◆第参章 新たなる門出へ
貴女のお名前を教えてください
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〜51【天秤】〜
炭治郎はただただ日向子を優しく抱き締めた。
そしてあわよくば、この焦がれた想いが彼女に伝わるようにと願う。
彼女が抱く炭治郎を思う気持ちと、
炭治郎が抱く日向子を思う気持ちとでは、似ているようで決定的に違う。
彼女はきっと後者の意味を想像すらしないのだろう。
そう思うと、酷く虚しく感じた。
数年前に感じたあの重苦しい胸の内に似ている。想いの天秤は、どちらかに大きく傾いていては、何 れ...
きっと重く沈んだ方が満足いかなくなるのだ。
同等の重りを乗せようと躍起 になるのだ、
それは..
絶対に駄目だから、炭治郎は必死に自分を抑え込んでいる。
でもそれは、いつまでなのだろう。
「炭治郎、あなたの気持ちはわかったよ。私もね、ちょうど今回の件で、自分の無力さを思い知った。だから、しばらく別行動しよう」
思いがけない日向子の言動に炭治郎は数度瞬きした。
しかし、彼女は憂 いているでも落ち込んでるでもなく、僅かに微笑みを称えながらそう言う。
「何処にいくんだ。あの、勘違いしないで欲しいんだが、命を脅 かす場所に単独で行かせるんでは意味がないんだ。
どこか、鬼舞辻達の手の届かない安全な場所へ..」
そう言うと、日向子はぷくりと頬を膨らませて炭治郎の額をこつりと叩いた。
予想だにしない可愛らしい行動に、炭治郎は柄にもなく真っ赤になって俯く。
「ごめん、いくら炭治郎のお願いでもそれは保証出来ない。
だって、ただ平和的に暮らしてるだけじゃ、鬼舞辻の尻尾も掴めないし、鬼にされた人達をただ黙って見てるだけは出来ない。
それに、私は私の使命があるの。」
日向子姉さんの使命..
「私の能力が人々の助けになるのなら、力になりたい。私にしか、出来ない事があるのなら。なら私はそれを全うしなきゃ、大丈夫、自分を犠牲にとか考えてないよ。だって私には炭治郎達がいるからね。」
ふわりと笑って彼女は炭治郎の頭をなでる。
あぁ...
大好きだ。
「話は済んだか」
バンッと音を立てて愈史郎が部屋に入って来る。ぎくりと心臓が跳ねる思いで後ろを振り向くと、あのいつもの呆れ顔で炭治郎を見下ろしていた。
「こういう事には鈍感なやつかと思えば、意外と手が早いんだな」
愈史郎はそう言うと空きベッドのシーツやらを
掻っさらい始める、炭治郎は一瞬頭が追いつかなかったが、何を言われたのか気付き弁解しようとした時にはもう部屋を出ていたのだった。
ーーーーー
〜52【不完全なる呼吸の先へ】〜
珠世と愈史郎は鬼舞辻に近づき過ぎたので、追撃を逃れる為に早急にこの地を去るのだと言った。
炭治郎達も、まだ傷は完治していないものの移動は止むを得ず、彼等と別れを告げることにした。
鬼の血については何か分かり次第連絡をくれるという。
「炭治郎、私は一度本部に文を出して、しばらくの間師範の元に置かせて貰えるか頼んでみる。星の呼吸について確かめておきたい事もあるんだ。」
「そうか、わかった。俺達は南南東に行くから、また何かあったら文を飛ばしてくれ。日向子姉さん..」
あぁ、この子は本当にわかりやすい顔をする。
隣の禰豆子にまで雰囲気が伝染してしまってるじゃないかと、炭治郎を軽く小突いた。
「こら、そんな顔しないの。私は私なりにやってみるよ、またいつか会いましょう。
それまで身体にだけは気をつけて、それにしても傷もまだ完治してないのに次の任務だなんて、炭治郎の烏は四角四面なのかな?」
そう首を傾げるとまるで人の言葉が伝わっているかのように烏が騒ぎ始めた。炭治郎はいつもの事で慣れ切ってるようだけれど..
全く、無茶をして欲しくないのは、こちらの台詞だと言うのに。
鬼殺辻無惨が追っている対象は、何も日向子だけではない。
いや、むしろ今回の一件で言えば、炭治郎や珠世の方が危険である事が判明した。
やはり2年前のあの日も、耳飾りの男、つまりは炭治郎を無惨は殺しにかかってきていたのだ。
炭治郎...あの夜、あなたはあの場にいなくて
本当に良かった
「姉さん、鬼殺隊を辞めてくれだなんて言って、ごめんな。あの時俺、日向子姉さんの思いを考える余裕がなかった。」
申し訳なさそうに眉を下げる炭治郎を見て、そんな事を気にしてたのかと首を大きく横に振った。
「いいの。心配してくれてるんだよね?素直に嬉しいよ。それじゃ、禰豆子の事お願いね?炭治郎だから安心して任せられるよ」
日向子はそう言って彼等と別れを告げると、
鎹烏を本部に向けて解き放った。
なんだかんだで師範に会いに行くのは、最終選別以来初めてになってしまった。
実のところを言うと、最終選別の日は土壇場で型を完成させて藤襲山に向かったのだが、彼女から教わったその星の呼吸の型は弐ノ型から玖ノ型のみ。
つまりは、
【壱ノ型と拾ノ型】を(名前)は教わっていなかった。
それが、お館様に言われた星の呼吸と巫一族の異能に関係があるのなら、
前に進む為にも、私は明らかにしなきゃいけないんだ。
ーーーーー
〜53【巫一族の継承】〜
無事本部から許可を得た日向子は、師範の元へと向かった。
彼女は相変わらず優しい笑みを浮かべてよく戻ったわねと日向子を出迎える。
「師範、戻るのが遅くなり申し訳ありませんでした。」
日向子が深く土下座をすると、構わないと言って中へと招き入れた。
「ここに来たと言うことは。星の呼吸の最大の特徴と、巫一族の異能を知ったのですね?」
やはり師範は鋭いお人だ。
日向子は単刀直入にこう告げた。
「はい。星の呼吸の、壱ノ型と拾ノ型に、何か秘められた力があるのではと思い、それを教わりに来ました。」
そう聞くと、彼女は意外な返しをした。
「では、呼吸の名称と役割だけを教えましょうか。」
「え..それだけですか?」
何とも拍子抜けであった。てっきり、習得に物凄く労力がいるもので厳しい鍛錬が再び待ち受けているのだと思っていたが。
師範は日向子の元へ近づくや否や右腕を捻り上げた。
思わず痛みに顔を歪ませる。
彼女は辛そうに眉根を寄せる。
「...日向子、本当はあなたを鬼殺隊に入れる事は反対でした。あなたの力は特別なのです。
出来る事なら次代に継承していって欲しい。
けれど、鬼殺隊に入ると言う事は即ち死と隣り合わせという事。
ましてや鬼舞辻に追われる身など..戦いの前線にあなたを送りたくはないのが本音です。
だから、敢えて壱ノ型と拾ノ型の存在を教えませんでした。」
「何故、その2つの型を知る事が、前線に行く事になるのですか?」
そう尋ねると彼女は、奥から古びた巻物を取り出してきた。
褪せた紙がボロボロと崩れる程年季の入ったもので、辛うじて炭で書かれた文字が見える程度のもの。
日向子はそれを受け取り中身を読み解くと、星の呼吸の型の名称が壱から拾まで記されていた。
ー壱ノ型 森羅万象(しんらばんしょう)ー
ー拾ノ型 天照(あまてらす)ー
この2つの型が、巫一族と深い関係があるというのか。
森羅万象は、この世のありとあらゆる万物の力を最大限に引き出す能力。
天照は、全ての万物を焼き尽くす太陽の息吹である事を師範は語った。
これらを習得出来れば、更に強さを手に入れられる。
炭治郎達のサポートが出来る。
そしてこれはきっと私にしか成し得ない。
「この型を伝授してはくださらないのですか?」
そう問いかけると、彼女は首を横に振りこう答えた。
「私には教えられません。私には..
この2つの型を習得できなかったのです。」
ーーーーー
〜54【再来】〜
師範ともあろう方が、壱ノ型と拾ノ型だけは習得ができなかった?
日向子は耳を疑った。
「この2つの型は、鬼殺隊の言わば切り札だったのです。
星の呼吸の柱、かつ【巫一族の男の剣士】がいた時代に限りですが」
それは..要するに
「巫の血を引き継ぐ剣士のみが、型を習得出来ていたという事ですか?」
「そうです。あなたは巫一族ですが、女児です。そもそも女児の剣士自体が前代未聞ですから、あなたが習得できるかは分かりません。
ですが..可能性はあると思います。私は出来ませんでしたが、あなたならきっと」
そう言うと師範は、日向子に日輪刀を見せるように促した。
言われるがままに彼女は差し出すと、音一つ立てず彼女は鞘から刀を抜く。
そして感嘆の息を漏らした。
「代々巫一族の剣士の刀は、刃が七色に輝くのが特徴なのです。」
師範はそこまでを教えてはくれたが、後は日向子次第であると言った。
巫一族の剣士は彼女以外もうこの世に存在しない。
誰かに教えを乞うことが出来ないのなら、
自分で切り開いていくしかないのだから。
「ありがとうございます師範。それだけわかれば十分です。」
日向子は希望に満ちた目で礼を言うと、決意を胸に抱く。
必ず、壱ノ型と拾ノ型を我がものにし、
炭治郎達や鬼殺隊の手助けとなる。そして、
鬼舞辻無惨を抹殺する。
「何処へ行くのですか?日向子。せめて腕の傷が塞がってからにしなさい」
師範はそう日向子を呼び止めるが、日向子はくるっと振り向くと真っ直ぐな眼差しでこう答えた。
「こうしている間にも、弟達は鬼と対峙してます。彼も骨を折った手負いの状態が完治しないまま次の任務に向かいました。
私も、おちおち休んでなどいられないんです。
師範、私をここまで育ててくれてありがとうございました。必ず、全ての型を会得し帰って来ます。」
そう言って日向子は夜の山の中へ消えていったのだった。
僅か数刻でこの地を後にした日向子を、やれやれと思う反面、誇らしい気持ちで彼女を見送った。
子を持たない彼女は、実の子供が居たら、母親はこのような気持ちになるのだろうかと神妙な気持ちになる。
「日向子、武運長久を祈ります。」
日向子が向かったのは、鬼殺隊に入るため
最終選別を行った藤襲山だった。お館様の許可は得ている。
怪しく咲き誇る藤の花は、まるで彼女を待ち受けていたかのように夜風に揺れた。
「よし...」
日向子は日輪刀を握り締めた。
ーーーーー
炭治郎はただただ日向子を優しく抱き締めた。
そしてあわよくば、この焦がれた想いが彼女に伝わるようにと願う。
彼女が抱く炭治郎を思う気持ちと、
炭治郎が抱く日向子を思う気持ちとでは、似ているようで決定的に違う。
彼女はきっと後者の意味を想像すらしないのだろう。
そう思うと、酷く虚しく感じた。
数年前に感じたあの重苦しい胸の内に似ている。想いの天秤は、どちらかに大きく傾いていては、
きっと重く沈んだ方が満足いかなくなるのだ。
同等の重りを乗せようと
それは..
絶対に駄目だから、炭治郎は必死に自分を抑え込んでいる。
でもそれは、いつまでなのだろう。
「炭治郎、あなたの気持ちはわかったよ。私もね、ちょうど今回の件で、自分の無力さを思い知った。だから、しばらく別行動しよう」
思いがけない日向子の言動に炭治郎は数度瞬きした。
しかし、彼女は
「何処にいくんだ。あの、勘違いしないで欲しいんだが、命を
どこか、鬼舞辻達の手の届かない安全な場所へ..」
そう言うと、日向子はぷくりと頬を膨らませて炭治郎の額をこつりと叩いた。
予想だにしない可愛らしい行動に、炭治郎は柄にもなく真っ赤になって俯く。
「ごめん、いくら炭治郎のお願いでもそれは保証出来ない。
だって、ただ平和的に暮らしてるだけじゃ、鬼舞辻の尻尾も掴めないし、鬼にされた人達をただ黙って見てるだけは出来ない。
それに、私は私の使命があるの。」
日向子姉さんの使命..
「私の能力が人々の助けになるのなら、力になりたい。私にしか、出来ない事があるのなら。なら私はそれを全うしなきゃ、大丈夫、自分を犠牲にとか考えてないよ。だって私には炭治郎達がいるからね。」
ふわりと笑って彼女は炭治郎の頭をなでる。
あぁ...
大好きだ。
「話は済んだか」
バンッと音を立てて愈史郎が部屋に入って来る。ぎくりと心臓が跳ねる思いで後ろを振り向くと、あのいつもの呆れ顔で炭治郎を見下ろしていた。
「こういう事には鈍感なやつかと思えば、意外と手が早いんだな」
愈史郎はそう言うと空きベッドのシーツやらを
掻っさらい始める、炭治郎は一瞬頭が追いつかなかったが、何を言われたのか気付き弁解しようとした時にはもう部屋を出ていたのだった。
ーーーーー
〜52【不完全なる呼吸の先へ】〜
珠世と愈史郎は鬼舞辻に近づき過ぎたので、追撃を逃れる為に早急にこの地を去るのだと言った。
炭治郎達も、まだ傷は完治していないものの移動は止むを得ず、彼等と別れを告げることにした。
鬼の血については何か分かり次第連絡をくれるという。
「炭治郎、私は一度本部に文を出して、しばらくの間師範の元に置かせて貰えるか頼んでみる。星の呼吸について確かめておきたい事もあるんだ。」
「そうか、わかった。俺達は南南東に行くから、また何かあったら文を飛ばしてくれ。日向子姉さん..」
あぁ、この子は本当にわかりやすい顔をする。
隣の禰豆子にまで雰囲気が伝染してしまってるじゃないかと、炭治郎を軽く小突いた。
「こら、そんな顔しないの。私は私なりにやってみるよ、またいつか会いましょう。
それまで身体にだけは気をつけて、それにしても傷もまだ完治してないのに次の任務だなんて、炭治郎の烏は四角四面なのかな?」
そう首を傾げるとまるで人の言葉が伝わっているかのように烏が騒ぎ始めた。炭治郎はいつもの事で慣れ切ってるようだけれど..
全く、無茶をして欲しくないのは、こちらの台詞だと言うのに。
鬼殺辻無惨が追っている対象は、何も日向子だけではない。
いや、むしろ今回の一件で言えば、炭治郎や珠世の方が危険である事が判明した。
やはり2年前のあの日も、耳飾りの男、つまりは炭治郎を無惨は殺しにかかってきていたのだ。
炭治郎...あの夜、あなたはあの場にいなくて
本当に良かった
「姉さん、鬼殺隊を辞めてくれだなんて言って、ごめんな。あの時俺、日向子姉さんの思いを考える余裕がなかった。」
申し訳なさそうに眉を下げる炭治郎を見て、そんな事を気にしてたのかと首を大きく横に振った。
「いいの。心配してくれてるんだよね?素直に嬉しいよ。それじゃ、禰豆子の事お願いね?炭治郎だから安心して任せられるよ」
日向子はそう言って彼等と別れを告げると、
鎹烏を本部に向けて解き放った。
なんだかんだで師範に会いに行くのは、最終選別以来初めてになってしまった。
実のところを言うと、最終選別の日は土壇場で型を完成させて藤襲山に向かったのだが、彼女から教わったその星の呼吸の型は弐ノ型から玖ノ型のみ。
つまりは、
【壱ノ型と拾ノ型】を(名前)は教わっていなかった。
それが、お館様に言われた星の呼吸と巫一族の異能に関係があるのなら、
前に進む為にも、私は明らかにしなきゃいけないんだ。
ーーーーー
〜53【巫一族の継承】〜
無事本部から許可を得た日向子は、師範の元へと向かった。
彼女は相変わらず優しい笑みを浮かべてよく戻ったわねと日向子を出迎える。
「師範、戻るのが遅くなり申し訳ありませんでした。」
日向子が深く土下座をすると、構わないと言って中へと招き入れた。
「ここに来たと言うことは。星の呼吸の最大の特徴と、巫一族の異能を知ったのですね?」
やはり師範は鋭いお人だ。
日向子は単刀直入にこう告げた。
「はい。星の呼吸の、壱ノ型と拾ノ型に、何か秘められた力があるのではと思い、それを教わりに来ました。」
そう聞くと、彼女は意外な返しをした。
「では、呼吸の名称と役割だけを教えましょうか。」
「え..それだけですか?」
何とも拍子抜けであった。てっきり、習得に物凄く労力がいるもので厳しい鍛錬が再び待ち受けているのだと思っていたが。
師範は日向子の元へ近づくや否や右腕を捻り上げた。
思わず痛みに顔を歪ませる。
彼女は辛そうに眉根を寄せる。
「...日向子、本当はあなたを鬼殺隊に入れる事は反対でした。あなたの力は特別なのです。
出来る事なら次代に継承していって欲しい。
けれど、鬼殺隊に入ると言う事は即ち死と隣り合わせという事。
ましてや鬼舞辻に追われる身など..戦いの前線にあなたを送りたくはないのが本音です。
だから、敢えて壱ノ型と拾ノ型の存在を教えませんでした。」
「何故、その2つの型を知る事が、前線に行く事になるのですか?」
そう尋ねると彼女は、奥から古びた巻物を取り出してきた。
褪せた紙がボロボロと崩れる程年季の入ったもので、辛うじて炭で書かれた文字が見える程度のもの。
日向子はそれを受け取り中身を読み解くと、星の呼吸の型の名称が壱から拾まで記されていた。
ー壱ノ型 森羅万象(しんらばんしょう)ー
ー拾ノ型 天照(あまてらす)ー
この2つの型が、巫一族と深い関係があるというのか。
森羅万象は、この世のありとあらゆる万物の力を最大限に引き出す能力。
天照は、全ての万物を焼き尽くす太陽の息吹である事を師範は語った。
これらを習得出来れば、更に強さを手に入れられる。
炭治郎達のサポートが出来る。
そしてこれはきっと私にしか成し得ない。
「この型を伝授してはくださらないのですか?」
そう問いかけると、彼女は首を横に振りこう答えた。
「私には教えられません。私には..
この2つの型を習得できなかったのです。」
ーーーーー
〜54【再来】〜
師範ともあろう方が、壱ノ型と拾ノ型だけは習得ができなかった?
日向子は耳を疑った。
「この2つの型は、鬼殺隊の言わば切り札だったのです。
星の呼吸の柱、かつ【巫一族の男の剣士】がいた時代に限りですが」
それは..要するに
「巫の血を引き継ぐ剣士のみが、型を習得出来ていたという事ですか?」
「そうです。あなたは巫一族ですが、女児です。そもそも女児の剣士自体が前代未聞ですから、あなたが習得できるかは分かりません。
ですが..可能性はあると思います。私は出来ませんでしたが、あなたならきっと」
そう言うと師範は、日向子に日輪刀を見せるように促した。
言われるがままに彼女は差し出すと、音一つ立てず彼女は鞘から刀を抜く。
そして感嘆の息を漏らした。
「代々巫一族の剣士の刀は、刃が七色に輝くのが特徴なのです。」
師範はそこまでを教えてはくれたが、後は日向子次第であると言った。
巫一族の剣士は彼女以外もうこの世に存在しない。
誰かに教えを乞うことが出来ないのなら、
自分で切り開いていくしかないのだから。
「ありがとうございます師範。それだけわかれば十分です。」
日向子は希望に満ちた目で礼を言うと、決意を胸に抱く。
必ず、壱ノ型と拾ノ型を我がものにし、
炭治郎達や鬼殺隊の手助けとなる。そして、
鬼舞辻無惨を抹殺する。
「何処へ行くのですか?日向子。せめて腕の傷が塞がってからにしなさい」
師範はそう日向子を呼び止めるが、日向子はくるっと振り向くと真っ直ぐな眼差しでこう答えた。
「こうしている間にも、弟達は鬼と対峙してます。彼も骨を折った手負いの状態が完治しないまま次の任務に向かいました。
私も、おちおち休んでなどいられないんです。
師範、私をここまで育ててくれてありがとうございました。必ず、全ての型を会得し帰って来ます。」
そう言って日向子は夜の山の中へ消えていったのだった。
僅か数刻でこの地を後にした日向子を、やれやれと思う反面、誇らしい気持ちで彼女を見送った。
子を持たない彼女は、実の子供が居たら、母親はこのような気持ちになるのだろうかと神妙な気持ちになる。
「日向子、武運長久を祈ります。」
日向子が向かったのは、鬼殺隊に入るため
最終選別を行った藤襲山だった。お館様の許可は得ている。
怪しく咲き誇る藤の花は、まるで彼女を待ち受けていたかのように夜風に揺れた。
「よし...」
日向子は日輪刀を握り締めた。
ーーーーー