◆第肆章 下弦に泣く浮き世
貴女のお名前を教えてください
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〜59【心と哀しみ】〜
伊之助の鋭い斬撃が鬼の胴体を真っ二つに切り裂いた。
あぁ...やられた、やられた
少女は焦る。
己は身を隠し、遠隔で人形を操り敵同士で共倒れさせる戦法を得意とする彼女は、近距離戦をそもそも想定していない。
鬼狩り達は既に目と鼻の先。
あの女のせいで人形は量産出来ないし、一番速くて強い人形も倒されてしまった。
もう駒は手元にない。
そもそも累が脅しに来たのが悪いのよ!!
平穏な家族との生活ですって、馬鹿馬鹿しい。
皮肉にも累が居る事でそれは地獄の日々とおんなじよ。
鬼でありながらそんな事望んだって、叶いっこないのに、あの子がこの【ごっこ遊び】に執着するから私は...
「!」
月空を見上げると、鬼狩りの少年が刀を振り被る姿が視界に入った。
コロサレル
その恐怖に苛まれながら、
どうしたらこの状況を打開できるのか必死に考えを巡らせる。
死にたくない死にたくない死にた...
私は、何故死を恐怖するのだろう。
偽りの家族、ただ縛られ【支配】される為だけに永らえる。そこに愛はないのに
死ねば解放される、楽に、なれる
少女は両腕を差し出した。
炭治郎は殺気が無くなった死すら切望する匂いを瞬時に感じ取り、型の構えを直前で変えた。
ー水の呼吸 伍ノ型 干天の慈雨 ー...
音のない空気が彼らを切り裂いた。
あぁ、少しも痛くない。
温かい。
こんなにも穏やかな死があるというのか。
彼の瞳は哀しく、そして優しい色をしていた。
こんなにも救いようのない私に、
まだそんな目を向けてくれるのね...。
ありがとうー..
「気を付けて、十二鬼月がいるわ」
彼女は最後にそう言い残して形を失った。
炭治郎は十二鬼月がいるという事実に衝撃を受ける。彼女も十分に強かった。
それ以上に手強い敵が、この山に巣食っているということだ。
伊之助は先程の戦闘で酷い傷を負っていて
日向子姉さんが応急処置を行なっているが、無理はさせられないだろう。
「彼女は何かに怯えていた。もしかしたら、その十二鬼月がこの山を牛耳 っているのかもしれないね。
鬼にこんな事を思うのは変かもしれないけれど、可哀想だわ...とても。」
日向子姉さんが悲しそうにそう呟いた。
伊之助は鬼に慈悲を与えるなんて狂っていると喚き散らしたが、炭治郎は日向子の気持ちが何となくわかる。
感じたのだ。救済を求める、切ない匂いを...
鬼を殺 める度に、僅かに残された人の心に炭治郎は戸惑った。
ーーーーー
〜60【愛と復讐の紙一重】〜
日向子にとって、鬼は憎き対象であった。
捨てられていた私を拾い育ててくれた父と母、
無邪気に慕ってくれる弟と妹達。
けれど、自分は余所者で、彼等は本当は、私が邪魔なのではと思った時期もあった。
ただそれは杞憂で、愛してくれた家族が、本当に大好きだったのだ。
そんな大切な家族を奪い、傷付けられ、今もなお僅かな希望さえも奪い去ろうとする。
そんなにお前たちは偉いのかと、神にでもなったつもりかと、この怒りの感情だけは何があっても風化させてはいけないと思いここまできた。
けれど...
全ての鬼が憎むべき対象ではないことを知り、
日向子は狼狽えた。自分もまた、奪う側である事に気付いたのだ。
失われた命は戻らない
奪った罪は一生背負うことになる。
それはいつの時代も、全ての生命に平等に課せられている。
そう..私達人間にもだ。
人の弱き心につけ込み、我が物顔で幸せを奪い取る黒幕。
鬼舞辻無惨だけは絶対に許せない。
けれど引き込まれた側の人々はどうだろう?
彼等にも物語はあった。
操り糸の鬼の少女もまた、きっと遠い記憶の底では、本当は人々を殺めたくなどなかった筈だ
奪い奪われ、殺し殺され
私達の目指す先は、どこへ向かっていくのだろうか?
「伊之助、お前は下山した方がいい」
炭治郎は伊之助にそう言うと、ふざけるなと怒り狂う。恐らく彼は負けず嫌いなのだ。
身体のダメージや負担は二の次で、役立たず足手まといというレッテルが気に入らないのだ。炭治郎らがただ心配で言っているだけだとしても。
「伊之助君、この傷で先へ行くのは危険よ。炭治郎の言う通りだわ..この先十二鬼月とやり合うかもしれないのに」
「君付けはやめろ!ムズムズすんだよ気持悪りぃ」
伊之助と叱咤する炭治郎を手で制し、日向子は再度刀を鞘から抜く。
「日向子姉さん?!」
いくらなんでもそれはと慌てて止めようとする彼に構わず、彼女は息を吸い上げた。
ー星の呼吸 漆ノ型 輪廻転生の理(りんねてんせいのことわり)ー...
彼女が伊之助に刀を斬りつけた部分から、眩い光が解き放たれた。
そして不思議な事に、深い傷が薄ら軽快したのだ。
「これは...」
「すげぇ!なんか体軽くなったぞ!とんでもねぇ技持ってんじゃねぇかよきな子!」
軽快に飛び跳ねる伊之助に、日向子は一時凌ぎの応急処置だから無理はしないようにと伝えた。
しかし炭治郎は気付いていたのだ。
彼女の身体から血の匂いが滲み出ていることに
ーーーーー
〜61【偽りの姉弟】〜
親は子を守る為に命をかけて闘う。
それが、家族であり親子というものだろう?
その役割を果たせないのなら、
お前はいらないよ
【姉】と呼ばれた少女はガクガクと小刻みに体を震わせて、母と鬼狩りの戦いを見ていた。
隣には、弟もいる。
怖い...
無言で彼等の闘いを見ている弟から、いつ何時八つ当たりを受けるのではないかという恐怖。
戦いは明らかに母の劣勢だった。
あいつらが来るまでは良かったのに、塁もそこそこ機嫌が良さそうだったのにさ。
今は彼が何考えているかすらわからない。
顔も怖くて..見れない。
だって、だって、母が殺されてしまったら
いまこの時、今度は姉である私が累を守らなければいけないのよ。
役割を果たせなかったら私は..
「姉さん、あいつらは、家族なのかな?それとも友達なのか」
不意に累がそう呟いた。
びくりと肩を揺らしてしまったが、平静を装いながら返す。
「さぁ、似ていないし、ただの友達じゃないの?」
「....そうか」
頼むから家族であって欲しくない。
異様なまでに家族の絆に執着する累が、何をしでかすかわからないし、私達の家族の形こそが本当の絆であると信じてやまない彼が、綺麗な愛に触れでもしたら、私達はお払い箱だから。
「じゃああの女の子は、家族でもない奴を身を挺 して助けたんだ。」
「え?..」
状況を確認すると、母は鬼狩りの少年に頚を取られており、母の人形で傷を負ったあの猪はピンピンとしている。
あれ..さっきは酷い傷を負っていたのに。
「姉さん見てなかったの?あの女の子、猪の傷を癒したけど【その分の傷が自分に跳ね返る能力】を使ったんだよ。」
累は興奮していた。
家族なら、家族だから当たり前と、口を開けばそう話していた彼が、家族じゃないのに自分を犠牲に誰かを助けるという、純粋な優しさを目の当たりにして目を輝かせる。
と思えば、途端に瞳から色をなくした。
「それに比べて姉さんは..【家族なのに】、自分は影でコソコソして自分が傷付きそうになったらすぐ父さんを呼んでさ、ねぇ..恥ずかしくないの?」
「...累、」
姉はかつてこんなにも累の逆鱗 に触れた事はなかった。
上手くやっていたつもりだった。
いつも汚れ役は母に任せていたし、自分は適度にいい姉を演じていればよかったのだ。
なのに
「もういいや。姉さん、いらないよ。
俺はあの子を姉さんにするからさ」
累は腕を掲げて糸を張り上げた
ーーーーー
〜62【死闘開始】〜
「ちょ、ちょっと待って累..あの鬼狩り共は必ず殺すわ!私は、今までだってちゃんと期待に応えてきたでしょう?何があっても累は私が守るわよ、だって姉さんだもの、ね?」
必死に挽回 のチャンスを乞う。
累は蔑んだ眼差しを姉に向けたが、やがてゆっくりと腕を下ろす。
「俺は、既に家族に失望しかけてるんだよ。この意味、姉さんならわかるだろ」
もう次はない。
しくじったら殺されてしまう。
鬼狩り共め...せっかくここまで築いてきた私の努力と信用が水の泡じゃない..許さないわ
ー特にあの女。
姉はギリと歯を食いしばり駆けていった。
.....
日向子は思う。加減を誤ったかもしれないと。
でも伊之助が回復したのなら..良かった。
彼女は出来るだけ平然を装った。
漆の型は回復の型だ。他者の細胞を生まれ変わらせる。要は傷を癒す効果を持つ型。
だが、それなりにリスクのあるもので、その代償として己の細胞を壊死 させる。
あのまま伊之助が下山せず戦闘を離脱しないというのなら、これが最善だった。
でも、意外と彼は深い傷を負っていたようだ。
日向子自身が倒れたのでは本末転倒なので、加減した筈が思いのほか、持っていかれた。
あぁ、鼻の効く炭治郎はもしかしたら気づいてるかもしれないけれど...
その時、小川の水面が揺れる。
見ると別の鬼の少女がこちらを凝視している。くそ..一体いくつの鬼がこの山にいるというのか。万全ではない身体に苛つきながら日向子は小さく舌打ちする。
伊之助が好戦的に向かっていった瞬間、少女が父を呼んだ。
大きな水飛沫と共に現れたのは、大柄で悍ましい蜘蛛の頭を持つ鬼だった。
ビリビリと感じる肌が、彼等に警告音を鳴らす。
まさかこいつが..
「ーおれの、家族に、近づくな!!!!」
濁声 と共に巨大な拳が振り下ろされる。
日向子達は風圧で吹き飛ばされ散った。
「っ!」
どさくさに紛れシュルシュルと何かが日向子の口元や身体に巻きつく。
これは...糸?繭のように太い束だ。
呼吸を整える余裕がない。
しまった
ー炭治郎っ!!ー
叫ぶ暇もなく瞬く間に視界が閉ざされて行く。
一方、吹き飛ばされた衝撃から立ち直った炭治郎も即座に気付く。
「っ日向子姉さんがいない!!」
「なんだと?!」
まさかこの一瞬で、まずい
彼女は....ー早く助けに!
考える間もなく、炭治郎達は十二鬼月であろう鬼との戦闘開始を余儀なくされた。
ーーーーー
伊之助の鋭い斬撃が鬼の胴体を真っ二つに切り裂いた。
あぁ...やられた、やられた
少女は焦る。
己は身を隠し、遠隔で人形を操り敵同士で共倒れさせる戦法を得意とする彼女は、近距離戦をそもそも想定していない。
鬼狩り達は既に目と鼻の先。
あの女のせいで人形は量産出来ないし、一番速くて強い人形も倒されてしまった。
もう駒は手元にない。
そもそも累が脅しに来たのが悪いのよ!!
平穏な家族との生活ですって、馬鹿馬鹿しい。
皮肉にも累が居る事でそれは地獄の日々とおんなじよ。
鬼でありながらそんな事望んだって、叶いっこないのに、あの子がこの【ごっこ遊び】に執着するから私は...
「!」
月空を見上げると、鬼狩りの少年が刀を振り被る姿が視界に入った。
コロサレル
その恐怖に苛まれながら、
どうしたらこの状況を打開できるのか必死に考えを巡らせる。
死にたくない死にたくない死にた...
私は、何故死を恐怖するのだろう。
偽りの家族、ただ縛られ【支配】される為だけに永らえる。そこに愛はないのに
死ねば解放される、楽に、なれる
少女は両腕を差し出した。
炭治郎は殺気が無くなった死すら切望する匂いを瞬時に感じ取り、型の構えを直前で変えた。
ー水の呼吸 伍ノ型 干天の慈雨 ー...
音のない空気が彼らを切り裂いた。
あぁ、少しも痛くない。
温かい。
こんなにも穏やかな死があるというのか。
彼の瞳は哀しく、そして優しい色をしていた。
こんなにも救いようのない私に、
まだそんな目を向けてくれるのね...。
ありがとうー..
「気を付けて、十二鬼月がいるわ」
彼女は最後にそう言い残して形を失った。
炭治郎は十二鬼月がいるという事実に衝撃を受ける。彼女も十分に強かった。
それ以上に手強い敵が、この山に巣食っているということだ。
伊之助は先程の戦闘で酷い傷を負っていて
日向子姉さんが応急処置を行なっているが、無理はさせられないだろう。
「彼女は何かに怯えていた。もしかしたら、その十二鬼月がこの山を
鬼にこんな事を思うのは変かもしれないけれど、可哀想だわ...とても。」
日向子姉さんが悲しそうにそう呟いた。
伊之助は鬼に慈悲を与えるなんて狂っていると喚き散らしたが、炭治郎は日向子の気持ちが何となくわかる。
感じたのだ。救済を求める、切ない匂いを...
鬼を
ーーーーー
〜60【愛と復讐の紙一重】〜
日向子にとって、鬼は憎き対象であった。
捨てられていた私を拾い育ててくれた父と母、
無邪気に慕ってくれる弟と妹達。
けれど、自分は余所者で、彼等は本当は、私が邪魔なのではと思った時期もあった。
ただそれは杞憂で、愛してくれた家族が、本当に大好きだったのだ。
そんな大切な家族を奪い、傷付けられ、今もなお僅かな希望さえも奪い去ろうとする。
そんなにお前たちは偉いのかと、神にでもなったつもりかと、この怒りの感情だけは何があっても風化させてはいけないと思いここまできた。
けれど...
全ての鬼が憎むべき対象ではないことを知り、
日向子は狼狽えた。自分もまた、奪う側である事に気付いたのだ。
失われた命は戻らない
奪った罪は一生背負うことになる。
それはいつの時代も、全ての生命に平等に課せられている。
そう..私達人間にもだ。
人の弱き心につけ込み、我が物顔で幸せを奪い取る黒幕。
鬼舞辻無惨だけは絶対に許せない。
けれど引き込まれた側の人々はどうだろう?
彼等にも物語はあった。
操り糸の鬼の少女もまた、きっと遠い記憶の底では、本当は人々を殺めたくなどなかった筈だ
奪い奪われ、殺し殺され
私達の目指す先は、どこへ向かっていくのだろうか?
「伊之助、お前は下山した方がいい」
炭治郎は伊之助にそう言うと、ふざけるなと怒り狂う。恐らく彼は負けず嫌いなのだ。
身体のダメージや負担は二の次で、役立たず足手まといというレッテルが気に入らないのだ。炭治郎らがただ心配で言っているだけだとしても。
「伊之助君、この傷で先へ行くのは危険よ。炭治郎の言う通りだわ..この先十二鬼月とやり合うかもしれないのに」
「君付けはやめろ!ムズムズすんだよ気持悪りぃ」
伊之助と叱咤する炭治郎を手で制し、日向子は再度刀を鞘から抜く。
「日向子姉さん?!」
いくらなんでもそれはと慌てて止めようとする彼に構わず、彼女は息を吸い上げた。
ー星の呼吸 漆ノ型 輪廻転生の理(りんねてんせいのことわり)ー...
彼女が伊之助に刀を斬りつけた部分から、眩い光が解き放たれた。
そして不思議な事に、深い傷が薄ら軽快したのだ。
「これは...」
「すげぇ!なんか体軽くなったぞ!とんでもねぇ技持ってんじゃねぇかよきな子!」
軽快に飛び跳ねる伊之助に、日向子は一時凌ぎの応急処置だから無理はしないようにと伝えた。
しかし炭治郎は気付いていたのだ。
彼女の身体から血の匂いが滲み出ていることに
ーーーーー
〜61【偽りの姉弟】〜
親は子を守る為に命をかけて闘う。
それが、家族であり親子というものだろう?
その役割を果たせないのなら、
お前はいらないよ
【姉】と呼ばれた少女はガクガクと小刻みに体を震わせて、母と鬼狩りの戦いを見ていた。
隣には、弟もいる。
怖い...
無言で彼等の闘いを見ている弟から、いつ何時八つ当たりを受けるのではないかという恐怖。
戦いは明らかに母の劣勢だった。
あいつらが来るまでは良かったのに、塁もそこそこ機嫌が良さそうだったのにさ。
今は彼が何考えているかすらわからない。
顔も怖くて..見れない。
だって、だって、母が殺されてしまったら
いまこの時、今度は姉である私が累を守らなければいけないのよ。
役割を果たせなかったら私は..
「姉さん、あいつらは、家族なのかな?それとも友達なのか」
不意に累がそう呟いた。
びくりと肩を揺らしてしまったが、平静を装いながら返す。
「さぁ、似ていないし、ただの友達じゃないの?」
「....そうか」
頼むから家族であって欲しくない。
異様なまでに家族の絆に執着する累が、何をしでかすかわからないし、私達の家族の形こそが本当の絆であると信じてやまない彼が、綺麗な愛に触れでもしたら、私達はお払い箱だから。
「じゃああの女の子は、家族でもない奴を身を
「え?..」
状況を確認すると、母は鬼狩りの少年に頚を取られており、母の人形で傷を負ったあの猪はピンピンとしている。
あれ..さっきは酷い傷を負っていたのに。
「姉さん見てなかったの?あの女の子、猪の傷を癒したけど【その分の傷が自分に跳ね返る能力】を使ったんだよ。」
累は興奮していた。
家族なら、家族だから当たり前と、口を開けばそう話していた彼が、家族じゃないのに自分を犠牲に誰かを助けるという、純粋な優しさを目の当たりにして目を輝かせる。
と思えば、途端に瞳から色をなくした。
「それに比べて姉さんは..【家族なのに】、自分は影でコソコソして自分が傷付きそうになったらすぐ父さんを呼んでさ、ねぇ..恥ずかしくないの?」
「...累、」
姉はかつてこんなにも累の
上手くやっていたつもりだった。
いつも汚れ役は母に任せていたし、自分は適度にいい姉を演じていればよかったのだ。
なのに
「もういいや。姉さん、いらないよ。
俺はあの子を姉さんにするからさ」
累は腕を掲げて糸を張り上げた
ーーーーー
〜62【死闘開始】〜
「ちょ、ちょっと待って累..あの鬼狩り共は必ず殺すわ!私は、今までだってちゃんと期待に応えてきたでしょう?何があっても累は私が守るわよ、だって姉さんだもの、ね?」
必死に
累は蔑んだ眼差しを姉に向けたが、やがてゆっくりと腕を下ろす。
「俺は、既に家族に失望しかけてるんだよ。この意味、姉さんならわかるだろ」
もう次はない。
しくじったら殺されてしまう。
鬼狩り共め...せっかくここまで築いてきた私の努力と信用が水の泡じゃない..許さないわ
ー特にあの女。
姉はギリと歯を食いしばり駆けていった。
.....
日向子は思う。加減を誤ったかもしれないと。
でも伊之助が回復したのなら..良かった。
彼女は出来るだけ平然を装った。
漆の型は回復の型だ。他者の細胞を生まれ変わらせる。要は傷を癒す効果を持つ型。
だが、それなりにリスクのあるもので、その代償として己の細胞を
あのまま伊之助が下山せず戦闘を離脱しないというのなら、これが最善だった。
でも、意外と彼は深い傷を負っていたようだ。
日向子自身が倒れたのでは本末転倒なので、加減した筈が思いのほか、持っていかれた。
あぁ、鼻の効く炭治郎はもしかしたら気づいてるかもしれないけれど...
その時、小川の水面が揺れる。
見ると別の鬼の少女がこちらを凝視している。くそ..一体いくつの鬼がこの山にいるというのか。万全ではない身体に苛つきながら日向子は小さく舌打ちする。
伊之助が好戦的に向かっていった瞬間、少女が父を呼んだ。
大きな水飛沫と共に現れたのは、大柄で悍ましい蜘蛛の頭を持つ鬼だった。
ビリビリと感じる肌が、彼等に警告音を鳴らす。
まさかこいつが..
「ーおれの、家族に、近づくな!!!!」
日向子達は風圧で吹き飛ばされ散った。
「っ!」
どさくさに紛れシュルシュルと何かが日向子の口元や身体に巻きつく。
これは...糸?繭のように太い束だ。
呼吸を整える余裕がない。
しまった
ー炭治郎っ!!ー
叫ぶ暇もなく瞬く間に視界が閉ざされて行く。
一方、吹き飛ばされた衝撃から立ち直った炭治郎も即座に気付く。
「っ日向子姉さんがいない!!」
「なんだと?!」
まさかこの一瞬で、まずい
彼女は....ー早く助けに!
考える間もなく、炭治郎達は十二鬼月であろう鬼との戦闘開始を余儀なくされた。
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