高X子

土方十四子。そのふくよかなボディから幼馴染みに悪意たっぷりにX子というあだ名を付けられた。一部の人間からはX子と呼ばれるが元々勝ち気な性格だったからか、気にするというよりも真っ向から立ち向かうという事の方が多かった。はじめはからかう人間の方が多かったが、彼女のサッパリとした性格や面倒見の良さに好感を持つ者の方が多くなった。そして親愛の意味を込めてX子と呼ぶ。結局変わってねーじゃん!とは本人の談であるが、悪意のない者に対してはむやみにつっかかったりはしないのである。

そんな十四子が校舎の裏に呼び出された。下駄箱に白い封筒とは今時古風な呼び出しだ。「放課後校舎裏にこい」とだけ書かれたシンプルなそれに十四子は燃えた。久しぶりの喧嘩に腕が鳴った。
放課後になり校舎裏に行くと一人の生徒が後ろ手にして立っているのが見えた。常に眼帯をし少々中二病の気がある男子生徒。大江戸高校で知らぬ者はいない、とまで言われる程の有名人である高杉晋助である。いつも4人でつるんでいてJOY4と勝手に名乗っている。本人たちはドラマのイケメンみたいでカッコいいと思っているようだが、実際には4バカとしての方が有名なのである。そのうちの1人である高杉の顔は知っているが話した事もなければ、今まで関わった事もない人間に何故呼び出されたのか。売られた喧嘩は買うと専らのうわさであるから、知らないうちに喧嘩を売っていたのだろうか。
「来たか」
「用件はなんだ」
返答次第では相手が誰であれ負けるつもりはない。
いきなり殴りかかってきてもいいように警戒だけは怠らない。高杉がすぅっと大きく息を吸う。
「好きです!!付き合ってください!!」
「は?え?何って??」
今なんて言ったのコイツ??予想外すぎて意味がわからず頭の上に大量のはてなマークが浮かぶ。
「好きです!!付き合ってください!!」
いや聞こえてるから。そういう意味で言ったんじゃねぇから!!
心の中でツッコミを入れると少しだけ冷静になった。自分なんかに告白してくる人間なんて今までいなかった。自分だって体型の事は分かっている。可愛くもない。見た目も性格もだ。いつも4人でつるんでるコイツらの事だ。これはきっと罰ゲームに違いない。そういう告白なら何度かあって慣れている。分かった時点でボコボコにしてやった。慣れてはいるが平気な訳じゃない。その度に当たり前に傷ついている。
今回はバレバレであるからハッキリと断ろう。騙される前ならボコボコにもしなくていい。
返事をしようと高杉を真っ直ぐ見ると顔を赤らめた。
えっ、お前そんなキャラだったの?絶対に違うよね??
真っ赤な顔でワタワタとした後「はっ」とした表情をした高杉はお辞儀をしながら後ろに回したままだった手を前に出した。
その手には一輪の赤いバラが握られてたのだが、つい反射的に受け取ってしまった。顔を上げた高杉が目を丸くしてこちらをじっと見つめる。
「それはOKって事か?」
「へっ?えっ?」
「よっしゃあー!!」
目の前にはバラと渾身のガッツポーズをする高杉。
「高杉ー!!」
「よかったなー!!」
「おめでとうー!!」
と奥の草むらから勢いよく飛び出してくる3バカ。
「断られるかと思った…」
「よかったな、高杉!!初恋が実ったぞ!!」
「いい告白だったぜよ!!」
「幸せになるんだぞ」
高杉はなぜか涙ぐんでるし、3バカも涙ぐんで高杉を祝福している。胴上げまで始まって、一人意味の分かっていない自分だけがバラを握ったまま呆然と立っている。
「土方、高杉は中二病だけどいいやつだからよろしくな!!」
「土方殿、高杉をよろしく頼む」
「いやぁ、まっことめでたいのお!ささ、儂らはここで退散するぜよ」
そう言うと3バカはニコニコしながら草むらの奥へと消えていった。高杉とポツンと2人取り残されて、どうしたらいいのか分からない。というか誰か今の状況を説明してくれ頼むから。お願い300円あげるから。
「土方、俺絶対に土方の事を大切にするから、これからよろしくな」
両手を握られて微笑まれる。バカではあるが無駄に顔がいいなコイツ。
「いや、付き合ってるのに名字ってのも変か…なぁ十四子って呼んでいいか…?」
「え?あ、うん?」
「そうか!俺の事は晋助って呼んでくれ!!」
「あ、は、はい」

どうしよう。たぶん恐らく考えたくないけれど高杉は本気で告白してきて、バラを受け取ったらそれがOKであると思われて、それが泣くほど嬉しいみたいで。あれよあれよというまに高杉とお付き合いをすることになってしまったらしい。





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