嘘(高土)

「ああ、大丈夫だ。…はもう寝てるか。明日はもう少し早い時間に電話出来ると思う。もう遅いから、お前ももう寝ろよ」
『ええ、あなたもね。それと、高杉さんによろしくね。おやすみなさい』
「おやすみ」
通話を切ったスマホの画面には妻の名前が表示されている。アラームをセットすると充電コードを差す。充電が切れて寝坊しました、なんて笑えない。
「終わったか?」
「ああ、高杉さんによろしく、だとよ」
ベッドの上でニヤリと高杉が笑い、土方は誘われるように口付けた。
土方と高杉は同じ会社の同僚である。高校の同級生でもあり、進学で離れる事になったが今の会社で再会をした。友人であった事もありペアで仕事をし、こうして出張に出る事も多い。二人とも有能で成績も上々。会社の内外からも評判がいい。
また、高杉と土方の子供が保育園、小学校とも同じで仲が良く妻同士も意気投合して家族ぐるみの付き合いをしている。どちらかの子供が一方の家に泊まりにくるのも頻繁にあり、休日には二家族揃って遊園地やキャンプに行く程の仲だ。
仕事も出来て家族思い、というのが表向きの顔だ。
だが、二人は大きな嘘をついている。
高校生の時、二人は恋人同士だった。進学で別れる事になったが、会社で再会するとは夢にも思わなかった。
始めは懐かしい友人に再会した、と二人とも思っていた。薬指の指輪にお互い驚き、子供が同じ保育園に通う事になった事にもさらに驚いた。
始めのうちは只の友人だと思っていた。だが、胸の内に燻っていた物に再び火が付いた。どちらが先かは分からない。少しずつ友人という関係は変化して、ついに一線を越えた。
二人での出張の日、お互いの家族に電話した後ビジネスホテルの小さなベッドで抱き合った。
先程まで妻や子供に「好きだよ」と言っていた口唇で口付け、目の前の男に「好きだ」と囁く。
家族は好きだ。嘘は付いていない。しかし、目の前に居る男も堪らなく好きで愛しいのだ。お互いに家庭があるから余計に燃え上がったのかもしれない。
その日以来、外回りの空き時間や出張の日には人目を忍んで抱き合った。休日に二人で遊びに行くと言っても、普段の仲の良さから怪しまれる事はない。そんな時は朝からずっと抱き合った。
「んっ…お前のとこは何か言ってたか?」
「土方さんによろしく、ってよ」
「なら、よろしくされねぇとなぁ…?」
口付けは更に深くなり、高杉の手が土方の身体を這う。
家族は大切だ、嘘じゃない。でも、お互いに愛しいと思う気持ちも嘘ではないのだ。
全て本当だから嘘を付いている。
ベッドサイドには二つの指輪が静かに並んでいた。

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