チョコレート(銀土)
「えー数日後には何があるか分かりますか?そうですね、バレンタインです」
パチンコの新台を選ぶ時よりも、馬を選ぶ時よりも
、宝くじをどこの売店で買うかと悩む時よりも真剣な顔をしていた。
いつも離れている眉と目がくっつく程に近い。
死んだ魚のような目に力が宿っている。
普段からそうしてくれたらいいのに。
「俺が土方くんに惚れている事は知ってると思う。そこで、バレンタインに乗っかって『俺が沢山チョコを貰って土方くんに自分の気持ちに気付かせよう!作戦』を決行する!!」
要するにこうだ。銀さんが沢山チョコを貰ってるのを見た土方さんが胸の痛みを感じて「俺、万事屋のこと…!」と銀さんへの恋心に気が付く、という作戦らしい。
「すでに土方くんには『チョコの数で勝負だ!!』と言ってるので、問題はない!という訳でお前らも協力をお願いします!!!」
キレイな土下座を見た。
えっなにこの天パはバカなの??
普通に勝負したら確実に負けるでしょアンタ。マダオと公務員ですよ。天パとイケメンですよ。勝負、最初から見えてますよね。
けれども、あんまり必死に頼みこむものだから
「わかりましたよ」
「わかったアル」
と了承する事にした。
「ありがとな!!」
喜びいさんで早速チョコの材料を買いに出掛けた銀時の背を見ながら二人は思う。
「「なんでチョコを渡して告白する、って考えにならないんだろう(ならないアルか)」」
あの天パは爛れた恋愛しかしてこなかったから、拗らせ過ぎてるようだ。
※※※※※
バレンタイン当日。
どうにか頼み込んで貰ったチョコを抱えて銀時は屯所に向かう。
知り合いの女の子達に必死に頼みこんで貰った(憐れみ含む)チ〇ルとか黒い雷とか、アホロチョコにおじさんでも知っているようなブランドのチョコ。
それと自分で作ったいかにも「本命です」なチョコ。ラッピングにも拘った。これなら確実に土方くんは自分の気持ちに気が付くに違いない。
義理、と言われればそうかもしれないけれど今日は数で勝負なので。沢山チョコを抱えて土方くんに見せれば、「銀時はモテるのか…なんだこの気持ちは…そうか俺は銀時が好きだったのか…」ってなるに違いない。もしくは「俺以外からチョコを貰うなんて!」という嫉妬パターンもいい。
「ひーじかーたくーん!」
スパアアアン!と勢いよく障子を開けた副長室にはチョコの山が出来上がっていた。
「おう、来たか」
文机に座っていた土方くんが振り返る。少し機嫌が悪そうで、ちょっとくったりしている。ストレートのサラサラヘアもボサボサ気味だ。
例年はチョコを断っている土方が今年は受け取ると聞いて、あちこちから渡されて揉みくちゃにされたらしい。
数も圧倒的だが、チョコのブランドも有名なブランドばかり。安くても一粒500円くらいはする。あの一粒で自分が貰ったチョコが何個買えるのだろう。全部、本命だ。ガチなやつらしかいない。チョコ以外にも土地の権利書とか株とかブランドの服とかもある。
数でも本気でも完全に敗北だ。
「土方のバカー!!」
うわああああん!と泣きながらダッシュでその場から逃げた。胸が痛い。こんなにも土方の事が好きなのに。なんでこの気持ちが伝わらないのか。
結局、作戦は大失敗。胸が痛むのも嫉妬したのも自分の方。
万事屋で新八と神楽に慰められながら食べたてづくりのチョコはしょっぱい味がした。
泣きながら帰った銀時は丁寧にラッピングされたチョコを、土方がジッと見つめていたことには気が付かなかった。
※※※※※
「なんだったんだ、ありゃ…」
数日前に万事屋に「チョコの数で勝負だ!」と急に声をかけられた。
売り言葉に買い言葉で、うっかり受けたチョコ勝負。正直、虚しさしか残らない。
万事屋が抱えていた丁寧にラッピングされたチョコは手作りだろう。
市販のチョコが悪い訳じゃない。相手のために悩み、決して安くない金額のものばかりだ。
大切なのは気持ちで、その人のために用意したのなら市販だって、手作りだって同じ意味を持っている。
万事屋の持っていた手作りのチョコはどう見たって本命だ。ただ一人の事を想いながら作られたものだ。
文机の下に隠していた、小さな箱を手に取る。
自分などが渡してはいけないもの。
青いリボンをほどいて包みを開く。
鮮やかな模様の描かれたチョコをひとつ。
自分に良し悪しなんてわからないけれど、贈るならこれだと思った。見た瞬間に顔が浮かんだから。
甘いはずのチョコレートは苦くてしょっぱい味がした。
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