土方十四郎の誘拐

「真選組副長土方十四郞アルな。手を上げるヨロシ」
「何してんだチャイナ」
「チャイナじゃないアル。チャイナ13ネ」

土方の背に傘の先が向けられた。それはただの傘でない事を知っている。日除けでもあるが、夜兎にとってはれっきとした武器だ。殴打は勿論、銃弾が何十発と打てる。
首だけ後ろを振り返ってみれば、やはり万事屋のチャイナ女がいた。やたら大きなサングラスをかけて。

殺気は感じないから、大方テレビか漫画の影響だろう。一言、彼女の保護者には文句なり言ってやらねばならない。
相手が俺じゃなければ、しょっぴかれてしまうところだ。知らない中ではないが、別に仲が良いという訳でもない。かなり高い戦闘力を持っているとはいえ、彼女だってまだ少女の部類である。ここは優しく注意をして、お帰り願うのがいいだろう。

「あのなぁ、そんな事してしょっぴかれてもしらねぇぞ。遊びてぇなら、お前ん家の天パか眼鏡に遊んで貰え」
「遊びじゃないネ。これは本気ヨ。手を上げて大人しくついてくるヨロシ」

背中に傘の先を押し付けられる。引き金を引けば簡単に背中に穴が空いてしまうだろう。
本気の遊びに付き合わねばならないのかと、頭を抱える。何より巡回中だし、屯所に戻ってやらねばならない書類が山のようにある。

「わかったよ…遊びに付き合えばいいんだな?仕事中だから早めに終わらせてくれよ」
「だから、遊びじゃないアル!とにかく大人しく付いてくるヨロシ!」

遊び、と言われて憤慨している。一体何が駄目なんだ。子供は苦手である。
とりあえず、適当に付き合ってる適当な所で帰ればいいかと算段をまとめていると、一台の黒塗りの車が近づいてきた。
そのような高級車が一般道を走っているのは珍しい。悪い予感がする。いつでも刀が抜けるように身構えると、後部座席の窓がゆっくりと空いた。

「土方さん、これは遊びじゃないんですよ」
「はっ!?えっ!?そよ姫様!?」

思いもよらぬ人物の登場に狼狽える。
なぜここに一国の姫が居るんだ。そして、彼女もまたチャイナ娘と同様にサングラスをかけているではないか。頭が痛い。とてつもなく悪い予感がする。

「私はそよ姫ではありません。プリンセス13です。さぁ、土方さん大人しく付いてきて頂けますか」

口元は笑っているが有無を言わせない圧を感じる。前門の姫、後門のチャイナ。
逆らえば、頭と身体はサヨウナラだ。国家権力と国家公務員。どう頑張っても勝てる見込みがない。

「承知致しました…」

頷いた所で背後から衝撃を受けた。了承したんだから手刀いらなくね…?と思った所で意識が途切れた。

こうして白昼堂々と土方は誘拐されたのである。


*****



「新八~神楽はどこ行った?」
「神楽ちゃんなら遊びに行くって昨日言ってたじゃないですか」

「そうだっけ?」と鼻をほじりながら返事をする。そういえば言ってたような気もする。三度寝から目覚めた頭は未だにぼんやりだ。鼻くそを丸めて飛ばすと新八が「掃除したばかりなのに!」と怒りの声が上がった。

「そうだ、手紙が届いてましたよ。依頼じゃないですか?」
「手紙ぃ?」

真っ白な封筒には宛名も差出人も書かれていない。訳ありの依頼人だと名乗らなかったりするので、特に気にはしない。夜逃げの手伝いや、人に言えない事を抱えている人間も多い。まずは内容を確認して、きな臭ささや犯罪でなければ依頼は受ける。



『坂田 銀時様
土方十四郎は預かった。
返して欲しければこちらの要求に従え。
詳しい要求は真選組に伝えてある。
従わない場合には無事ではないと思え。』

取り出した便箋には、大きさがバラバラの文字を貼り付けて、文章が作られていた。
新聞紙を切り抜いて、貼り付けたドラマでよく見る脅迫状である。
便箋を持った手がブルブルと震える。これは一大事ではないか。

(別にあのマヨラーがどうなろうと、俺は知ったことではないけれど助けたら報酬が沢山貰えるし恩も売れるしチビチビ集れば老後の心配もなくなるよね!V字前髪のアイツが酷い目に合わされてたらどうしようとか、怪我してないかなとか、無事だろうかと心配で不安で仕方ないとかは1mmも思ってはいないけれど、主人公なんだから助けに行ってもなーーーんにもおかしくはないし、むしろ助けに行かないと怒られるやつだし話も進まないから、仕方なく助けに行ってやろうという善意の行動です)

「新八!真選組に行ってくる!!」
「あ、はい。気を付けて~」

さっきまでダラダラしていた雰囲気はどこえやら。鬼気迫る表情で腰に木刀を差し、万事屋を飛び出して行った。
一人残された新八は、脅迫状を拾い上げた。

「…それにしても、結構上手くできたなコレ」

銀時の慌ってぷりは凄かった。間抜けな顔が青くなり冷や汗が大量に出て、ソファの座っていた部分が濡れている。それに何かブツブツ言っていてちょっと恐かった。
気付かれてしまったかと不安になったが、ちゃんと出て行ったので成功である。
脅迫状は「知らせるな」というのが普通である。それが「真選組に行け」とあるのだ。冷静であれば、そのおかしさに気が付くはずだ。
しかし、それに気が付かない程に銀時は焦り、冷静さを欠いている。
すでに到着している可能性もあるが、真選組へと一報をいれておく。あとは結果を待つばかりだ。

新聞紙から必要な文字を探す作業は中々に骨が折れた。大変な思いをしたのだから、誘拐が成功してもらわねば困る。
いい加減あの大人二人にはどうにかなって欲しい。



*****



「待っていたぞ、万事屋」

屯所に着くと、入り口には近藤と沖田、それに山崎が待ち構えていた。沖田は顔を伏せて肩を震わせている。

「おい!ゴリラ!土方の野郎が!!」
「俺たちの所にも脅迫状が届いてる。犯人の要求している物は中に準備してある」

近藤は踵を返し、中へ着いてくるように言った。銀時は、はやる気持ちを抑えてそれに続く。

銀時が中へ入ったのを確認して沖田は顔を上げた。

「くっくくく…ザキィあの…旦那の顔、見たか…?もう、俺ぁ、笑い堪えるのに必死で…腹筋が…ふふっ…死にそうでさぁ…」
「だ、だめですよ隊長…くくっ…思い出しちゃった…じゃないです…かっ…!旦那は、真剣…なんですよ…!」

俺は別に興味ないですよ、という雰囲気をどうにか出そうとしているのに、必死なのが駄々漏れであった。それにいち早く気付いた沖田のツボに入り、わざと顔を伏せていた。ついでに山崎にも被弾させておくという悪行である。

「ほら、もう行かないと…くくっ…怪しまれますよ…!」
「旦那ぁ、今日のこれはバッチリ録画して後で上映してやりますんで、楽しみにしておいてくだせぇ」

二人は悪い笑みを浮かべて、後を追った。

「お前ら遅ぇぞ!切腹だゴラァ!」

局長室に入れば激しい貧乏ゆすりで待つ銀時が座っていた。やはり、表情はいつもの気の抜けた顔をしているが、行動が伴っていない。貧乏ゆすりのせいで、お茶が湯飲みからびちゃびちゃと零れっぱなしである。

「揃ったな。まず、犯人は万事屋を交渉人に指名している。やってくれるか?危険も伴うだろうから報酬も出す」
「任せとけ。しっかりふんだくってやるからよ、通帳用意して待っとけや」
「で、犯人はお前にコレとコレを持ってこの場所に行くように指定している。あと、お前だとちゃんと分かるようにこの服装で行ってくれ」
「…分かった。土方の事は俺に任せろ」
「俺達も、後ろに控えている。トシの事を宜しく頼む」
「旦那ぁ、俺から…もっ…たの…み、やす…っ…!」

珍しく沖田が頭を下げた。肩を震わせて言葉が途切れ途切れなのは泣いているように見えた。同じように近藤と山崎も頭を下げた。

「ま、テメェらは宴会の準備でもして待ってろよ」

すぐに銀時は立ち上がり、恐ろしいほどの早さで屯所を出ると、ベスパに股がり指定された場所へと走り去っていった。


「くっくくく…ははは…」
「ちょっ…もう…無理…」
「ぎゃははははは!!旦那、最高でさぁ!!腹が死ぬ!マジで死ぬ!」
「お前ら、笑い…くふっ…過ぎだぞ…!なぁ、俺の演技、どうだった…?アカデミー賞いける??」
「近藤さん中々良かったですぜ。これは旦那の反応が楽しみだ」

銀時が去った屯所では、三人が腹を抱えて笑っていた。沖田は腹筋が死ぬとヒイヒイ言っているし、山崎は笑いすぎて過呼吸ぎみだ。近藤も笑うのを堪えようとしているが、堪え切れずに笑ってしまっている。

それもそのはず。
犯人が指定した銀時の服装は紋付き袴の正装なのだから。持ち物はアタッシュケースに入れた現金…と言ってあるが、実際に入っているのは指輪に花束である。重しを入れているし、中身は見せていないので開けない限りは気が付く事はないだろう。普段なら聡いはずの銀時は疑問にも感じず、眉と目を近付けてすっかりシリアスモードになっていた。

服装も目立ちやすい物を指定されたと言えば納得した。どこの世界に紋付き袴を指定してくる犯人がいるんだろうか。

「チャイナさんに連絡しました。新八くんも後から合流するそうです」
「よし、じゃあ俺達も行くぞ!」
「土方さん、この借りはデカイですぜ」

明らかに好き合っているのに、いつまでたっても進展しない二人に痺れを切らしているのは真選組も一緒であった。
いやもう本当に早くどうにかって欲しい。両想いに気が付いてないのはお前らだけだ。
さっさと告白なりなんなりしてしまえ!


*****


「んっ…ここは…」
「どうやら目が覚めたようアルな」
「土方さん、お加減はどうですか?」

目が覚めると机の向かいには少女が二人。
ぼんやりしていた意識が覚醒すると、この少女たちに誘拐された事を思い出した。
だが、身体を動かそうにもしっかりと椅子に括りつけられているせいで身動きが取れない。「ここまでする必要はないんじゃないか?」と問えば「リアリティが必要ネ」と全く縄をほどく気はないようだ。

「さあ、土方さん始めますよ」
「あの…一体なにを…?」

そよ姫が花が綻ぶような笑顔を向けるのに、なぜか悪寒がする。この笑顔は知っている。総悟だ。総悟と同じ物をそよ姫から感じている。逃げたい。士道不覚悟と言われようと、本能が今すぐ逃げろと言っている。この二人の少女から。

「マヨラ覚悟するヨロシ」
「拷問のお時間ですよ」

ごめん…近藤さん…俺は屯所に帰れそうにありません…





「それで、土方さんは銀さんのどこがお好きなんですか?」
「あいつの事は好きじゃないです」
「神楽ちゃん」
「らじゃー!」
「や、やめろっ!それはっ!うわあああああ!!」


目の前で栃木限定の餃子味マヨネーズが、何でも食べちゃう悪食なペットエイリアンの口へと一瞬にして飲み込まれていく。
ごくん、と喉が鳴る音がして空になった容器だけが残った。

「神楽ちゃん、次のご当地マヨリーンマヨネーズを」
「マヨラ、早く吐いて楽になっちまえヨ。そしたらマヨ食べ放題ネ」
「吐くも何も万事屋の事はきら」
「神楽ちゃん、やっちゃってください」
「ハイヨー」
「ぎゃああああああ!言う、言うからやめてくれ!!」

北海道限定のジンギスカン味マヨネーズが天人の口へ落ちていく。

「万事屋のす、好きなところ…は…………………」
「「好きなところは?」」
「だああああ!無理だ!こんなの言える訳が」
「神楽ちゃーん」
「りょ」
「やめろおおおおおおお!!万事屋の好きなところは!強ぇところと天パのクセに真っ直ぐな信念持ってるところ!!」
「聞きました??神楽ちゃん!」
「聞いたアル!」


沖縄限定ゴーヤ味マヨネーズは、ほんの少しだがどうにか守る事ができた。ほろ苦さとマヨネーズの酸味が程よくて美味い。さっきからマヨネーズを食べ続けているペットエイリアンも涙目になるほどに美味いのだ。やはりマヨネーズは森羅万象を司る、神の食材だ。

真選組副長である自分が拷問に屈するなどあってはならなかった。しかし、この拷問は自分が行ってきたどんな拷問よりもきついものだ。今度から自分も取り入れてみよう。
二人の少女は既に設定も忘れてキャッキャッとはしゃぎ、普通に名前で呼びあっている。
無邪気ほど恐ろしい物はない。だから、こんなマヨネーズを人質に取るという残忍な拷問が行えるのか。

「さて、次は…理想のデートでいきましょう!」
「えっ、まだ続くんですか…?」
「口答えするならこうアル」

目の前でペットエイリアンの口の上に、高知限定かつおのたたき味マヨネーズが構えられる。

「言う!言うから!!理想のデート…デートは…………」
「ぶー!時間切れネ」
「うわやめろっ!やめてくださいお願いしますうううううう!!!」


*****



「ここだな、待ってろよ土方…!」

指定の場所に着くとベスパを念のため見つからないように隠す。少し離れた所に大きな門があり、見張りが二人居るようだった。
案内人が来るまでは迂闊には動けない。暫く様子を伺っていると、それらしき人物に「銀時さまでいらっしゃいますか?」と声をかけられた。
犯人グループにしては物腰が柔らかいが、それが狙いかもしれないし、もしくは巻き込まれた一般人か。だが、今は情報が少なすぎる。案内人に着いていく以外に土方を救う方法はない。


「こちらにあなたの探しておられる方がいらっしゃいます」

小さな小屋のような所に案内された。小屋の扉には不釣り合いな大きな鍵がかけられている。鍵を開けると「私はこれで」と案内人は姿を消してしまった。
手で押すと扉は簡単に開いた。重いアタッシュケースを持ち直す。汗で手が滑ってしまいそうだった。
罠があるかもしれないし、今は丸腰だ。いざとなれば素手でも戦えるが、相手の人数にもよるし土方を連れて逃げるとなれば心許ない。

奥へと進むと地下へ続く階段があった。慎重に降りていく。土方は無事だろうか。

「やめろっ…!それ以上は…!やめてくれっ…!言う!言うから!!」
「土方!」

土方の叫ぶ声が聞こえると一気に階段をかけ降りた。

「早くしないと、幻の限定プレミアムマヨリーンマヨネーズが食べられちゃいますよ~」
「マヨラ、今さら何を躊躇うアルか?銀ちゃんとお前が好き同士なのは分かってるネ。さっさと告白して、ズッコンバッコンすればいいヨ」
「ズッコ…!お、おいチャイナ!そんな言葉は女の子として…!」
「いつまでもガキ扱いしないで欲しいヨ。大人になれば誰でも分かる事ネ。お前がうちに来た日には姉御の家に行くから心配しなくていいアル」

そこには二人の少女と涙目でぐったりと疲れた様子の土方がいた。顔が赤くなっているのは何か盛られた可能性を考える。
少女らの傍らに居るのはエイリアンだろうか?口の上になぜかマヨネーズが構えられている。

「おい、要求されてた物を持ってきた。土方を解放しろ」
「やっと来たアルか」
「お待ちしてましたよ」
「え、神楽?」
「神楽じゃないネ!チャイナ13アルよ!」
「私はプリンセス13です」

今さらではないかとも思ったが、その設定は大事だったらしい。何もなかったかのように二人はそう名乗りを上げた。

「万事屋!さっさとこの茶番を…!」
「おっと、これ以上喋ったらどうなるか分かってるアルな?」
「ぐっ…!」

構えていたマヨネーズをぎゅっと絞ると、エイリアンの口へと落ちていく。心なしかエイリアンは顔色が悪いように見える。

「万事屋さん。土方さんを解放してほしければ、私たちの要求に従ってください」

プリンセス13と名乗った少女から圧を感じる。年端もいかぬ少女のはずだが、なぜか支配者のような物を感じた。

「何をすればいい…?」
「そのアタッシュケースを開けて、中身を出すヨロシ」

犯人たちは土方に何をするかわからない。あの土方が大人しく従っているのだ、とんでもない拷問か人質でも取られているかもしれず大人しく従う事にした。言われた通りにアタッシュケースを下に置き開ける。

「は…?」

ずっと金が入っていると思っていたそこには、小さな花束と赤いベロアの小さな箱がと重しが入っているだけだった。

(もしかして、ゴリラ渡す物を間違えやがったのか!?おいどうするんだよ土方が助けられねぇじゃねぇか!連絡も取れねぇし、どうにか誤魔化すしかねぇか…!?)

冷や汗がダラダラと流れる。修羅場はそれなりに潜り抜けてきたし、口にも自信がある。しかし、二対一で土方が人質に取られている。下手をすれば、最悪の結果を招いてしまう。

「では、万事屋さん。中身を取り出してください」
「いや、なんか中身?間違えちゃったみたいで。取りに帰ってきてもいいっすか?」
「中身を取り出してください」

にこり、と笑うがその笑みは有無を言わせない圧があった。どうにも誤魔化し切れぬと諦めて、素直に花束と箱を取り出した。
さて、どう出るか。ごくりと唾を飲み込んだ。

「問題ないアルな。私たちの要求は…」
「この場で、土方さんに愛の告白をしてください!!」

聞き間違いだろうか。今、愛の告白と聞こえた気がする。土方も理解が追い付かないようで、ポカンとしている。

「銀ちゃん!いい加減、マヨラに告白するヨロシ!」
「そうですよ!どれだけの人間があなたたちにヤキモキしてると思ってるんですか!?」

間違いではなかったようだ。
銀時は改めて思い返してみる。服装は紋付き袴。持ち物は花束と箱。そういえば中身は見ていなかったと箱を開けてみた。銀色のペアリングが並んでいる。

「え、まさか、これ…?」
「さっさと決めろこのマダオ!」
「大丈夫ですよ!自信持ってください!」
「いや、でもね、こういうのはね、ほら、ちゃんと手順を踏んでだな…」
「早くしないとマヨラが酷い目に合うヨ」
「あああああ!!やめろっ!プレミアムマヨが!!!」

残り半分程になっていたマヨネーズが更に減っていく。エイリアンはプルプル震えて泣いているようにも見えた。
土方が目の前で苦しんでいるというのに、自分は小さなプライドで言うべき言葉を言い淀んでいる。たった一言告げれば、土方を助ける事が出来るのだ。

一つ深呼吸をして覚悟を決めた。
その場に片膝を付き半ばヤケクソ気味ではあったが叫ぶ。

「土方くん!俺は土方くんの事が好きです!!俺と結婚してください!!」

一世一代の告白に二人の少女は瞳を輝かせている。一方の土方は混乱状態にあるようだった。

「ほら、マヨラ返事するネ!」
「へ、返事…?」
「そうですよ!さあ、早く!」
「いや、え、でも、き、急にい、いいい言われてももも…?」

キャパオーバーの土方はどう答えればいいか分からなくなっていた。顔を真っ赤にして、慌てる姿に答えはどう考えても一つしかない。

「マヨラも覚悟決めるヨロシ!」

いつまでたっても返事をしようとしない土方に痺れを切らした、チャイナ13がマヨネーズに手を掛けた。

「わわわわ分かった!ふ、ふつつかものてすがよろしくお願いします!!」

土方もヤケクソのように叫ぶ。


♪エンダアアアアアアアアーーーー!!

「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「やっとくっつきやがったか。死ねよ土方」
「トシー!よかったなー!!」

告白が成立した瞬間、どこからともなく音楽が流れさらには新八や近藤たちまで現れ皆口々に祝福をした。
少女二人は満足気に微笑み、目尻にはうっすらと涙が浮かぶ。


エイリアンはマヨネーズが絞られないと分かると、安堵したのかその場に倒れていった。


*****



「それでは、トシと万事屋の結婚を祝して、カンパーーイ!!」

江戸城の大広間。代表して近藤が乾杯の音頭を取る。まだ酒が入っていないからか、全裸にはなっていない。
主役二人は上座に並んで座らされていた。宴会に参加している者たちとは対照的に二人ともゲッソリとした顔をしていた。
突然誘拐されたかと思えば、結婚が決まってしまった。実感もないし、喜んでいいのかどうかわからない。それが二人の正直な感想だった。

「それじゃあ、上映会始めましょうか。急ぎで編集して貰ったんです!」
「見たいアル!」
「すげぇ、いいもん撮れたんで期待しててくだせぇ」

上映会?撮れた?一体なんの事だと主役二人の頭にはハテナが浮かぶ。だが、参加者たちはワクワクとしている。
巨大なスクリーンが用意され、映像が映し出された。

そこには今日の二人の様子がしっかり納められているではないか。それを見て固まる主役二人を差し置いて、参加者たちは楽しそうに見ている。

「「やめろおおおおお!!」」

我に帰った二人は、ケーキ入刀のごとく同時にプロジェクターを破壊する。

「まあ、初めての共同作業ですね!」
「「違うわ!!」」
「息もピッタリですね!」

何をどう見ればこれが共同作業に見えるんだろうか。そういう英才教育でも受けてきたのこのこの子。

「お前ら、絶対他のやつらには漏らすなよ…」
「えーダメアルか?」

銀時が白夜叉のごとくギロリと睨む。

「喋ったヤツ、切腹な。とりあえず山崎介錯してやらぁ」
「なんで俺だけ!?」

土方も鬼の副長の顔をして凄む。

「え、でももう江戸中に号外配っちゃいましたよ」

鬼二人の圧を物ともしないそよ姫が笑顔で恐ろしい事を告げた。

「「マジで?」」
「マジです」

もう一度にっこりと笑う。ここに最強のドSが居た。

「マジでやめて!嘘だと言ってくれ!お願い300円あげるからああああ!!」
「万事屋!!全部回収に行くぞ!!」

恐ろしい早さで二人は江戸の町へと駆け出していった。
嫌だ、嫌だと言いながらも二人の薬指にはしっかりと銀色の指輪が輝いている。


1/1ページ
    スキ