◆第肆章 下弦に泣く浮き世
貴女のお名前を教えてください
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〜70【危機一髪】〜
禰豆子が発した血鬼術で作られた炎は、瞬く間に伝染していく。
その様子は、先程日向子が鋼糸を灼き散らした様に似ていた。
嫌な予感が塁の脳裏をよぎる。
ボボボと激しく飛び散る火の粉。
炭治郎が刀を握った腕を尚も伸ばす。本来ならば一瞬で肉を切り裂く筈の強靭 な糸が、ブツリと焼き切れた。
ー馬鹿な!ー
「!っ」
ついに炭治郎の日輪刀の刀身が、塁の頚を捉えた。
しかし鋼糸よりも硬い頚には思うように刃が通らない。
その時、日輪刀が爆ぜ、爆発的な加速を生んだ。ギュルギュルと音を立てて斬り込んでいく。
炭治郎は全身全霊で腕に力を込めた。
「俺達の絆は!!誰にも引き裂けないっ!!」
叫び声と共に、鬼の少年の頚が宙を舞った。
それと同時に炭治郎はどさりと地面に倒れ込む。
やった..勝てたぞ..
禰豆子、日向子姉さん。
視界が霞み、激しい耳鳴りと痛みが炭治郎を襲う。
肉体はとうに限界を超えており、生命の危機を訴えていた。
それでも、必死に愛しい姉と妹の姿を確認しようとする。なのに..
ぞわりと後ろから禍々しい殺気を感じた。
まさか、
死んでいないのか?頚を切ったのに?
「僕に勝ったと思ったの?哀れな妄想して幸せだった?」
ギュル、ギュルっと糸を操り束ねる音と共に、塁の低い声が響き渡る。
まずい、まずいまずいまずい..
早く呼吸を整えなければ、正しい呼吸をっ
急げ、急げ‼
ー血鬼術 殺目籠ー
炭治郎の周り四方八方に塁の糸が張り巡らされる。
360度囲まれた糸の籠を断ち切らない限り、待っているのは
死。
くそ...なんで腕が上がらない
顔を歪ませたその時、微かに空を切る音と共に
はらりと糸が切れた。
炭治郎は一体何が起きたかわからなかった。自分以外の誰かが現れた事は確かだったが
霞んだ視界とぼーっとした頭では、それすらもう理解出来ない。
一体..誰が
「俺が来るまでよく堪えた。後は任せろ」
この凛とした声色、聞き覚えがある。
まさか彼が来てくれるとは
ー冨岡さん...ー
塁は新手の鬼狩りが現れた事と、炭治郎を仕留め損なった事で怒り狂っていた。
メキメキと音を立てて更なる血鬼術を発動する。
塁を中心として太く強靭な糸が広がっていく。
隙を抜ける事は不可能な程に、密集した糸だった。
しかし義勇は、その様子を見ても微動だにせず
深い息を吸った。
ー水の呼吸 拾壱ノ型 凪ーー
ーーーーー
〜71【哀しき生き物】〜
義勇の間合いに入った糸は一瞬でばらけ落ちた。塁は我が目を疑う。最硬度の糸が破られる筈が...
再度術を繰り出そうとしたが、
気付けば視界が反転していた。
くそっ殺す..あの兄妹達は必ず‼
憎しみの篭った眼差しで彼等の方を見ると、寄り添うように共に倒れ込んでいた。
あの男、叫び出したい程に傷が痛むだろう。気力で動かせる域はとうに超えている筈。
そんなボロボロの体でも、2人を守らんとして覆い被さっていた。
その光景を見て、塁の中で何かが音を立て崩れ落ちていく。
ー塁は何がしたいの?ー
かつて、寄り集めの家族にそう言われた事があったが、塁は答えられなかった。
どんなに形作ったとしても、虚無は絶えず、
強さを手に入れれば入れる程に、人間だった頃の記憶も薄れていった。
自分が何なのか、何のためにここにいるのか、何をしたいのか...
だから、あの方に言われるがままにするしかない。それは今思えば逃避でしかなかった。
そうしてどんどん自分の頚を締めていって、
見失っていったのだ。
「自分に負けては駄目」
あの子はそう言っていたなぁ
その意味が、今やっとわかった気がする。
俺は、
かつて自らの手で幸せを壊してしまった罪から逃げ、その重さに耐えきれずに正当化しようとした。
理想を描く事に躍起になり、数多 を巻き込んだ。
今更罪の重さに気付いても、もう遅かった...
あぁ、ただ..
例え自分が悪いと分かっていても
どうしても父と母の温もりが恋しかったのだ。
ごめんなさい
ごめんなさい
僕が悪かったよ。
泣きながら懺悔 し続けた。
最後に、父と母の温もりに触れる事が出来た気がした...
炭治郎は彼から大きな悲しみの匂いを感じた。
鬼とは斯 くも虚しい生き物だろうか。
人だった頃の彼等は、皆、自分の運命を呪い
救済を求めていただけだったのに
塁の身体が完全に消滅すると、彼の纏っていた着物だけが残った。
それを、義勇の足が踏みつけにする。
助けてくれた人に対してとやかく言う筋合いは無いのかもしれない。
けれど、彼のこの行動だけは
どうしても受け入れられなかった。
「足をどけてください...冨岡さん」
彼はしばらく無言で炭治郎を見下ろす。そして口を開こうとした時、炭治郎の手に重ねるように、日向子が手を伸ばした。
「っ...日向子姉さん、意識が...」
息も絶え絶えな状態で、彼女は義勇を見上げる。
「私からも、お願いします..」
ーーーーー
〜72【宙を舞う蝶】〜
瀕死の状態で、尚も強い眼差しを失わない2人の目を見て、義勇はとある確信を抱く。
「..お前達は」
っ!
キィィィン!!
瞬時に義勇は刀を振り、闇夜の向こうから飛んできた辻斬りを跳ね返す。
炭治郎達は、頭上すれすれを切った風圧に息を呑む。
空から聞こえてきたのは柔らかな女性の声色だった。
「あら?どうして邪魔するんです冨岡さん」
華麗に着地した彼女がこちらに向き直り刀を翳 す。
「あらあら、そちらの瀕死のお嬢さんは星詠みの巫女様じゃないですか?彼女をみすみす見殺しにしてしまったらお館様に示しがつきませんよ。すぐにうちの者を手配しなければ」
彼女はテキパキと鎹烏を飛ばす。
どうやら日向子姉さんの事は、すぐに治療を施し助けてくれるようだ。
炭治郎はほっと一安心したのも束の間だった。
「そこの鬼は私が狩ります。さぁ冨岡さん、どいてくださいね?」
彼女が鬼というのは、この状況で言えば禰豆子しかいない。
それはそうだ。鬼殺隊員の本来の役目は、鬼を狩る事。鬼を見つけたら手にかけるのは当然なんだ。
鬼になった禰豆子と今まで行動を共にしてきて、鱗滝さん達は目を瞑ってくれていたが、その感覚にどうやら慣れてしまっていたらしい。
「坊や、あなたが庇っているのは鬼ですよ?危ないから離れてください」
「ちっ、違います!いや、違わないけど..妹なんです!」
そう言うと彼女はショックを受けたように手の平を口元に当てる。
「そうなのですか!可哀想に..では」
苦しまないよう、優しい毒で殺してあげましょうね
彼女は色の無くなった瞳で刀を構えた。
炭治郎は恐怖する。
一見優しそうに見えるが、物事には全て白黒つけ感情論を切り離して考える人に見えた。
「待ってください。胡蝶様..。この子は私の妹でもあるんです。彼女は、人を襲いません..」
日向子がそう訴えると、しのぶは驚いたように目を見開いた。
「あなたの家族というのは、この子達の事だったのですか?ごめんなさいね、当然人の子だと思っていたもので。残念ながらそのお願いは聞き入れられません。鬼は所詮、鬼なのですから」
彼女は刀を縦に振り下ろすと、日向子の急所を突いた。どさりと地面に崩れ落ちる。
「何するんだっ!」
炭治郎がすかさず食いかかるが彼女は、ただ気を失わせただけだと困ったように話す。
「大丈夫です。あなたの大事なお姉さんは助けますよ。ただ妹さんは」
ー諦めてくださいね..ー
ーーーーー
〜73【伝令】〜
「動けるか」
義勇がここで炭治郎に問いかけた。
その一言には、
【ここは食い止めるから逃げろ】と言ってくれているように感じた。
動けるかと言われても..身体中鉛のように重く筋一つ動かしただけで激痛が走るザマだ。
だけど
「動けなくても根性で動け。妹を連れて逃げろ」
「っ、すみません!ありがとうございます!」
炭治郎は彼に礼を言って気を失っている禰豆子を抱き上げた。日向子姉さんは助けてくれると言っていたから、恐らく大丈夫だろう。
今は禰豆子を彼女から引き離さなければ。
炭治郎は稲妻のように走る激痛を無視して、枯れ土を踏み込んだ。
しのぶはピキリと青筋をたてて義勇を責め立てる。
「どういうつもりですか?冨岡さん。鬼を逃す行為、及び鬼殺の妨害、これは立派な隊律違反ですっよ!!」
刀を振り翳し冨岡に向かって攻撃を放つ。
しかし彼もまた真っ向で対立し、彼女の動きを封じ込めた。
ギリギリという攻防戦が続くが、冨岡は無言を貫く。
ついにしのぶが痺れを切らした。
「冨岡さん知ってたんですか?日向子さんの家族に鬼がいる事」
「....」
「知ってて見過ごしていたという訳ですか?確かに、彼女を本部に呼び出したあの日、こちらの条件の代わりに彼女が提示したのは家族を守ってほしいという願いでした。
でも、この事実を私があの時知っていれば、いくら親方様との契りでも許しはしませんでした。冨岡さんは、あの時既に知っていたのですか?」
言葉を選んでいるんだか、詰まっているんだか
黙ってる状態では全くわからないので
しのぶは苛つき始めた。
「何とか仰ったらどうですか?そんなだから皆に嫌われるんですよ」
皮肉を込めてそう言うと、彼はようやく口を開いた。
「あれは確か2年前..」
「そんなとこから長々と離されても困りますよ。嫌がらせでしょうか」
この2人はどうしてもそりが合わない。
会話でどうにかわかり合う事もなく、
かと言って物事の価値観も意外と合わないのだ。
しのぶは強硬手段に出る。
上半身を羽交い攻めにされたまま、グイッと足を反らす。
布草履 のかかと部分から小さな刃を出した。
恐らく、毒が表面に塗られている物に違いなかった。
彼女の刃が冨岡を捉えようとしたその時
「伝令‼伝令‼伝令アリー‼
炭治郎ト禰豆子両名ヲ拘束、本部へ連レ帰ルベシッ‼」
「「!」」
本部からの伝令..
ならば仕方がないか。
しのぶは体の力を抜いた
ーーーーー
禰豆子が発した血鬼術で作られた炎は、瞬く間に伝染していく。
その様子は、先程日向子が鋼糸を灼き散らした様に似ていた。
嫌な予感が塁の脳裏をよぎる。
ボボボと激しく飛び散る火の粉。
炭治郎が刀を握った腕を尚も伸ばす。本来ならば一瞬で肉を切り裂く筈の
ー馬鹿な!ー
「!っ」
ついに炭治郎の日輪刀の刀身が、塁の頚を捉えた。
しかし鋼糸よりも硬い頚には思うように刃が通らない。
その時、日輪刀が爆ぜ、爆発的な加速を生んだ。ギュルギュルと音を立てて斬り込んでいく。
炭治郎は全身全霊で腕に力を込めた。
「俺達の絆は!!誰にも引き裂けないっ!!」
叫び声と共に、鬼の少年の頚が宙を舞った。
それと同時に炭治郎はどさりと地面に倒れ込む。
やった..勝てたぞ..
禰豆子、日向子姉さん。
視界が霞み、激しい耳鳴りと痛みが炭治郎を襲う。
肉体はとうに限界を超えており、生命の危機を訴えていた。
それでも、必死に愛しい姉と妹の姿を確認しようとする。なのに..
ぞわりと後ろから禍々しい殺気を感じた。
まさか、
死んでいないのか?頚を切ったのに?
「僕に勝ったと思ったの?哀れな妄想して幸せだった?」
ギュル、ギュルっと糸を操り束ねる音と共に、塁の低い声が響き渡る。
まずい、まずいまずいまずい..
早く呼吸を整えなければ、正しい呼吸をっ
急げ、急げ‼
ー血鬼術 殺目籠ー
炭治郎の周り四方八方に塁の糸が張り巡らされる。
360度囲まれた糸の籠を断ち切らない限り、待っているのは
死。
くそ...なんで腕が上がらない
顔を歪ませたその時、微かに空を切る音と共に
はらりと糸が切れた。
炭治郎は一体何が起きたかわからなかった。自分以外の誰かが現れた事は確かだったが
霞んだ視界とぼーっとした頭では、それすらもう理解出来ない。
一体..誰が
「俺が来るまでよく堪えた。後は任せろ」
この凛とした声色、聞き覚えがある。
まさか彼が来てくれるとは
ー冨岡さん...ー
塁は新手の鬼狩りが現れた事と、炭治郎を仕留め損なった事で怒り狂っていた。
メキメキと音を立てて更なる血鬼術を発動する。
塁を中心として太く強靭な糸が広がっていく。
隙を抜ける事は不可能な程に、密集した糸だった。
しかし義勇は、その様子を見ても微動だにせず
深い息を吸った。
ー水の呼吸 拾壱ノ型 凪ーー
ーーーーー
〜71【哀しき生き物】〜
義勇の間合いに入った糸は一瞬でばらけ落ちた。塁は我が目を疑う。最硬度の糸が破られる筈が...
再度術を繰り出そうとしたが、
気付けば視界が反転していた。
くそっ殺す..あの兄妹達は必ず‼
憎しみの篭った眼差しで彼等の方を見ると、寄り添うように共に倒れ込んでいた。
あの男、叫び出したい程に傷が痛むだろう。気力で動かせる域はとうに超えている筈。
そんなボロボロの体でも、2人を守らんとして覆い被さっていた。
その光景を見て、塁の中で何かが音を立て崩れ落ちていく。
ー塁は何がしたいの?ー
かつて、寄り集めの家族にそう言われた事があったが、塁は答えられなかった。
どんなに形作ったとしても、虚無は絶えず、
強さを手に入れれば入れる程に、人間だった頃の記憶も薄れていった。
自分が何なのか、何のためにここにいるのか、何をしたいのか...
だから、あの方に言われるがままにするしかない。それは今思えば逃避でしかなかった。
そうしてどんどん自分の頚を締めていって、
見失っていったのだ。
「自分に負けては駄目」
あの子はそう言っていたなぁ
その意味が、今やっとわかった気がする。
俺は、
かつて自らの手で幸せを壊してしまった罪から逃げ、その重さに耐えきれずに正当化しようとした。
理想を描く事に躍起になり、
今更罪の重さに気付いても、もう遅かった...
あぁ、ただ..
例え自分が悪いと分かっていても
どうしても父と母の温もりが恋しかったのだ。
ごめんなさい
ごめんなさい
僕が悪かったよ。
泣きながら
最後に、父と母の温もりに触れる事が出来た気がした...
炭治郎は彼から大きな悲しみの匂いを感じた。
鬼とは
人だった頃の彼等は、皆、自分の運命を呪い
救済を求めていただけだったのに
塁の身体が完全に消滅すると、彼の纏っていた着物だけが残った。
それを、義勇の足が踏みつけにする。
助けてくれた人に対してとやかく言う筋合いは無いのかもしれない。
けれど、彼のこの行動だけは
どうしても受け入れられなかった。
「足をどけてください...冨岡さん」
彼はしばらく無言で炭治郎を見下ろす。そして口を開こうとした時、炭治郎の手に重ねるように、日向子が手を伸ばした。
「っ...日向子姉さん、意識が...」
息も絶え絶えな状態で、彼女は義勇を見上げる。
「私からも、お願いします..」
ーーーーー
〜72【宙を舞う蝶】〜
瀕死の状態で、尚も強い眼差しを失わない2人の目を見て、義勇はとある確信を抱く。
「..お前達は」
っ!
キィィィン!!
瞬時に義勇は刀を振り、闇夜の向こうから飛んできた辻斬りを跳ね返す。
炭治郎達は、頭上すれすれを切った風圧に息を呑む。
空から聞こえてきたのは柔らかな女性の声色だった。
「あら?どうして邪魔するんです冨岡さん」
華麗に着地した彼女がこちらに向き直り刀を
「あらあら、そちらの瀕死のお嬢さんは星詠みの巫女様じゃないですか?彼女をみすみす見殺しにしてしまったらお館様に示しがつきませんよ。すぐにうちの者を手配しなければ」
彼女はテキパキと鎹烏を飛ばす。
どうやら日向子姉さんの事は、すぐに治療を施し助けてくれるようだ。
炭治郎はほっと一安心したのも束の間だった。
「そこの鬼は私が狩ります。さぁ冨岡さん、どいてくださいね?」
彼女が鬼というのは、この状況で言えば禰豆子しかいない。
それはそうだ。鬼殺隊員の本来の役目は、鬼を狩る事。鬼を見つけたら手にかけるのは当然なんだ。
鬼になった禰豆子と今まで行動を共にしてきて、鱗滝さん達は目を瞑ってくれていたが、その感覚にどうやら慣れてしまっていたらしい。
「坊や、あなたが庇っているのは鬼ですよ?危ないから離れてください」
「ちっ、違います!いや、違わないけど..妹なんです!」
そう言うと彼女はショックを受けたように手の平を口元に当てる。
「そうなのですか!可哀想に..では」
苦しまないよう、優しい毒で殺してあげましょうね
彼女は色の無くなった瞳で刀を構えた。
炭治郎は恐怖する。
一見優しそうに見えるが、物事には全て白黒つけ感情論を切り離して考える人に見えた。
「待ってください。胡蝶様..。この子は私の妹でもあるんです。彼女は、人を襲いません..」
日向子がそう訴えると、しのぶは驚いたように目を見開いた。
「あなたの家族というのは、この子達の事だったのですか?ごめんなさいね、当然人の子だと思っていたもので。残念ながらそのお願いは聞き入れられません。鬼は所詮、鬼なのですから」
彼女は刀を縦に振り下ろすと、日向子の急所を突いた。どさりと地面に崩れ落ちる。
「何するんだっ!」
炭治郎がすかさず食いかかるが彼女は、ただ気を失わせただけだと困ったように話す。
「大丈夫です。あなたの大事なお姉さんは助けますよ。ただ妹さんは」
ー諦めてくださいね..ー
ーーーーー
〜73【伝令】〜
「動けるか」
義勇がここで炭治郎に問いかけた。
その一言には、
【ここは食い止めるから逃げろ】と言ってくれているように感じた。
動けるかと言われても..身体中鉛のように重く筋一つ動かしただけで激痛が走るザマだ。
だけど
「動けなくても根性で動け。妹を連れて逃げろ」
「っ、すみません!ありがとうございます!」
炭治郎は彼に礼を言って気を失っている禰豆子を抱き上げた。日向子姉さんは助けてくれると言っていたから、恐らく大丈夫だろう。
今は禰豆子を彼女から引き離さなければ。
炭治郎は稲妻のように走る激痛を無視して、枯れ土を踏み込んだ。
しのぶはピキリと青筋をたてて義勇を責め立てる。
「どういうつもりですか?冨岡さん。鬼を逃す行為、及び鬼殺の妨害、これは立派な隊律違反ですっよ!!」
刀を振り翳し冨岡に向かって攻撃を放つ。
しかし彼もまた真っ向で対立し、彼女の動きを封じ込めた。
ギリギリという攻防戦が続くが、冨岡は無言を貫く。
ついにしのぶが痺れを切らした。
「冨岡さん知ってたんですか?日向子さんの家族に鬼がいる事」
「....」
「知ってて見過ごしていたという訳ですか?確かに、彼女を本部に呼び出したあの日、こちらの条件の代わりに彼女が提示したのは家族を守ってほしいという願いでした。
でも、この事実を私があの時知っていれば、いくら親方様との契りでも許しはしませんでした。冨岡さんは、あの時既に知っていたのですか?」
言葉を選んでいるんだか、詰まっているんだか
黙ってる状態では全くわからないので
しのぶは苛つき始めた。
「何とか仰ったらどうですか?そんなだから皆に嫌われるんですよ」
皮肉を込めてそう言うと、彼はようやく口を開いた。
「あれは確か2年前..」
「そんなとこから長々と離されても困りますよ。嫌がらせでしょうか」
この2人はどうしてもそりが合わない。
会話でどうにかわかり合う事もなく、
かと言って物事の価値観も意外と合わないのだ。
しのぶは強硬手段に出る。
上半身を羽交い攻めにされたまま、グイッと足を反らす。
布
恐らく、毒が表面に塗られている物に違いなかった。
彼女の刃が冨岡を捉えようとしたその時
「伝令‼伝令‼伝令アリー‼
炭治郎ト禰豆子両名ヲ拘束、本部へ連レ帰ルベシッ‼」
「「!」」
本部からの伝令..
ならば仕方がないか。
しのぶは体の力を抜いた
ーーーーー