◆第参章 新たなる門出へ
貴女のお名前を教えてください
〜47【生捕りの対象】〜
「炭治郎、鞠使いの鬼は私が戦うわ。あなたは木の上の鬼をお願いしていい?」
「っ日向子姉さん、でも..」
確かにこの状況では二手に分かれ戦った方が妥当。ただ炭治郎は、即座に了承する事が出来なかった。
これは完全に炭治郎の中の事情だ。
姉さんも俺が守りたい..でも、今の状況ではそれが厳しい。
心中を察するかのように日向子は炭治郎の頭を撫でた。
「大丈夫だよ。私もあなたと同じように修行してきた剣士だから。」
そうだ。彼女はもう、か弱い姉ではないと思っている。
炭治郎の中では、今も昔も変わらない守らなければいけない対象に違わないが、日向子姉さんは違うのだ。
「わかった...禰豆子、危ない時は姉さんを守ってくれ」
禰豆子は大きく頷いた。
一気に散開し、炭治郎は男の鬼の方へ、日向子と禰豆子は鞠の鬼へと突っ込んでいく。
ベクトルを操る鬼は炭治郎が相対している。この鞠にはもう重量の【方向性】はない。
日向子には勝算があった。
「禰豆子は珠世さん達を守ってね。あの女は私がやるから」
そう言って日向子は鞠使いの鬼に向かって日輪刀の切っ先を向けた。
「随分と舐められたものじゃのう。
決めた..貴様からめった打ちにしてやろう。
そのちんけな傘ごと吹き飛ばしてくれるわ!」
メキメキと音を立て鬼が鞠を勢いよく投げてくる。
鞠のような飛び物の軌道を、視覚で追っては日向子と言えど、間合い外で反応しきれない部分もあるが、
だからこそ..日向子は相手の敵意を自分に向けた。
深く息を吸い込む。
一発目の鞠が彼女の傘をかするように当たった。
ー星の呼吸 弐ノ型
天羽衣(あまのはごろも)ー
絹のような霧状の帯が彼女の間合いに流れると、あれだけ目にも止まらぬ速さで向かってきた鞠は日向子の身体をかすりもせず、一つ残らず空に浮かんだ。
その光景を見た相手は地団駄を踏む。
「なんじゃ..なんなんじゃその術は
蹴鞠はのう、蹴り合わなければ遊びではないのじゃ!!」
いくら威力を上げた鞠を投げようが同じ事で、届かぬ鞠を日向子は鮮やかに切り落としていく。
激しく憤 った鞠使いの鬼は、自ら日向子へと突進していく。
刀を構え直すと、もう片方の鬼が声を張り上げた。
「待て朱紗丸!!」
ピタリと鞠使いの鬼が止まる。
「その鬼狩り...ずっとあのお方が探し求めていた【青い彼岸花】じゃ。見つけたら生捕りにせよと全国の鬼へ通達が出ておる。素晴らしいのう、今夜は祭りじゃ祭りじゃ。」
ーーーーー
〜48【珠世の妖術】〜
傘が落ち顔が割れた日向子、叫ぶ炭治郎。
しかし彼女は臆する事なく猛攻する。
やはり読み通りで至近戦にはめっぽう弱く、無数に生えていた腕は次々と切り落とされていく。
この鬼は、鞠の攻撃が通用しなければ容易い。
「おのれおのれおのれ!!貴様は残酷に殺してやりたいのに!あのお方の命ならば仕方ない..くそうっ」
鬼は日向子から標的を禰豆子に変えた。
霧の帯を瞬時に禰豆子へと伸ばすが、間に合わない。
鞠が禰豆子に迫り、彼女は蹴り返そうとする態勢に入る。
だが珠世が蹴っては駄目だと叫んだ。
その忠告も虚しく禰豆子は鞠を蹴り上げてしまう。
その威力は凄まじいもので、脚の関節を容赦なく抉り取り切断させた。
当たれば..ひとたまりもない。
禰豆子の体を蹴り上げようとする。日向子はさせまいと間に入り霧で相手の脚を巻き取りダメージを相殺した。
「あなたの相手は私よ!妹に手を出さないで!」
「つくづく邪魔をする奴じゃなぁ..ええぃ矢琶羽!この女の頚も刈り取っては駄目なのか!」
「違う、頚は耳飾りの鬼狩りと流れ者の2人のみじゃ。そいつは生捕りじゃ」
生捕りは加減が難しいのだと文句を言いながら、鞠使いは再び距離を取る。
その時、炭治郎が戦闘を行なっている方から凄まじい音が響いた。
「!」
一瞬気を取られたのが命取りだった。
しめたとばかりに鞠使いの鬼は天羽衣を避けるように鞠を投げ込む。
「っ!!」
上腕に鞠が当たると同時に凄まじい痛みを伴い顔が歪む。切断には至らなかったものの、ぼたぼたと大量の血が飛び散った。
禰豆子の治療を行なっていた珠世の元に、先ほど日向子の腕に当たって飛んでいった鞠が転がる。
それを見た珠世は驚く。
これは..
「焼けただれている...」
燻 り黒い煙を放ち、その鞠は焼け爛れていたのだ。
珠世はある仮説に辿り着く。
そういうことならば...
嬉々として第二撃を繰り出そうとする鬼。
その光景を見た禰豆子は青筋を立てて日向子の元へ飛んでいった。
先程は受けきれなかった鞠を蹴り返す。
立て続けに禰豆子に向かって攻撃を繰り出すがそれを正確に打ち返していく。
確実に、急速に強くなっていたのだが、このままではジリ貧になるのは容易に想像出来た。
日向子は利き腕は捨て、片腕のみで刀を握る。
痛みに耐えながら、呼吸を整える。
ーー星の呼吸..
その時、珠世が口を開いた。
「十二鬼月のお嬢さん、あなたは鬼舞辻の正体をご存知ですか?」
ーーーーー
〜49【護りたい】〜
その名前を聞くや否や、鬼は冷や汗を垂らし明らかに同様の色を見せた。
珠世は顔色を一切変えることなく言葉巧みに誘導する。
何故鬼舞辻の名を聞くだけでこんなにも狼狽 するのか疑問だった。
彼等には何かあるのか?
珠世が操作されていると言った、その意味とは...
「鬼舞辻様は!!」
ハッとして彼女は口を押さえる。
「その名を口にしましたね。呪いが発動する。可哀想ですが..さようなら」
彼女は奇声を上げながら天に向かって何度も許しをこうた。それは先程強気でかかってきた鬼とは思えない、何とも異様な光景で、
やがて彼女の身体からバキバキと音を立てて幾つもの腕が飛び出てきたかと思うと食い殺す。その後は見るに耐えないものであった。
炭治郎や日向子はもちろん、愈史郎でさえもその光景を見るのは初めてのようであり、皆、蒼白な顔で一部始終を見届けた。
「っ!」
「珠世様の術を吸い込むなよ、人体には害が出る」
ハンカチを乱暴に炭治郎に押し当てながら愈史郎が言った。
人体には害が..
待てよ?そしたら日向子姉さんも
炭治郎は彼女の元へ駆け寄ろうとするも疲弊した体がそれに追いつかず、起き上がることが出来ない。
彼女の方をみると、茫然とした顔で特に口元も抑えずに佇んでいた。
何とも、ないのか?
いやそれより..
「日向子さんは、鬼の血鬼術が効かぬ体質のようですね。そうでなければあの場で私は術を使用する事は出来ませんでした。
とりあえず、あなたも日向子さんも、少し休まなければ..禰豆子さんも治療を施します」
身体を引きずるように彼女の元へ行こうとする炭治郎を愈史郎が抑える。肋骨と脚が折れているのだから当たり前だが、それでも炭治郎は構わなかった。
彼女の袖からはおびただしい血流れている。
日向子自ら右腕を押さえながら、炭治郎に駆け寄った。
「私は大丈夫だよ。一箇所怪我をしただけだしすぐ治ると思う。炭治郎の方が重症じゃない..ごめんね。姉さんがすぐそっちに行ければ良かった」
「それは俺の台詞だよ日向子姉さん、ごめん、本当にごめん...」
炭治郎と日向子は地下の病室として扱っている一室に入れられ、珠世に応急処置を施された。
どうやら日向子姉さんは、普通の輸血では難しいらしく血が精製されるのを待つしかないらしい。
さすがに貧血の症状が重く、横になるとすぐに眠ってしまった。
炭治郎はそんな姿を見て、ある思いを抱く。
日向子姉さん、
やっぱり貴女は、鬼殺隊には....
ーーーーー
〜50【硝子玉のような】〜
日向子が目を覚ますと、珠世さんが横で炭治郎の身体に包帯を巻きつけていた。
時折痛がる声を上げながらされるがままになっている弟の背中を見つめる。
裸体で見ると、改めて随分と大きくなったそれには、細かい傷が多く、戦闘の凄まじさを物語っていた。
日向子はぎゅっと拳を握り締める。
「あら、起きたのですね日向子さん。具合はどうですか?」
珠世が日向子の視線に気付くと、炭治郎もまたくるりと振り向き泣きそうな表情を浮かべる。
三角巾で吊るされた右腕を庇いつつ、日向子は徐々に上体を起こした。気分は悪くない。
「大丈夫です。ありがとうございます珠世さん。」
彼女は柔らかな笑みを浮かべると、私は少し席を外しますねと言って部屋を出て行った。
炭治郎と2人きりの空間。何となく、重い空気が流れる。
最初に口を開いたのは彼だった。
「珠世さんが診てくれたけど、傷は意外と深いらしいんだ。彼女の治療でも1週間は安静だって言っていた。」
「そうなんだ..仕方ないね。炭治郎の傷はどうなの?禰豆子は?」
そう問いかけると、炭治郎は日向子の頬に手をかける。
一瞬びくりと肩を震わして彼を見ると、辛そうな切なそうな、瞳を向けていた。
息がかかりそうな程の距離でこんな事をされてはいくら相手が、弟とはいえ...日向子は頭が真っ白になる。
「炭治郎...どうしたの」
揺らした瞳をきつく瞑ると、やがて彼はこう発した。
「日向子姉さん。お願いがあるんだ。
鬼殺隊を辞めてくれ」
大きく目を見開いた。何故..そんな事を言うのだろう。
私が弱いから、足手纏いだから?炭治郎達を、家族をもう二度と失いたくないから、死にものぐるいで今まで頑張ってきた。
確かにまだまだ修行も経験も足りない。それはわかっている。
でも..そんな事を炭治郎の口から言うだなんて。
「私が弱いからだよね、禰豆子にも傷を負わせたし..ごめんね、もっともっと頑張るから、あなた達の事ちゃんと守れるくらい、だって私長女だかっ
「そうじゃないんだ!!」
彼女の言葉を遮ってまで声を荒げた炭治郎。普段の彼ならば有り得ない。
それでも、耐えられないとばかりに炭治郎は拳を強く握りしめた。
「長女だからとか関係ない、俺が、日向子姉さんが大切だから、あなたを傷付かせたくないんだ。力及ばずに守りきれなかったのは俺の責任だ。申し訳ない、でも、なりふり構ってられない程に苦しいんだ」
炭治郎は日向子の体を壊物を扱うかのように、優しく抱き締めた。
ーーーーー
「炭治郎、鞠使いの鬼は私が戦うわ。あなたは木の上の鬼をお願いしていい?」
「っ日向子姉さん、でも..」
確かにこの状況では二手に分かれ戦った方が妥当。ただ炭治郎は、即座に了承する事が出来なかった。
これは完全に炭治郎の中の事情だ。
姉さんも俺が守りたい..でも、今の状況ではそれが厳しい。
心中を察するかのように日向子は炭治郎の頭を撫でた。
「大丈夫だよ。私もあなたと同じように修行してきた剣士だから。」
そうだ。彼女はもう、か弱い姉ではないと思っている。
炭治郎の中では、今も昔も変わらない守らなければいけない対象に違わないが、日向子姉さんは違うのだ。
「わかった...禰豆子、危ない時は姉さんを守ってくれ」
禰豆子は大きく頷いた。
一気に散開し、炭治郎は男の鬼の方へ、日向子と禰豆子は鞠の鬼へと突っ込んでいく。
ベクトルを操る鬼は炭治郎が相対している。この鞠にはもう重量の【方向性】はない。
日向子には勝算があった。
「禰豆子は珠世さん達を守ってね。あの女は私がやるから」
そう言って日向子は鞠使いの鬼に向かって日輪刀の切っ先を向けた。
「随分と舐められたものじゃのう。
決めた..貴様からめった打ちにしてやろう。
そのちんけな傘ごと吹き飛ばしてくれるわ!」
メキメキと音を立て鬼が鞠を勢いよく投げてくる。
鞠のような飛び物の軌道を、視覚で追っては日向子と言えど、間合い外で反応しきれない部分もあるが、
だからこそ..日向子は相手の敵意を自分に向けた。
深く息を吸い込む。
一発目の鞠が彼女の傘をかするように当たった。
ー星の呼吸 弐ノ型
天羽衣(あまのはごろも)ー
絹のような霧状の帯が彼女の間合いに流れると、あれだけ目にも止まらぬ速さで向かってきた鞠は日向子の身体をかすりもせず、一つ残らず空に浮かんだ。
その光景を見た相手は地団駄を踏む。
「なんじゃ..なんなんじゃその術は
蹴鞠はのう、蹴り合わなければ遊びではないのじゃ!!」
いくら威力を上げた鞠を投げようが同じ事で、届かぬ鞠を日向子は鮮やかに切り落としていく。
激しく
刀を構え直すと、もう片方の鬼が声を張り上げた。
「待て朱紗丸!!」
ピタリと鞠使いの鬼が止まる。
「その鬼狩り...ずっとあのお方が探し求めていた【青い彼岸花】じゃ。見つけたら生捕りにせよと全国の鬼へ通達が出ておる。素晴らしいのう、今夜は祭りじゃ祭りじゃ。」
ーーーーー
〜48【珠世の妖術】〜
傘が落ち顔が割れた日向子、叫ぶ炭治郎。
しかし彼女は臆する事なく猛攻する。
やはり読み通りで至近戦にはめっぽう弱く、無数に生えていた腕は次々と切り落とされていく。
この鬼は、鞠の攻撃が通用しなければ容易い。
「おのれおのれおのれ!!貴様は残酷に殺してやりたいのに!あのお方の命ならば仕方ない..くそうっ」
鬼は日向子から標的を禰豆子に変えた。
霧の帯を瞬時に禰豆子へと伸ばすが、間に合わない。
鞠が禰豆子に迫り、彼女は蹴り返そうとする態勢に入る。
だが珠世が蹴っては駄目だと叫んだ。
その忠告も虚しく禰豆子は鞠を蹴り上げてしまう。
その威力は凄まじいもので、脚の関節を容赦なく抉り取り切断させた。
当たれば..ひとたまりもない。
禰豆子の体を蹴り上げようとする。日向子はさせまいと間に入り霧で相手の脚を巻き取りダメージを相殺した。
「あなたの相手は私よ!妹に手を出さないで!」
「つくづく邪魔をする奴じゃなぁ..ええぃ矢琶羽!この女の頚も刈り取っては駄目なのか!」
「違う、頚は耳飾りの鬼狩りと流れ者の2人のみじゃ。そいつは生捕りじゃ」
生捕りは加減が難しいのだと文句を言いながら、鞠使いは再び距離を取る。
その時、炭治郎が戦闘を行なっている方から凄まじい音が響いた。
「!」
一瞬気を取られたのが命取りだった。
しめたとばかりに鞠使いの鬼は天羽衣を避けるように鞠を投げ込む。
「っ!!」
上腕に鞠が当たると同時に凄まじい痛みを伴い顔が歪む。切断には至らなかったものの、ぼたぼたと大量の血が飛び散った。
禰豆子の治療を行なっていた珠世の元に、先ほど日向子の腕に当たって飛んでいった鞠が転がる。
それを見た珠世は驚く。
これは..
「焼けただれている...」
珠世はある仮説に辿り着く。
そういうことならば...
嬉々として第二撃を繰り出そうとする鬼。
その光景を見た禰豆子は青筋を立てて日向子の元へ飛んでいった。
先程は受けきれなかった鞠を蹴り返す。
立て続けに禰豆子に向かって攻撃を繰り出すがそれを正確に打ち返していく。
確実に、急速に強くなっていたのだが、このままではジリ貧になるのは容易に想像出来た。
日向子は利き腕は捨て、片腕のみで刀を握る。
痛みに耐えながら、呼吸を整える。
ーー星の呼吸..
その時、珠世が口を開いた。
「十二鬼月のお嬢さん、あなたは鬼舞辻の正体をご存知ですか?」
ーーーーー
〜49【護りたい】〜
その名前を聞くや否や、鬼は冷や汗を垂らし明らかに同様の色を見せた。
珠世は顔色を一切変えることなく言葉巧みに誘導する。
何故鬼舞辻の名を聞くだけでこんなにも
彼等には何かあるのか?
珠世が操作されていると言った、その意味とは...
「鬼舞辻様は!!」
ハッとして彼女は口を押さえる。
「その名を口にしましたね。呪いが発動する。可哀想ですが..さようなら」
彼女は奇声を上げながら天に向かって何度も許しをこうた。それは先程強気でかかってきた鬼とは思えない、何とも異様な光景で、
やがて彼女の身体からバキバキと音を立てて幾つもの腕が飛び出てきたかと思うと食い殺す。その後は見るに耐えないものであった。
炭治郎や日向子はもちろん、愈史郎でさえもその光景を見るのは初めてのようであり、皆、蒼白な顔で一部始終を見届けた。
「っ!」
「珠世様の術を吸い込むなよ、人体には害が出る」
ハンカチを乱暴に炭治郎に押し当てながら愈史郎が言った。
人体には害が..
待てよ?そしたら日向子姉さんも
炭治郎は彼女の元へ駆け寄ろうとするも疲弊した体がそれに追いつかず、起き上がることが出来ない。
彼女の方をみると、茫然とした顔で特に口元も抑えずに佇んでいた。
何とも、ないのか?
いやそれより..
「日向子さんは、鬼の血鬼術が効かぬ体質のようですね。そうでなければあの場で私は術を使用する事は出来ませんでした。
とりあえず、あなたも日向子さんも、少し休まなければ..禰豆子さんも治療を施します」
身体を引きずるように彼女の元へ行こうとする炭治郎を愈史郎が抑える。肋骨と脚が折れているのだから当たり前だが、それでも炭治郎は構わなかった。
彼女の袖からはおびただしい血流れている。
日向子自ら右腕を押さえながら、炭治郎に駆け寄った。
「私は大丈夫だよ。一箇所怪我をしただけだしすぐ治ると思う。炭治郎の方が重症じゃない..ごめんね。姉さんがすぐそっちに行ければ良かった」
「それは俺の台詞だよ日向子姉さん、ごめん、本当にごめん...」
炭治郎と日向子は地下の病室として扱っている一室に入れられ、珠世に応急処置を施された。
どうやら日向子姉さんは、普通の輸血では難しいらしく血が精製されるのを待つしかないらしい。
さすがに貧血の症状が重く、横になるとすぐに眠ってしまった。
炭治郎はそんな姿を見て、ある思いを抱く。
日向子姉さん、
やっぱり貴女は、鬼殺隊には....
ーーーーー
〜50【硝子玉のような】〜
日向子が目を覚ますと、珠世さんが横で炭治郎の身体に包帯を巻きつけていた。
時折痛がる声を上げながらされるがままになっている弟の背中を見つめる。
裸体で見ると、改めて随分と大きくなったそれには、細かい傷が多く、戦闘の凄まじさを物語っていた。
日向子はぎゅっと拳を握り締める。
「あら、起きたのですね日向子さん。具合はどうですか?」
珠世が日向子の視線に気付くと、炭治郎もまたくるりと振り向き泣きそうな表情を浮かべる。
三角巾で吊るされた右腕を庇いつつ、日向子は徐々に上体を起こした。気分は悪くない。
「大丈夫です。ありがとうございます珠世さん。」
彼女は柔らかな笑みを浮かべると、私は少し席を外しますねと言って部屋を出て行った。
炭治郎と2人きりの空間。何となく、重い空気が流れる。
最初に口を開いたのは彼だった。
「珠世さんが診てくれたけど、傷は意外と深いらしいんだ。彼女の治療でも1週間は安静だって言っていた。」
「そうなんだ..仕方ないね。炭治郎の傷はどうなの?禰豆子は?」
そう問いかけると、炭治郎は日向子の頬に手をかける。
一瞬びくりと肩を震わして彼を見ると、辛そうな切なそうな、瞳を向けていた。
息がかかりそうな程の距離でこんな事をされてはいくら相手が、弟とはいえ...日向子は頭が真っ白になる。
「炭治郎...どうしたの」
揺らした瞳をきつく瞑ると、やがて彼はこう発した。
「日向子姉さん。お願いがあるんだ。
鬼殺隊を辞めてくれ」
大きく目を見開いた。何故..そんな事を言うのだろう。
私が弱いから、足手纏いだから?炭治郎達を、家族をもう二度と失いたくないから、死にものぐるいで今まで頑張ってきた。
確かにまだまだ修行も経験も足りない。それはわかっている。
でも..そんな事を炭治郎の口から言うだなんて。
「私が弱いからだよね、禰豆子にも傷を負わせたし..ごめんね、もっともっと頑張るから、あなた達の事ちゃんと守れるくらい、だって私長女だかっ
「そうじゃないんだ!!」
彼女の言葉を遮ってまで声を荒げた炭治郎。普段の彼ならば有り得ない。
それでも、耐えられないとばかりに炭治郎は拳を強く握りしめた。
「長女だからとか関係ない、俺が、日向子姉さんが大切だから、あなたを傷付かせたくないんだ。力及ばずに守りきれなかったのは俺の責任だ。申し訳ない、でも、なりふり構ってられない程に苦しいんだ」
炭治郎は日向子の体を壊物を扱うかのように、優しく抱き締めた。
ーーーーー