◆第肆章 下弦に泣く浮き世
貴女のお名前を教えてください
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〜63【交換条件】〜
よし!上手く捕まえたわ!ー
厄介そうな鬼狩りの男二匹はお父さんに任せて、少女は手負いの女剣士をお得意の繭へ捕らえる。
この女を手にかければ、塁を守れる事を証明出来れば、私は姉の役割を果たしたと言えるわ。
溶解の繭は、特殊な溶解液が中に満たされている。
剣士が使う呼吸を封じれば、内部からはまず逃れられない。
その間にも、刻一刻と身衣や肉体を溶かしていくのだ。
「ふふ、ざまぁ見なさい鬼狩り女!あんたのせいで、私が塁に捨てられるじゃないの!」
激しい憤りを露わにして、鬼の少女は何重にも繭を巻きつける。絶対逃れられない。
あんたはここで私が殺す!
その時だった。内部から光が漏れる。まるで蝶が羽化する直前のように..
少女は目を見開いた。何が起こっているというの?
呼吸は使えない筈なのにっ
次々と灼き焦がれていく糸、そして燃え広がる紅炎が酸素を求めるように唸る。
満たされていた筈の溶解液は干からびていた。
こんなのあり得ない
「あんた..何者なのよ。ただの鬼狩りの剣士じゃ、ないわね」
日向子は少女を睨み返す。
正直言えば今、余裕ではない。
ただでさえ手負いの状態であったにもかかわらず、呼吸の使えない状態で、彼女は巫一族の異能を使用した。
かつて鬼舞辻の血鬼術を灼いた時と同じく、
全身の体温を一気に上げる、
師範の元で修行した末何とかコントロール出来るようになったが、反動が大きい。
肩で息をしそうになるのを必死で堪えて、
呼吸を整えることに専念しようとした時だった。
「ぎゃあぁぁぁ!!!」
目の前の鬼の少女が顔を押さえて身体をよろつかせる。ぼたぼたと垂れる血が、何者かに傷を負わされた事を物語っていた。
一体誰が?..まさか炭治郎達が
「その子を殺していいと、いつ、誰が言ったの。」
聞き慣れない声色。炭治郎達ではない...
声のした方、頭上を見上げると、子供程の背丈の鬼の少年が日向子を見下ろしていた。
今までの鬼とは違う妙な威圧感を感じる。
「うぅ..っ塁..だってこの女も、鬼狩りなのよ?私達を殺しに..来た敵なのよ。」
少女が涙ながらに訴えるが、少年は聞く耳を持たない。
彼は日向子に、向かって手を差し出した。
「ねぇ君、俺の姉さんにしてあげてもいいよ。自分はどうなっても他人を思いやれる優しさ。俺はそういう子と家族になりたいんだよ。
【生かしておいてあげるから】俺のところにおいでよ。」
ーーーーー
〜64【真実の絆】〜
この鬼の少年は今、何と言った?
俺の姉さんになるといいと、そう言った。そんなの
「なるわけないわ。私には既に、自分の命より大切な弟と妹がいるのだから。」
強い眼差しでそう言うと、彼は驚くべき事に気を悪くするでも怒り出すでもなく、ぱちぱちと両手を叩き日向子を称賛 した。
「素晴らしいよ!その家族を思う気持ち、まさしく本物の絆だね、愛だよ。君のその愛、欲しいなぁ...」
「っ!!」
彼は一瞬にして間合いを詰める。早い。
見た目で言えばこの鬼は、一番最年少の位置付け。
なのに、さっきから感じるこの息の詰まるような圧迫感はなんだ。
「君の弟と妹は、今どこ?そいつらを殺せば、君は姉さんじゃなくなるね。」
ぞわりと全身の身の毛がよだつ感覚を覚える。
鼻先が付き合いそうな距離で少年の瞳の奥を見た。
珠世さんが言っていた言葉を思い出す
この鬼は
その時、見慣れた呼吸の波動を感じ取った。
目を向けると炭治郎が上空から地に叩きつけられそうな勢いで飛ばされて来たが、弐ノ型で衝撃を相殺し着地したようだ。
あぁでも、よりにもよってこのタイミングでっ!
「...お前、日向子姉さんから離れろっー!!」
状況を把握するや否や、みるみるうちに炭治郎は青筋を立てて、彼女と鬼の間に刃を振り下ろした。
激しい衝撃と土埃があたりに広がる。
日向子を守るように背に回して刀を構える炭治郎を見て、そうかお前が弟かと呟くと、塁は不思議そうに首を傾げる。
「弟なのに、全然似てないじゃないか。髪も瞳の色も、顔形も何もかも。本当に家族なのか?」
!
日向子は震える身体をひしと抑える。
ずっと昔から胸に抱いては消して来た。
ある感情。
紛い物と指摘され初めて実感した..。
私は
「見てくれは関係ない!家族も仲間も強い絆で結ばれていればどちらも同じように尊いんだ!血の繋がりが無ければ、薄っぺらだなんて事はない、俺は日向子姉さんと本当の家族と同じような絆を築いてると思っているし、自分の命より大切な守るべき人だ!」
「っ...」
炭治郎は迷う事なくそう叫んだ。
鬼の少年は、面白くなさそうに徐々に顔をしかめ始めた。尚も炭治郎は続ける。
「お前達からは恐怖と憎しみと、嫌悪の匂いしかしない。そんな絆は偽物だ!」
その言葉を聞いた途端、彼は目蓋をピクリと震わせた。後ろから攻めて来た鬼殺隊員を瞬時に細切れにする。重い空気が炭治郎達にのしかかった。
「お前、今、何て言ったの?」
ーーーーー
〜65【記憶の情景と憎悪】〜
少年の鬼から急激に殺気が放たれる。
炭治郎は冷や汗を垂らすが、それでも怯まない。
自分達の絆と、彼等の絆を同じにされては黙っていられない。
それに、これ以上この子の好き勝手にはさせられなかった。
「何度でも言ってやる!お前達の絆は偽物だ!」
炭治郎に否定された事が相当逆鱗に触れたのか、しきりにあやとりの糸を操り、無表情の中に激しい怒りをたたえていた。
「お前は一息では殺さないよ。うんとずたずたにした後で刻んでやる。
でも、さっきの言葉を取り消して、その子を俺に渡してくれるのなら、一息で殺してやってもいい」
「は?..」
「どの道お前を殺して、この子は俺の姉さんにする。悪い話じゃないだろう?知ってた?君、あのお方から【生捕りから抹殺せよ】に命令が変更されているよ。
君は鬼に出来ないんだよね、人間として生かしておいてあげるからさ、ねぇ..俺の姉さんに
キン!
炭治郎は瞳孔を開かせ思い切り刃を振るう。
片腕でそれを止める塁は、ギリギリと攻防が続く中、ゆっくりと横に顔を向けた。
「話の途中に邪魔しないでくれない」
「日向子姉さんは感情があるんだ、お前の思うようにはならない。彼女は俺達の姉さんだ。お前に奪わせるもんか!」
この2人はどこまでも平行線だ。
欲しい物が同じ。
描いている物の価値観が異なる。
塁は糸を炭治郎に向かって投げ込んだ。
炭治郎は呼吸を放つ為、息を吸い上げる。
ー水の呼吸 壱ノ型 水面斬りー
バキン!
「!」
信じられない。
炭治郎の日輪刀は、彼の糸を斬り刻んとした途端に真っ二つに折れた。
完全な武器を失った炭治郎は、必死に隙を見つけて潜り込もうとするも彼の操る糸は生き物のように揺れ動く。
無理だ...
私がやらなきゃ!
朦朧とする意識の中日向子は刀を構える。
拾ノ型だ。
全てを灼きつくす息吹を
ガクッ
しかし脚に力が入らず態勢が崩れる。
あぁ、こんな時に、早く攻撃しないと、炭治郎が、死んじゃっ..
少年の糸が炭治郎の身体を掠めようとした瞬間、
木箱の中から禰豆子が飛び出し、彼を庇うように両の手を広げた。
ビシャリと血飛沫が舞う。
塁の糸から、禰豆子が身体を張り炭治郎を守ったのだ。
「禰豆子っ!!」
炭治郎が血塗れの禰豆子を抱える。日向子はどくりとした胸の鼓動を感じた。
炭治郎が禰豆子をひしと抱き、必死に声をかけている光景から、遠い記憶が呼び起こされる。
ーもう誰も、失いたくないー
それは彼女の気持ちか或いは...
ーーーーー
〜66【太陽神を宿し巫女】〜
ー駄目よ..貴女は、私と同じにはならないでね
日向子ー
「っ!」
禰豆子!としきりに叫んで炭治郎は必死に彼女の身体を支える。もげそうなくらい深い傷を負った禰豆子は、しばらく自力で動けなそうだった。
塁は、2人のそんな様子を見て、兄妹か?これも欲しい、本物の絆だとぶつぶつと呟きながら、震えた手で指差した。
縋るようにひざまづく鬼の少女を投げ飛ばし、鬱陶 しそうに、残った鬼狩りを殺してこいと命令する。
塁は炭治郎に交渉を持ち掛けた。
【妹と姉を渡せば、お前は生かして帰してやると】
けれど、それを聞いた炭治郎は激昂 し、承知できるわけがないと突っぱねる。
「いいよ。殺して盗るから」
「俺が先にお前の頸を切る」
両者一歩も譲らぬ交渉は呆気なく破談した。
少年は今まで隠していた左眼を見せつける。
そこには、下伍と刻まれていた。やはり...
彼は十二鬼月だった。
あの情景と、同じだ。
累が糸を掲げようと腕を上げた瞬間、
日向子が前に出て来て、刀を鞘におさめた状態で向き合う。
炭治郎は一瞬目を見開いたが、危険だから下がっていてくれと伝えるも、彼女はその声を無視し塁を見つめた。
「君のその髪色...綺麗だね。俺はもう少し灰色が入ってた方がいいと思うけど。
君に用はないよ。今俺はその男と話をしてるんだから」
日向子の髪色は、紺桔梗 色から白練 色へ。
瞳もまるで、地球を宿しているかのようなアースアイに変化していた。
日向子の呼吸一つ一つが、その場の空気に振動し震えているかのようだった。
塁は腕を下ろして糸を引っ込める。
「俺と闘うつもりはないみたいだね。でもそこを退かないのは何故?」
日向子は口を開いた。
「あなたは寂しいのでしょう。後悔しているのでしょう。奪う為に闘うのは不毛だから。
どうかお願いです。自分に負けては駄目」
「...は?」
塁は素っ頓狂な声を出す。この状況でそんな言葉を言われるとは思ってないからだ。
途端に、塁は自らの頭を押さえた。頭をつんざくような痛みが走る。
「お前..何をしたんだ!」
塁は彼女が何かの異能を使ったのではと判断し日向子に向かって糸を放つが、彼女はその場を動かない。
炭治郎が叫ぶ声が聞こえる。禰豆子は大きく目を見開き動かぬ体を必死に持ち上げようとした。
だが、届かない。
しかし、塁の糸は
彼女の身体を細切れにする事なく
跡形も無く灼き切れ消滅したのだった
ーーーーー
よし!上手く捕まえたわ!ー
厄介そうな鬼狩りの男二匹はお父さんに任せて、少女は手負いの女剣士をお得意の繭へ捕らえる。
この女を手にかければ、塁を守れる事を証明出来れば、私は姉の役割を果たしたと言えるわ。
溶解の繭は、特殊な溶解液が中に満たされている。
剣士が使う呼吸を封じれば、内部からはまず逃れられない。
その間にも、刻一刻と身衣や肉体を溶かしていくのだ。
「ふふ、ざまぁ見なさい鬼狩り女!あんたのせいで、私が塁に捨てられるじゃないの!」
激しい憤りを露わにして、鬼の少女は何重にも繭を巻きつける。絶対逃れられない。
あんたはここで私が殺す!
その時だった。内部から光が漏れる。まるで蝶が羽化する直前のように..
少女は目を見開いた。何が起こっているというの?
呼吸は使えない筈なのにっ
次々と灼き焦がれていく糸、そして燃え広がる紅炎が酸素を求めるように唸る。
満たされていた筈の溶解液は干からびていた。
こんなのあり得ない
「あんた..何者なのよ。ただの鬼狩りの剣士じゃ、ないわね」
日向子は少女を睨み返す。
正直言えば今、余裕ではない。
ただでさえ手負いの状態であったにもかかわらず、呼吸の使えない状態で、彼女は巫一族の異能を使用した。
かつて鬼舞辻の血鬼術を灼いた時と同じく、
全身の体温を一気に上げる、
師範の元で修行した末何とかコントロール出来るようになったが、反動が大きい。
肩で息をしそうになるのを必死で堪えて、
呼吸を整えることに専念しようとした時だった。
「ぎゃあぁぁぁ!!!」
目の前の鬼の少女が顔を押さえて身体をよろつかせる。ぼたぼたと垂れる血が、何者かに傷を負わされた事を物語っていた。
一体誰が?..まさか炭治郎達が
「その子を殺していいと、いつ、誰が言ったの。」
聞き慣れない声色。炭治郎達ではない...
声のした方、頭上を見上げると、子供程の背丈の鬼の少年が日向子を見下ろしていた。
今までの鬼とは違う妙な威圧感を感じる。
「うぅ..っ塁..だってこの女も、鬼狩りなのよ?私達を殺しに..来た敵なのよ。」
少女が涙ながらに訴えるが、少年は聞く耳を持たない。
彼は日向子に、向かって手を差し出した。
「ねぇ君、俺の姉さんにしてあげてもいいよ。自分はどうなっても他人を思いやれる優しさ。俺はそういう子と家族になりたいんだよ。
【生かしておいてあげるから】俺のところにおいでよ。」
ーーーーー
〜64【真実の絆】〜
この鬼の少年は今、何と言った?
俺の姉さんになるといいと、そう言った。そんなの
「なるわけないわ。私には既に、自分の命より大切な弟と妹がいるのだから。」
強い眼差しでそう言うと、彼は驚くべき事に気を悪くするでも怒り出すでもなく、ぱちぱちと両手を叩き日向子を
「素晴らしいよ!その家族を思う気持ち、まさしく本物の絆だね、愛だよ。君のその愛、欲しいなぁ...」
「っ!!」
彼は一瞬にして間合いを詰める。早い。
見た目で言えばこの鬼は、一番最年少の位置付け。
なのに、さっきから感じるこの息の詰まるような圧迫感はなんだ。
「君の弟と妹は、今どこ?そいつらを殺せば、君は姉さんじゃなくなるね。」
ぞわりと全身の身の毛がよだつ感覚を覚える。
鼻先が付き合いそうな距離で少年の瞳の奥を見た。
珠世さんが言っていた言葉を思い出す
この鬼は
その時、見慣れた呼吸の波動を感じ取った。
目を向けると炭治郎が上空から地に叩きつけられそうな勢いで飛ばされて来たが、弐ノ型で衝撃を相殺し着地したようだ。
あぁでも、よりにもよってこのタイミングでっ!
「...お前、日向子姉さんから離れろっー!!」
状況を把握するや否や、みるみるうちに炭治郎は青筋を立てて、彼女と鬼の間に刃を振り下ろした。
激しい衝撃と土埃があたりに広がる。
日向子を守るように背に回して刀を構える炭治郎を見て、そうかお前が弟かと呟くと、塁は不思議そうに首を傾げる。
「弟なのに、全然似てないじゃないか。髪も瞳の色も、顔形も何もかも。本当に家族なのか?」
!
日向子は震える身体をひしと抑える。
ずっと昔から胸に抱いては消して来た。
ある感情。
紛い物と指摘され初めて実感した..。
私は
「見てくれは関係ない!家族も仲間も強い絆で結ばれていればどちらも同じように尊いんだ!血の繋がりが無ければ、薄っぺらだなんて事はない、俺は日向子姉さんと本当の家族と同じような絆を築いてると思っているし、自分の命より大切な守るべき人だ!」
「っ...」
炭治郎は迷う事なくそう叫んだ。
鬼の少年は、面白くなさそうに徐々に顔をしかめ始めた。尚も炭治郎は続ける。
「お前達からは恐怖と憎しみと、嫌悪の匂いしかしない。そんな絆は偽物だ!」
その言葉を聞いた途端、彼は目蓋をピクリと震わせた。後ろから攻めて来た鬼殺隊員を瞬時に細切れにする。重い空気が炭治郎達にのしかかった。
「お前、今、何て言ったの?」
ーーーーー
〜65【記憶の情景と憎悪】〜
少年の鬼から急激に殺気が放たれる。
炭治郎は冷や汗を垂らすが、それでも怯まない。
自分達の絆と、彼等の絆を同じにされては黙っていられない。
それに、これ以上この子の好き勝手にはさせられなかった。
「何度でも言ってやる!お前達の絆は偽物だ!」
炭治郎に否定された事が相当逆鱗に触れたのか、しきりにあやとりの糸を操り、無表情の中に激しい怒りをたたえていた。
「お前は一息では殺さないよ。うんとずたずたにした後で刻んでやる。
でも、さっきの言葉を取り消して、その子を俺に渡してくれるのなら、一息で殺してやってもいい」
「は?..」
「どの道お前を殺して、この子は俺の姉さんにする。悪い話じゃないだろう?知ってた?君、あのお方から【生捕りから抹殺せよ】に命令が変更されているよ。
君は鬼に出来ないんだよね、人間として生かしておいてあげるからさ、ねぇ..俺の姉さんに
キン!
炭治郎は瞳孔を開かせ思い切り刃を振るう。
片腕でそれを止める塁は、ギリギリと攻防が続く中、ゆっくりと横に顔を向けた。
「話の途中に邪魔しないでくれない」
「日向子姉さんは感情があるんだ、お前の思うようにはならない。彼女は俺達の姉さんだ。お前に奪わせるもんか!」
この2人はどこまでも平行線だ。
欲しい物が同じ。
描いている物の価値観が異なる。
塁は糸を炭治郎に向かって投げ込んだ。
炭治郎は呼吸を放つ為、息を吸い上げる。
ー水の呼吸 壱ノ型 水面斬りー
バキン!
「!」
信じられない。
炭治郎の日輪刀は、彼の糸を斬り刻んとした途端に真っ二つに折れた。
完全な武器を失った炭治郎は、必死に隙を見つけて潜り込もうとするも彼の操る糸は生き物のように揺れ動く。
無理だ...
私がやらなきゃ!
朦朧とする意識の中日向子は刀を構える。
拾ノ型だ。
全てを灼きつくす息吹を
ガクッ
しかし脚に力が入らず態勢が崩れる。
あぁ、こんな時に、早く攻撃しないと、炭治郎が、死んじゃっ..
少年の糸が炭治郎の身体を掠めようとした瞬間、
木箱の中から禰豆子が飛び出し、彼を庇うように両の手を広げた。
ビシャリと血飛沫が舞う。
塁の糸から、禰豆子が身体を張り炭治郎を守ったのだ。
「禰豆子っ!!」
炭治郎が血塗れの禰豆子を抱える。日向子はどくりとした胸の鼓動を感じた。
炭治郎が禰豆子をひしと抱き、必死に声をかけている光景から、遠い記憶が呼び起こされる。
ーもう誰も、失いたくないー
それは彼女の気持ちか或いは...
ーーーーー
〜66【太陽神を宿し巫女】〜
ー駄目よ..貴女は、私と同じにはならないでね
日向子ー
「っ!」
禰豆子!としきりに叫んで炭治郎は必死に彼女の身体を支える。もげそうなくらい深い傷を負った禰豆子は、しばらく自力で動けなそうだった。
塁は、2人のそんな様子を見て、兄妹か?これも欲しい、本物の絆だとぶつぶつと呟きながら、震えた手で指差した。
縋るようにひざまづく鬼の少女を投げ飛ばし、
塁は炭治郎に交渉を持ち掛けた。
【妹と姉を渡せば、お前は生かして帰してやると】
けれど、それを聞いた炭治郎は
「いいよ。殺して盗るから」
「俺が先にお前の頸を切る」
両者一歩も譲らぬ交渉は呆気なく破談した。
少年は今まで隠していた左眼を見せつける。
そこには、下伍と刻まれていた。やはり...
彼は十二鬼月だった。
あの情景と、同じだ。
累が糸を掲げようと腕を上げた瞬間、
日向子が前に出て来て、刀を鞘におさめた状態で向き合う。
炭治郎は一瞬目を見開いたが、危険だから下がっていてくれと伝えるも、彼女はその声を無視し塁を見つめた。
「君のその髪色...綺麗だね。俺はもう少し灰色が入ってた方がいいと思うけど。
君に用はないよ。今俺はその男と話をしてるんだから」
日向子の髪色は、紺
瞳もまるで、地球を宿しているかのようなアースアイに変化していた。
日向子の呼吸一つ一つが、その場の空気に振動し震えているかのようだった。
塁は腕を下ろして糸を引っ込める。
「俺と闘うつもりはないみたいだね。でもそこを退かないのは何故?」
日向子は口を開いた。
「あなたは寂しいのでしょう。後悔しているのでしょう。奪う為に闘うのは不毛だから。
どうかお願いです。自分に負けては駄目」
「...は?」
塁は素っ頓狂な声を出す。この状況でそんな言葉を言われるとは思ってないからだ。
途端に、塁は自らの頭を押さえた。頭をつんざくような痛みが走る。
「お前..何をしたんだ!」
塁は彼女が何かの異能を使ったのではと判断し日向子に向かって糸を放つが、彼女はその場を動かない。
炭治郎が叫ぶ声が聞こえる。禰豆子は大きく目を見開き動かぬ体を必死に持ち上げようとした。
だが、届かない。
しかし、塁の糸は
彼女の身体を細切れにする事なく
跡形も無く灼き切れ消滅したのだった
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