プレゼント(高土)

「誕生日…だったのか…?」
「あーそういやそうだったな」
 再配達で受け取った荷物の中には『誕生日おめでとう』の文字。日付の指定は八月十日。送り主は高杉の両親からのようだった。
 その日は高杉と朝から海に出掛けていた。普通に遊んで帰って、誕生日だなんて一言も教えてはくれなかった。
 高杉の家に住むようになってから三ヶ月が経つ。世話になっていた家からは何も言われなかった。高杉がどんな手を使ったのか知らないが、金蔓とも言われていたのにすんなりと手放された。
 三ヶ月。高杉との仲はたった三ヶ月だが、教えてくれなかった事がどうにもショックだった。俺の誕生日は祝ってくれたのに、高杉の誕生日は祝わせて貰えないのか。
 届いた高級ブランドの箱には目もくれず、高杉はスマホを弄っている。まるでプレゼントなんてはじめから存在していないかのような振る舞いだ。もしかして、俺自体も存在していなかったのだろうか。
 それでも勇気を出して聞いてみる事にした。返しきれない程の恩を受けているのだから、せめて何かを返したいと思った。
「高杉…その…プレゼント何がいい…?」
 誕生日のプレゼントで何が喜ばれるかなんて知らない。両親が亡くなってからは貰う事もあげる事もなくなっていた。プレゼントの記憶は十歳で止まっている。相手が子供なら流行りの玩具でも買えば喜んでくれるだろうが相手は高校生だ。そんな物で喜びはしないだろうし、高杉はブランド物の服とか欲しいと思った大抵の物は買えてしまう。俺が小さな子供なら手紙とか似顔絵でもよかっただろうけど、生憎と自分も高校生なのである。
「別に何もいらねぇよ」
「…そうか」
 予想していた返事に心が沈む。本当に欲しい物がないのかもしれないが、なんだか自分までいらないと言われているような気がした。
「あー…待て。そうだな強いていうなら、お前の笑った顔が見てぇ」
「え…?」
「プレゼントはそれがいい」
「笑った顔なんて…」
 笑うってどうやるんだったか。思い出せない。家の人には笑うなと言われてきた。高杉にプレゼントもあげられなくて、笑う事も出来なくて。静かに涙が流れていく。
「悪ぃ…泣かせてぇ訳じゃねぇんだ……好きやつの笑った顔が見たいってのは普通の事だろ?」
「すき…?」
「ああ。俺はお前が好きだから笑った顔が見たい。怒った顔も泣いた顔も全部見たい」
「でも、おれ…わらうのわからねぇ…」
「お前は笑い方を忘れてるだけだ。少しずつ思い出していけばいい。そしていつか笑い方を思い出したら俺に一番に見せてくれ、な?」
「うん…」
 笑い方、思い出せるだろうか。思い出したら高杉は喜んでくれるだろうか。
「お前からのプレゼントずっと待ってる」
 そう言うと高杉は優しく俺を抱き締めた。
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