◆第肆章 下弦に泣く浮き世
貴女のお名前を教えてください
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〜55【那田蜘蛛山の恐怖】〜
ー那田蜘蛛山ー
足りない..足りない
家族なのに
何一つ満たされない...
父も母も姉もいるのに、なんでこんなに孤独なんだ
僕はただ【本当の家族の絆】が欲しいだけなのに
きゃあ!
ばしんと大きな音をたてて目の前の少女を殴る。悲鳴を上げ倒れ込む鬼の少女は酷く怯えた表情で、自分と一回りも小さな少年を見上げた。
「ごめん..累。鬼狩りは私が殺してくるから、だから許して..。」
必死に許しを乞う少女を、冷たい眼差しで見下ろす。
「母さんの【操り糸】は、侵入者を一網打尽にするのに一番手っ取り早いから水際を任せているのに、何で簡単に出来ないのかなぁ。次はないから。早く鬼狩り共を殺して来てよ。」
母と呼ばれた少女は、わかったから上手くやるからと震えた声を絞り出すとその場を逃れるように去って行った。
累は器用に糸を操りながら憎しみの篭った声で呟いた。
「邪魔するやつは何人も許さない」
月明かりが彼の瞳を照らし出した。
一方その頃
炭治郎と伊之助は任務を言い渡されこの山の中に既に入り込んでいた。
時折風に乗って流れてくる酷い刺激臭に鼻がもげそうになりながら、山中の奥へと差しかかる。
「!伊之助」
炭治郎が人の気配に気付き、緊張と疲労で震えている鬼殺隊員の男性に声をかける。
応援にきた旨を伝えると、何故柱じゃないのかと絶望し切った顔で嘆いた。
この山に巣食う鬼は、どうやらただものではないようだった。
「うるせぇ!さっさと状況を説明しやがれ弱味噌が!」
炭治郎が止めるも虚しく、乱暴に伊之助が彼の前髪を鷲掴み説明を急く。
すると、この山に烏の指令で10人余りの隊員が来ている事。
殆どが絶命しているか重傷を負っている状況で、原因不明の仲間同士の打ち合いが行われている事を半狂乱で語った。
それはもう地獄絵図のようであると...
そう説明している最中も、闇の奥から
新たに人影が見える。
彼の言う通り、確かに様子がおかしい。
炭治郎達の周りを取り囲むように、動きの奇妙な人間がゆらゆらと現れる。
まるで、からくり人形のような...
その直後、彼等は一斉に炭治郎達に向かって刀を奮って来た。
「あはは!こいつら皆馬鹿だぜ!隊員同士でやり合うのが御法度って知らねぇんだ」
「違う!動きがおかしい!何かに操られている!」
その原因を解く為に、向かって来た剣士の動きを封じ込める。微かに甘い匂いがして、炭治郎は気付いた。
ーー糸だ、、ーー
ーーーーー
〜56【闇夜を照らす】〜
「糸で操られている!糸を切れ!」
炭治郎が叫ぶが伊之助は命令されるのが気に入らないのか、反論しすぐ様対応する。動きの良さと反応速度はさすがの一言だ。
炭治郎は、糸の出所を探した。匂いを辿ろうとするとまたしてもあの刺激臭が襲う。
カサカサという音に気付き腕を見ると、糸を垂らした小さな蜘蛛が付着していた。
その瞬間、グンと勢いよく手が引っ張られ咄嗟に糸を切り落とす。
辺りをよく見れば、細かい蜘蛛がうじゃうじゃと炭治郎達を取り囲んでいた。
こいつらが、原因なんだ..
でも、多数いる蜘蛛を全て切るのは不可能だった。やはり親玉を探さなければ
匂いのせいでうまく機能しない鼻は諦め、空間把握が可能であればと伊之助に協力を求めた
その時..
上空で別の鬼の匂いを察知する。
子供くらいの背丈で、二本の糸の上に足を滑らせ佇んでいた。
「僕たち家族の静かな暮らしを邪魔するな」
家族...だと?
鬼は基本群れないと、珠世さんが言っていたのを思い出した。
彼等はこの山の中で、家族という名目で集い群を成しているのか。
鬼の少年はそれだけ言うと戦闘を行うでもなく去っていく。伊之助が葉っぱをかけようとするが今は糸の鬼に専念しなければ。
伊之助が親玉を識別しているうちに、炭治郎は村田と共に、糸を切りギリギリの攻防戦でしのぐ。
「ここは俺に任せてお前も先に行け!」
村田はそう言って炭治郎を先に送り出す。
彼もまた鬼殺隊の剣士ならば、任せてもいいのだろう。
親玉の居場所を把握した2人はこの場を村田隊員に任せて、先を急ぐ。
しかし、また別の鬼殺隊員が行手を阻んだ。
彼女は、泣きながら階級の上の隊員を連れて来てくれと言った。
その両腕には、彼女が殺めてしまったのであろう人が
..
鬼め、なんて..なんて酷い事を。
肉体を極限まで痛めつけ手足がもげようが骨が折れようが、息絶えるまで操り人形とする。
苦しみに耐えられない人は炭治郎達に止めを刺してくれと懇願 した。
死なせてあげれば楽になれるだろうが、そんな事...出来ない。
糸の強度も操られてる人の戦闘能力も上がっているようで、少しも油断できない状況が続いた。
どうしたらいい...
その時、空から、嗅ぎ慣れた愛しい匂いが鼻をかすめる
ー星の呼吸 拾ノ型 天照ー
鈴の音のような声色が響き渡ると共に、
カッと光輝く空、辺り一面を焼き払う光の波動が伝わる。とても心地の良い陽だまりの温度が
炭治郎の体を包み込んだ。
ーーーーー
〜57【猪突猛進】〜
眩いばかりの光が収まると同時に、糸で操られていた隊員達は動力を失ったかのように次々と崩れ落ちた。
あれだけ鼻についた刺激臭はなくなり、
目視出来る限りでは子蜘蛛は一匹も見当たらない。
彼女が、全てを灼き放ったの言うのか
音一つ立てずに目の前に舞い降りた日向子は、
炭治郎が知っている彼女とは少し雰囲気が異なっていた。
まるで、神々しい女神を目の当たりにしているような感覚。
突如として流れた静謐 な空気に、炭治郎は息を飲んだ。
「日向子姉さんなのか?..」
振り返る彼女は紛れもなく、愛しい姉であり
匂いも勿論違わない。
でも、彼女は炭治郎と別れていたこの数日間で、何かが変わっていた。
「詳しい話は後にしましょう。今私が灼いたのは、半径30メートル程の範囲のみなの。
糸を操る親玉はまだ先だわ。炭治郎、匂いはあといくつ?」
炭治郎は彼女のお陰で自由に効くようになった鼻で、鬼の本体を探る。
「あと、2つだ。」
「おい!!いきなり出てきて何なんだお前!妙な傘被りやがって殺すzっ」
伊之助が言葉を言い切る前に炭治郎は伊之助の頭を殴る。怒りを露わにして叫んだ。
「彼女は味方だ!助けてくれたのに初対面で失礼だろ伊之助!」
伊之助は隊員同士の小競り合いは御法度なんだろうと捲し立てたが、炭治郎はあまり聞く耳を持っていないようだ。日向子は少し頭を抱えた。
「伊之助君初めまして、私は鬼殺隊の竈門日向子と言います。炭治郎の姉です。私も、鬼の討伐に協力するから宜しくね」
そう握手を求めると、伊之助は紋次郎の姉ちゃんかと驚いた様子を見せる。
とりあえず、利害が一致している事は理解してくれたようで手を取ってくれた。
それを少し面白くなさそうに見つめる炭治郎には、敢えて気付かないフリをしておこう。
「よし!気配はあっちの方向だ!行くぞ紋次郎!きな子!」
糸から解放された者達は村田さんに後をお願いして、伊之助が先陣切って走っていく方向を2人も追っていく。
すると目の前に現れたのは、カマキリのような鋭い鎌を持った鬼だったが、それは、
首から上が存在しなかった。
炭治郎が斜めに袈裟斬りにする事で倒せるのではないかと提案すると、伊之助が猪突猛進していく。
彼は作戦を練って戦闘の流れを作る炭治郎とは異なるタイプだ。
全く連携が取れていない、まずい...
鎌の切っ先が伊之助を穿つ直前、日向子の刃が鎌を削るように受け流し、間一髪で力の方向を逸らした。
ーーーーー
〜48【伊之助の覚醒】〜
伊之助は甘く見ていた。
動きも単調に思えたし、野生で育った自分は、瞬発力も反射神経にも自信があった。
ついていけないスピードではない。
自分の力のみで、鬼殺隊の刀を奪い取り
自分の力のみで、鬼殺隊に入り刃を振るえば、
野生の世界では勿論、人間を相手にしても負け知らず。
俺は誰よりも強い。俺以外の奴はみんな弱い。
そう思って生きてきた。
けれど...
ほんの一寸先に鎌の切っ先が迫った時、
伊之助は産まれて初めて、殺されるかもしれないという感覚を知った。
不思議とその状況を客観視している自分がいる。
これは、圧倒的な弱者の感覚
その瞬間、ギィィィンと金属がせめぎ合う音が響き渡る。日向子が間合いに入り込み敵の鎌を削り取るように力を受け流した。
鎌は地面に突き刺さり、僅かに動きが鈍った敵の頭を日向子は渾身の力で蹴り上げる。
すかさず炭治郎が伊之助に繋がっていた糸を切り払った。
俺は、2人に助けられ
「1人で突っ込んで行かないの!!危うく死ぬところだったよ君!!」
怒り口調で声を張り上げる日向子に、伊之助は勿論、炭治郎でさえも口をぽかんと開けて唖然とする。
それはそうだ、いつもおしとやかで大らかな姉がここまで感情を顕 に怒る事は滅多にないのだから。
待ったの効かない鬼の攻撃に応戦しながら、彼女はなお言葉を続ける。
「あなたらしい戦法は素晴らしいと思う!でもね、今は1人じゃないのだから、私達を頼ってください!」
ホワ...
この感覚も初めてだ。
なんだか胸の奥が温かな感触。
今までは自分の力だけで、すべてを乗り越えてきた。いや、そうせざるを得なかったのだ。
厳しい自然界を生き抜く為には、自分の力が一番信じられたし頼れた。
でも、今は1人じゃない。
「伊之助一緒に闘おう!力を合わせて、この鬼を倒すんだ!」
「あーー!もうてめぇぇらこれ以上ホワホワさせんじゃねぇ!!」
伊之助の動きが著しく変わった。
先程の周りを顧みず食いかかるような獣じみた闘い方とは打って変わり、
敵の出方を見切り、炭治郎や日向子の動きと連携を図る。
炭治郎を踏み台にし、伊之助は大きく飛び上がり刃を振り上げる。
炭治郎と日向子は共に、相手の動きを封じ込め、体制を崩しにかかる為、全集中の呼吸で攻撃を放った。
「今だ伊之助!!」
あぁーー言われなくてもやってやるよ!!
伊之助は心の中で悪態を叫びながら、
首無し鬼に向かって腕を大きく振りかぶった。
ーーーーー
ー那田蜘蛛山ー
足りない..足りない
家族なのに
何一つ満たされない...
父も母も姉もいるのに、なんでこんなに孤独なんだ
僕はただ【本当の家族の絆】が欲しいだけなのに
きゃあ!
ばしんと大きな音をたてて目の前の少女を殴る。悲鳴を上げ倒れ込む鬼の少女は酷く怯えた表情で、自分と一回りも小さな少年を見上げた。
「ごめん..累。鬼狩りは私が殺してくるから、だから許して..。」
必死に許しを乞う少女を、冷たい眼差しで見下ろす。
「母さんの【操り糸】は、侵入者を一網打尽にするのに一番手っ取り早いから水際を任せているのに、何で簡単に出来ないのかなぁ。次はないから。早く鬼狩り共を殺して来てよ。」
母と呼ばれた少女は、わかったから上手くやるからと震えた声を絞り出すとその場を逃れるように去って行った。
累は器用に糸を操りながら憎しみの篭った声で呟いた。
「邪魔するやつは何人も許さない」
月明かりが彼の瞳を照らし出した。
一方その頃
炭治郎と伊之助は任務を言い渡されこの山の中に既に入り込んでいた。
時折風に乗って流れてくる酷い刺激臭に鼻がもげそうになりながら、山中の奥へと差しかかる。
「!伊之助」
炭治郎が人の気配に気付き、緊張と疲労で震えている鬼殺隊員の男性に声をかける。
応援にきた旨を伝えると、何故柱じゃないのかと絶望し切った顔で嘆いた。
この山に巣食う鬼は、どうやらただものではないようだった。
「うるせぇ!さっさと状況を説明しやがれ弱味噌が!」
炭治郎が止めるも虚しく、乱暴に伊之助が彼の前髪を鷲掴み説明を急く。
すると、この山に烏の指令で10人余りの隊員が来ている事。
殆どが絶命しているか重傷を負っている状況で、原因不明の仲間同士の打ち合いが行われている事を半狂乱で語った。
それはもう地獄絵図のようであると...
そう説明している最中も、闇の奥から
新たに人影が見える。
彼の言う通り、確かに様子がおかしい。
炭治郎達の周りを取り囲むように、動きの奇妙な人間がゆらゆらと現れる。
まるで、からくり人形のような...
その直後、彼等は一斉に炭治郎達に向かって刀を奮って来た。
「あはは!こいつら皆馬鹿だぜ!隊員同士でやり合うのが御法度って知らねぇんだ」
「違う!動きがおかしい!何かに操られている!」
その原因を解く為に、向かって来た剣士の動きを封じ込める。微かに甘い匂いがして、炭治郎は気付いた。
ーー糸だ、、ーー
ーーーーー
〜56【闇夜を照らす】〜
「糸で操られている!糸を切れ!」
炭治郎が叫ぶが伊之助は命令されるのが気に入らないのか、反論しすぐ様対応する。動きの良さと反応速度はさすがの一言だ。
炭治郎は、糸の出所を探した。匂いを辿ろうとするとまたしてもあの刺激臭が襲う。
カサカサという音に気付き腕を見ると、糸を垂らした小さな蜘蛛が付着していた。
その瞬間、グンと勢いよく手が引っ張られ咄嗟に糸を切り落とす。
辺りをよく見れば、細かい蜘蛛がうじゃうじゃと炭治郎達を取り囲んでいた。
こいつらが、原因なんだ..
でも、多数いる蜘蛛を全て切るのは不可能だった。やはり親玉を探さなければ
匂いのせいでうまく機能しない鼻は諦め、空間把握が可能であればと伊之助に協力を求めた
その時..
上空で別の鬼の匂いを察知する。
子供くらいの背丈で、二本の糸の上に足を滑らせ佇んでいた。
「僕たち家族の静かな暮らしを邪魔するな」
家族...だと?
鬼は基本群れないと、珠世さんが言っていたのを思い出した。
彼等はこの山の中で、家族という名目で集い群を成しているのか。
鬼の少年はそれだけ言うと戦闘を行うでもなく去っていく。伊之助が葉っぱをかけようとするが今は糸の鬼に専念しなければ。
伊之助が親玉を識別しているうちに、炭治郎は村田と共に、糸を切りギリギリの攻防戦でしのぐ。
「ここは俺に任せてお前も先に行け!」
村田はそう言って炭治郎を先に送り出す。
彼もまた鬼殺隊の剣士ならば、任せてもいいのだろう。
親玉の居場所を把握した2人はこの場を村田隊員に任せて、先を急ぐ。
しかし、また別の鬼殺隊員が行手を阻んだ。
彼女は、泣きながら階級の上の隊員を連れて来てくれと言った。
その両腕には、彼女が殺めてしまったのであろう人が
..
鬼め、なんて..なんて酷い事を。
肉体を極限まで痛めつけ手足がもげようが骨が折れようが、息絶えるまで操り人形とする。
苦しみに耐えられない人は炭治郎達に止めを刺してくれと
死なせてあげれば楽になれるだろうが、そんな事...出来ない。
糸の強度も操られてる人の戦闘能力も上がっているようで、少しも油断できない状況が続いた。
どうしたらいい...
その時、空から、嗅ぎ慣れた愛しい匂いが鼻をかすめる
ー星の呼吸 拾ノ型 天照ー
鈴の音のような声色が響き渡ると共に、
カッと光輝く空、辺り一面を焼き払う光の波動が伝わる。とても心地の良い陽だまりの温度が
炭治郎の体を包み込んだ。
ーーーーー
〜57【猪突猛進】〜
眩いばかりの光が収まると同時に、糸で操られていた隊員達は動力を失ったかのように次々と崩れ落ちた。
あれだけ鼻についた刺激臭はなくなり、
目視出来る限りでは子蜘蛛は一匹も見当たらない。
彼女が、全てを灼き放ったの言うのか
音一つ立てずに目の前に舞い降りた日向子は、
炭治郎が知っている彼女とは少し雰囲気が異なっていた。
まるで、神々しい女神を目の当たりにしているような感覚。
突如として流れた
「日向子姉さんなのか?..」
振り返る彼女は紛れもなく、愛しい姉であり
匂いも勿論違わない。
でも、彼女は炭治郎と別れていたこの数日間で、何かが変わっていた。
「詳しい話は後にしましょう。今私が灼いたのは、半径30メートル程の範囲のみなの。
糸を操る親玉はまだ先だわ。炭治郎、匂いはあといくつ?」
炭治郎は彼女のお陰で自由に効くようになった鼻で、鬼の本体を探る。
「あと、2つだ。」
「おい!!いきなり出てきて何なんだお前!妙な傘被りやがって殺すzっ」
伊之助が言葉を言い切る前に炭治郎は伊之助の頭を殴る。怒りを露わにして叫んだ。
「彼女は味方だ!助けてくれたのに初対面で失礼だろ伊之助!」
伊之助は隊員同士の小競り合いは御法度なんだろうと捲し立てたが、炭治郎はあまり聞く耳を持っていないようだ。日向子は少し頭を抱えた。
「伊之助君初めまして、私は鬼殺隊の竈門日向子と言います。炭治郎の姉です。私も、鬼の討伐に協力するから宜しくね」
そう握手を求めると、伊之助は紋次郎の姉ちゃんかと驚いた様子を見せる。
とりあえず、利害が一致している事は理解してくれたようで手を取ってくれた。
それを少し面白くなさそうに見つめる炭治郎には、敢えて気付かないフリをしておこう。
「よし!気配はあっちの方向だ!行くぞ紋次郎!きな子!」
糸から解放された者達は村田さんに後をお願いして、伊之助が先陣切って走っていく方向を2人も追っていく。
すると目の前に現れたのは、カマキリのような鋭い鎌を持った鬼だったが、それは、
首から上が存在しなかった。
炭治郎が斜めに袈裟斬りにする事で倒せるのではないかと提案すると、伊之助が猪突猛進していく。
彼は作戦を練って戦闘の流れを作る炭治郎とは異なるタイプだ。
全く連携が取れていない、まずい...
鎌の切っ先が伊之助を穿つ直前、日向子の刃が鎌を削るように受け流し、間一髪で力の方向を逸らした。
ーーーーー
〜48【伊之助の覚醒】〜
伊之助は甘く見ていた。
動きも単調に思えたし、野生で育った自分は、瞬発力も反射神経にも自信があった。
ついていけないスピードではない。
自分の力のみで、鬼殺隊の刀を奪い取り
自分の力のみで、鬼殺隊に入り刃を振るえば、
野生の世界では勿論、人間を相手にしても負け知らず。
俺は誰よりも強い。俺以外の奴はみんな弱い。
そう思って生きてきた。
けれど...
ほんの一寸先に鎌の切っ先が迫った時、
伊之助は産まれて初めて、殺されるかもしれないという感覚を知った。
不思議とその状況を客観視している自分がいる。
これは、圧倒的な弱者の感覚
その瞬間、ギィィィンと金属がせめぎ合う音が響き渡る。日向子が間合いに入り込み敵の鎌を削り取るように力を受け流した。
鎌は地面に突き刺さり、僅かに動きが鈍った敵の頭を日向子は渾身の力で蹴り上げる。
すかさず炭治郎が伊之助に繋がっていた糸を切り払った。
俺は、2人に助けられ
「1人で突っ込んで行かないの!!危うく死ぬところだったよ君!!」
怒り口調で声を張り上げる日向子に、伊之助は勿論、炭治郎でさえも口をぽかんと開けて唖然とする。
それはそうだ、いつもおしとやかで大らかな姉がここまで感情を
待ったの効かない鬼の攻撃に応戦しながら、彼女はなお言葉を続ける。
「あなたらしい戦法は素晴らしいと思う!でもね、今は1人じゃないのだから、私達を頼ってください!」
ホワ...
この感覚も初めてだ。
なんだか胸の奥が温かな感触。
今までは自分の力だけで、すべてを乗り越えてきた。いや、そうせざるを得なかったのだ。
厳しい自然界を生き抜く為には、自分の力が一番信じられたし頼れた。
でも、今は1人じゃない。
「伊之助一緒に闘おう!力を合わせて、この鬼を倒すんだ!」
「あーー!もうてめぇぇらこれ以上ホワホワさせんじゃねぇ!!」
伊之助の動きが著しく変わった。
先程の周りを顧みず食いかかるような獣じみた闘い方とは打って変わり、
敵の出方を見切り、炭治郎や日向子の動きと連携を図る。
炭治郎を踏み台にし、伊之助は大きく飛び上がり刃を振り上げる。
炭治郎と日向子は共に、相手の動きを封じ込め、体制を崩しにかかる為、全集中の呼吸で攻撃を放った。
「今だ伊之助!!」
あぁーー言われなくてもやってやるよ!!
伊之助は心の中で悪態を叫びながら、
首無し鬼に向かって腕を大きく振りかぶった。
ーーーーー