推しシチュ(高土)

「土方、こっち終わったぞ」
「ああ、こっちも片付いた」
「タバコ」
「ほらよ」
「副長たち、一服してないで手伝ってくださいよー!」



江戸を守る真選組の副長は二人いる。
一人は知将と名高い土方十四郎。
もう一人は鬼神とも呼ばれる高杉晋助の二人だ。
見目もよく仕事もできて地位もある。町娘たちの視線を奪い人気を二分する程と言っても過言ではない。
そんな二人が話題の登るのは決まって恋のお相手である。どうやら最近、二人ともが憂いを帯びたような表情を見せるという。定食屋や団子屋、居酒屋などで見かけるのだが、ふとした瞬間にため息を吐きどこか思い詰めたような顔をする。
またその顔が良いと町娘や町人たちは黄色い声を上げ、あれはきっと恋煩いだと噂するのだ。



「土方、飲みに行かねぇか?」
「ああいいな。二十時からなら出られる」

着流しに着替えた高杉がまだ制服を着たままの土方に声をかけた。書類は粗方終わっているようだから、何事もなければ予定通り飲みに出られるだろう。
高杉は土方を好いていた。友情ではなく、恋愛感情の類いだ。抱きたい、とさえ思っている。本来はノーマルだし男色の気などなかった。それどころか、田舎から出てきた土方を下に見ていたし、突っかかってくるのが正直煩わしかった。だが、その真っ直ぐさや物怖じせずに向かってくる姿に少しずつ絆され気がつけば好きになってしまっていた。
好きになったなら口説けばいい。だが、高杉はまともな恋愛などした事がなく口説き方など知りもしない。女は向こうから勝手に近付いてきたから困りはしなかった。勝手に離れていかれても胸なんて痛みはしなかった。
それがどうだ。相手が土方になった途端になんと誘えばいいか分からない。普通に誘えばいいのだろうが、普通とはいったい何なのか。離れてしまうのが嫌で「好き」の一言さえも言えないでいる。
今日だって、飲みに誘うのに一時間もかかった。仕事の話ならいくらでも出来るのに、それ以外の話となると心臓がバクバクと煩い程に跳ねるのだ。
一緒に飲めるのは嬉しいが、いつも会話など一切覚えておらず翌日は頭を抱えてため息を吐いている。景気付けに早いペースで酒を飲んでしまうせいだろうが、酒がなければ土方と話す事さえままならない。
今日こそはこの関係を進めたい、はあと一つ高杉は大きく息を吐いた。



高杉が去った後、土方大きく息を吐いた。
飲みに誘われたのが嬉しくて心臓の音が聞こえていないかと心配になった程だ。土方は高杉を好いていた。友情ではなく、恋愛感情の類いだ。うっかり抱かれてもいい…かもしれない、なんて事まで思ってしまった。初恋の相手は女性だったし、男色の気はなかった。それどころか、いい所の出なのを鼻にかけたような態度や小馬鹿にするような態度が気にくわなかった。だが、少々ひねくれているだけで性根は優しく、さらにその強さに惹かれ気がつけば好きになってしまっていた。
好きになったなら、告白でもすればいい。だが人を好きになったのは初恋以来だ。その恋でさえ自ら遠ざけてしまった。今回もそうしようと思っていたのに、日に日にその想いは募っていく。「好き」と一言でも言えばいいのに嫌われるのが怖くて言えないままでいる。
二十時と言ったが本当はもう仕事は終わっているのだ。それ以外の話となると心臓がバクバクと煩い程に跳ねるのだ。
一緒に飲めるのは嬉しいが、いつも会話など一切覚えておらず翌日は頭を抱えてため息を吐いている。景気付けに早いペースで酒を飲んでしまうせいだろうが、酒がなければ高杉と話す事さえままならない。
二十時まであと約三十分。さてどうしたものかと土方はもう一度大きく息を吐いた。


そうして翌日、憂いを帯びた副長二人を見かけた町娘や町人は口々に言うのだ。「あれは恋煩いね。早くくっついてしまえばいいのに」と。
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