ポニーテール(銀土)
「あっはっはっはっ!それで?ポニーテールにしてくれ!って頼んだらドン引きされたって?ひっー!腹が痛ぇ!!」
「テメェ笑いすぎだろ!!おかげで銀さんの銀さんも不発に終わってんだよ!!」
「天パだけじゃなく、やっかいな…くくっ…性癖を抱えてんだな…やべっ思い出したら…また…ふふふふ…」
「あーもう!言うんじゃなかった!!」
性癖。『その人が持つ性質上のかたより、癖の事である。本来の意味は“収集癖”などの考えや習慣に基づいて起こるものをさす』のだが、実際には性的な嗜好と誤解され広まっている。
まあ、今回はその話は置いておこう。今話しているのは性的な話だからだ。
酒の席である。銀時は土方と飲んでいた。始めは犬猿の仲であったが、最近ではそうでもない。相変わらず町で出会えば喧嘩になり口も手も出るが。友人とは呼べないが一緒に酒を飲むくらいにはなった。この時だけは休戦だ。銀時も土方も酒は気分良く飲みたい。
あまり喋る方でない土方も、回数を重ねると少しずつ口数が増えていった。今ではバカみたいな話もするし愚痴もお互いにこぼして、笑い飛ばしてみたり慰めてみたりとそれなりにいい関係になっている。
銀時は普段から下の話をよくするが、土方はそうではない。だが酒が入っているせいか、珍しく乗ってきた。といっても、ピー音が入る程の物ではない。
好きな相手に告白する手伝いをして欲しい、という依頼が入った。そこから恋愛の話になった。銀時の恋愛話など聞いた事がなかったから、土方は興味を持った。普段ならどうでもいい、と一蹴しただろうが酒で気分が良くて食いついた。
気になったり好きになる相手はポニーテール。見かけるとつい目で追ってしまう。ただお妙にだけは反応しなかった。言えば確実に死ぬので絶対に言えない。
いい感じになって数回のデートから、ついにホテルへ…となったのだが、彼女が髪を下ろしてしまうと何故か反応しない。一度なら「そんな日もあるよね」となるが、何度も繰り返すと流石に彼女も呆れて浮気される。
それを何度か繰り返したのち、教訓としてポニーテールのままで!と次の彼女には土下座までしてお願いしたのだが、次第に付き合いきれない、とフラれてしまった。
そして、先日。そういうお店に行き、ポニーテールでお願いします!と言ったらその勢いなのかポニーテールのせいなのか、めちゃくちゃドン引きされて、何も出来ずにスゴスゴ帰宅した、というのだ。
それを聞いた土方は大爆笑だ。こんなに笑ってる土方は見たことがない。笑いすぎて作画崩壊が起きそうだが、大丈夫だろうか。
銀時は相手がポニーテールでなければ役に立たないのである。
「で、なんでそうなっちまったんだ?」
ひとしきり笑った後、土方が尋ねた。切欠なり原因なりがあるはずだ。そこが分かれば改善するかもしれない。
死ぬ程恥ずかしい銀時はこれ以上話したくないと思ったが、どうにかしたいというのも事実。このままではずっと右手がお友達である。
「たぶんあの時だと思うんだよね…」
攘夷戦争時代の事だ。その頃はまだ新兵でただがむしゃらに刀を振るっていた頃だった。
戦場でぬめっとした軟体動物みたいな天人と交戦し、これを切り伏せた。その時、ピンク色のヤバい感じしかしない液体を全身に浴びてしまった。正直、気持ち悪い。ぬるぬるする。口に入ったのも嫌だけど、ちょっと甘いなコレ。いやいやいや、落ち着けこれ天人の体液だぞ!
このままではまともに動くのも難しいし、これが毒であれば早く落とさねばならない。天人の吐いた体液で溶けた人間がいる、という話を思い出してゾッとした。
ここにくる途中、水場があった筈だ。そこで落とそう。ヅラ達には悪いがそっと戦場を抜け出した。
水場に向かっていると、身体が次第に熱くなり、呼吸も荒くなっていく。本当に毒だったのかもしれない、と思ったのだがそれ以外に苦しいとか血を吐くとかそういうのもない。
むしろ、反応しているのは下半身だ。しっかりテントを張っている。反応し過ぎて痛いくらいだ。
(毒じゃなくて媚薬の方かよ!!)
よかったけど、よくない。
死にはしないだろうけど、めちゃくちゃ辛い。早く熱を治めたい。気持ちよくなりたい。頭の中はそれでいっぱいになる。
ようやく水場に辿り着くと、何も考えずに飛び込んだ。浅瀬でよかった。金槌なのを忘れるくらいに切羽詰まっていた。
全身の体液は落ちたが、熱が治まった訳ではない。体内に入ってしまったからだろう。甘いと思って舐めるんじゃなかった。
浅瀬から出て近くの木に寄りかかり前を寛げた。元気よく飛び出たそれを握ろうとしたのだが、全く力が入らない。媚薬が強すぎて身体の力が抜けてしまったのかもしれない。
動けないし、熱も吐き出せない。苦しい。ここまでくれば苦しい以外にない。
脳裏に死が過る。こんな死に方は絶対に嫌だ。死ぬなら胸が大きくて、えっちなお姉さんの上がいい…!!
「どうした…?」
自分の上に影が降りた。
その人物の手を借りて熱を吐き出す事が出来た。気持ちよくて仕方なかった。自分でするよりも何倍も気持ちよくで死ぬかと思った。それが初めて自分以外の手で達し、さらには筆下ろしされた日である。
その意識がハッキリしなかったせいで、それがどんな人だったかあまり覚えいない。だが、その人の揺れるポニーテールだけは覚えている。
「それでポニーテールが性癖になったと」
「たぶんね…」
全部話した。これで解決するなら安いものだ。たぶん初恋の相手が忘れられないとか、そういうのだと思っている。踏ん切りをつけようにも相手が分からないから、踏ん切りもつけられない。
「そうだな…がんばれ」
「恥ずかしい話させといて何もねぇのかよおおおおお!!フォロ方仕事しろ!!」
解決策は見つかることなく、恥ずかしい性癖と過去を話しただけであった。
※※※※※
「万事屋~ちょっとトシを預かってくれない?」
「はぁ?なんだよゴリラ唐突に」
「いやぁ~なんか変な薬被っちゃって、若返っちゃったんだよね。で、解毒剤が出来るまで暫く預かっててくれ」
「なんで俺がニコチンマヨラーなんか」
「依頼料はこれだけだす」
「喜んでお受け致します」
明らかに面倒な依頼を断ろうとしたが、ゴリラの提示した金額に即刻頷いた。家賃も払えるし、焼肉も行けます。ありがとうございます。
「トシー!大丈夫だってー!」
ゴリラが土方を呼ぶと階段を登る音がして、土方がひょっこりと顔を出す。
いつも見る土方よりも少し背が低く、筋肉もまだ未発達で華奢だ。そして、ポニーテールが揺れる。
(どこかで見た…?)
若い頃の土方に面識はない筈だが、見たことがあるような気がする。ものすごく何かが引っ掛かる。あとちょっと。あと少しで思い出せそうなのに、喉につっかえて出てこない。
「どうした…?」
その声を聞いた瞬間、銀時は雷を打たれたようなな衝撃を受けた。
「あーーーー!!!!!」
「ど、どうした万事屋?」
「急に叫ぶなクソ天パ!!」
朧気な記憶が一気に蘇った。こいつだ。間違いない。こいつこそが。
「俺の性癖を歪めたのお前だー!!!!!」
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