まっていたが、太陽が沈まぬうちに戻ってこれた事にほっとする。炭治郎達が帰るや否や、家族のお出迎えが待っていた。
「お帰りなさい父ちゃん!兄ちゃん!」
「凄い!あんなにあったのに全部売れちゃったよ?」
お祭り騒ぎの家の中、炭十郎は日向子を呼び止め先程の包みと文を渡した。
その様子を見て葵枝はまぁと手を口元に当てる。
(名前)は不思議そうに包みを開けた。
炭治郎もその様子を食い入るように見ていると、次第に弟や妹達も釣られて寄ってきた。
「わぁっ、綺麗な簪 だ。
私知ってるよ、男の人が好きな女の人に簪を贈るものなんでしょう?」
禰豆子がおませな知識を自慢げに話すと、日向子はあからさまに動揺して慌てて包みを閉ざした。
しかし、付けてみてよーという禰豆子の要求を断りきれず、渋々といった様子で簪を付けて見せる。
「わぁー!お姉ちゃん綺麗だねぇ。」
「お姫様みたいだよ」
「一体どなたがくださったの?」
葵枝が炭十郎に問いかけると、百姓屋敷のとこの御子息だと答えた。それは嬉しそうにはしゃいだ。まるで娘が玉の輿 にでも乗ったかのようだ。
「凄いじゃないの!大切にしなさいね日向子」
少し照れ臭そうに微笑んで頷く姉を見たら、
炭治郎の中の何かがふつりと切れた。
どうにも出来ない激しい苛立ちに苛まれ、ついに炭治郎はその場を飛び出した。
呼び止める家族を無視して...
ーーーー
〜6【それは静かに閉ざされた】〜
自分の中に生まれた感情がなんなのか、全くわからなかった。初めての感じだ。
わかるのは、あの男性から姉さんに向けられた気持ちが酷く不愉快なのと、それに対する彼女の反応を見て胸が張り裂けそうになった事。
あの場に居続ける事が出来ず、無意識に脚が動いてしまっていた。
辺りは既に黄昏 時を過ぎている。
今更ながら、後悔した。
夜に出歩く事を固く禁じられていた。禍 が出ると教えられていたから...
家族に心配をかける...それは
駄目だ。
「帰らなきゃ...」
家路の方面を見ると、父が悲しそうな目を向け佇んでいた。
「炭治郎」
「..ごめん父ちゃん。急に飛び出してしまって、大丈夫だから、帰るよ」
そう言うも、父は訴えたい何かがあるように
おもむろに口を開いた。
「日向子は、あの手紙の内容は丁重に断ると言っていたよ。簪は捨てる事は出来ないが、しまっておくと。禰豆子達は残念がっていたが..日向子はお前の様子をとても気にしていた」
父からそれを聞いて、心がみるみる内に凪 いでいくのがわかった。
姉さんは、その気にならなかった..。
俺の様子を気にしてくれて。
「お前は、日向子が好きか?」
いきなりそう聞かれて炭治郎はたじろいだ。
好きか、好きと聞かれればそれは..好きに決まってる。でも..
炭治郎の挙動を見て全てを悟った炭十郎はこう話す。
「父さんはな、お前が日向子にいつしか簪を贈ったとしても、何も不思議に思わない。
炭治郎、お前が1人の人間としてそう思ったのなら..止める事はしないし、それはきっと母さん達も同じだろう。
ただ、今は、辛い思いをさせてしまってすまない。」
そう言って炭治郎を抱き締めた。
父が謝る意味がわからなかったけれど、
何となく、姉さんに対するこの気持ちはいけない事なのだと、蓋をせねばいけないものなのだと思った。今ならきっと...
いつしか、積 を切って溢れ出てしまうかもしれない。
先程のように、どうにも自分では止められない何かに襲われる日がくるかもしれないとしても。
それでも炭治郎は、家族を大事にしなければいけないと思った。
それはきっと...
日向子姉さんもそうするだろうと思ったから。
「帰ろう父ちゃん。夜風は体に障るから...」
ーーーーー
〜7【血の匂いが】〜
「本当に炭を売りに行くのかい炭治郎..雪が降って危ないから、行かなくてもいいんだよ」
年の瀬の曇天を仰ぎながら、心配そうに問いかける母に対して炭治郎は気丈に答えた。
「正月にはみんなに腹一杯食べさせてやりたいから、少しでも炭を売りに行ってくるよ。」
三年前と比べ随分と伸びた背といつの間にか男児らしい顔つきになった息子を見て、葵枝は子の成長は早いものだなぁと感心しつつ、ありがとうと言って頭を撫でた。
炭治郎は、先程までに作ったばかりの炭を籠いっぱい詰め込むと、姉に作ってもらった年季の入った冬羽織りを着込んだ。
「炭治郎!これも付けていって。気休めにしかならないかもしれないけれど、幾分暖かい筈だから。」
家の奥から慌ただしく駆け寄ってくる姉が手に持っていたのは、綿が入れ込まれた首巻きだった。
年間を通して外仕事をする事が多い竈門家の為に、
裁縫 が得意な姉さんは、
よくこういった防寒具を作ってくれる。
禰豆子もよく着物等を直しているが、これは姉譲りだ。
寒気が入り込まないように隙間なく巻き付けられた。
首元を温めるとこんなにも暖かいものなのか..。
「ありがとう、日向子姉さん」
彼女は複雑そうな笑みを浮かべて炭治郎を送り出した。
その意味は薄々わかっている。俺が、姉さんの事をどうしても名前で呼びたくていつの日からかそうしているからだ。
本当は姉さんと呼ぶのも違和感を覚えるのだが、前に日向子さんと呼んだら、涙目で止められたのがトラウマになっている。
数年前に、父から日向子姉さんと自分達が
血縁関係にない事を教えられた。
それを知った時、驚きはあったが自然とその事実がストンとおさまるようだった。
炭治郎にとっては、対して重要な事ではなかったのだ。
ただ、一緒に暮らして助け合いながら生きていく。それで十分じゃないかと思うのだ。
父は還らぬ人となってしまったが、
母も姉も弟妹達もいる。皆器量良しのいい子たちだ。この幸せを守りたい..。
壊すものがあればそれを俺は絶対に許さない。
やけに鼻につく不愉快な匂いに
炭治郎は顔をしかめた。
....
「..遅くなっちまった。」
町の人達からの要望を聞いて回っていたら、気付けば日が陰っていた。
急ぎ足で上へ繋がる山道を駆け上がろうとしたところを呼び止められる。
「こら炭治郎!お前山へ帰るつもりか」
振り返ると険しい表情でこちらを見つめる三郎爺さんの姿があった。
ーーーーー
〜8【長女の思い】〜
父さんが亡くなって、下の子達はよく炭治郎を慕って着いて回るようになった。
きっと父の面影を重ねているのだろう。
片親を失うにはあまりにも幼過ぎる子達ばかりだ。
そんな炭治郎も、今は見違えるほど凛々しくなったと思う。昔は、私の後をついて来ては何かと甘えていたのに...
竈門家の長男としての責任感からなのかもしれない。
時折無理をしてはいないか?辛い事があるのではないか?そう思って気にかける事もしばしばであったが、彼はけろりとして大丈夫だの一点張りだ。
他の妹や弟達はまだまだ甘え盛りであるが故、
どうしても心配になってしまう。
そう、私にとっても炭治郎は
ある意味特別な家族なのだ。
彼は、一昔前まで人一倍やきもち焼きの困った弟だった。
昔、町のある男性から贈り物を頂いた時も、
しばらくの間、口を聞いてもらえなかったのを思い出す。
結局、お付き合いをしてはもらえないだろうかという彼からの誘いは丁重にお断り申し上げて、家族が一番大事だからどこにも行かないよと伝えたところ、ようやく機嫌を治してくれたのだ。
その頃は、そんな弟が可愛らしくていじらしくて仕方なかったから、私も大概姉バカなのだろう。
そんな事だから気がつかなかったのだ
彼が私に対して向ける眼差しが、
違う色を帯びていることに....
いや、正確には気が付かない振りをしていた。
もう何年も前から
それはきっと..
炭治郎も同じだった筈だ。
.....
「母さん。やっぱりこんな雪の日に送り出すべきじゃなかったのかも」
「...そうね。でも、炭治郎はきっと大丈夫よ。
だって、ヒノカミ様も父さんも側についているんだから」
「うん、そうだよね」
私が竈門家に迎えられた意味は、時折何処にあるのだろうと思う事がある。
父が亡くなり、炭治郎に重荷を背負わせることになって、せめて私が男児であれば、今よりもっと家族の負担を減らす事ができた。
こんなにも弟達は顔をススだらけにして、オノを振るう手の平は豆だらけ。
一度私も薪を割ろうとした事があったけれど、
炭治郎に呆気なくオノをもぎ取られ、姉さんは女の子なんだからこんな仕事しちゃダメだと怒られた。
男尊女卑下 では無い。
純粋に心配してくれているのだとわかってはいるけれど、やはり悔しい気持ちになるし申し訳なく思う。
いつの時代も
狩に出掛ける男の人の背を、女性は見守るしか出来ないのだろうか?
私はどうしても
それが嫌だった
ーーーーー
父は突き出された包みと文を見ると、それを受け取り了承した。
誠一郎は再度深々と頭を下げて礼を言うと屋敷に戻って行った。
その一部始終を見ていた炭治郎は、なんとも言えない不快な気持ちに胸が
彼からした、あの匂いは何なのだろうか。
甘ったるく吐き気すら催す。それが、日向子姉さんへの贈り物だと思うとより一層...
山をのぼっている途中も、父の持っているそれが気になって仕方ない。それに気付いた父はこう話した。
「いずれは炭治郎も誰かに贈り物をする時がくるだろう。」
それは、その誰かって何なんだ
そう問えば大切な人に対してだと言う。
そうか、あの誠一郎って人は姉さんを..
炭治郎は無意識に手の拳を固く握りしめた。
気に入らなかった
勿論、誰かに好かれる事はとてもいい事だし、
姉さんにもそういう人がいる事は素敵な事なんだと頭ではわかっている。
筈なのに、心は裏腹な自分が酷く
家に着く頃には空は橙色に染まっていたが、太陽が沈まぬうちに戻ってこれた事にほっとする。炭治郎達が帰るや否や、家族のお出迎えが待っていた。
「お帰りなさい父ちゃん!兄ちゃん!」
「凄い!あんなにあったのに全部売れちゃったよ?」
お祭り騒ぎの家の中、炭十郎は日向子を呼び止め先程の包みと文を渡した。
その様子を見て葵枝はまぁと手を口元に当てる。
(名前)は不思議そうに包みを開けた。
炭治郎もその様子を食い入るように見ていると、次第に弟や妹達も釣られて寄ってきた。
「わぁっ、綺麗な
私知ってるよ、男の人が好きな女の人に簪を贈るものなんでしょう?」
禰豆子がおませな知識を自慢げに話すと、日向子はあからさまに動揺して慌てて包みを閉ざした。
しかし、付けてみてよーという禰豆子の要求を断りきれず、渋々といった様子で簪を付けて見せる。
「わぁー!お姉ちゃん綺麗だねぇ。」
「お姫様みたいだよ」
「一体どなたがくださったの?」
葵枝が炭十郎に問いかけると、百姓屋敷のとこの御子息だと答えた。それは嬉しそうにはしゃいだ。まるで娘が玉の
「凄いじゃないの!大切にしなさいね日向子」
少し照れ臭そうに微笑んで頷く姉を見たら、
炭治郎の中の何かがふつりと切れた。
どうにも出来ない激しい苛立ちに苛まれ、ついに炭治郎はその場を飛び出した。
呼び止める家族を無視して...
ーーーー
〜6【それは静かに閉ざされた】〜
自分の中に生まれた感情がなんなのか、全くわからなかった。初めての感じだ。
わかるのは、あの男性から姉さんに向けられた気持ちが酷く不愉快なのと、それに対する彼女の反応を見て胸が張り裂けそうになった事。
あの場に居続ける事が出来ず、無意識に脚が動いてしまっていた。
辺りは既に
今更ながら、後悔した。
夜に出歩く事を固く禁じられていた。
家族に心配をかける...それは
駄目だ。
「帰らなきゃ...」
家路の方面を見ると、父が悲しそうな目を向け佇んでいた。
「炭治郎」
「..ごめん父ちゃん。急に飛び出してしまって、大丈夫だから、帰るよ」
そう言うも、父は訴えたい何かがあるように
おもむろに口を開いた。
「日向子は、あの手紙の内容は丁重に断ると言っていたよ。簪は捨てる事は出来ないが、しまっておくと。禰豆子達は残念がっていたが..日向子はお前の様子をとても気にしていた」
父からそれを聞いて、心がみるみる内に
姉さんは、その気にならなかった..。
俺の様子を気にしてくれて。
「お前は、日向子が好きか?」
いきなりそう聞かれて炭治郎はたじろいだ。
好きか、好きと聞かれればそれは..好きに決まってる。でも..
炭治郎の挙動を見て全てを悟った炭十郎はこう話す。
「父さんはな、お前が日向子にいつしか簪を贈ったとしても、何も不思議に思わない。
炭治郎、お前が1人の人間としてそう思ったのなら..止める事はしないし、それはきっと母さん達も同じだろう。
ただ、今は、辛い思いをさせてしまってすまない。」
そう言って炭治郎を抱き締めた。
父が謝る意味がわからなかったけれど、
何となく、姉さんに対するこの気持ちはいけない事なのだと、蓋をせねばいけないものなのだと思った。今ならきっと...
いつしか、
先程のように、どうにも自分では止められない何かに襲われる日がくるかもしれないとしても。
それでも炭治郎は、家族を大事にしなければいけないと思った。
それはきっと...
日向子姉さんもそうするだろうと思ったから。
「帰ろう父ちゃん。夜風は体に障るから...」
ーーーーー
〜7【血の匂いが】〜
「本当に炭を売りに行くのかい炭治郎..雪が降って危ないから、行かなくてもいいんだよ」
年の瀬の曇天を仰ぎながら、心配そうに問いかける母に対して炭治郎は気丈に答えた。
「正月にはみんなに腹一杯食べさせてやりたいから、少しでも炭を売りに行ってくるよ。」
三年前と比べ随分と伸びた背といつの間にか男児らしい顔つきになった息子を見て、葵枝は子の成長は早いものだなぁと感心しつつ、ありがとうと言って頭を撫でた。
炭治郎は、先程までに作ったばかりの炭を籠いっぱい詰め込むと、姉に作ってもらった年季の入った冬羽織りを着込んだ。
「炭治郎!これも付けていって。気休めにしかならないかもしれないけれど、幾分暖かい筈だから。」
家の奥から慌ただしく駆け寄ってくる姉が手に持っていたのは、綿が入れ込まれた首巻きだった。
年間を通して外仕事をする事が多い竈門家の為に、
よくこういった防寒具を作ってくれる。
禰豆子もよく着物等を直しているが、これは姉譲りだ。
寒気が入り込まないように隙間なく巻き付けられた。
首元を温めるとこんなにも暖かいものなのか..。
「ありがとう、日向子姉さん」
彼女は複雑そうな笑みを浮かべて炭治郎を送り出した。
その意味は薄々わかっている。俺が、姉さんの事をどうしても名前で呼びたくていつの日からかそうしているからだ。
本当は姉さんと呼ぶのも違和感を覚えるのだが、前に日向子さんと呼んだら、涙目で止められたのがトラウマになっている。
数年前に、父から日向子姉さんと自分達が
血縁関係にない事を教えられた。
それを知った時、驚きはあったが自然とその事実がストンとおさまるようだった。
炭治郎にとっては、対して重要な事ではなかったのだ。
ただ、一緒に暮らして助け合いながら生きていく。それで十分じゃないかと思うのだ。
父は還らぬ人となってしまったが、
母も姉も弟妹達もいる。皆器量良しのいい子たちだ。この幸せを守りたい..。
壊すものがあればそれを俺は絶対に許さない。
やけに鼻につく不愉快な匂いに
炭治郎は顔をしかめた。
....
「..遅くなっちまった。」
町の人達からの要望を聞いて回っていたら、気付けば日が陰っていた。
急ぎ足で上へ繋がる山道を駆け上がろうとしたところを呼び止められる。
「こら炭治郎!お前山へ帰るつもりか」
振り返ると険しい表情でこちらを見つめる三郎爺さんの姿があった。
ーーーーー
〜8【長女の思い】〜
父さんが亡くなって、下の子達はよく炭治郎を慕って着いて回るようになった。
きっと父の面影を重ねているのだろう。
片親を失うにはあまりにも幼過ぎる子達ばかりだ。
そんな炭治郎も、今は見違えるほど凛々しくなったと思う。昔は、私の後をついて来ては何かと甘えていたのに...
竈門家の長男としての責任感からなのかもしれない。
時折無理をしてはいないか?辛い事があるのではないか?そう思って気にかける事もしばしばであったが、彼はけろりとして大丈夫だの一点張りだ。
他の妹や弟達はまだまだ甘え盛りであるが故、
どうしても心配になってしまう。
そう、私にとっても炭治郎は
ある意味特別な家族なのだ。
彼は、一昔前まで人一倍やきもち焼きの困った弟だった。
昔、町のある男性から贈り物を頂いた時も、
しばらくの間、口を聞いてもらえなかったのを思い出す。
結局、お付き合いをしてはもらえないだろうかという彼からの誘いは丁重にお断り申し上げて、家族が一番大事だからどこにも行かないよと伝えたところ、ようやく機嫌を治してくれたのだ。
その頃は、そんな弟が可愛らしくていじらしくて仕方なかったから、私も大概姉バカなのだろう。
そんな事だから気がつかなかったのだ
彼が私に対して向ける眼差しが、
違う色を帯びていることに....
いや、正確には気が付かない振りをしていた。
もう何年も前から
それはきっと..
炭治郎も同じだった筈だ。
.....
「母さん。やっぱりこんな雪の日に送り出すべきじゃなかったのかも」
「...そうね。でも、炭治郎はきっと大丈夫よ。
だって、ヒノカミ様も父さんも側についているんだから」
「うん、そうだよね」
私が竈門家に迎えられた意味は、時折何処にあるのだろうと思う事がある。
父が亡くなり、炭治郎に重荷を背負わせることになって、せめて私が男児であれば、今よりもっと家族の負担を減らす事ができた。
こんなにも弟達は顔をススだらけにして、オノを振るう手の平は豆だらけ。
一度私も薪を割ろうとした事があったけれど、
炭治郎に呆気なくオノをもぎ取られ、姉さんは女の子なんだからこんな仕事しちゃダメだと怒られた。
純粋に心配してくれているのだとわかってはいるけれど、やはり悔しい気持ちになるし申し訳なく思う。
いつの時代も
狩に出掛ける男の人の背を、女性は見守るしか出来ないのだろうか?
私はどうしても
それが嫌だった
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