誕生日(高土)
誕生日を祝って貰ったのは何年も前だ。
両親を事故で失うまでは毎年祝ってくれていたと思う。ちょうど連休だから普段は仕事で家を開けがちの両親は家に居てそれだけで嬉しかった。
10歳になった時世界は全部変わってしまった。家に帰ってきた両親はもう動かなくて、知らない人が「お父さんとお母さんはお星さまになったの」と教えてくれた。
幼い自分にはまだそれが良く分からなくて淡々と行われる葬儀をただ見ているだけだった。
それからお父さんの兄弟だと名乗る人が俺を育てる事になった。何回も育てる人は変わっていってみんな俺を腫れ物扱いをした。今の家は俺をいないものとして扱う。無関心でいてくれる方が楽だからそれでよかった。
どこにも行く所がなくて公園のベンチにボンヤリと座っているとぐぅ…と腹が鳴った。今の家の人達は連休を利用して旅行に出掛けていて、住まわせて貰ってる家にメモだけが残されていた。
きっと旅行は俺がバイトして得たお金を使っているのだろう。コンビニとファーストフードのバイトを掛け持ちして貰ったの給料の殆どを家に渡している。僅かに残ったお金で半額になったパンを買って食いつなぐ。あとは賄いやこっそりと廃棄の弁当を貰って生活をしている。
本来なら今日もそのつもりだった。ところが、コンビニもファーストフードのバイトも「誕生日くらい休みなよ」と連休で忙しい筈なのに休みにされてしまった。だから、食べる物がない。朝に一つパンを食べたきりだった。今ここでお金を使ってしまうと次の給料日まで持たないかもしれにい。コンビニに顔を出して廃棄を貰う事も考えたが、今日シフトに入っている人による。なんとなく事情を知っている長谷川さんならこっそりと分け合えるのだが今日は出勤だっただろうか。
「おい、何してんだここで」
顔を上げるとそこには同級生がいた。確か名前は高杉だ。有名な不良で殆ど学校には来ていない。気まぐれに学校に現れ、気が付くといなくなっている。学校で見かけたのは1、2回程か。教室の机で眠っているのと屋上で煙草を吸っているのを見かけた。たったそれだけなのに強烈な存在感があり存在を許されていない俺とは真逆に見えた。
「別に何も」
「お前名前なんだっけ?確か同じクラスだったろ」
「土方」
「土方な。暇ならツラかせ」
あ、カツアゲか。千円くらいで許して貰えねぇかな。千円も持ってねぇかもしれないけど。それとも殴られるのか。いや、金が足りねぇって殴られるのかも。
「別に取って食わねぇよ。暇だから遊ばねぇかってだけだ」
高杉は嘘を言っているようには見えなかった。だが高杉とは話した事がない。やっぱり何か裏があるんじゃないかと考えあぐねていた。
『ぐぅ』
腹が鳴った。恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
「はははっ!お前腹減ってんのか!腹の音で返事されるとは思わなかったぜ!!」
高杉は腹を抱えて笑っている。思い切り叩かれる肩が痛い。
「笑うなっ!」
「お前も面白ぇな!よし、決めた俺の家来い」
高杉は俺の手を取って有無を言わさず引っ張っていく。
たどり着いた場所は俺とは無縁そうな高層マンション。高杉は手慣れた手付きでカードキーをかざしてエントランスに入っていく。
エレベーターはどんどん上に登っていき見たこともない景色になっていく。
部屋に案内されると広さが自室の何倍もあって少し泣きそうになった。同じ同級生なのにこんなにも境遇が違う。
「もうちょっとで届くと思うからゆっくりしてろ」
リビングには大きなソファと大画面のテレビ。物はあまりおかれていない。どうにも落ち着かないし、家の人に挨拶もなしに家に上がるのも悪いような気がする。
「なぁ、親御さんは…?」
「いねぇよ。一人暮らし」
高杉はコップを二つとペットボトルの水を持って来た。英語の商品名のそれに高そうだという間抜けな感想を持った。家では水道水を飲むことすら憚れるのだ。わざわざ水を買うのだから住む世界が全く違う人間なのだろう。
「で、なんでお前はあんな所で何してたんだ?」
「別に何もしてねぇよ」
「連休だろ?友達と遊んだりしねぇのか」
「友達いねぇし…」
バイトばかりで部活にも入らず友達なんていなかったし、作ろうともしなかった。家でも学校でも俺は居ないのと同じだ。
「ふーん…お前訳アリ…ってやつか?」
「なんでそう思う?」
「俺もそうだから」
そんな風にはとても見えないのだが、やっぱり嘘を言っているようにも見えなかったし高校生がこんな高層マンションに住んでいるのも不思議ではある。
「話してみろよ。俺ァ口硬ぇぜ」
根拠はない。だけどなんとなく高杉になら話してもいいような気がして、これまでの事を少しずつ話した。
全部話し終えると高杉は少し何かを考えた後に口を開いた。
「そうか…とりあえず誕生日祝いするか」
「は??」
予想外の返事に空いた口が塞がらないとはこの事なのか。
「お前話聞いてたのか…?」
「聞いてたから誕生日祝うんだろ?あー飯もっといいモン頼めばよかったな。追加で頼むか」
高杉はスマホを操作し始めた。追加で頼むとはどういう事か。重い空気にもならないばかりか、困惑しているのは俺の方だ。
「金なら気にすんな。捨てる程あるしな。あ、欲しい物あんなら物置から適当に持ってけ」
「いやそうじゃなくて!!」
「あ?うるせぇな。お前は大人しく祝われとけ。
それと、お前今日から俺ん家に住め。決定な」
話が急展開すぎて付いていけない。何がどうなって高杉の家に住む事になるのだろう。
「そんなモン急に言われても頷ける訳ねぇだろ!」
「お前家に帰っても仕方ねぇだろ。だったら俺の家に住んでも問題ねぇはずだ。今日は誕生日だろ?いい機会じゃねぇか。今日からお前は生まれ変わるんだよ」
高杉の自信は自信有り気に笑った。その自信はどこから来るのかわからない。けれど、そんな高杉が眩しくてまるで神様のようにも思えて、自然と頷いていたのだった。
両親を事故で失うまでは毎年祝ってくれていたと思う。ちょうど連休だから普段は仕事で家を開けがちの両親は家に居てそれだけで嬉しかった。
10歳になった時世界は全部変わってしまった。家に帰ってきた両親はもう動かなくて、知らない人が「お父さんとお母さんはお星さまになったの」と教えてくれた。
幼い自分にはまだそれが良く分からなくて淡々と行われる葬儀をただ見ているだけだった。
それからお父さんの兄弟だと名乗る人が俺を育てる事になった。何回も育てる人は変わっていってみんな俺を腫れ物扱いをした。今の家は俺をいないものとして扱う。無関心でいてくれる方が楽だからそれでよかった。
どこにも行く所がなくて公園のベンチにボンヤリと座っているとぐぅ…と腹が鳴った。今の家の人達は連休を利用して旅行に出掛けていて、住まわせて貰ってる家にメモだけが残されていた。
きっと旅行は俺がバイトして得たお金を使っているのだろう。コンビニとファーストフードのバイトを掛け持ちして貰ったの給料の殆どを家に渡している。僅かに残ったお金で半額になったパンを買って食いつなぐ。あとは賄いやこっそりと廃棄の弁当を貰って生活をしている。
本来なら今日もそのつもりだった。ところが、コンビニもファーストフードのバイトも「誕生日くらい休みなよ」と連休で忙しい筈なのに休みにされてしまった。だから、食べる物がない。朝に一つパンを食べたきりだった。今ここでお金を使ってしまうと次の給料日まで持たないかもしれにい。コンビニに顔を出して廃棄を貰う事も考えたが、今日シフトに入っている人による。なんとなく事情を知っている長谷川さんならこっそりと分け合えるのだが今日は出勤だっただろうか。
「おい、何してんだここで」
顔を上げるとそこには同級生がいた。確か名前は高杉だ。有名な不良で殆ど学校には来ていない。気まぐれに学校に現れ、気が付くといなくなっている。学校で見かけたのは1、2回程か。教室の机で眠っているのと屋上で煙草を吸っているのを見かけた。たったそれだけなのに強烈な存在感があり存在を許されていない俺とは真逆に見えた。
「別に何も」
「お前名前なんだっけ?確か同じクラスだったろ」
「土方」
「土方な。暇ならツラかせ」
あ、カツアゲか。千円くらいで許して貰えねぇかな。千円も持ってねぇかもしれないけど。それとも殴られるのか。いや、金が足りねぇって殴られるのかも。
「別に取って食わねぇよ。暇だから遊ばねぇかってだけだ」
高杉は嘘を言っているようには見えなかった。だが高杉とは話した事がない。やっぱり何か裏があるんじゃないかと考えあぐねていた。
『ぐぅ』
腹が鳴った。恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
「はははっ!お前腹減ってんのか!腹の音で返事されるとは思わなかったぜ!!」
高杉は腹を抱えて笑っている。思い切り叩かれる肩が痛い。
「笑うなっ!」
「お前も面白ぇな!よし、決めた俺の家来い」
高杉は俺の手を取って有無を言わさず引っ張っていく。
たどり着いた場所は俺とは無縁そうな高層マンション。高杉は手慣れた手付きでカードキーをかざしてエントランスに入っていく。
エレベーターはどんどん上に登っていき見たこともない景色になっていく。
部屋に案内されると広さが自室の何倍もあって少し泣きそうになった。同じ同級生なのにこんなにも境遇が違う。
「もうちょっとで届くと思うからゆっくりしてろ」
リビングには大きなソファと大画面のテレビ。物はあまりおかれていない。どうにも落ち着かないし、家の人に挨拶もなしに家に上がるのも悪いような気がする。
「なぁ、親御さんは…?」
「いねぇよ。一人暮らし」
高杉はコップを二つとペットボトルの水を持って来た。英語の商品名のそれに高そうだという間抜けな感想を持った。家では水道水を飲むことすら憚れるのだ。わざわざ水を買うのだから住む世界が全く違う人間なのだろう。
「で、なんでお前はあんな所で何してたんだ?」
「別に何もしてねぇよ」
「連休だろ?友達と遊んだりしねぇのか」
「友達いねぇし…」
バイトばかりで部活にも入らず友達なんていなかったし、作ろうともしなかった。家でも学校でも俺は居ないのと同じだ。
「ふーん…お前訳アリ…ってやつか?」
「なんでそう思う?」
「俺もそうだから」
そんな風にはとても見えないのだが、やっぱり嘘を言っているようにも見えなかったし高校生がこんな高層マンションに住んでいるのも不思議ではある。
「話してみろよ。俺ァ口硬ぇぜ」
根拠はない。だけどなんとなく高杉になら話してもいいような気がして、これまでの事を少しずつ話した。
全部話し終えると高杉は少し何かを考えた後に口を開いた。
「そうか…とりあえず誕生日祝いするか」
「は??」
予想外の返事に空いた口が塞がらないとはこの事なのか。
「お前話聞いてたのか…?」
「聞いてたから誕生日祝うんだろ?あー飯もっといいモン頼めばよかったな。追加で頼むか」
高杉はスマホを操作し始めた。追加で頼むとはどういう事か。重い空気にもならないばかりか、困惑しているのは俺の方だ。
「金なら気にすんな。捨てる程あるしな。あ、欲しい物あんなら物置から適当に持ってけ」
「いやそうじゃなくて!!」
「あ?うるせぇな。お前は大人しく祝われとけ。
それと、お前今日から俺ん家に住め。決定な」
話が急展開すぎて付いていけない。何がどうなって高杉の家に住む事になるのだろう。
「そんなモン急に言われても頷ける訳ねぇだろ!」
「お前家に帰っても仕方ねぇだろ。だったら俺の家に住んでも問題ねぇはずだ。今日は誕生日だろ?いい機会じゃねぇか。今日からお前は生まれ変わるんだよ」
高杉の自信は自信有り気に笑った。その自信はどこから来るのかわからない。けれど、そんな高杉が眩しくてまるで神様のようにも思えて、自然と頷いていたのだった。
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