幸福(高土)

「なあ、お前の目宝石みたいだな」
「なんだ突然」
 行為が終わり未だに熱の残る部屋で、ポツリと土方が呟いた。
「少し前に幕臣の奥方の護衛に付いたんだが、その時に宝石を一日中見せられたんだ」
「仕事の内容を言っていいのか?」
「もう終わった話だ。それにテロの首謀者は捕まって今は獄中だ」
「そうかい」
「で、だ。宝石にも花みたいに言葉があって、なんだっけな……なんかの宝石の言葉が『幸福』なんだと」
 じいっと土方は高杉の目を見る。高杉はただ見つめ返す。
「へぇ…幸福なんざ俺達から一番遠い言葉だな」
 高杉はニヤリと笑うと土方を組み敷いた。
「おい!もうヤらねぇぞ!」
「知ってるか?どこかの国の宗教は同性同士の性交を禁忌としてるらしい。禁を犯した者は地獄に落ちるんだとよ」
「そりゃあ俺たちにピッタリだな」
 警察とテロリスト。一見すれば正義と悪にも聞こえるが、結局二人とも人殺しでしかない。さらに敵対する二人が密かに身体を重ねるという裏切り行為に同性という不毛な関係。いくら激しく抱き合おうとも、いつかは殺し合いをせねばならぬ。
 土方は満足そうに笑うと高杉の首へと腕を回す。
「ヤらねぇんじゃなかったのか?」
「いや、気分が乗ったから付き合ってやるよ」
「天国見せてやるよ」
「オヤジくせぇぞ」
 その言葉に高杉は微かに笑うと土方に優しく口付ける。それに土方は応え口を薄く開いた。
 不幸でもなければ幸福でもない。幸福がいつか終るものならば、今はこのままでいい。

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