名家の跡取り高杉くんと同級生の土方くん
モブ生徒が色々出てきます。
「適当に決めて適当にやってくれ。あ、俺が責任を取らなくていい形でな」
「おおー!!やるぞー!!」
全くやる気のない銀八に対して、クラスのやる気はMAXである。担任がだらしないからこうなのか、生徒のやる気があるからほったらかしなのか。どちらにせよ銀八が職務を全うしているようには思えない。
担任が退出してしまった教室で、何をやるかの話し合いが始まった。学級委員が黒板の前に立ち候補を書いていく。定番の内容から意味の分からないものまで。黒板を埋めつくす勢いだ。それをもっと勉学に向けられたら、このクラスの平均点は跳ね上がるだろう。
高杉はその光景を不思議な気持ちで眺めていた。この場に居る事が出来て嬉しいのと、この場に参加していいのかという不安。
文化祭は参加したことがある。だが全部準備が終わって、当日に少し顔を出すだけというものだ。クラスの全員が揃いのTシャツを着て、高杉が顔を出した瞬間に、一瞬だけ凍る空気。そこから取り繕ったような笑顔を向ける者や、完全に顔を背ける者も。
その空気が分からない程、高杉は鈍感でも馬鹿でもない。これ以上邪魔にならないように、静かにその場を去るのが最善だった。
「高杉、何難しい顔してんだ?腹でも痛ぇのか?」
ネガティブな思考を引き戻したのは、土方の声だ。心配の方向は少々ズレていても、その優しさに高杉は何度も救われている。
「いや、腹は痛くねぇ」
強いて言えば胸だろうか。少女漫画みたいな台詞が浮かんでしまった。同じクラスの来島という女生徒が貸してくれたものだ。なぜかよく分からないが、積極的に話しかけてくれる相手である。
「じゃあ投票で決めまーす!用紙配るので後ろに回してくださーい!」
いつの間にか候補は締め切られ、投票へと移っていた。黒板にはもう書く所がない。
一つくらい手を上げてみたかったと残念に思う。思うのだが何がいいかなど、とんと浮かばない。定番のお化け屋敷や焼きそばなどはすでに上がっているし、キャバクラなんてものもある。
高杉は無難にカフェを選んだ。カフェの上に「コン」の二文字がある。よく分からないがカフェには間違いないだろう。
投票箱に入れるだけでドキドキした。自分もこうして参加できていることが夢のようだった。家の方針で、ごく普通の学生生活を送りなさいと言われてきた。だが実際には勉強以外に普通なんてものはなく、友人もイベントも何も経験していない。
「投票の結果ジャスタウェイ工場に決まりました!」
「ジャスタウェイ工場か……!パトリオット工場と悩んだんだよなぁ!」
「お化け屋敷がよかったけど、ジャスタウェイ工場なら仕方ないよね!」
投票というものは少なからず不満が出るものだが、このクラスは満場一致であったようだ。ただ、高杉にはジャスタウェイというものが何なのか全く分からない。
「土方」
「なんだ?」
「ジャスタウェイ……ってなんだ」
「ジャスタウェイはジャスタウェイだろ。それ以上でもそれ以下でもねぇ」
「……そうなのか」
土方でさえ当たり前のように答えた。結局、ジャスタウェイは何か分からない。分からないがそういうものらしいと納得させるしかない。
「それじゃあ詳細を決めていきましょう!まず工場長から!」
「工場長は一番重要なポジションだからな……]
「生産性が高いから一番偉いし……」
「できれば工場長っぽい人が……あ!」
なぜか一斉に視線が高杉へと集まった。さすがにクラス中ともなれば気圧される。
「高杉くんが工場長だと思う人ー!」
委員長の一声で高杉以外の全員が手を上げた。
助けを求めようにも、土方も手を真っ直ぐに上げている。戸惑う高杉を尻目に、盛大な拍手が上がった
細かな内容を決めた後に、高杉は自分は何をすればいいかと委員長に聞いた。
「工場長は工場長なんだから、どっしりと構えてればいいのよ!」
返事も具体性がない。要約すると特にすることはないということである。
それでは今までと変わりがない。疑いたくはないが、何もしない不要なポジションに自分を推薦したのではないだろうか。確かに、高杉に文化祭やもろくに行事に参加した経験はない。所謂お荷物で扱い難いのは間違いない。このクラスに限ってそれはないだろうが、思い出すのはあの冷たい視線である。
「高杉?」
心配そうな土方の声がした。土方の顔も曇っている。不安が顔に出てしまっていたのだろう。自身がネガティブ思考に陥りやすい、ということを知ったのは土方と関わってからだ。
「……なんでもねぇ」
関われただけでもよしとするべきだ。何かしらの役割が与えられたのだから、それでいいのだと納得させた。
数日後、高杉の不安は的中することはなかった。「はいこれ」と渡されたのは、つなぎとつけ髭である。そのまま着替えさせられて戻ってみれば、白い布とカメラがスタンバイしていた。
「こりゃあいったい…」
「何って、工場長の写真を飾るに決まってんだろ」
そのまま高杉は椅子に座らされて撮影が始まった。カメラもスマホではなく一眼レフというものだ。写真部の生徒が用意して、はりきってシャッターを押している。
「お疲れさん」
撮影が終わるとニヤニヤしなが。土方が声をかけてきた。変に緊張していた体から力が抜けていく。
「笑ってんじゃねぇよ」
「いや、なんか緊張してるお前面白くて。あ、高橋ー!現像できたら俺にもくれよ」
「いいぜー!」
「よくねぇ!」
それ程分かりやすく緊張していたのか。恥ずかしくもあるが、クラスの雰囲気は和やかだ。嘲笑ではなく、友人としての笑顔だった。昔は冷たい笑顔に囲まれてばかりだった。今では全部失くしたと感じていたのは、間違いであったと気付いている。
「入り口に出す看板なんだけどさー」
画用紙をくっつけて長い看板を作っている女生徒が頭を捻っていた。どうやら上手く書けないらしい。失敗した用紙が済みに積まれている。書道部の人間が居れば頼むのだが、生憎このクラスには居なかった。
「あ、じゃあ高杉書けば?字上手かったろ」
「高杉くんお願い!」
「高杉工場長!一筆お願いします!」
悪ノリ感はあるが悪い気はしなかった。役割がある。それのなんと嬉しいことか。
「何て書けばいいんだ?」
「ジャスタウェイ工場って書いて貰える?」
「わかった」
まあそうだろうな、思いながら筆を取った。書道も嗜みとして叩き込まれて、それなりに賞を取ったこともある。当たり前だと、飾られることもなく蔵へと片付けられてしまったが。
「おおー!!」
「すげぇ!!」
感嘆の声が上がる。なぜかスマホで写真を撮る生徒もいる始末だ。
「これ、うちのクラスが優勝だろ!!」
「賞品は俺たちのものだ!!」
クラスはさらに盛り上がる。盛り上がりすぎて「うるせぇ!!」と隣のクラスから苦情が来た。
「土方、優勝とか賞品……ってのは?」
「あ、知らねぇの?どこが一番良かったか投票があって、優勝したらちょっとした賞品が出んだよ」
「……そうだったのか」
銀八が担任のクラスにしてはまともだと思っていた。だが、やはりここは銀八のクラスだったようだ。
それから着々と文化祭の準備は進んでいった。高杉も揃いのTシャツを着て、内装やら買い出しやらを手伝った。
文化祭の前日、入り口に「ジャスタウェイ工場」の看板が掲げられた。それを見たクラスは盛り上がりまた苦情が来た。
放課後、全員が帰ったのを見計らって高杉は教室の入り口に立った。ポケットからスマホを取り出して、カメラを起動する。
一枚だけ写真を撮った。初めて飾って貰えた高杉の字であった。口元は笑みを浮かべていたが、高杉はそのことに気が付いてはいなかった。
「土方ァ。テメェはついて来んじゃねぇぞ」
「あらあら、総ちゃん。そういう言い方は良くないわ。ごめなさいね十四郎さん」
「た、たたたたたたまさんとデートして貰えることになったので今回は!!!!!」
結局、文化祭は高杉と土方で回ることになってしまった。近藤は早々に妙の手によって、保健室の住民と化している。
「悪ぃな俺と二人で」
「いや、別に気にしねぇ」
むしろそれで良かったと高杉は思ってしまった。あまり良いと言える感情ではない。だが、久しぶりの姉弟水入らずやデートを邪魔する訳にもいかない。近藤は勝手に復活するだろう。
パンフを片手に土方と文化祭を回る。その様子は以前とは違って見えた。あの時も賑やかだったのは変わらないが「ここに居てもいい」と許されているような気がしていた。
「ネオアームストロングサイクロンジェットネオアームストロング砲じゃねぇか。完成度高ぇなオイ」
「邪魔だ」
「オイ、高杉。教師に向かって邪魔だとはなんだ」
そろそろ交代の時間だと教室に戻ると、入り口に銀八が立っていた。ネオなんとかを見て感心しているようだ。
このネオなんとかも高杉以外はみんな知っているようだった。口々に「完成度高ぇな、オイ」と言うが説明が人によって違う。ジャスタウェイは爆発するらしいし、一体何を作らされているのだろう。
「あ、銀八だ。邪魔しに来たのか?」
「ちょっと先生。そこ邪魔で中入れないんだけど」
「お前ら、俺のことをよってたかって……!内申点下げてやるからな!!」
銀八は泣きながら廊下を走り去っていった。本当に何をしに来たのか。内申点を盾にするとは卑怯だが、走った先で理事長に怒られているのが見えた。
「お帰り工場長!」
「工場長が戻られたぞー!!」
「工場長様ー!!」
ただの交代なのに異様な盛り上がりである。昔の自分なら何も感じないか、冷たく無視していあかもしれない。けれど、高杉は良い意味で昔の高杉ではなくなった。
「お前ぇらしっかり働けよ」
「おおー!!」
冗談だって普通に言って、普通に受け入れられる。ただの普通の高校生の高杉晋助がそこに居た。
「残念だったねー」
惜しくも僅差で二位という結果になった。それでも胸を張って言えるものだ。遅くならない内に、文化祭の打ち上げは解散。胸の内では、楽しかった記憶と寂しさが混ざりあっている。
「これで最後だもんね」
クラスの誰かが言った。三年生最後の文化祭。少しだけ手を止めていた、受験や就職活動を進めなくてはいけない。
高杉の進路はまだ決まっていない。やりたいことも、なりたい物もない。一方の土方は警察学校に行くのだという。
精神面でも、物理的にも距離が離れていく。この気持ちと決着を付けるには、いいタイミングなのかもしれない。
今すぐに踏ん切りは付かなくとも、残りの数ヶ月で整理をすればいい。土方も家を出るのだから、高杉もいつまでも世話になっている訳にはいかない。
「土方」
「ん?」
「……ありがとう」
「なんだよ突然改まって」
「言いたかったんだ、お前に」
「そっか。俺も、ありがとな高杉」
土方の笑顔が胸に刺さる。これは叶えてはいけない恋であるから。少しずつ諦められるように、ただ祈るばかりである。
「適当に決めて適当にやってくれ。あ、俺が責任を取らなくていい形でな」
「おおー!!やるぞー!!」
全くやる気のない銀八に対して、クラスのやる気はMAXである。担任がだらしないからこうなのか、生徒のやる気があるからほったらかしなのか。どちらにせよ銀八が職務を全うしているようには思えない。
担任が退出してしまった教室で、何をやるかの話し合いが始まった。学級委員が黒板の前に立ち候補を書いていく。定番の内容から意味の分からないものまで。黒板を埋めつくす勢いだ。それをもっと勉学に向けられたら、このクラスの平均点は跳ね上がるだろう。
高杉はその光景を不思議な気持ちで眺めていた。この場に居る事が出来て嬉しいのと、この場に参加していいのかという不安。
文化祭は参加したことがある。だが全部準備が終わって、当日に少し顔を出すだけというものだ。クラスの全員が揃いのTシャツを着て、高杉が顔を出した瞬間に、一瞬だけ凍る空気。そこから取り繕ったような笑顔を向ける者や、完全に顔を背ける者も。
その空気が分からない程、高杉は鈍感でも馬鹿でもない。これ以上邪魔にならないように、静かにその場を去るのが最善だった。
「高杉、何難しい顔してんだ?腹でも痛ぇのか?」
ネガティブな思考を引き戻したのは、土方の声だ。心配の方向は少々ズレていても、その優しさに高杉は何度も救われている。
「いや、腹は痛くねぇ」
強いて言えば胸だろうか。少女漫画みたいな台詞が浮かんでしまった。同じクラスの来島という女生徒が貸してくれたものだ。なぜかよく分からないが、積極的に話しかけてくれる相手である。
「じゃあ投票で決めまーす!用紙配るので後ろに回してくださーい!」
いつの間にか候補は締め切られ、投票へと移っていた。黒板にはもう書く所がない。
一つくらい手を上げてみたかったと残念に思う。思うのだが何がいいかなど、とんと浮かばない。定番のお化け屋敷や焼きそばなどはすでに上がっているし、キャバクラなんてものもある。
高杉は無難にカフェを選んだ。カフェの上に「コン」の二文字がある。よく分からないがカフェには間違いないだろう。
投票箱に入れるだけでドキドキした。自分もこうして参加できていることが夢のようだった。家の方針で、ごく普通の学生生活を送りなさいと言われてきた。だが実際には勉強以外に普通なんてものはなく、友人もイベントも何も経験していない。
「投票の結果ジャスタウェイ工場に決まりました!」
「ジャスタウェイ工場か……!パトリオット工場と悩んだんだよなぁ!」
「お化け屋敷がよかったけど、ジャスタウェイ工場なら仕方ないよね!」
投票というものは少なからず不満が出るものだが、このクラスは満場一致であったようだ。ただ、高杉にはジャスタウェイというものが何なのか全く分からない。
「土方」
「なんだ?」
「ジャスタウェイ……ってなんだ」
「ジャスタウェイはジャスタウェイだろ。それ以上でもそれ以下でもねぇ」
「……そうなのか」
土方でさえ当たり前のように答えた。結局、ジャスタウェイは何か分からない。分からないがそういうものらしいと納得させるしかない。
「それじゃあ詳細を決めていきましょう!まず工場長から!」
「工場長は一番重要なポジションだからな……]
「生産性が高いから一番偉いし……」
「できれば工場長っぽい人が……あ!」
なぜか一斉に視線が高杉へと集まった。さすがにクラス中ともなれば気圧される。
「高杉くんが工場長だと思う人ー!」
委員長の一声で高杉以外の全員が手を上げた。
助けを求めようにも、土方も手を真っ直ぐに上げている。戸惑う高杉を尻目に、盛大な拍手が上がった
細かな内容を決めた後に、高杉は自分は何をすればいいかと委員長に聞いた。
「工場長は工場長なんだから、どっしりと構えてればいいのよ!」
返事も具体性がない。要約すると特にすることはないということである。
それでは今までと変わりがない。疑いたくはないが、何もしない不要なポジションに自分を推薦したのではないだろうか。確かに、高杉に文化祭やもろくに行事に参加した経験はない。所謂お荷物で扱い難いのは間違いない。このクラスに限ってそれはないだろうが、思い出すのはあの冷たい視線である。
「高杉?」
心配そうな土方の声がした。土方の顔も曇っている。不安が顔に出てしまっていたのだろう。自身がネガティブ思考に陥りやすい、ということを知ったのは土方と関わってからだ。
「……なんでもねぇ」
関われただけでもよしとするべきだ。何かしらの役割が与えられたのだから、それでいいのだと納得させた。
数日後、高杉の不安は的中することはなかった。「はいこれ」と渡されたのは、つなぎとつけ髭である。そのまま着替えさせられて戻ってみれば、白い布とカメラがスタンバイしていた。
「こりゃあいったい…」
「何って、工場長の写真を飾るに決まってんだろ」
そのまま高杉は椅子に座らされて撮影が始まった。カメラもスマホではなく一眼レフというものだ。写真部の生徒が用意して、はりきってシャッターを押している。
「お疲れさん」
撮影が終わるとニヤニヤしなが。土方が声をかけてきた。変に緊張していた体から力が抜けていく。
「笑ってんじゃねぇよ」
「いや、なんか緊張してるお前面白くて。あ、高橋ー!現像できたら俺にもくれよ」
「いいぜー!」
「よくねぇ!」
それ程分かりやすく緊張していたのか。恥ずかしくもあるが、クラスの雰囲気は和やかだ。嘲笑ではなく、友人としての笑顔だった。昔は冷たい笑顔に囲まれてばかりだった。今では全部失くしたと感じていたのは、間違いであったと気付いている。
「入り口に出す看板なんだけどさー」
画用紙をくっつけて長い看板を作っている女生徒が頭を捻っていた。どうやら上手く書けないらしい。失敗した用紙が済みに積まれている。書道部の人間が居れば頼むのだが、生憎このクラスには居なかった。
「あ、じゃあ高杉書けば?字上手かったろ」
「高杉くんお願い!」
「高杉工場長!一筆お願いします!」
悪ノリ感はあるが悪い気はしなかった。役割がある。それのなんと嬉しいことか。
「何て書けばいいんだ?」
「ジャスタウェイ工場って書いて貰える?」
「わかった」
まあそうだろうな、思いながら筆を取った。書道も嗜みとして叩き込まれて、それなりに賞を取ったこともある。当たり前だと、飾られることもなく蔵へと片付けられてしまったが。
「おおー!!」
「すげぇ!!」
感嘆の声が上がる。なぜかスマホで写真を撮る生徒もいる始末だ。
「これ、うちのクラスが優勝だろ!!」
「賞品は俺たちのものだ!!」
クラスはさらに盛り上がる。盛り上がりすぎて「うるせぇ!!」と隣のクラスから苦情が来た。
「土方、優勝とか賞品……ってのは?」
「あ、知らねぇの?どこが一番良かったか投票があって、優勝したらちょっとした賞品が出んだよ」
「……そうだったのか」
銀八が担任のクラスにしてはまともだと思っていた。だが、やはりここは銀八のクラスだったようだ。
それから着々と文化祭の準備は進んでいった。高杉も揃いのTシャツを着て、内装やら買い出しやらを手伝った。
文化祭の前日、入り口に「ジャスタウェイ工場」の看板が掲げられた。それを見たクラスは盛り上がりまた苦情が来た。
放課後、全員が帰ったのを見計らって高杉は教室の入り口に立った。ポケットからスマホを取り出して、カメラを起動する。
一枚だけ写真を撮った。初めて飾って貰えた高杉の字であった。口元は笑みを浮かべていたが、高杉はそのことに気が付いてはいなかった。
「土方ァ。テメェはついて来んじゃねぇぞ」
「あらあら、総ちゃん。そういう言い方は良くないわ。ごめなさいね十四郎さん」
「た、たたたたたたまさんとデートして貰えることになったので今回は!!!!!」
結局、文化祭は高杉と土方で回ることになってしまった。近藤は早々に妙の手によって、保健室の住民と化している。
「悪ぃな俺と二人で」
「いや、別に気にしねぇ」
むしろそれで良かったと高杉は思ってしまった。あまり良いと言える感情ではない。だが、久しぶりの姉弟水入らずやデートを邪魔する訳にもいかない。近藤は勝手に復活するだろう。
パンフを片手に土方と文化祭を回る。その様子は以前とは違って見えた。あの時も賑やかだったのは変わらないが「ここに居てもいい」と許されているような気がしていた。
「ネオアームストロングサイクロンジェットネオアームストロング砲じゃねぇか。完成度高ぇなオイ」
「邪魔だ」
「オイ、高杉。教師に向かって邪魔だとはなんだ」
そろそろ交代の時間だと教室に戻ると、入り口に銀八が立っていた。ネオなんとかを見て感心しているようだ。
このネオなんとかも高杉以外はみんな知っているようだった。口々に「完成度高ぇな、オイ」と言うが説明が人によって違う。ジャスタウェイは爆発するらしいし、一体何を作らされているのだろう。
「あ、銀八だ。邪魔しに来たのか?」
「ちょっと先生。そこ邪魔で中入れないんだけど」
「お前ら、俺のことをよってたかって……!内申点下げてやるからな!!」
銀八は泣きながら廊下を走り去っていった。本当に何をしに来たのか。内申点を盾にするとは卑怯だが、走った先で理事長に怒られているのが見えた。
「お帰り工場長!」
「工場長が戻られたぞー!!」
「工場長様ー!!」
ただの交代なのに異様な盛り上がりである。昔の自分なら何も感じないか、冷たく無視していあかもしれない。けれど、高杉は良い意味で昔の高杉ではなくなった。
「お前ぇらしっかり働けよ」
「おおー!!」
冗談だって普通に言って、普通に受け入れられる。ただの普通の高校生の高杉晋助がそこに居た。
「残念だったねー」
惜しくも僅差で二位という結果になった。それでも胸を張って言えるものだ。遅くならない内に、文化祭の打ち上げは解散。胸の内では、楽しかった記憶と寂しさが混ざりあっている。
「これで最後だもんね」
クラスの誰かが言った。三年生最後の文化祭。少しだけ手を止めていた、受験や就職活動を進めなくてはいけない。
高杉の進路はまだ決まっていない。やりたいことも、なりたい物もない。一方の土方は警察学校に行くのだという。
精神面でも、物理的にも距離が離れていく。この気持ちと決着を付けるには、いいタイミングなのかもしれない。
今すぐに踏ん切りは付かなくとも、残りの数ヶ月で整理をすればいい。土方も家を出るのだから、高杉もいつまでも世話になっている訳にはいかない。
「土方」
「ん?」
「……ありがとう」
「なんだよ突然改まって」
「言いたかったんだ、お前に」
「そっか。俺も、ありがとな高杉」
土方の笑顔が胸に刺さる。これは叶えてはいけない恋であるから。少しずつ諦められるように、ただ祈るばかりである。
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