ホワイトデー(高土)
「…………」
チョコレートの箱を前に腕を組んで唸っていた。
バレンタインにチョコレートを貰った事はある。近藤さんは羨ましがったが、甘いものは得意ではないし彼女が欲しいという願望もない。いつもなら近藤さんや甘いものが好きな坂田に上げるのだが、このチョコレートだけはそれが出来ずにいた。
渡してきた相手は、不良で目付きも悪く友人かと言われるとなんとも微妙な位置にいる男―――高杉だ。先月、放課後に買い物に付き合わされそこでわざわざ俺好みのチョコレートを買い帰り道に告白された。
あの日は驚きすぎてどうやって帰ったのか覚えていない。気が付いたら家に帰っていて、家族と夕飯を食べ、風呂に入って眠っていた。
夢かと思ったのだが、机の上にはチョコレートの入った紙袋が置いてあり中身もしっかり入っている。夢じゃなかった。
それから憂鬱な週末も開け月曜日。正直、学校に行きたくなくなるくらいには気が重かった。だが、習慣とは怖いもので着替えて朝食を食べるといつもの時間に家を出ていたのだ。
「おはようトシ!」
「近藤さん、おはよう」
教室のドアを開けると近藤さんが笑顔で迎えてくれた。しかし、今日はどことなくソワソワしている。
自分の席に着こうとすると机の上には可愛らしくラッピングされた箱が置かれていた。
バレンタイン当日は今日だったか。近藤さんがソワソワしていたのにも頷ける。本命は1人だろうに、欲しい物は欲しいという事だ。
こんなに気の重くなるバレンタインは初めてだった。原因を作った本人はまだ登校していないようだった。高杉は不良ではあるがその見た目からか人気も高い。何組の女子に告白されていたとかという噂も何度か耳にした。現に高杉の机の上にはチョコレートの箱が置かれている。別に気にする事ではない筈なのに、なぜだかモヤりとしてしまった。
その日、高杉は登校してくることはなかった。その後も気紛れに登校してきていた。何か言ってくるかと思ったがいつもと変わらずに接してくる。屋上で煙草をふかしてみたり、ダラダラと話してみたり。意識しているのは自分だけかと思っていたが、時折熱の籠った視線を高杉は投げ掛けてくる。その度に顔に熱が集まっているのが分かって顔を見られないようにしていた。
あれから1ヶ月。ホワイトデーも近付いている。
高杉への返事も出来ず、お返しも何も浮かばないでいた。
自分は高杉の事をどう思っているのだろう。
嫌いではないが、好きかと言われるとどうなのだろうか。好きだとしても高杉と自分の好きは違うのではないか。
考えれば考える程に自分の気持ちが分からなくなっていく。
高杉と居るのは楽しい。このまま返事をせずに今のままの関係でもいいんじゃないかと思う。けれど、自分の性格からして曖昧にしたままなのは好きではない。だが、答えは出ないままだ。
『ピロン♪』
スマホから着信音がした。メッセージアプリを開くと近藤さんからメッセージが入っていた。
『お妙さんへのホワイトデーのお菓子一緒に買いに行ってくれない?』
確かバレンタインには何も貰っていなかった筈だが、彼には関係ないのだろう。そのメッセージに了承の旨を送る。少し考えた後、それと一緒に今の悩みも送ってみた。
暫くすると長めの返事が返ってきた。
『悩むって事はそれだけその相手が大事で好きって事なんだと思うぞ!』
その言葉がストンと腑に落ちる。
告白された時に嫌だなんて思わなかった。高杉の机の上のチョコレートにモヤりとした感情にも納得がいった。
近藤さんに『ありがとう』と返事をすると、顔に似合わず可愛いスタンプが送られてきた。
それにスタンプを送り返すと今度は別の人物にメッセージを送った。
放課後、屋上で待っていると高杉が現れた。授業は出なかったクセに俺の呼び出しには応じるらしい。
「話ってなんだ?」
「今日さ、ホワイトデーだろ?その、お前にお返し…って思ったんだけど…お前が好きな物が何か分かんなくて用意できなかった…」
「別に気にする事じゃねぇさ」
「俺は気にするんだよ…!だ、だから…」
言おうって決心して来た筈なのにパクパクと口を開くだけで言葉が出て来ない。
「話はそれだけか?なら、俺は帰るぜ」
「待ってくれ…!お返し…は用意できなかった、から…!お、俺でいいか…!?」
背を向けて歩いていた高杉がピタリと止まり振り返る。
「お前が嫌じゃ…なかったら…だけど…」
最後は消え入りそうな程に声が小さくなり高杉には聞こえてなかったかもしれない。「いらない」なんて言われるのが怖くて俯いていると強く抱き締められていた。
「嫌な訳があるか」
「へ、返品なんかしたら許さねぇからな!」
「お前が嫌がっても手放すつもりなんざねよ。」
「上等だ…!」
高杉を睨み付けると余裕そうに笑ったが、耳がほのかに赤くなっていたのは見逃さなかった。
「まずは味見だな」
ゆっくりと口唇が合わせられた。
チョコレートの箱を前に腕を組んで唸っていた。
バレンタインにチョコレートを貰った事はある。近藤さんは羨ましがったが、甘いものは得意ではないし彼女が欲しいという願望もない。いつもなら近藤さんや甘いものが好きな坂田に上げるのだが、このチョコレートだけはそれが出来ずにいた。
渡してきた相手は、不良で目付きも悪く友人かと言われるとなんとも微妙な位置にいる男―――高杉だ。先月、放課後に買い物に付き合わされそこでわざわざ俺好みのチョコレートを買い帰り道に告白された。
あの日は驚きすぎてどうやって帰ったのか覚えていない。気が付いたら家に帰っていて、家族と夕飯を食べ、風呂に入って眠っていた。
夢かと思ったのだが、机の上にはチョコレートの入った紙袋が置いてあり中身もしっかり入っている。夢じゃなかった。
それから憂鬱な週末も開け月曜日。正直、学校に行きたくなくなるくらいには気が重かった。だが、習慣とは怖いもので着替えて朝食を食べるといつもの時間に家を出ていたのだ。
「おはようトシ!」
「近藤さん、おはよう」
教室のドアを開けると近藤さんが笑顔で迎えてくれた。しかし、今日はどことなくソワソワしている。
自分の席に着こうとすると机の上には可愛らしくラッピングされた箱が置かれていた。
バレンタイン当日は今日だったか。近藤さんがソワソワしていたのにも頷ける。本命は1人だろうに、欲しい物は欲しいという事だ。
こんなに気の重くなるバレンタインは初めてだった。原因を作った本人はまだ登校していないようだった。高杉は不良ではあるがその見た目からか人気も高い。何組の女子に告白されていたとかという噂も何度か耳にした。現に高杉の机の上にはチョコレートの箱が置かれている。別に気にする事ではない筈なのに、なぜだかモヤりとしてしまった。
その日、高杉は登校してくることはなかった。その後も気紛れに登校してきていた。何か言ってくるかと思ったがいつもと変わらずに接してくる。屋上で煙草をふかしてみたり、ダラダラと話してみたり。意識しているのは自分だけかと思っていたが、時折熱の籠った視線を高杉は投げ掛けてくる。その度に顔に熱が集まっているのが分かって顔を見られないようにしていた。
あれから1ヶ月。ホワイトデーも近付いている。
高杉への返事も出来ず、お返しも何も浮かばないでいた。
自分は高杉の事をどう思っているのだろう。
嫌いではないが、好きかと言われるとどうなのだろうか。好きだとしても高杉と自分の好きは違うのではないか。
考えれば考える程に自分の気持ちが分からなくなっていく。
高杉と居るのは楽しい。このまま返事をせずに今のままの関係でもいいんじゃないかと思う。けれど、自分の性格からして曖昧にしたままなのは好きではない。だが、答えは出ないままだ。
『ピロン♪』
スマホから着信音がした。メッセージアプリを開くと近藤さんからメッセージが入っていた。
『お妙さんへのホワイトデーのお菓子一緒に買いに行ってくれない?』
確かバレンタインには何も貰っていなかった筈だが、彼には関係ないのだろう。そのメッセージに了承の旨を送る。少し考えた後、それと一緒に今の悩みも送ってみた。
暫くすると長めの返事が返ってきた。
『悩むって事はそれだけその相手が大事で好きって事なんだと思うぞ!』
その言葉がストンと腑に落ちる。
告白された時に嫌だなんて思わなかった。高杉の机の上のチョコレートにモヤりとした感情にも納得がいった。
近藤さんに『ありがとう』と返事をすると、顔に似合わず可愛いスタンプが送られてきた。
それにスタンプを送り返すと今度は別の人物にメッセージを送った。
放課後、屋上で待っていると高杉が現れた。授業は出なかったクセに俺の呼び出しには応じるらしい。
「話ってなんだ?」
「今日さ、ホワイトデーだろ?その、お前にお返し…って思ったんだけど…お前が好きな物が何か分かんなくて用意できなかった…」
「別に気にする事じゃねぇさ」
「俺は気にするんだよ…!だ、だから…」
言おうって決心して来た筈なのにパクパクと口を開くだけで言葉が出て来ない。
「話はそれだけか?なら、俺は帰るぜ」
「待ってくれ…!お返し…は用意できなかった、から…!お、俺でいいか…!?」
背を向けて歩いていた高杉がピタリと止まり振り返る。
「お前が嫌じゃ…なかったら…だけど…」
最後は消え入りそうな程に声が小さくなり高杉には聞こえてなかったかもしれない。「いらない」なんて言われるのが怖くて俯いていると強く抱き締められていた。
「嫌な訳があるか」
「へ、返品なんかしたら許さねぇからな!」
「お前が嫌がっても手放すつもりなんざねよ。」
「上等だ…!」
高杉を睨み付けると余裕そうに笑ったが、耳がほのかに赤くなっていたのは見逃さなかった。
「まずは味見だな」
ゆっくりと口唇が合わせられた。
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