高X子
その日、高杉は日本の菓子を作るメーカーに初めて感謝した。カレンダーは11月11日。つまりそういう日である。
菓子は嫌いではないが特に好きという訳でもない。あれば食べるくらいでなくてもさして困りはしない。
だから今日とは無縁だった。スーパーやコンビニで商品を見ようとテレビでCMが流れようと「あーそうなんだ」くらいにしか思っていない。祝日でもなくただの企業戦略に乗ってやるつもりもなかった。
だが、ここに来て天啓を得た。ポッキーゲーム、それは合法的にキスが出来る遊びである。日本の企業様々だ。作ってくれた人もこの遊びを考えついた人にも感謝だ。ぜひノーベル賞をあげて欲しいとさえ思う。
高杉には彼女が出来た。まだ数ヶ月しか付き合っていないがとても順調だ。彼女の名前は土方十四子。ふわふわのマシュマロみたいなボディ、三つ編に長いまつげ、強気なところもまた可愛い。高杉に言わせれば全てが完璧。好きにならない方がおかしい程だ。
一目惚れを拗らせそうになったが、悪友たちに背を押されダメ元で告白してみたらまさかのオッケーの返事に天にも昇る気持ちであった。初めての彼女を絶対に幸せにしますと恩師の松陽にもしっかり報告した。
一緒に登下校したり放課後に遊びに行ったりと恋人らしい事もしている。始めの頃は十四子はなんとも言えない顔をする事がよくあったが、悪友たちによればそれは照れ隠しだと言った。辰馬の情報によれば十四子は今まで誰とも付き合った事がない。つまり初めての彼氏で戸惑っているだけなのだと。
それならばあのちょっと距離がある感じも仕方ないなと納得した。初めての事は誰でも戸惑うしそれが恋人となれば照れる事だってあるだろう。高杉は十四子が慣れるまで気長に待つ事にした。だって人生は長いのだ。結婚して子供が出来て、しわしわのおじいちゃんとおばあちゃんになるまで60年はある。その間に慣れれば何の問題もない。
それに最近は十四子も慣れてきたのかついに手を繋ぐ事が出来た。握った手はやっぱりふわふわのマシュマロみたいで、この手は一生洗わないと決めた。柔らかくて優しい手なのに車道にはみ出した高杉を歩道側に引っ張った力強い手も最高だった。惚れ直した。十四子は可愛いらしさだけでなくかっこよさもあるらしい。それから益々、高杉は十四子の事が大好きになった。
さて高杉は次の段階に進みたいと思った。手を繋いだとなったら次はキスだ。高杉だって健康な男子高校生なのでやっぱり人並みにそういう欲がある。あの桃色のふっくらとした口唇に触れてみたい。いやまだ早いだろうか。口唇よりも先にぷにぷにの頬っぺたに触れる方が先だろうか。
どちらが先かと悪友たちに相談すれば「キスする時に頬っぺたに触れるからキス」という結果になった。天才か。バカだバカだと思っていたが、実はコイツら天才だったらしい。
という事でキスが目標になった訳だが、次にどうキスをすればいいかである。世の中はそういう雰囲気になったら、らしいがそういう雰囲気とはどんな物だろう。そういう雰囲気になれば分かると言われてもそういう雰囲気になった事がないので分からない。
そうして悩んでいた所に舞い降りた天啓。ありがとう神様。ありがとうポッキー。これならごく仲を深めつつ自然にキスが出来る。一石二鳥。いや三鳥くらいはある。
早速コンビニに行き菓子の箱を眺めた。この店もポッキーの日を全面に押し出して、かわいいポップが付けられている。普通サイズや細いものイチゴ味にアーモンドが付いたもの。どの種類がいいのか、十四子はどの味が好きなのだろうか。考えに考えて全部買う事にした。これだけあれば何回でもポッキーゲームが出来る。そう思い付いて自分は天才ではないかと思った。
翌日、カバンに大量のポッキーを忍ばせて登校した。おかげでそろばんしか入らなかった。放課後、十四子を遊びに来ないかと家に誘ってポッキーゲームをする。そればかり考えていたから授業の内容は全く耳には入ってこない。
昼休みになり屋上で弁当を食べ終えると十四子が菓子の箱を取り出した。見てみればそれはプリッツ。ポッキーと兄弟のようなものだ。「食うか」と差し出されたので一本貰った。これはチャンスかもしれないと十四子を横目に見ると、バキッと豪快にプリッツを食べている。どこがとは言わないがヒュンッとした。
その後もバキバキと音を立ててマヨネーズまみれのプリッツを食べている。少し迷ったがカバンの中には沢山のポッキーが入っている。
意を決して気付かれないように箱を開けた。
「おへのもやふ」
咥えてから喋るんじゃなかった。伝わらなかったのか怪訝な顔をしている。キスのドキドキよりも断られるドキドキの方が勝っていた。
それから少し間を置いて十四子が反対側を咥えてくれた。「よしっ!」と思ったのもつかの間バキッと折られてあっという間に口の中に吸い込まれていった。
これは成功なのか失敗なのかと言えば失敗だろう。ポッキーゲームが伝わらなかったのか、それのも普通に拒否されたのか。
俯いていると十四子が溜め息を吐いたのが聞こえた。完全にだめ押しだ。益々、絶望感に襲われる。
すると頬に柔らかい感触がした。顔を上げると顔が真っ赤になった十四子がいる。
「………この、ばか」
それだけ言うと荷物をまとめて十四子が走り去っていく。バタンと屋上のドアの音がした。
「えっ?えっ………?」
高杉は放課後に銀時たちが迎えに来るまでその場でフリーズしたままだったという。
菓子は嫌いではないが特に好きという訳でもない。あれば食べるくらいでなくてもさして困りはしない。
だから今日とは無縁だった。スーパーやコンビニで商品を見ようとテレビでCMが流れようと「あーそうなんだ」くらいにしか思っていない。祝日でもなくただの企業戦略に乗ってやるつもりもなかった。
だが、ここに来て天啓を得た。ポッキーゲーム、それは合法的にキスが出来る遊びである。日本の企業様々だ。作ってくれた人もこの遊びを考えついた人にも感謝だ。ぜひノーベル賞をあげて欲しいとさえ思う。
高杉には彼女が出来た。まだ数ヶ月しか付き合っていないがとても順調だ。彼女の名前は土方十四子。ふわふわのマシュマロみたいなボディ、三つ編に長いまつげ、強気なところもまた可愛い。高杉に言わせれば全てが完璧。好きにならない方がおかしい程だ。
一目惚れを拗らせそうになったが、悪友たちに背を押されダメ元で告白してみたらまさかのオッケーの返事に天にも昇る気持ちであった。初めての彼女を絶対に幸せにしますと恩師の松陽にもしっかり報告した。
一緒に登下校したり放課後に遊びに行ったりと恋人らしい事もしている。始めの頃は十四子はなんとも言えない顔をする事がよくあったが、悪友たちによればそれは照れ隠しだと言った。辰馬の情報によれば十四子は今まで誰とも付き合った事がない。つまり初めての彼氏で戸惑っているだけなのだと。
それならばあのちょっと距離がある感じも仕方ないなと納得した。初めての事は誰でも戸惑うしそれが恋人となれば照れる事だってあるだろう。高杉は十四子が慣れるまで気長に待つ事にした。だって人生は長いのだ。結婚して子供が出来て、しわしわのおじいちゃんとおばあちゃんになるまで60年はある。その間に慣れれば何の問題もない。
それに最近は十四子も慣れてきたのかついに手を繋ぐ事が出来た。握った手はやっぱりふわふわのマシュマロみたいで、この手は一生洗わないと決めた。柔らかくて優しい手なのに車道にはみ出した高杉を歩道側に引っ張った力強い手も最高だった。惚れ直した。十四子は可愛いらしさだけでなくかっこよさもあるらしい。それから益々、高杉は十四子の事が大好きになった。
さて高杉は次の段階に進みたいと思った。手を繋いだとなったら次はキスだ。高杉だって健康な男子高校生なのでやっぱり人並みにそういう欲がある。あの桃色のふっくらとした口唇に触れてみたい。いやまだ早いだろうか。口唇よりも先にぷにぷにの頬っぺたに触れる方が先だろうか。
どちらが先かと悪友たちに相談すれば「キスする時に頬っぺたに触れるからキス」という結果になった。天才か。バカだバカだと思っていたが、実はコイツら天才だったらしい。
という事でキスが目標になった訳だが、次にどうキスをすればいいかである。世の中はそういう雰囲気になったら、らしいがそういう雰囲気とはどんな物だろう。そういう雰囲気になれば分かると言われてもそういう雰囲気になった事がないので分からない。
そうして悩んでいた所に舞い降りた天啓。ありがとう神様。ありがとうポッキー。これならごく仲を深めつつ自然にキスが出来る。一石二鳥。いや三鳥くらいはある。
早速コンビニに行き菓子の箱を眺めた。この店もポッキーの日を全面に押し出して、かわいいポップが付けられている。普通サイズや細いものイチゴ味にアーモンドが付いたもの。どの種類がいいのか、十四子はどの味が好きなのだろうか。考えに考えて全部買う事にした。これだけあれば何回でもポッキーゲームが出来る。そう思い付いて自分は天才ではないかと思った。
翌日、カバンに大量のポッキーを忍ばせて登校した。おかげでそろばんしか入らなかった。放課後、十四子を遊びに来ないかと家に誘ってポッキーゲームをする。そればかり考えていたから授業の内容は全く耳には入ってこない。
昼休みになり屋上で弁当を食べ終えると十四子が菓子の箱を取り出した。見てみればそれはプリッツ。ポッキーと兄弟のようなものだ。「食うか」と差し出されたので一本貰った。これはチャンスかもしれないと十四子を横目に見ると、バキッと豪快にプリッツを食べている。どこがとは言わないがヒュンッとした。
その後もバキバキと音を立ててマヨネーズまみれのプリッツを食べている。少し迷ったがカバンの中には沢山のポッキーが入っている。
意を決して気付かれないように箱を開けた。
「おへのもやふ」
咥えてから喋るんじゃなかった。伝わらなかったのか怪訝な顔をしている。キスのドキドキよりも断られるドキドキの方が勝っていた。
それから少し間を置いて十四子が反対側を咥えてくれた。「よしっ!」と思ったのもつかの間バキッと折られてあっという間に口の中に吸い込まれていった。
これは成功なのか失敗なのかと言えば失敗だろう。ポッキーゲームが伝わらなかったのか、それのも普通に拒否されたのか。
俯いていると十四子が溜め息を吐いたのが聞こえた。完全にだめ押しだ。益々、絶望感に襲われる。
すると頬に柔らかい感触がした。顔を上げると顔が真っ赤になった十四子がいる。
「………この、ばか」
それだけ言うと荷物をまとめて十四子が走り去っていく。バタンと屋上のドアの音がした。
「えっ?えっ………?」
高杉は放課後に銀時たちが迎えに来るまでその場でフリーズしたままだったという。