海(高土)

青い空と白い砂浜、光輝く太陽の元に水着のお姉さんとその他諸々。そして…
「高杉!サボらねぇでオーダー取ってきてくれよ!」
なぜか片想い中の相手と海の家で働いている俺。

それは夏休みに入る前の日だった。
「高杉、海行かねぇか?」
片想い中の土方にそう言われ二つ返事で頷いた。夏休みなんてクーラーの効いた部屋でゴロゴロするか、腐れ縁共とダラダラするかの二択だ。特に大した予定もないし、予定が入っていたとしても全部キャンセルだ。想い人からのデートの誘いの方が最重要である。
で、蓋を開けてみればデートなんかではなく土方の親戚のやっている海の家での手伝いであった。よくよく考えれば気付ける事だった。高校生が一週間も泊まりで海に行ける筈がない。交通費もいらないし、宿泊費もかからない。普通に考えればおかしい。だが、浮かれまくって脳内でデートプランやらあれやこれやを考えていたので、土方の説明は全く頭に入っていなかったのだ。
土方と二人きりでもないし水着姿も拝めない。遊びに行こうにも一日中働けばクタクタで遊ぶ元気は残っていない。いい所は腐れ縁とゴリラやドSが居ない、というくらいなものだ。
これが他のやつからの誘いならバックレている所だったが土方ではそれができない。しかも
「高杉の働く姿ってなんか格好いいな!」
と言われてしまったら頑張る以外の選択肢がなかった。男とは単純な生き物である。

結局、最終日まで土方とは何もなかった。同じ部屋で寝ていたが、土方はすぐに寝入ってしまってドキドキするような展開はなくむしろ生殺しに近かった。
今日も朝から忙しくオーダーや配膳をこなした。夕方になり客も少なくなり今日は上がっていいよと言われた。
「今日は地元のお祭りがあるんだけど、あんた達行かないかい?浴衣もあるからさ」
と土方の叔母に一週間分の給料を渡されながら言われた。
「高杉行こうぜ!」
「おう、いいぞ」
疲れてすぐにで休みたかったが土方にそう言われれば断る訳がない。
浴衣を着付けて貰い、さらにボーナスだよと小遣いまで渡されて土方と祭りに向かう。
浴衣に着替えた土方はいつもと雰囲気が違ってキラキラとしていた。眩しくて直視できない。
二人で屋台を回ると本当にデートみたいでドキドキする。土方はただ友達と遊んでいるだけだと思っているのだろうけど。

「高杉、叔母さんが花火が良く見える場所教えてくれたから行こうぜ」
土方に手をひかれながら人混みをかき分けて進む。握られた手が酷く熱かった。
たどり着いた神社は人が少なかった。どうも地元の人間しか知らないらしい。
ドンと音がして夜空に花が咲く。
「綺麗だな」
「そうだな」
土方の方が綺麗だ、とは言えなかった。手は神社に着いた時に離されてしまったし、好きだと言える程の勇気は持ち合わせていなかった。
「また来ような高杉」
「ああ」
また夜空に一輪の花が咲いた。




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