◆第拾参章 心の空模様
貴女のお名前を教えてください
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〜367【心境の変化】〜
驚いた様子で目を丸くしている炭治郎と日向子だったが、宇随は十分実力は知れたと話した。
ひとまず認められた事に安堵した炭治郎達は、次はどこに向かえばいいのかと問う。
「次は...時透の所だな」
その名前を聞いた瞬間、二人は妙に気まずそうに口元を引き攣らせた。
宇随は当然その意味を理解していたが、こればかりはどうしようもない。色恋なんざ結局のところ個人の感情次第なのだから。
(問題は時透の方だなぁ..)
二人が恋仲になった事は知っているのだろうか?恐らく風のたよりで知ってる可能性の方が高い。娯楽の無い隊員達の間では、比較的ホットなニュースであるらしいからだ。
しかし、気の毒だとは思う。時透も、炭治郎に負けず劣らず日向子に惹かれていたようだったから...少なくとも、吉原で奴を見た限りでは。
「今日はもう太陽も陰る。出発は明日にしろ」
「は、はい!」
「ありがとうございました」
宇随は慌てて頭を下げた二人を送り出すと、やれやれと首を捻り霞屋敷へと赴いた。
すっかり日が落ち辺りが静寂に包まれた頃、宇随は訪れた屋敷の玄関は叩かずに、堂々と庭園に足を踏み入れ目当ての人物を探し出す。
「よぉ」
ぼぅっと夜空の月を見上げていた少年に向かって短く一言、横から声を投げ掛けると、相手は鬱陶しそうな目線をこちらに流す。
「宇随さん...何の用。わざわざ先に烏を飛ばす程の用事とは思えないんですけど。どうせ揶揄いに来たんでしょ」
「はぁ?そんなわけねぇだろ。お前俺がそんな性悪に見えるのか?」
「...じゃあ何?慰めに来てくれたとでも?炭治郎と日向子の事は知ってますけど、それはもういいから。それより、二人は強くなりましたか?明日ようやくこっちに来るんですよね。僕らにとってはそっちの方が
「時透」
宇随が見兼ねて話を遮ると、無一郎は黙って口をつぐんだ。彼が俯き加減になると、長い髪の毛がさらりと流れ横顔を隠してしまう。
表情が読み取れない代わりに、吐露した声が微かに震えていた事から無一郎の本心が伺える。
「...仕方ないんだ。日向子が、彼女自身が炭治郎を選んだのなら、それは仕方ない。そりゃ、何で僕じゃないんだろうって思うし、凄く悔しくて...苦しいけど」
しかし、その後に続けた言葉は意外なものであった。
「でもようやく、受け入れられそうなんだ」
「...」
「炭治郎なら、日向子を任せてもいいかなって」
ーそう思えるようになったからー
ーーーーー
〜368【大好きな二人が...一緒なら】〜
ー無一郎sideー
無一郎はそう呟き僅かに頬を緩めた。
自分の中で日向子に対する特別な感情が褪せたわけじゃない。変わったのは恐らく、炭治郎に対する印象の方だ。
炭治郎が日向子にとって悪影響、もしくは自分と比較対象にならない程度の恋心だったのなら、是が非でも引き離していただろう。
最初は正直、日向子から特別扱いされている炭治郎を恨めしく思ったのは事実だ。
ーだって...ずるかったんだー
たまたま家族だっただけなのに、それだけで彼女の特別になれる炭治郎が。巫一族の末裔である日向子と、継国一族の末裔である僕が縁あって巡り会ったとしても、先に出逢い側に居た炭治郎の方が有利な立場だったんだから。
あの頃は、炭治郎の事も何も理解しようとせずに、ただそんな環境に嫉妬してたんだ。
【でも炭治郎は...僕が思ってたのとは少し違ってた】
「じゃあ、俺と時透君は好敵手だな、これから宜しく頼む!」
自分の気持ちをしっかり口にして、僕の気持ちも再確認した上で、炭治郎は僕に手を差し出してきた。
思わずたじたじになってしまったのを覚えている。とても誠実で真っ直ぐな人だと思った。彼女に対する彼の想いは、痛い程その交わした右手から伝わってきたからだ。
炭治郎の力自体はまだまだ発展途上だが、必ず目標を成し遂げようとする心意気に圧倒された。
ちっぽけなものに囚われない。自分の中で目指すものが決まっていて....揺るがない。
気づいた事がある。
日向子は僕よりも数歩先を歩いていて、その後ろを炭治郎が着いていく。彼の目線の先には、常に日向子がいる。僕は導きに惹かれて、後から共に歩いていくんだ。
その距離感をどうにか縮めたいけど、なかなか追いつけないでいる。そんな寂しさに耐えきれずつい手を伸ばすと、彼等はこちらを微笑みながら振り返って、優しく手を差し伸ばしてくれる。
絶対に僕を置いて行ったりはしないんだ。
そんな人達だから....
不思議と今は心が満ち足りている。
「僕、日向子の事は勿論好きだよ。けど、炭治郎の事も好きになれたから。だから...大好きな二人が一緒になるなら....これはこれで良いのかなって。」
「...そうか」
宇随は何処となく晴々とした顔をしている無一郎を見て、安心したように頷いた。
「まぁ、女だって星の数ほどいるからな!お前もいずれは
「はぁ?何言ってるの宇随さん。それとこれとは別問題だから。日向子以外の女の子は好きになるつもりないよ」
「...すまん」
ーーーーー
〜369【痣の真実】〜
無一郎は宇随の失言に対し一通りぷんすこと怒った後、その表情を少し思い詰めたものに変えた。彼は、どうしても気がかりなある話題に触れる。
「...宇随さん、【例の痣】の件。本当に炭治郎達に言わなくていいのかな。」
「あぁ..。それがお館様のご判断ならそうすべきだろう。酷だとは思うがなぁ」
「僕達は、柱としての責務がある。それにこの事実を知らされて...覚悟も出来る。悔いのないように残された命を使える。けど、炭治郎と日向子にはその猶予すら真実を知った時には殆どないかもしれない。それって凄く」
二人にとって辛い事なんじゃないのかな?...
ーーーー
一方その頃、炭治郎と日向子は揃って腕を組み、うーんと唸っていた。先に口を開いたのは炭治郎で、やっぱりこうしようと日向子に提案する。
「俺達が恋仲になった事は、言うべきじゃないかな?時透君が日向子さんを...好きだという事実は二人とも知ってるわけだし。知らんぷりというのも、何だか抜け駆けした事を隠してるみたいで、嫌だよ」
「..確かに私も、少なからず後ろめたい気持ちもあるけど。でも、無一郎君の立場に立ってみたらさ、わざわざそんな事言われても返答に困らない?告白して断られた女に、実は他の子と恋仲になりましたって聞いて、何て言う?無神経な奴だと思わない?」
「うっ..それは...そうだな」
こればかりは自分達がどう思うかよりも、無一郎がどう思うか。だが、いかんせんその具合を想像するのが難しい。迷った末、伝えられそうな話の流れになったら言おうという事に落ち着いた。
「..話は変わるけど、炭治郎の額の痣、少し濃くなったね?」
ちょいちょいと自分のでこを指差しながら日向子がそう伝えると、炭治郎は本当か?と嬉しそうに笑みを溢した。
「鍛錬の成果が出てきてると思うと、やっぱり嬉しいなぁ。日向子さんも、少しずつ巫の異能の維持が出来て来てるんだな。」
「うん!前より全然辛くないのよ?自分の容姿がいきなり別人に変わったみたいで、ちょっとびっくりだけどね。」
日向子があははと笑って返すと炭治郎は少し寂しそうに眉を下げた。
「あぁ、確かに。俺はその姿も綺麗だとは思うんだけど..」
何か言いづらそうにしている彼を不思議に思い、日向子は首を傾げどうしたの?と尋ねる。すると、炭治郎はこんな事を漏らした。
「やっぱり..いつもの容姿の方がしっくりきます。俺が小さい頃から見慣れた貴女の方が、日向子さんって感じがするから」
ーーーー
〜370【繋がねばならない意味】〜
「...」
「..あ!いやっ!だからと言ってその姿が嫌なわけじゃなくて、寧ろどの貴女も好きだけど..っじゃなくて、すみません!今はその姿を持続させるために頑張ってるのに、俺はなんて無神経な事を..」
先程の自分の発言が、彼女に対し失礼であった事に気付いた炭治郎は、あわあわしながら勢いあまって床に頭を押し当てる。しかし、当の彼女は嫌な顔をするどころか、くすくすと笑い出してしまった。
頭の上にはてなマークを浮かべている炭治郎に対し、仄かに頬を染めながら、彼女はこう語った。
「そう言われるのは嬉しいな。この髪色と瞳の色はあくまで巫一族の容姿であって、私じゃないから。だから炭治郎は、ちゃんと私自身を見てくれてるんだなぁって思えて、凄く嬉しい。どうもありがとう」
日向子がふわりと笑いかけると、彼はぼっと顔を赤くさせて俯く。不意打ちの笑顔を目の当たりにし心臓は暴れまくりだったが、何とか受け答えをした。
「い、いえ...。ぁ、そうだ!今日宇随さんから一本とれた時、呼吸を合わせるのかなり上手くいったような気がするな。」
「あぁ、そうだね。炭治郎の痣が以前より濃くなってるのも関係してる気がする。後はこの姿でいると特に...貴方のヒノカミ神楽の呼吸が自然とわかるから。最初は、私もヒノカミ神楽を小さい頃から側で見て来たから、舞いを見慣れてるからかなって思ったんだけど...」
顎に手を当ててふと考え込んだ日向子は、炭治郎には伝えておきたいと、とある夢の中の出来事を語り出した。
「最近ね、日寄さんの夢を頻繁に見るの」
「日寄さん..日向子さんの祖先の?」
「うん。彼女がよく神楽を舞ってる夢。ヒノカミ神楽と似ているけど少し違う。星の呼吸の型でもない。初めは、私がヒノカミ神楽の存在を知ってるから、自分の都合の良いように作り上げた夢としか思わなかったけど..あまりにも同じ夢を見るから。」
「...それはひょっとして、巫一族にも代々伝わる舞いがあったのかな?もしかしたら日寄さんは、途絶えかけているその舞いを日向子さんに繋ぎたがっている...って、さすがに出来すぎてるよな?考えすぎだろうか」
炭治郎はぽりぽり頬をかきながら冗談半分でそう言ったが、日向子は真剣な顔を崩さなかった。
「ううん、私もそんな気がして。でもそうなると、【繋がなければいけない意味】がある筈なんだ..」
彼女は悲しそうな笑みを浮かべ、ぽろりと零した。
「日寄さんと言葉を交わせたら..よかったのに」
ーーーーー
驚いた様子で目を丸くしている炭治郎と日向子だったが、宇随は十分実力は知れたと話した。
ひとまず認められた事に安堵した炭治郎達は、次はどこに向かえばいいのかと問う。
「次は...時透の所だな」
その名前を聞いた瞬間、二人は妙に気まずそうに口元を引き攣らせた。
宇随は当然その意味を理解していたが、こればかりはどうしようもない。色恋なんざ結局のところ個人の感情次第なのだから。
(問題は時透の方だなぁ..)
二人が恋仲になった事は知っているのだろうか?恐らく風のたよりで知ってる可能性の方が高い。娯楽の無い隊員達の間では、比較的ホットなニュースであるらしいからだ。
しかし、気の毒だとは思う。時透も、炭治郎に負けず劣らず日向子に惹かれていたようだったから...少なくとも、吉原で奴を見た限りでは。
「今日はもう太陽も陰る。出発は明日にしろ」
「は、はい!」
「ありがとうございました」
宇随は慌てて頭を下げた二人を送り出すと、やれやれと首を捻り霞屋敷へと赴いた。
すっかり日が落ち辺りが静寂に包まれた頃、宇随は訪れた屋敷の玄関は叩かずに、堂々と庭園に足を踏み入れ目当ての人物を探し出す。
「よぉ」
ぼぅっと夜空の月を見上げていた少年に向かって短く一言、横から声を投げ掛けると、相手は鬱陶しそうな目線をこちらに流す。
「宇随さん...何の用。わざわざ先に烏を飛ばす程の用事とは思えないんですけど。どうせ揶揄いに来たんでしょ」
「はぁ?そんなわけねぇだろ。お前俺がそんな性悪に見えるのか?」
「...じゃあ何?慰めに来てくれたとでも?炭治郎と日向子の事は知ってますけど、それはもういいから。それより、二人は強くなりましたか?明日ようやくこっちに来るんですよね。僕らにとってはそっちの方が
「時透」
宇随が見兼ねて話を遮ると、無一郎は黙って口をつぐんだ。彼が俯き加減になると、長い髪の毛がさらりと流れ横顔を隠してしまう。
表情が読み取れない代わりに、吐露した声が微かに震えていた事から無一郎の本心が伺える。
「...仕方ないんだ。日向子が、彼女自身が炭治郎を選んだのなら、それは仕方ない。そりゃ、何で僕じゃないんだろうって思うし、凄く悔しくて...苦しいけど」
しかし、その後に続けた言葉は意外なものであった。
「でもようやく、受け入れられそうなんだ」
「...」
「炭治郎なら、日向子を任せてもいいかなって」
ーそう思えるようになったからー
ーーーーー
〜368【大好きな二人が...一緒なら】〜
ー無一郎sideー
無一郎はそう呟き僅かに頬を緩めた。
自分の中で日向子に対する特別な感情が褪せたわけじゃない。変わったのは恐らく、炭治郎に対する印象の方だ。
炭治郎が日向子にとって悪影響、もしくは自分と比較対象にならない程度の恋心だったのなら、是が非でも引き離していただろう。
最初は正直、日向子から特別扱いされている炭治郎を恨めしく思ったのは事実だ。
ーだって...ずるかったんだー
たまたま家族だっただけなのに、それだけで彼女の特別になれる炭治郎が。巫一族の末裔である日向子と、継国一族の末裔である僕が縁あって巡り会ったとしても、先に出逢い側に居た炭治郎の方が有利な立場だったんだから。
あの頃は、炭治郎の事も何も理解しようとせずに、ただそんな環境に嫉妬してたんだ。
【でも炭治郎は...僕が思ってたのとは少し違ってた】
「じゃあ、俺と時透君は好敵手だな、これから宜しく頼む!」
自分の気持ちをしっかり口にして、僕の気持ちも再確認した上で、炭治郎は僕に手を差し出してきた。
思わずたじたじになってしまったのを覚えている。とても誠実で真っ直ぐな人だと思った。彼女に対する彼の想いは、痛い程その交わした右手から伝わってきたからだ。
炭治郎の力自体はまだまだ発展途上だが、必ず目標を成し遂げようとする心意気に圧倒された。
ちっぽけなものに囚われない。自分の中で目指すものが決まっていて....揺るがない。
気づいた事がある。
日向子は僕よりも数歩先を歩いていて、その後ろを炭治郎が着いていく。彼の目線の先には、常に日向子がいる。僕は導きに惹かれて、後から共に歩いていくんだ。
その距離感をどうにか縮めたいけど、なかなか追いつけないでいる。そんな寂しさに耐えきれずつい手を伸ばすと、彼等はこちらを微笑みながら振り返って、優しく手を差し伸ばしてくれる。
絶対に僕を置いて行ったりはしないんだ。
そんな人達だから....
不思議と今は心が満ち足りている。
「僕、日向子の事は勿論好きだよ。けど、炭治郎の事も好きになれたから。だから...大好きな二人が一緒になるなら....これはこれで良いのかなって。」
「...そうか」
宇随は何処となく晴々とした顔をしている無一郎を見て、安心したように頷いた。
「まぁ、女だって星の数ほどいるからな!お前もいずれは
「はぁ?何言ってるの宇随さん。それとこれとは別問題だから。日向子以外の女の子は好きになるつもりないよ」
「...すまん」
ーーーーー
〜369【痣の真実】〜
無一郎は宇随の失言に対し一通りぷんすこと怒った後、その表情を少し思い詰めたものに変えた。彼は、どうしても気がかりなある話題に触れる。
「...宇随さん、【例の痣】の件。本当に炭治郎達に言わなくていいのかな。」
「あぁ..。それがお館様のご判断ならそうすべきだろう。酷だとは思うがなぁ」
「僕達は、柱としての責務がある。それにこの事実を知らされて...覚悟も出来る。悔いのないように残された命を使える。けど、炭治郎と日向子にはその猶予すら真実を知った時には殆どないかもしれない。それって凄く」
二人にとって辛い事なんじゃないのかな?...
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一方その頃、炭治郎と日向子は揃って腕を組み、うーんと唸っていた。先に口を開いたのは炭治郎で、やっぱりこうしようと日向子に提案する。
「俺達が恋仲になった事は、言うべきじゃないかな?時透君が日向子さんを...好きだという事実は二人とも知ってるわけだし。知らんぷりというのも、何だか抜け駆けした事を隠してるみたいで、嫌だよ」
「..確かに私も、少なからず後ろめたい気持ちもあるけど。でも、無一郎君の立場に立ってみたらさ、わざわざそんな事言われても返答に困らない?告白して断られた女に、実は他の子と恋仲になりましたって聞いて、何て言う?無神経な奴だと思わない?」
「うっ..それは...そうだな」
こればかりは自分達がどう思うかよりも、無一郎がどう思うか。だが、いかんせんその具合を想像するのが難しい。迷った末、伝えられそうな話の流れになったら言おうという事に落ち着いた。
「..話は変わるけど、炭治郎の額の痣、少し濃くなったね?」
ちょいちょいと自分のでこを指差しながら日向子がそう伝えると、炭治郎は本当か?と嬉しそうに笑みを溢した。
「鍛錬の成果が出てきてると思うと、やっぱり嬉しいなぁ。日向子さんも、少しずつ巫の異能の維持が出来て来てるんだな。」
「うん!前より全然辛くないのよ?自分の容姿がいきなり別人に変わったみたいで、ちょっとびっくりだけどね。」
日向子があははと笑って返すと炭治郎は少し寂しそうに眉を下げた。
「あぁ、確かに。俺はその姿も綺麗だとは思うんだけど..」
何か言いづらそうにしている彼を不思議に思い、日向子は首を傾げどうしたの?と尋ねる。すると、炭治郎はこんな事を漏らした。
「やっぱり..いつもの容姿の方がしっくりきます。俺が小さい頃から見慣れた貴女の方が、日向子さんって感じがするから」
ーーーー
〜370【繋がねばならない意味】〜
「...」
「..あ!いやっ!だからと言ってその姿が嫌なわけじゃなくて、寧ろどの貴女も好きだけど..っじゃなくて、すみません!今はその姿を持続させるために頑張ってるのに、俺はなんて無神経な事を..」
先程の自分の発言が、彼女に対し失礼であった事に気付いた炭治郎は、あわあわしながら勢いあまって床に頭を押し当てる。しかし、当の彼女は嫌な顔をするどころか、くすくすと笑い出してしまった。
頭の上にはてなマークを浮かべている炭治郎に対し、仄かに頬を染めながら、彼女はこう語った。
「そう言われるのは嬉しいな。この髪色と瞳の色はあくまで巫一族の容姿であって、私じゃないから。だから炭治郎は、ちゃんと私自身を見てくれてるんだなぁって思えて、凄く嬉しい。どうもありがとう」
日向子がふわりと笑いかけると、彼はぼっと顔を赤くさせて俯く。不意打ちの笑顔を目の当たりにし心臓は暴れまくりだったが、何とか受け答えをした。
「い、いえ...。ぁ、そうだ!今日宇随さんから一本とれた時、呼吸を合わせるのかなり上手くいったような気がするな。」
「あぁ、そうだね。炭治郎の痣が以前より濃くなってるのも関係してる気がする。後はこの姿でいると特に...貴方のヒノカミ神楽の呼吸が自然とわかるから。最初は、私もヒノカミ神楽を小さい頃から側で見て来たから、舞いを見慣れてるからかなって思ったんだけど...」
顎に手を当ててふと考え込んだ日向子は、炭治郎には伝えておきたいと、とある夢の中の出来事を語り出した。
「最近ね、日寄さんの夢を頻繁に見るの」
「日寄さん..日向子さんの祖先の?」
「うん。彼女がよく神楽を舞ってる夢。ヒノカミ神楽と似ているけど少し違う。星の呼吸の型でもない。初めは、私がヒノカミ神楽の存在を知ってるから、自分の都合の良いように作り上げた夢としか思わなかったけど..あまりにも同じ夢を見るから。」
「...それはひょっとして、巫一族にも代々伝わる舞いがあったのかな?もしかしたら日寄さんは、途絶えかけているその舞いを日向子さんに繋ぎたがっている...って、さすがに出来すぎてるよな?考えすぎだろうか」
炭治郎はぽりぽり頬をかきながら冗談半分でそう言ったが、日向子は真剣な顔を崩さなかった。
「ううん、私もそんな気がして。でもそうなると、【繋がなければいけない意味】がある筈なんだ..」
彼女は悲しそうな笑みを浮かべ、ぽろりと零した。
「日寄さんと言葉を交わせたら..よかったのに」
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