俺の知ってる銀土と違う!
俺は土方に惚れている。
なんとしても銀土したい所だが、いかんせんまだ告白すらしていない。というか嫌われてるか興味がない、に近いかもしれない。
さて、ここで取り出したのは何でも願望が本当になってしまうという一冊の黒いノート。とりあえず、GHノートとでも名付けようか。
毎度お馴染みの天人ご都合アイテムだ。
入手経路は、辰馬か総一郎くんか天人のなんやかんやなのでここは割愛する。だいたいこの3択なのみんな知ってるでしょ。
それで、だ。このノートに俺と土方がお付き合いするという風に書けば、あら不思議。あっという間にラブラブな銀土が爆誕するのだ。
悲しくないかって?うるせぇな。こうでもしねぇと銀土できねぇんだよ!悪いか!土方からの俺への好意なんて欠片もねぇんだよ!
目が合ったら逸らされる。居酒屋で会えば嫌な顔をされる。道端で会えば秒で喧嘩。ちょっと優しくしようとすれば疑いの眼差しを向けてくる。あげく「金なら貸さねぇぞ」ときた。
ほら!!脈ねぇじゃんか!!脈は止められそうになった事はあるのに!!!
うぅ…なんか悲しくなってきたな…Sは打たれ弱いんだから思い出させるなよ。
だが、俺も世間一般にあるような銀土がしたい。ラブラブしたい。ちゅっちゅっしたい。ここじゃ書けない大人のあれやこれやもしたい。したいったらしたい。
なので、もうこのノートに頼るしかないのだ。ありがとう天人様。さようならプライド。
さて、ノートに書き込んで…と。
よし、これで明日から銀土だ。どんな内容を書いても銀土に転がっていく。全てが……銀土になるのだ…!
case.1 俺の知ってる告白と違う!!
翌朝、珍しく朝早くに目が覚めた。
時計はまだ7時。二度寝しようとしたが、今日から銀土になると思い出して興奮して眠れなかった。銀さんの銀さんも起きていた。朝から元気ね。本番の時もその調子で頼む。
朝食を作り、神楽を起こす。神楽は半分寝ながらも朝飯をしっかり食べる。俺はブラック星座占いをチェック。結野アナが「全て思い通りに上手くいくでしょう」と言っているから成功は間違いないだろう。神楽が全部食べきった所で目が覚めて「銀ちゃん朝ごはんは?」と言った。
それから新八が来て、掃除を始める。
俺はジャンプをソファに横になって読む。神楽は友達と約束があるからと、出掛けて行った。
さて、依頼は全く入っていないのでこれからどうするか。
とりあえず、外に出て巡回中の土方に出会うパターン。もしくは、夜に飲みに出て居酒屋で土方に会うパターン。
まず、前者だが通常なら口喧嘩が始まる所を今日は「飲みに行かねぇ?」と誘う。最初は断るがしつこく食い下がると、土方は「19時なら」って感じでOKを出す。この時の土方は内心俺からのお誘いに喜んでいる訳だ。実は俺の事が好きでずっと片想いだった土方は「まさか万事屋が…」ってドキドキしながら屯所に帰るの。そして居酒屋で飲んで俺が告白すれば顔を赤くしながら頷く。でも「酔ってるからじゃないか?」って不安もあって…悩んじゃうんだよ。でも、俺が「本気だから」って伝えて熱い情熱的なキッスをして、あわよくばホテルに行くというプラン。
後者は、土方が飲んでる所に俺が隣の席に座るの。「なんで隣に座るんだよ」ってウザがるけど、土方は俺に片想いしているから内心ドキドキしてる。「今日は万事屋会えた」って喜んでんの。可愛いよね。まぁ、そこからは大体同じような流れだな。
別パターンとして、お互い酔っぱらって気が付いたらラブホで身体から始まる…ってのも王道ではあるが場合によりセフレ両片想いや他の誰かに重ねて抱いてるパターンなどに分岐する可能性があるので、注意が必要だ。最終的には俺の愛の力で両思いになったり、誤解が解けるがこのパターンは中々大変なので避けておきたい。
俺は最初からハッピーでいたいの。ハピエン主義だから。バドエンとか地雷ね!!ハピエンしか勝たん。
「銀さん、何ニヤニヤしてるんですか気持ち悪い」
新八のゴミを見るような視線。俺の天パは綿埃だとでも思ってんのか。
「違いますぅ。銀さんはいつでも爽やかスマイルですぅ〜」
「というか、もう1週間も仕事ないんですよ!?暇なら仕事取ってこいやクソ天パアアアア!!!」
フルスイングのホウキで玄関まで吹っ飛ばすなんて、新八…お前も強くなったな。
強制的にではあるが外に出る事になったので、土方を探すついでに仕事を探してくるとする。どちらも見つからなければ銀の玉かお馬さんで増やせばいい。
「土方ー!」
いたいた。1人という事は総一郎くんに逃げれた、って所だろうか。ちょっとイライラしてるもんね。でも、飲みの誘いをするなら好都合。イジられたら恥ずかしもんね。大丈夫、銀土は履修済みなのでその辺りの心理も完璧なので。
「万事屋?」
クルリと振り返る。その眉間にはシワが寄せられている。
「なぁ、飲みに行きてぇんだけどさ。今日の夜開いてる?」
さぁ、どうでる?断った所で必ず銀土になるんだよお前は!!
今ごろ脳内は「万事屋に飲みに誘われた!!嬉しい!!」って全力でランバダ踊ってる頃か?
「19時なら行ける」
「じゃあ、タバコ屋の角の焼き鳥屋でどうだ?」
「おう」
それだけ言って、再び背を向けて土方は去って行った。ポーカーフェイスが上手いのか、表情はいつもの無愛想な面。だが、俺は知っている。お前は今、めちゃくちゃ嬉しいんだろ?顔が赤くなってないかとか、いつも通りに振る舞えたか、とか思ってんだろ?
うんうん。知ってる。進研◯ミくらいには予習してるから。
ああでも、あのノートの力は本物らしい。
いつもなら、声を掛ければ睨まれるし、話せたとしても、飲みの誘いは断られていた。
それがノートに書いただけで、トントン拍子に飲みの約束が出来た。あとは飲みの席で告白すればいい。どんな告白をしても銀土が成立するんだから、こんな気が楽な事はない。
さて、19時までどうするかな。あそこのパチンコ屋、新台入ってんじゃねぇか!景気付けに一発当てますか!
※※※※※
約束の5分前に焼き鳥屋の前にやって来た。
後は土方が来るのを待つだけだ。必ず成功する告白だから、全く緊張しない。「付き合ってください」でも「股を開いてください」でも銀土になるんだから、何も心配する事はない。
それに、パチンコが大勝して懐はホックホク。食料を買っても、今日の飲みで奢れるくらいには余裕がある。一度くらいは奢っておかないとね。彼氏(確定)として。
「よお。待たせたか」
「いんや。さっき来たとこ」
19時きっかりに土方は現れた。5分前には着いてたけど、時間通りな訳だし仮に30分待っていても「さっき来た」と言うのがセオリーだ。
「いらっしゃい、銀さん。一番奥取ってるよ」
「ありがとよ」
いつもならカウンターなのだが、大事な告白+恥ずかしがり屋の土方の事を考えると個室がいい。
あの後電話して、一番奥の個室を予約しておいた。
「個室なんて珍しいな」
「たまには、周りを気にせずゆっくり飲みてぇだろ」
「お前にしちゃあ気が効くな」
褒めてんのか、貶してんのかと言われたら後者だな。確実に。
席に付くと、すぐに店員の女の子が温かいおしぼりとお通しを持って来てくれた。キャベツの塩ダレはシンプルだが、美味いしお代わり自由だから非常にお世話になっている。
とりあえず、生を2つ頼む。つまみはメニューを開きながらゆっくり考えるとしよう。
程なくして生を持って来てくれた女の子に注文を伝える。串の盛り合わせにだし巻き玉子、フライドポテトと枝豆。「フライドポテトぉ?」と土方にちょっと変な顔をされたが「食べたかったんだからいいだろ」と言い返す。
酒も入り、料理も美味い。マヨをかけても誰も咎めないから、土方の機嫌もいい。そろそろ話を切り出してもいい頃合いか。酔い過ぎると、酒に酔った勢いと勘違いされても困るし。
「あのよ…実はお前にずっと言いたかった事があってよ…」
「ん?そうか、奇遇だな。俺もお前に言いたい事がある。万事屋、お前の事が好きだ。付き合ってくれ」
「え…あ、はい??」
「まぁ、戸惑うのも無理はねぇ。一応言っておくが、ライクじゃなくてラブの方だ。ああ、返事は今すくじゃなくていい」
「ひ、土方が俺の事が好き…?」
あれ?なんだか、予想してたのと違わないか…?
「そうだ」
「え?あれ、それは俺が言うはず…?」
「それは、つまりお前も俺に告白するつもりだった、って事か?」
「え、あ、ああうん」
「よし!なら、俺達は今から晴れて恋人同士ってやつだな!これからよろしく頼むぞ、銀時」
あれ、待ってなにこの展開。
さらっと名前で呼ばれなかった今?
名前を呼ぶの恥ずかしくて中々呼べないやつじゃないの?何度もお願いしてやっと言ってくれるか、嫌だって言われるか、ベッドの上で言わせる、とかじゃないの?違うの?
で、結局そのまま。
何がなんだか分からないまま酒を飲み。
何がなんだか分からないまま万事屋へ送られ。
何がなんだか分からないまま布団に入った。
ねぇ。俺、告白されたの?それでOKされたってことでいいの?
「付き合ってくれ」と言われて、連絡先も教えて貰った。チューとかそういうのはなかったけど。
もっと告白ってドキドキするもんじゃなかっただろうか。
例えば「今言えばフラれても酒のせいに出来る」「この気持ちは墓場まで持っていくつもりだった」「好きと言ったら気持ち悪がられるだろうか」とかさあるじゃない。
一切、迷いとか感じなかったね。あっさり塩味だったね。マッハで駆け抜けて行ったよ。見えなかったもん告白。
ジャンプでももっといい告白とかあったあっでしょ!マガジンか?マガジンはそういう告白なのか!?
ああああもうなんだともかく。
俺の知ってる告白となんか違う!!
case.2 俺の知ってる日常と違う!!
個人的には告白と呼びたくない告白から、恋人になりお付き合いを始めた。
お付き合いは順調。非常に順調。それはもう、怖いくらいに順調そのものである。
『今日、19時に行く』
ピコン♪と音がして、手元のスマホに土方からのメッセージが表示されていた。『わかった』と返せば、すぐにマヨリーンのスタンプが現れる。土方に連絡用にと持たされたスマホ。気付けば二人だけないのはと、新八と神楽にも渡されていた。
ちなみに、お付き合いしているといのは告白の翌日には二人に土方から報告された。秘密にするかどうか考える間もなく。当然、ゴリラと総一郎くんとジミーにも伝わっていた。
慌てる俺に「隠すとややこしくなるだろ」と平然と言い放ち、そのまた翌日にはゴリラ達に挨拶にまで行っている。
予定の共有できるアプリでお互いの休みの日もしっかり把握。たまには一人がいいとかもあるから、毎回という訳ではないが基本的には土方の非番の日には二人で会う事が多い。
職業柄、急に仕事になってキャンセルされる事もあるがそこでもスマホが大活躍。迅速に連絡が来て、次の週には代休になってデートしてる。
予定に遅れてくる事もないし、さして重要でなければある程度仕事の予定も教えてくれる。
驚く程にすれ違わない。
報連相完璧すぎるよ土方くん…さすが副長だよ…
すれ違いたい訳じゃないけど、非番教えてくれないとか、デートの約束が延びて延びて延びて、愛情を疑ったり、浮気を疑ったり…みたいなの全くないね。銀土ってこういうのなかったっけ?
したい訳じゃないよ?そういう訳じゃなよ?
すげぇありがたいです。予定共有のおかげで、依頼がないと仕事回してくれるし家賃もお給料もお支払させて頂いております。ありがとうございます。
ただGPSで居場所が即バレするので、銀の玉にもお馬さんにも行けなくなりました…文句なんてないです。土方様々です。もう足向けて眠れません。
あとね、疲れた土方を一切見たことない。
ストレスでイライラしてる事は何度か見たことあるけど、何日か後には攘夷浪士切ってスッキリしてる。
疲れて隈が出来てる所なんて見たことねぇよ。
一度だけ「残業ねぇの?」って聞いたら「ほとんどねぇな」って返ってきた。
なのでお疲れ度MAXの土方を銀さんが癒す、ってイベントが起きません。
何度か副長室に行ってみたが、銀土でよくあるような山のような書類はない。聞けば事務方を入れるようになったらしい。さらに、隊長格も書類が捌けるように研修を受け、後進を育てるためにも、土方に仕事が集中しないようにしたというのだ。
怪我で刀が握れなくなったが、残りたい者や刀や体力に自信はないが頭が切れる者を中心に事務方にした。書類仕事は嫌だと嘆いた隊長格も、研修でやり方を覚えると苦戦しながらも少しずつ出来るようになっていった。そして、土方本人は仕事をそれぞれに配分する事で人材を育てる事を始めた。
なので、土方に回ってきていた書類は徐々に少なくなっていった。仕事を増やすツートップ、ゴリラと総一郎くんが頼みの綱ではあるのだが…
ゴリラはお妙が「仕事が出来る男はかっこいい」と言ったのを聞いて以来、バリバリ仕事をこなしているらしい。ストーカー頻度が減ったが、ゴリラの給与が上がった為に売上が上がって喜んでいるらしい。総一郎くんはというと。
「総悟は天才肌だしな。やる気はねぇが、コツを掴めば早いし抜け道を見付けるのも得意だからな」
書類の書き方を一通り教えれば、飲み込みも早く一番早く覚えてしまったらしい。殆どが始末書というのもあるが、少しでもサボる為にさっさと書類を終わらせてしまうのだという。
得意の破壊活動も最近は鳴りを潜めているらしい。少し前まで元気よく破壊していたが、破壊した場所に手配中の攘夷浪士が潜伏していたから始まり、強盗がいたり、しゃっくりが治ったり、家が跡形もなくなったが宝くじが当たって豪邸を建てたとか。
いつしか総一郎くんに破壊されると幸運が訪れると噂になり、逆に「破壊してくれ!」と言われるようになった。それがつまらなくて大人しくしているようだった。必然的に始末書も減り、土方の仕事も減った。
そんなんだから、延々と仕事が終わらずに残業、なんて事はなく遅くともデートの5分前には着いている。
大きな怪我で入院もなく、怪我をしても2,3日経てば元気いっぱいに攘夷浪士相手に暴れ回っている。
あとは病気の類い…と思ったのだが、今や屯所には管理栄養士が居て、栄養面も完璧に管理されている。おかげで、小姓の鉄が少しスリムになっているという。鍛練のためのパーソナルトレーナーも居て、一人一人にアドバイスも行われている。カウンセラーも配備でメンタルケアや相談も行える。
土方はおろか、隊士達もみんな超が付く程に健康。
職務内容はキツイくとも、働き方改革により基本的に残業は少なくなり公務員なので給与も安定しているので、今や真選組は子供のなりたい職業ランキングに入るようになっていたのだった。
さらに土方を癒したいイベントに追い討ちをかけるような出来事があった。
土方が万事屋に来るという日に、朝から依頼が入ってしまった。断ろとも思ったが、急ぎだったようでさらに大口の常連客。新八と神楽にこの太客は絶対に逃がすな!とまで言われた。
泣く泣く土方に、依頼が入ったという連絡をした。
朝から働いてようやく依頼が終わった頃には、とっくに日が暮れていた。
依頼料はかなりの額になったが、3人とも身体は疲れているし、腹もぐぅぐぅ鳴り響いている。それにこんな時間では土方と会うのは難しいだろう。自分だけでなく、新八も神楽も土方が来るのを楽しみにしていた。
どこかで食べて行こうかと思ったが店に入る元気も残っていない。万事屋に帰っても自炊する気力はないが、買い置きのカップ麺はあったはずだ。もしくは、ババアかたまに頼んで飯でも作って貰えばいい。
ヨロヨロとしながら歩いていると万事屋から明かりが漏れている事に気が付いた。
急な依頼でバタバタしていたから、電気を消し忘れて来たのだろうか。
電気代が勿体ないが、誰もそれをツッコめるだけの体力は残っていなかった。
スナックに着いたが間の悪い事に入り口には『本日貸し切り』の文字が。中からは賑やかな声が聞こえてくる。これでは、飯を作って貰えば貰う事はできない。仕方ないが、カップ麺で我慢しようと階段を登りかけた時だった。
「おかえり」
頭上から声がした。
見上げて見れば、逆光で顔はよく見えないが立ち姿とその声は明らかに土方のものだった。
「土方!?」
「おう。お疲れさん」
恋人が微笑んで軽く手を振ってくれて、元気が出ない訳がない。階段一段飛ばしで登りきる。
「お前、もしかして待っててくれたの!?」
「する事もなかったしな。勝手に邪魔させて貰った」
土方の手には万事屋の合鍵が。初めて合鍵を使って、尚且つ帰りを待っていてくれたなんて感動するレベルだ。
ようやく追い付いた新八と神楽と一緒に中に入ると、さらに驚く事になった。
「これ、土方が!?」
応接室のテーブルにはラップをかけられた料理が並んでいた。筑前煮や白和えに焼き魚と漬け物。
明らかに出前ではなく、手作りのように見える。
「暇だったから台所借りたぞ。もう少しで帰るつもりでラップだけかけといたんだ。温め直すからちょっと待ってろ」
3人をソファに座らせ、手際よく冷めてしまった料理を台所へと持っていく。
「銀さん…!あの、気のせいかもしれないんですけど、部屋すっごく綺麗じゃありません!?」
新八の一言に部屋を見渡せば、出て来た時よりも綺麗になっている気がする。床も綺麗に磨かれているし、試しに廊下に出ても同じだった。そのまま、トイレと風呂を覗くが綺麗に掃除されている。切れかけていたトイレットペーパーまで補充されていた。
「わんっ!」
「定春!綺麗にして貰ったアルな!」
部屋の隅で眠っていた定春が起き出して、神楽に寄ると見てと言わんばかりに整えられた毛並みを見せてくる。
ほんのりシャンプーの香りがする。ブラッシングだけでなく、シャンプーまでしてくれたようだ。
「待たせて悪ぃな。たいしたもんじゃねぇが食ってくれ」
応接室に戻ってきた土方が温め直した料理をそれぞれに配膳していく。味噌汁まであったようで、味噌のいい香りがすると3人同時に腹が鳴った。
「「「いただきます!」」」
それぞれが料理を一口食べて、ピタリと動きが止まった。
なんだこれ。なんなんだこれは。やばいこれはまじでやばいくらいに……
「美味えええええええ!!!」
「美味しいです!!!」
「美味しいアル!!!」
3人とも口を揃えて「美味い」と叫ぶ。
そこからはがっつくように食べ進める。いつも、神楽に「もう少し綺麗に食え」と言っていたが、今は頭の片隅に追いやる事にした。
食欲に少し引いていた土方だったが「おかわり沢山あるからな」となくなった側から、新しい料理を出してくれてわんこ蕎麦状態になっていた。
「「「ごちそうさまでした」」」
神楽の事も考えて多目に作ってくれていたが、空腹と料理の美味さもあって全て平らげてしまった。
「明日にも回せるように作ったのに…」と言いながらも、土方は満足そうにしている。
食後にはこれまた土方手作りのプリン。少し固めの流行りのやつで、ほろ苦いカラメルソースが美味い。
「土方さんって、料理も出来るんですね!よくされるんですか?」
「いや、殆どやったことはなかったんだが…」
土方には趣味らしい趣味があまりない。映画も観たい物がなければ、全く行かない。サウナばかりも飽きてきてしまう。非番に暇を持て余しなんとなく屯所内をフラフラしていたら、小腹が空いた。そこで食堂に寄ってみる事にした。3交代勤務だと、食事の時間もバラバラで何かしら食事の用意はしてある。定食でなくとも、余り物の白飯だけでもあればいい。そこで、食堂のおばちゃんに声をかけた。
「トシさん。暇なら料理してみたらどうだい?」
自分が料理?煮たり焼いたりなど簡単な物ならやった事はあるが、ちゃんと料理した事はない。
断ろうと考えているうちに、「それがいい!」「そうしなよ!」とおばちゃん達に囲まれ包丁を握らされていた。
刃物ならば、と思ったがこれが以外に難しい。猫の手?なんだそれ。大きさはバラバラだし、ネギは繋がっていたりする。厚かったり薄かったり。隣のおばちゃんは均等に切っているというのに。
負けず嫌いが発動して、かごに積まれていた野菜を上手く切れるようになるまで切りまくった。
「トシさんありがとう助かったよ!」
「今日、お清ちゃんが休んじゃって人手が足りなくてさぁ!」
……どうやら上手く使われてしまったようだった。だが、普段世話になっているし手伝って喜ばれるなら嬉しい物だ。時間も潰せたし、ついでにマヨたっぷりのお握りを自分で握ってみた。形は悪いが、美味いと思う。
夕食の時間に食堂に向かう。飲みに出てもよかったが、自分が切った野菜はどうなるのかと気になってしまったのだ。
おばちゃん達に美味しく調理された料理の中に、不恰好な野菜が混じっていた。大きさもバラバラだし、ネギは繋がっている。
「あ、これ繋がってる」
「お、本当だ。田舎のかーちゃんもさあ、よくネギが繋がってたわ」
「でも、美味いんだよなぁ。かーちゃんの飯も食堂のおばちゃん達の飯も」
あぁなんだかくすぐったい。知ってるか、そのネギは俺が切ったんだ。人参と玉葱とじゃがいもと。ただ切っただけなのに、美味しそうに食べてくれるのはこんなにも嬉しいのか。
その日からすっかり料理にはまってしまい、おばちゃん達に弟子入り。好きな物はとこんとん、ひたすらな質と元々才能があったのかは分からないが、あれよあれよと言う間にプロ並みの腕前になった。おばちゃん達は副長とはいえ、息子のような存在が成長した事に感動し泣いた程だ。
始めは自分用に賄いを作っていたが、それがいつの間にか「副長の作る飯が死ぬ程美味い」と隊士の中で広まった。
台所に立つのは気まぐれだから、それに遭遇した隊士は強運の持ち主だ。作る量も多くて2,3人分なので争奪戦が起こる。その様子に怒鳴ったり呆れたりしながらも、嬉しい事には代わりなくさらに料理にのめり込んでしまったのだ。
「つー訳で、すっかり趣味みてぇになっちまってよ。つまらねぇ話して悪かったな」
「そんな事ないです!よかったら、僕にも教えて貰えませんか?」
「トシちゃんこれから毎日ご飯作ってヨ!」
「教えられる程じゃねぇけど俺でいいなら。まぁ、毎日は無理だがたまになら」
「ありがとうございます!」
「やったアル!」
※※※※※
そんな訳で「疲れた土方を癒したい」という願望は見事に打ち砕かれてしまった。どっちかっていうと、俺の方が癒されてる気がする。土方は俺の天パをモフモフするのが癒し、って言ってたけど定春をモフモフしてる時の方が幸せそうな顔をしていた。
そして、今日も土方手作りの料理を食べている。
「おかわりヨ!」
「僕もお願いします」
「沢山作ってるからしっかり食えよ。銀時は?」
こんなつもりじゃなかった。ご飯作り方作って癒して、胃袋掴んで俺の飯以外食えないようにしてやろうと思っていたのに。土方=不器用じゃねぇの?めちゃめちゃ器用なんだけど!
ああああもうくそなんでこんなに美味えんだよ!!
「おかわりで!!」
ご飯が美味しくて今日も幸せです。
でも、俺の思ってた日常となんか違う!!
case.3 俺の知ってる展開と違う!!
土方とのお付き合いは順風満帆、至って平和な幸せな毎日です。
が、そこに不穏の影が。土方が城に呼び出された。それも一人で。
この展開はまさかアレか。真選組の予算を増やしてやるから身体を差し出せとか、失態を帳消しにしてやるから身体を差し出せとか、そういうやつか!
「断れば真選組がどうなるかわかっているな?」って脅されて、土方は頷くしなく、幕臣に陵辱されている事をゴリラ達に悟られないよう振る舞うっていうやつだな!そして銀さんがその事に気がついて…
幕土もモブ土も出来れば避けたいけれど、お清めとかお仕置きもやもぶさかではない自分がいるのも確か。いや、ほんの少し、ほんの少ーーーーしだけだから!さきっぽだけ!お願い!
そして副長室に忍び込み土方の帰りを待つ俺。
土方どうか無事で…!いやでもお清めも捨てがた…
「あ"?ここで何してんだ万事屋?」
「土方…!大丈夫だった?何もされてない??」
夜遅くに心なしかぐったりした土方が帰ってきた。こんなにぐったりした土方は見た事がない。これは、やはりそうなのか!?
ガバッと土方の制服を左右に広げる。ボタンがブチブチ飛んでいったが、今は土方の身体の方が大事だ。
目の前には真っ白なきめ細やかな白い肌と、ピンク色の可愛らしい乳首。
「何しやがんだクソ天パアアアアア!!!」
そして、顔面に土方の右ストレートを受け、自分の鼻血で真っ赤に染まる視界。
※※※※※
「つまり、俺が幕臣のジジイどもにいいようにされて戻ってきたと思ったから、いきなり身ぐるみはいだって事でいいんだな?」
「はいそうです。すみませんごめんなさい。」
両鼻にティッシュを詰めて、正座させられました。
土方には何の問題もありませんでした。綺麗なピンク乳首でした。ありがとうございます。
「まぁ、心配されるような事はされてねぇよ…無事に予算回してくれそうだし、支援もすると言われたしな。ただ…」
「ただ?」
「何かよくわからないんだが、ファンクラブが出来た」
「はいぃ?」
※※※※※
登城した土方は大広間に案内された。
部屋に入ると幕臣の中でもかなりの権力を持つ顔ぶれがズラリと並んでいる。
最近は何もなかったはずだ。近藤さんのストーカーは落ち着いてるし、総悟もサボりはするが始末書の量は減っている。大きなテロもなく、失態もなかったはずだ。やはり予算を増やして欲しいと進言したのがまずかったのか。何を言われてもいいように、可能性を頭の中で探るがどれもピタリと来ない。
動揺を悟られないように身構える。
「土方くん。先日の真選組の予算の件だが。…実に残念だが幕府から君たちに割ける予算はないのだよ。だが、私たちには予算を増やす手立てがある。しかし、タダで…という訳には行かない。君の協力が必要だ。この意味が分かるかね…?」
幕臣がニヤリと口角を上げる。
何を要求してくるつもりだ。押収物の横流し、不都合な物を揉み消せだとかそういう事だろうか。膝の上で握った拳に力が入る。
「という訳で我々は君…じゃなかった君たちの後援会(ファンクラブ)を作ることにした!幕府から予算は回せない代わりにポケットマネー(お小遣い)で組を支援しよう!それに加えて、公式グッズを作りその売上を予算に回す。ああ、心配しなくても君はいつも通りに生活してくれればいい!ただ、たまに会報やグッズ制作に協力してくれたり、後援会に顔を出してくれるだけでいいから!」
「は…?」
聞き間違いじゃなければ、ファンクラブとかグッズとか聞こえたような気がする。
幕臣たちの羽織もいつの間にか真選組風の法被になっているような。
「どうだろうか!?悪い話じゃないと思うのだが!仕事には支障が出ないように配慮するから推させてくれないか!?」
興奮気味にまくし立て、他の幕臣がうんうんと頷いたり中には目を押さえて泣いている者まで居る。
「尊い…」ってなんだ?
「え、あ、はい」
「本当かね!?ありがとう!ありがとう!!」
気圧されて「はい」と答えてしまったが、よかったんだろうか。予算も支援もしてくれる、不利益は発生しない。こんな美味い話があっていいんだろうか。
「それではここに土方くん後援会(ファンクラブ)の発足を宣言する!後援会(ファンクラブ)法度第一条! 土方くんの許可がないかぎり土方くんに勝手に触れてはならない!第二条!一定の距離をとること!第三条!回りの人に迷惑をかけない!第四条!抜け駆けしない!繋がらない!ファンレターやプレゼントは後援会を通す!個人的に渡してはならない!」
この話を持ちかけてきた幕臣がリーダーということなのか、発足を宣言した後に法度を読み上げていく。他の幕臣たちもそれに習い復唱する。
何も見ずに読み上げるとか、もう完全に発足させる気満々だったじゃん。もう俺のファンクラブって完全に言っちゃってるし。
「土方くん!君が作った局中法度を参考にファンクラブでも後援会法度を作ってみたんだが、どうだろうか!?」
「あ、はい。いいと思います」
「それはよかった!それでは早速で申し訳ないのだが、これよりグッズ購入者限定の握手会を行いたいんだがいいだろうか」
もうグッズも作ってんじゃねぇか!なんだそのタオルにうちわ!法被だけじゃなかったのかよ!
もうこうなれば自棄だ。考えても無駄だと判断しさっさと終わらせて早く帰ろうと思いながら頷いた。
※※※※※
「で、その握手会を今までやっていたと」
「そういう事だ」
そのせいでいつも以上にぐったりしていたと。
ねぇ、ところで幕臣ってみんなお小遣い制なの?嫁には誰も勝てねぇの?世知辛ぇなオイ。
「本当は握手会だけの予定だったんだが、撮影会も始まって、ついでに会報誌の写真とインタビューもしたいって言われて」
「断ればよかったろ!」
「だって、予算増やしてくれるっていうし、それにマヨいっぱいくれたし」
なんでそこだけチョロ方なの!?その内えっちな写真とか撮られそうでめちゃめちゃ不安になってきた!
「まぁ、悪い話じゃねぇし、俺が耐えればいいだけの話だ。近藤さん達には黙っててくれねぇか…?」
この台詞使い方合ってるのかな!?間違ってるのかな!?
「でででででもよ!その内えっちな事を要求されたり、それをネタに脅されなりするんじゃねぇの!?」
「いや…たぶんそれはねぇと思う…俺がスカーフ取って上がシャツだけになったら何人か鼻血出して倒れたから」
幕臣はみんな童貞(新八)なのか!?お小遣い制のうえに全員新八かよおおおおおお!!
ヅラも高杉もテロしなくても幕府滅びるから!!
幕臣に新八しかいない幕府なんて滅びる以外ねぇから!!
「月に一回程度後援会があるから、分かったら予定いれとくな…わりぃ、なれねぇことしてつかれてんだ…おやす…み…」
気疲れと体力の限界に来たようで、念のため俺が引いておいた布団に倒れこみ、土方がそのまま安らかな寝息を立て始める。
なんだろうこの虚しくなるような感じ。
苦しくならないように、寝間着に着替えさせたけど全く起きないので余程疲れたらしい。
無事ならそれでいいか…と思いながら副長室の障子を閉めた。
※※※※※
お清め展開を期待していた訳ではないが、念のため覚悟を決めていたのになんという事だ。
その後、土方の後援会の会報誌を見せて貰ったが普通にアイドルなんかの会報誌だった。
後は攘夷浪士に拉致されて…っていう展開くらいか?拉致された先で暴力じゃ効果がないから、媚薬的な薬を投与されてだな…
そこに俺が颯爽と現れて助けるというやつだな。けど、薬のせいで身体が熱くて仕方がない土方は蕩けた目をしながら「ぎんときぃ…♡」と俺を求めて…
頼む!別にお清めとかお仕置きには興味なんてこれっぽっちもないけどー!
その瞬間、万事屋の電話がけたたましく鳴った。
「旦那!副長が何者かに連れ去られたようです…!」
ほらきたー!!すげぇなこのノート!!こんな事まで出来るのか!!
「わかった…!すぐに行く!!」
それだけ言って電話を切った。ベスパに乗り屯所に全速力で向かう。
※※※※※
「旦那、こちらが犯行声明です」
『貴様らの副長は預かった。返して欲しくば2時間以内に、捕らえられている我らの同士を全て開放しろ。それが出来なければ、副長の命はないと思え』
2時間なんていう無理難題な期限をふっかけて、始めから土方を無事に返すつもりなどないのだろう。おまけに、真選組の失態として世間の評価を落とす心積もりなのだろう。
「場所はわかんねぇのかよ?」
「既に特定済みです。かなり杜撰な計画のようで、あちこちに痕跡が残ってました」
広間に広げられた地図に×印が付けられている。
今は廃棄された雑居ビルでいかにもな場所である。
「なぁ、ゴリラ俺に行かせてくれねぇか?」
「そう言うと思っていた。俺達が突入するから、万事屋お前は別ルートからトシを救出してくれ」
付き合っているのを知っているし、同意してくれると思っていた。何としても、土方のエロエロな姿を俺以外に見せてなるものか!
※※※※※
爆音を合図に裏口から侵入する。
久しぶりに破壊できるとなって、総一郎くんの気合いは充分らしい。
土方が居るのは最上階。雑居ビルは単純な作りで、位置は全て頭に叩きこんである。
あまり広くないお陰で、あっという間に目的の扉の前にたどり着いた。
「土方返せコラアアアアア!!」
「呼んだか」
「へっ??」
勢いよく扉を蹴り開けると目の前には土方の姿。多少制服に汚れていたが、怪我もなくむしろ暴れたのか元気になっている気がする。
奥に目をやれば、縛り上げられた攘夷浪士が転がっている。
「えっ?土方、お前拉致られたんじゃ?」
「そうだが。相手が雑魚すぎて腹ごなしにもならなかった」
うん。やっぱり軽く暴れて返り討ちにしたらしい。
むしろ、暴れ足りずストレスがまだ発散しきれていないようだ。
「スマホ貸してくれ。コイツらに壊されちまって連絡出来なくてすまない」
「い、いやいいって事よ」
土方が電話をしている間に転がされてる攘夷浪士に近づいて胸ぐらを掴む。土方に聞こえないよう小声で問う。
「おい!なんで、土方ピンピンしてんだよ!痛めつけたりとかなかったのかよ!」
「その前にボコボコにされちまって…俺もう攘夷浪士辞める…」
「大人しくさせるために、媚薬使うとかあったろ!」
「兄ちゃん、媚薬なんてそんな便利なモンは現実に存在しないんだよ」
「えっ」
「そりゃあさ、ちょーーーっとばかりそんな気分になるらしいけど、所詮は気分だよ気分。漫画やAVみたいにはいかねぇよ」
「ええっ」
「そうそう。兄ちゃん、悪い事は言わねぇ。俺達がが言えた義理じゃねぇが、惚れた相手は真っ当に口説いた方がいい」
え、なんで俺攘夷浪士に諭されてんの?
というかね、これ二次創作だからねエロエロになる媚薬あっても許されるの!なんで、ここだけ現実的な話になるの!
※※※※※
攘夷浪士が真面目な?人達だったが為に真面目に諭された。因みに、みんな深く反省していたらしく、今は模範囚らしい。
媚薬的な展開を期待するなら、頼みの綱は高杉しかいない。好みの女が一緒だったから、土方も好みとかそういうやつでしょ!?
非常に腹立たしく、頼りたくなどないが背に腹は変えられない。頼むー!!高杉ー!!
「坂田さーん。郵便局ですー」
「ほらきた!」
このタイミング、絶対に「高杉が土方を拐いました」みたいな手紙だろ!
ほら見ろ!差出人の名前が書いてない辺り、怪しさ満点だろ!
『土方は美人だ。正直、好みでもある。お前とデキてなければモノにしていたろう。だが、人の情人を奪うような真似は、人の道を外れる許されない行為だ。例え、俺が許したとしても先生は許しちゃくれねぇだろう。それに、人妻やNTRはヅラの方が適任だ。
式が決まったら教えてくれ。プロデュースが必要なら、万斉にツテがあるからそっちに寄越すからいつで』
「お前ぇの席ねえからああああああああああ!!!」
手紙を左右に引き裂き、ありったけの怨念を込めてゴミ箱に叩きこむ。
なんで指名手配中の凶悪テロリストに説教くらってんだ!!人の道外れてるのお前!!つか、式に来るつもりなのかよ!!身長半分になれチビ杉!!
「ん?もう一通封筒があるな…」
『ヅラじゃない桂だ
P.S.式場の前でスタンバッてます』
「連携すんじゃねえええええええ!!!」
なんなのコイツら!!ねぇ!?バカなの!?
スマホを取り出して、履歴から電話番号をタップする。
「もしもし、土方?うん、ちょっと2つ程潰したい攘夷党があるんだけど」
なんだこれ!?俺の知ってる展開となんか違う!!
last case. 俺の知ってる銀土ってなんだっけ??
「銀さん、起きてください!もう時間ですよ!」
「うん?しんぱちぃ〜あと1時間…」
「あと1時間、じゃねぇんだよ!あんた主役なんだから、さっさとしろ!」
「ああ、主役ね。銀さんはジャンプの主人公だから何もしなくても主役だから」
「そうじゃねぇよ!!神楽ちゃん!」
「はいヨ!銀ちゃん、歯ぁ食いしばるネ!」
「へっ?えっ、やめっかぐギャアアアアアアア!!」
吹っ飛ばはれた先にはグレーのタキシードを着た土方が。イケメンは何を着てもイケメンなんだなぁ。
「お前なぁ、お色直しにどんだけかかってんだよ。どうせ寝てたんだろ?」
「は?お色直し?」
「寝ぼけてんのかよ?しっかりしろ」
なかなか起き上がらないでいると「仕方がないな」といった風に土方が手を差し出してくれた。
なぜかいつもより動きにくくて助かったと思いながら、土方の手を取ると自分の手には薄い水色の手袋が嵌められているではないか。
「さて、新郎が戻られた所で披露宴を再開させて頂きます」
えっ披露宴?聞き間違いじゃなければ、披露宴と言わなかったか?誰と誰の?
まさか…土方と俺…?
混乱したままひとまず席に着いて、辺りを見回す。
新八も神楽も正装だし、ババアは目にハンカチを当てて、ゴリラは鼻水流して泣いてるし、総一郎くんは一見退屈そうだが瞳はそうは言っていない。
どう考えても、俺と土方の披露宴だ。いつの間に結婚したの俺??
つうかなんでパー子?新郎なのになんでパー子なの俺!
「それでは、新郎のご友人を代表して桂様からご挨拶です」
ヅラてめぇなんで居るんだああああ!!??
よく見たら高杉も居るじゃねぇか!!
真選組何してんの!?大物の指名手配犯が二人も居るんだよ!?仕事しろ!!ゴリラ脱いでんじゃねぇ!!土方もヅラのスピーチで泣くな!つか、そこ泣く所!?
「それでは、新郎新婦にはご退場頂きこのままホテルへと向かって頂きます」
待って!!いつの間に終わったの!?というか披露宴からのホテル直行って色々とおかしいだろ!!
土方もおかしいと思うよな!?なんで赤くなってんの!?
「銀ちゃんさっさと覚悟決めて行くヨロシ」
「えっまってこの流れは…ギャアアアアアアア!!」
※※※※※
「はっ!ここは!?」
「気が付いたか?」
土方の心配そうな顔が見えた。どうやら気を失っていたらしい。フカフカのベッドに寝かされていた。
たぶんホテルのベッドだろう。少しだけ、神楽にフルスイングで殴られた尻が痛いがそれ以外は大丈夫そうだ。服もドレスからホテルの備え付けであろう、シンプルな浴衣に変わっていた。
よくよく考えれば、ホテルの式場で披露宴なんて普通だ。だから、ここも普通のホテルだと思った。
…ベッドに付いたやたら多いボタンを見るまでは。
装飾がやたら豪華だし、ガラス貼りなのはきっと浴室だろう。
まんま、ラブホじゃねえかああああああ!!
どこに、披露宴からラブホに直行する新婚がいるんだ!!うわあああ嫌だ、今頃他のやつらが何考えてるとか想像したくない。家はやっぱり万事屋なのか?え、嫌だ帰りなくない。年頃の女の子と童貞が居るんだぞ。どんな顔して帰ればいいんだよ。「昨日はお楽しみでしたね」とか言われるんだよ絶対。
とりあえずヅラと高杉は許さん。
「銀時?」
頭の中でヅラと高杉をシバキ上げる方法を考えていたら、再び土方に心配そうに声をかけられた。目を覚ましても何も喋らないから不安に思ったのか、少し泣きそうな顔をしていた。
「あぁ、悪ぃ…ちょっと混乱しちまってて…」
「調子悪いなら今日はもう寝るか?」
「いや、大丈夫。すっげぇ元気だから!」
「そうか…なら、いいんだ」
土方の言葉に引っ掛かりを感じる。いつもならズバズバ言ってくるのに、何か遠慮しているような気がする。まさか、別れようとか?実は偽装結婚でしたとか?全部ドッキリでした!とか?
全部ありえそうで怖い。まじでやめてここで全部嘘でした、なんて打たれ弱いドSには耐えられない。
「銀時…あのよ…疲れてるのは分かってんだけどよ…」
うわああああ思い詰めた顔してるよおおおお。
絶対に何かあるじゃん!!
「もう俺…我慢出来なくて…」
我慢!?足が臭いとか、俺の顔が見たくないとか!?早く保険金よこせとか!?
しかし予想に反して土方は浴衣の帯をほどく。
何?お前眠かったの?寝るの?いやでも帯ほどく必要ねぇか。
「なぁ…早く抱いてくれよ…俺をお前のオンナにしてくれねぇか…?」
ゆっくりと見せ付けるように浴衣を脱ぎ、少しずつ白い肌が露になる。まさか土方のストリップが見えるなんて…!
しかもノーパン!?ノーパンしゃぶしゃぶ天国ですかコノヤロー!!
これはまさしく銀土では!?スーパーアルティメット銀土タイムでは!?
ありがとう銀土の神様!!ありがとうGHノート!!!疑ってごめんよ、お前が神だ。
坂田銀時、男になりまあああああああああーーー
※※※※※
「あああああああ…あ?」
自分の声で目が覚めた。爆睡する神楽には聞こえてないと思うが恥ずかしい。でも、定春は起こしたかもしれない。おはようの挨拶代わりに噛まれる。
何かとてもいい夢を見ていた気がするし、そうでもない気がする。思い出したいけれど、思い出せない。あともうちょっとなんだけど、喉に魚の小骨が引っ掛かってるような感覚が気持ち悪い。
二度寝しようにも、眠気がどこかに行ってしまった。たまにはいいかとそのまま起きる事にした。
定春から挨拶させて頭から血を流しながら朝食を作った。爆睡している神楽を起こす。神楽は半分寝ながらも朝飯をしっかり食べる。俺はブラック星座占いをチェック。結野アナが「天パで根性のネジ曲がってるあなた!素直になるといい事があるでしょう」と言っていた。神楽が全部食べきった所で目が覚めて「銀ちゃん朝ごはんは?」と言った。
それから新八が来て、掃除を始める。
俺はジャンプをソファに横になって読む。神楽は友達と約束があるからと、出掛けて行った。
さて、依頼は全く入っていないのでこれからどうするか。
特にする事もないので、鼻をほじっていたら「仕事を探してこい!!」と万事屋から蹴り出された。
痛む尻を擦りながらとりあえずブラブラと歩いてみる。尻をフルスイングぐでしばかれるのは初めてじゃない気がするのはなぜだろう。
とりあえず、仕事を見つけるなり何かで稼ぐなりしなければ確実に新八と神楽に殺られる。
銀の玉かお馬さんか…あ、あの店新台今日からか!結野アナの言うとおりに素直になって新台打ってきまーす!!
…やべぇ。財布の中身が銀色に輝く100円玉1枚になってしまった。バレたら殺される。
あそこで止めとけばなぁ!今頃パフェ食べ放題だったのに…
少なくとも、万事屋を出た時と同じだけの金額にしなければならなくなった。100円じゃ宝くじも買えねぇや。
肩を落としてトボトボと歩いていると、道の真ん中に黒い物が落ちているのが見えた。
財布か!財布ならありがたい!神様は俺を見放さなかった!
走って近付いてみれば財布でもなんでもなく、ただの汚れた黒いノート。パラパラと捲ってみるが、字が掠れていて読み取れない。まさか死神が持っているようなアレじゃねぇよな?触らぬ神に祟りなし、近くにあったゴミ箱に放り投げる。
神様になれるなら、大金持ちになって働かずに毎日パフェ食いてぇな。
それと、もう1つ。
万に1つもないだろうが、土方が振り向いてくれたら。初めて会った時には、ムカつく野郎だと思っていたのに。気が付けばその姿を探してしまう程になっていた。
けれど、土方からの俺への好意なんて欠片もない。
目が合ったら逸らされる。居酒屋で会えば嫌な顔をされる。道端で会えば秒で喧嘩。ちょっと優しくしようとすれば疑いの眼差しを向けてくる。あげく「金なら貸さねぇぞ」ときた。
脈のなさに我ながら泣きそうになる。脈は止められそうになった事はあるのに。
外に出ると必ず周りをキョロキョロする癖が付いてしまった。そして、視界に入る見慣れた黒い制服。
一人の所を見ると、総一郎くんに逃げられたのだろう。
さて、今日も絡みにいきますか、と一歩進んだ所で今朝の結野アナの言葉が蘇る。
『素直になるといい事があるでしょう!』
パチンコの結果を考えれば、駄目な気がするのだが『今』な気がした。
「土方ー!」
「万事屋?」
クルリと振り返る。その眉間にはシワが寄せられている。
「なぁ、飲みに行きてぇんだけどさ。今日の夜空いてる?」
素直になってみる。
せめて飲み友達くらいにはなれたら。
「……何か企んでやがんのか?」
「違う違う!!その…ただ普通にお前と飲んでみてぇなって…」
素直になるってのはこんなに勇気がいるのか。
「そうだな…19時なら」
「マジで!?」
「奢らねぇぞ」
「お、おぅ…!えーとよ…タバコ屋の角の焼き鳥でどうよ?」
「わかった」
それだけ言って、再び背を向けて土方は去って行った。
もしかしなくても飲みOK貰った!?土方が俺と飲み!?偶然を装って隣に座らなくても、堂々と座れんの!?
「よっしゃあー!!」と声をあげたのもつかの間、財布の中身の事を思い出した。土方と飲み所か、命の危険があった事を忘れていた。
「銀さーん!ちょうどよかった!旦那がギックリ腰になっちまって、病院に連れて行くからさその間だけ店番頼めないかい?」
「よしきた!」
素直になったおかげか依頼まで飛び込んできた。渡りに舟、とはまさにこの事だ。
「銀さんに任せて、さっさと旦那連れてってやれ」
「報酬、色付けとくよ!」
「たっぷり頼むぜ!」
両頬を叩いて気合いを入れて、早速仕事に取り掛かった。
なんとしても銀土したい所だが、いかんせんまだ告白すらしていない。というか嫌われてるか興味がない、に近いかもしれない。
さて、ここで取り出したのは何でも願望が本当になってしまうという一冊の黒いノート。とりあえず、GHノートとでも名付けようか。
毎度お馴染みの天人ご都合アイテムだ。
入手経路は、辰馬か総一郎くんか天人のなんやかんやなのでここは割愛する。だいたいこの3択なのみんな知ってるでしょ。
それで、だ。このノートに俺と土方がお付き合いするという風に書けば、あら不思議。あっという間にラブラブな銀土が爆誕するのだ。
悲しくないかって?うるせぇな。こうでもしねぇと銀土できねぇんだよ!悪いか!土方からの俺への好意なんて欠片もねぇんだよ!
目が合ったら逸らされる。居酒屋で会えば嫌な顔をされる。道端で会えば秒で喧嘩。ちょっと優しくしようとすれば疑いの眼差しを向けてくる。あげく「金なら貸さねぇぞ」ときた。
ほら!!脈ねぇじゃんか!!脈は止められそうになった事はあるのに!!!
うぅ…なんか悲しくなってきたな…Sは打たれ弱いんだから思い出させるなよ。
だが、俺も世間一般にあるような銀土がしたい。ラブラブしたい。ちゅっちゅっしたい。ここじゃ書けない大人のあれやこれやもしたい。したいったらしたい。
なので、もうこのノートに頼るしかないのだ。ありがとう天人様。さようならプライド。
さて、ノートに書き込んで…と。
よし、これで明日から銀土だ。どんな内容を書いても銀土に転がっていく。全てが……銀土になるのだ…!
case.1 俺の知ってる告白と違う!!
翌朝、珍しく朝早くに目が覚めた。
時計はまだ7時。二度寝しようとしたが、今日から銀土になると思い出して興奮して眠れなかった。銀さんの銀さんも起きていた。朝から元気ね。本番の時もその調子で頼む。
朝食を作り、神楽を起こす。神楽は半分寝ながらも朝飯をしっかり食べる。俺はブラック星座占いをチェック。結野アナが「全て思い通りに上手くいくでしょう」と言っているから成功は間違いないだろう。神楽が全部食べきった所で目が覚めて「銀ちゃん朝ごはんは?」と言った。
それから新八が来て、掃除を始める。
俺はジャンプをソファに横になって読む。神楽は友達と約束があるからと、出掛けて行った。
さて、依頼は全く入っていないのでこれからどうするか。
とりあえず、外に出て巡回中の土方に出会うパターン。もしくは、夜に飲みに出て居酒屋で土方に会うパターン。
まず、前者だが通常なら口喧嘩が始まる所を今日は「飲みに行かねぇ?」と誘う。最初は断るがしつこく食い下がると、土方は「19時なら」って感じでOKを出す。この時の土方は内心俺からのお誘いに喜んでいる訳だ。実は俺の事が好きでずっと片想いだった土方は「まさか万事屋が…」ってドキドキしながら屯所に帰るの。そして居酒屋で飲んで俺が告白すれば顔を赤くしながら頷く。でも「酔ってるからじゃないか?」って不安もあって…悩んじゃうんだよ。でも、俺が「本気だから」って伝えて熱い情熱的なキッスをして、あわよくばホテルに行くというプラン。
後者は、土方が飲んでる所に俺が隣の席に座るの。「なんで隣に座るんだよ」ってウザがるけど、土方は俺に片想いしているから内心ドキドキしてる。「今日は万事屋会えた」って喜んでんの。可愛いよね。まぁ、そこからは大体同じような流れだな。
別パターンとして、お互い酔っぱらって気が付いたらラブホで身体から始まる…ってのも王道ではあるが場合によりセフレ両片想いや他の誰かに重ねて抱いてるパターンなどに分岐する可能性があるので、注意が必要だ。最終的には俺の愛の力で両思いになったり、誤解が解けるがこのパターンは中々大変なので避けておきたい。
俺は最初からハッピーでいたいの。ハピエン主義だから。バドエンとか地雷ね!!ハピエンしか勝たん。
「銀さん、何ニヤニヤしてるんですか気持ち悪い」
新八のゴミを見るような視線。俺の天パは綿埃だとでも思ってんのか。
「違いますぅ。銀さんはいつでも爽やかスマイルですぅ〜」
「というか、もう1週間も仕事ないんですよ!?暇なら仕事取ってこいやクソ天パアアアア!!!」
フルスイングのホウキで玄関まで吹っ飛ばすなんて、新八…お前も強くなったな。
強制的にではあるが外に出る事になったので、土方を探すついでに仕事を探してくるとする。どちらも見つからなければ銀の玉かお馬さんで増やせばいい。
「土方ー!」
いたいた。1人という事は総一郎くんに逃げれた、って所だろうか。ちょっとイライラしてるもんね。でも、飲みの誘いをするなら好都合。イジられたら恥ずかしもんね。大丈夫、銀土は履修済みなのでその辺りの心理も完璧なので。
「万事屋?」
クルリと振り返る。その眉間にはシワが寄せられている。
「なぁ、飲みに行きてぇんだけどさ。今日の夜開いてる?」
さぁ、どうでる?断った所で必ず銀土になるんだよお前は!!
今ごろ脳内は「万事屋に飲みに誘われた!!嬉しい!!」って全力でランバダ踊ってる頃か?
「19時なら行ける」
「じゃあ、タバコ屋の角の焼き鳥屋でどうだ?」
「おう」
それだけ言って、再び背を向けて土方は去って行った。ポーカーフェイスが上手いのか、表情はいつもの無愛想な面。だが、俺は知っている。お前は今、めちゃくちゃ嬉しいんだろ?顔が赤くなってないかとか、いつも通りに振る舞えたか、とか思ってんだろ?
うんうん。知ってる。進研◯ミくらいには予習してるから。
ああでも、あのノートの力は本物らしい。
いつもなら、声を掛ければ睨まれるし、話せたとしても、飲みの誘いは断られていた。
それがノートに書いただけで、トントン拍子に飲みの約束が出来た。あとは飲みの席で告白すればいい。どんな告白をしても銀土が成立するんだから、こんな気が楽な事はない。
さて、19時までどうするかな。あそこのパチンコ屋、新台入ってんじゃねぇか!景気付けに一発当てますか!
※※※※※
約束の5分前に焼き鳥屋の前にやって来た。
後は土方が来るのを待つだけだ。必ず成功する告白だから、全く緊張しない。「付き合ってください」でも「股を開いてください」でも銀土になるんだから、何も心配する事はない。
それに、パチンコが大勝して懐はホックホク。食料を買っても、今日の飲みで奢れるくらいには余裕がある。一度くらいは奢っておかないとね。彼氏(確定)として。
「よお。待たせたか」
「いんや。さっき来たとこ」
19時きっかりに土方は現れた。5分前には着いてたけど、時間通りな訳だし仮に30分待っていても「さっき来た」と言うのがセオリーだ。
「いらっしゃい、銀さん。一番奥取ってるよ」
「ありがとよ」
いつもならカウンターなのだが、大事な告白+恥ずかしがり屋の土方の事を考えると個室がいい。
あの後電話して、一番奥の個室を予約しておいた。
「個室なんて珍しいな」
「たまには、周りを気にせずゆっくり飲みてぇだろ」
「お前にしちゃあ気が効くな」
褒めてんのか、貶してんのかと言われたら後者だな。確実に。
席に付くと、すぐに店員の女の子が温かいおしぼりとお通しを持って来てくれた。キャベツの塩ダレはシンプルだが、美味いしお代わり自由だから非常にお世話になっている。
とりあえず、生を2つ頼む。つまみはメニューを開きながらゆっくり考えるとしよう。
程なくして生を持って来てくれた女の子に注文を伝える。串の盛り合わせにだし巻き玉子、フライドポテトと枝豆。「フライドポテトぉ?」と土方にちょっと変な顔をされたが「食べたかったんだからいいだろ」と言い返す。
酒も入り、料理も美味い。マヨをかけても誰も咎めないから、土方の機嫌もいい。そろそろ話を切り出してもいい頃合いか。酔い過ぎると、酒に酔った勢いと勘違いされても困るし。
「あのよ…実はお前にずっと言いたかった事があってよ…」
「ん?そうか、奇遇だな。俺もお前に言いたい事がある。万事屋、お前の事が好きだ。付き合ってくれ」
「え…あ、はい??」
「まぁ、戸惑うのも無理はねぇ。一応言っておくが、ライクじゃなくてラブの方だ。ああ、返事は今すくじゃなくていい」
「ひ、土方が俺の事が好き…?」
あれ?なんだか、予想してたのと違わないか…?
「そうだ」
「え?あれ、それは俺が言うはず…?」
「それは、つまりお前も俺に告白するつもりだった、って事か?」
「え、あ、ああうん」
「よし!なら、俺達は今から晴れて恋人同士ってやつだな!これからよろしく頼むぞ、銀時」
あれ、待ってなにこの展開。
さらっと名前で呼ばれなかった今?
名前を呼ぶの恥ずかしくて中々呼べないやつじゃないの?何度もお願いしてやっと言ってくれるか、嫌だって言われるか、ベッドの上で言わせる、とかじゃないの?違うの?
で、結局そのまま。
何がなんだか分からないまま酒を飲み。
何がなんだか分からないまま万事屋へ送られ。
何がなんだか分からないまま布団に入った。
ねぇ。俺、告白されたの?それでOKされたってことでいいの?
「付き合ってくれ」と言われて、連絡先も教えて貰った。チューとかそういうのはなかったけど。
もっと告白ってドキドキするもんじゃなかっただろうか。
例えば「今言えばフラれても酒のせいに出来る」「この気持ちは墓場まで持っていくつもりだった」「好きと言ったら気持ち悪がられるだろうか」とかさあるじゃない。
一切、迷いとか感じなかったね。あっさり塩味だったね。マッハで駆け抜けて行ったよ。見えなかったもん告白。
ジャンプでももっといい告白とかあったあっでしょ!マガジンか?マガジンはそういう告白なのか!?
ああああもうなんだともかく。
俺の知ってる告白となんか違う!!
case.2 俺の知ってる日常と違う!!
個人的には告白と呼びたくない告白から、恋人になりお付き合いを始めた。
お付き合いは順調。非常に順調。それはもう、怖いくらいに順調そのものである。
『今日、19時に行く』
ピコン♪と音がして、手元のスマホに土方からのメッセージが表示されていた。『わかった』と返せば、すぐにマヨリーンのスタンプが現れる。土方に連絡用にと持たされたスマホ。気付けば二人だけないのはと、新八と神楽にも渡されていた。
ちなみに、お付き合いしているといのは告白の翌日には二人に土方から報告された。秘密にするかどうか考える間もなく。当然、ゴリラと総一郎くんとジミーにも伝わっていた。
慌てる俺に「隠すとややこしくなるだろ」と平然と言い放ち、そのまた翌日にはゴリラ達に挨拶にまで行っている。
予定の共有できるアプリでお互いの休みの日もしっかり把握。たまには一人がいいとかもあるから、毎回という訳ではないが基本的には土方の非番の日には二人で会う事が多い。
職業柄、急に仕事になってキャンセルされる事もあるがそこでもスマホが大活躍。迅速に連絡が来て、次の週には代休になってデートしてる。
予定に遅れてくる事もないし、さして重要でなければある程度仕事の予定も教えてくれる。
驚く程にすれ違わない。
報連相完璧すぎるよ土方くん…さすが副長だよ…
すれ違いたい訳じゃないけど、非番教えてくれないとか、デートの約束が延びて延びて延びて、愛情を疑ったり、浮気を疑ったり…みたいなの全くないね。銀土ってこういうのなかったっけ?
したい訳じゃないよ?そういう訳じゃなよ?
すげぇありがたいです。予定共有のおかげで、依頼がないと仕事回してくれるし家賃もお給料もお支払させて頂いております。ありがとうございます。
ただGPSで居場所が即バレするので、銀の玉にもお馬さんにも行けなくなりました…文句なんてないです。土方様々です。もう足向けて眠れません。
あとね、疲れた土方を一切見たことない。
ストレスでイライラしてる事は何度か見たことあるけど、何日か後には攘夷浪士切ってスッキリしてる。
疲れて隈が出来てる所なんて見たことねぇよ。
一度だけ「残業ねぇの?」って聞いたら「ほとんどねぇな」って返ってきた。
なのでお疲れ度MAXの土方を銀さんが癒す、ってイベントが起きません。
何度か副長室に行ってみたが、銀土でよくあるような山のような書類はない。聞けば事務方を入れるようになったらしい。さらに、隊長格も書類が捌けるように研修を受け、後進を育てるためにも、土方に仕事が集中しないようにしたというのだ。
怪我で刀が握れなくなったが、残りたい者や刀や体力に自信はないが頭が切れる者を中心に事務方にした。書類仕事は嫌だと嘆いた隊長格も、研修でやり方を覚えると苦戦しながらも少しずつ出来るようになっていった。そして、土方本人は仕事をそれぞれに配分する事で人材を育てる事を始めた。
なので、土方に回ってきていた書類は徐々に少なくなっていった。仕事を増やすツートップ、ゴリラと総一郎くんが頼みの綱ではあるのだが…
ゴリラはお妙が「仕事が出来る男はかっこいい」と言ったのを聞いて以来、バリバリ仕事をこなしているらしい。ストーカー頻度が減ったが、ゴリラの給与が上がった為に売上が上がって喜んでいるらしい。総一郎くんはというと。
「総悟は天才肌だしな。やる気はねぇが、コツを掴めば早いし抜け道を見付けるのも得意だからな」
書類の書き方を一通り教えれば、飲み込みも早く一番早く覚えてしまったらしい。殆どが始末書というのもあるが、少しでもサボる為にさっさと書類を終わらせてしまうのだという。
得意の破壊活動も最近は鳴りを潜めているらしい。少し前まで元気よく破壊していたが、破壊した場所に手配中の攘夷浪士が潜伏していたから始まり、強盗がいたり、しゃっくりが治ったり、家が跡形もなくなったが宝くじが当たって豪邸を建てたとか。
いつしか総一郎くんに破壊されると幸運が訪れると噂になり、逆に「破壊してくれ!」と言われるようになった。それがつまらなくて大人しくしているようだった。必然的に始末書も減り、土方の仕事も減った。
そんなんだから、延々と仕事が終わらずに残業、なんて事はなく遅くともデートの5分前には着いている。
大きな怪我で入院もなく、怪我をしても2,3日経てば元気いっぱいに攘夷浪士相手に暴れ回っている。
あとは病気の類い…と思ったのだが、今や屯所には管理栄養士が居て、栄養面も完璧に管理されている。おかげで、小姓の鉄が少しスリムになっているという。鍛練のためのパーソナルトレーナーも居て、一人一人にアドバイスも行われている。カウンセラーも配備でメンタルケアや相談も行える。
土方はおろか、隊士達もみんな超が付く程に健康。
職務内容はキツイくとも、働き方改革により基本的に残業は少なくなり公務員なので給与も安定しているので、今や真選組は子供のなりたい職業ランキングに入るようになっていたのだった。
さらに土方を癒したいイベントに追い討ちをかけるような出来事があった。
土方が万事屋に来るという日に、朝から依頼が入ってしまった。断ろとも思ったが、急ぎだったようでさらに大口の常連客。新八と神楽にこの太客は絶対に逃がすな!とまで言われた。
泣く泣く土方に、依頼が入ったという連絡をした。
朝から働いてようやく依頼が終わった頃には、とっくに日が暮れていた。
依頼料はかなりの額になったが、3人とも身体は疲れているし、腹もぐぅぐぅ鳴り響いている。それにこんな時間では土方と会うのは難しいだろう。自分だけでなく、新八も神楽も土方が来るのを楽しみにしていた。
どこかで食べて行こうかと思ったが店に入る元気も残っていない。万事屋に帰っても自炊する気力はないが、買い置きのカップ麺はあったはずだ。もしくは、ババアかたまに頼んで飯でも作って貰えばいい。
ヨロヨロとしながら歩いていると万事屋から明かりが漏れている事に気が付いた。
急な依頼でバタバタしていたから、電気を消し忘れて来たのだろうか。
電気代が勿体ないが、誰もそれをツッコめるだけの体力は残っていなかった。
スナックに着いたが間の悪い事に入り口には『本日貸し切り』の文字が。中からは賑やかな声が聞こえてくる。これでは、飯を作って貰えば貰う事はできない。仕方ないが、カップ麺で我慢しようと階段を登りかけた時だった。
「おかえり」
頭上から声がした。
見上げて見れば、逆光で顔はよく見えないが立ち姿とその声は明らかに土方のものだった。
「土方!?」
「おう。お疲れさん」
恋人が微笑んで軽く手を振ってくれて、元気が出ない訳がない。階段一段飛ばしで登りきる。
「お前、もしかして待っててくれたの!?」
「する事もなかったしな。勝手に邪魔させて貰った」
土方の手には万事屋の合鍵が。初めて合鍵を使って、尚且つ帰りを待っていてくれたなんて感動するレベルだ。
ようやく追い付いた新八と神楽と一緒に中に入ると、さらに驚く事になった。
「これ、土方が!?」
応接室のテーブルにはラップをかけられた料理が並んでいた。筑前煮や白和えに焼き魚と漬け物。
明らかに出前ではなく、手作りのように見える。
「暇だったから台所借りたぞ。もう少しで帰るつもりでラップだけかけといたんだ。温め直すからちょっと待ってろ」
3人をソファに座らせ、手際よく冷めてしまった料理を台所へと持っていく。
「銀さん…!あの、気のせいかもしれないんですけど、部屋すっごく綺麗じゃありません!?」
新八の一言に部屋を見渡せば、出て来た時よりも綺麗になっている気がする。床も綺麗に磨かれているし、試しに廊下に出ても同じだった。そのまま、トイレと風呂を覗くが綺麗に掃除されている。切れかけていたトイレットペーパーまで補充されていた。
「わんっ!」
「定春!綺麗にして貰ったアルな!」
部屋の隅で眠っていた定春が起き出して、神楽に寄ると見てと言わんばかりに整えられた毛並みを見せてくる。
ほんのりシャンプーの香りがする。ブラッシングだけでなく、シャンプーまでしてくれたようだ。
「待たせて悪ぃな。たいしたもんじゃねぇが食ってくれ」
応接室に戻ってきた土方が温め直した料理をそれぞれに配膳していく。味噌汁まであったようで、味噌のいい香りがすると3人同時に腹が鳴った。
「「「いただきます!」」」
それぞれが料理を一口食べて、ピタリと動きが止まった。
なんだこれ。なんなんだこれは。やばいこれはまじでやばいくらいに……
「美味えええええええ!!!」
「美味しいです!!!」
「美味しいアル!!!」
3人とも口を揃えて「美味い」と叫ぶ。
そこからはがっつくように食べ進める。いつも、神楽に「もう少し綺麗に食え」と言っていたが、今は頭の片隅に追いやる事にした。
食欲に少し引いていた土方だったが「おかわり沢山あるからな」となくなった側から、新しい料理を出してくれてわんこ蕎麦状態になっていた。
「「「ごちそうさまでした」」」
神楽の事も考えて多目に作ってくれていたが、空腹と料理の美味さもあって全て平らげてしまった。
「明日にも回せるように作ったのに…」と言いながらも、土方は満足そうにしている。
食後にはこれまた土方手作りのプリン。少し固めの流行りのやつで、ほろ苦いカラメルソースが美味い。
「土方さんって、料理も出来るんですね!よくされるんですか?」
「いや、殆どやったことはなかったんだが…」
土方には趣味らしい趣味があまりない。映画も観たい物がなければ、全く行かない。サウナばかりも飽きてきてしまう。非番に暇を持て余しなんとなく屯所内をフラフラしていたら、小腹が空いた。そこで食堂に寄ってみる事にした。3交代勤務だと、食事の時間もバラバラで何かしら食事の用意はしてある。定食でなくとも、余り物の白飯だけでもあればいい。そこで、食堂のおばちゃんに声をかけた。
「トシさん。暇なら料理してみたらどうだい?」
自分が料理?煮たり焼いたりなど簡単な物ならやった事はあるが、ちゃんと料理した事はない。
断ろうと考えているうちに、「それがいい!」「そうしなよ!」とおばちゃん達に囲まれ包丁を握らされていた。
刃物ならば、と思ったがこれが以外に難しい。猫の手?なんだそれ。大きさはバラバラだし、ネギは繋がっていたりする。厚かったり薄かったり。隣のおばちゃんは均等に切っているというのに。
負けず嫌いが発動して、かごに積まれていた野菜を上手く切れるようになるまで切りまくった。
「トシさんありがとう助かったよ!」
「今日、お清ちゃんが休んじゃって人手が足りなくてさぁ!」
……どうやら上手く使われてしまったようだった。だが、普段世話になっているし手伝って喜ばれるなら嬉しい物だ。時間も潰せたし、ついでにマヨたっぷりのお握りを自分で握ってみた。形は悪いが、美味いと思う。
夕食の時間に食堂に向かう。飲みに出てもよかったが、自分が切った野菜はどうなるのかと気になってしまったのだ。
おばちゃん達に美味しく調理された料理の中に、不恰好な野菜が混じっていた。大きさもバラバラだし、ネギは繋がっている。
「あ、これ繋がってる」
「お、本当だ。田舎のかーちゃんもさあ、よくネギが繋がってたわ」
「でも、美味いんだよなぁ。かーちゃんの飯も食堂のおばちゃん達の飯も」
あぁなんだかくすぐったい。知ってるか、そのネギは俺が切ったんだ。人参と玉葱とじゃがいもと。ただ切っただけなのに、美味しそうに食べてくれるのはこんなにも嬉しいのか。
その日からすっかり料理にはまってしまい、おばちゃん達に弟子入り。好きな物はとこんとん、ひたすらな質と元々才能があったのかは分からないが、あれよあれよと言う間にプロ並みの腕前になった。おばちゃん達は副長とはいえ、息子のような存在が成長した事に感動し泣いた程だ。
始めは自分用に賄いを作っていたが、それがいつの間にか「副長の作る飯が死ぬ程美味い」と隊士の中で広まった。
台所に立つのは気まぐれだから、それに遭遇した隊士は強運の持ち主だ。作る量も多くて2,3人分なので争奪戦が起こる。その様子に怒鳴ったり呆れたりしながらも、嬉しい事には代わりなくさらに料理にのめり込んでしまったのだ。
「つー訳で、すっかり趣味みてぇになっちまってよ。つまらねぇ話して悪かったな」
「そんな事ないです!よかったら、僕にも教えて貰えませんか?」
「トシちゃんこれから毎日ご飯作ってヨ!」
「教えられる程じゃねぇけど俺でいいなら。まぁ、毎日は無理だがたまになら」
「ありがとうございます!」
「やったアル!」
※※※※※
そんな訳で「疲れた土方を癒したい」という願望は見事に打ち砕かれてしまった。どっちかっていうと、俺の方が癒されてる気がする。土方は俺の天パをモフモフするのが癒し、って言ってたけど定春をモフモフしてる時の方が幸せそうな顔をしていた。
そして、今日も土方手作りの料理を食べている。
「おかわりヨ!」
「僕もお願いします」
「沢山作ってるからしっかり食えよ。銀時は?」
こんなつもりじゃなかった。ご飯作り方作って癒して、胃袋掴んで俺の飯以外食えないようにしてやろうと思っていたのに。土方=不器用じゃねぇの?めちゃめちゃ器用なんだけど!
ああああもうくそなんでこんなに美味えんだよ!!
「おかわりで!!」
ご飯が美味しくて今日も幸せです。
でも、俺の思ってた日常となんか違う!!
case.3 俺の知ってる展開と違う!!
土方とのお付き合いは順風満帆、至って平和な幸せな毎日です。
が、そこに不穏の影が。土方が城に呼び出された。それも一人で。
この展開はまさかアレか。真選組の予算を増やしてやるから身体を差し出せとか、失態を帳消しにしてやるから身体を差し出せとか、そういうやつか!
「断れば真選組がどうなるかわかっているな?」って脅されて、土方は頷くしなく、幕臣に陵辱されている事をゴリラ達に悟られないよう振る舞うっていうやつだな!そして銀さんがその事に気がついて…
幕土もモブ土も出来れば避けたいけれど、お清めとかお仕置きもやもぶさかではない自分がいるのも確か。いや、ほんの少し、ほんの少ーーーーしだけだから!さきっぽだけ!お願い!
そして副長室に忍び込み土方の帰りを待つ俺。
土方どうか無事で…!いやでもお清めも捨てがた…
「あ"?ここで何してんだ万事屋?」
「土方…!大丈夫だった?何もされてない??」
夜遅くに心なしかぐったりした土方が帰ってきた。こんなにぐったりした土方は見た事がない。これは、やはりそうなのか!?
ガバッと土方の制服を左右に広げる。ボタンがブチブチ飛んでいったが、今は土方の身体の方が大事だ。
目の前には真っ白なきめ細やかな白い肌と、ピンク色の可愛らしい乳首。
「何しやがんだクソ天パアアアアア!!!」
そして、顔面に土方の右ストレートを受け、自分の鼻血で真っ赤に染まる視界。
※※※※※
「つまり、俺が幕臣のジジイどもにいいようにされて戻ってきたと思ったから、いきなり身ぐるみはいだって事でいいんだな?」
「はいそうです。すみませんごめんなさい。」
両鼻にティッシュを詰めて、正座させられました。
土方には何の問題もありませんでした。綺麗なピンク乳首でした。ありがとうございます。
「まぁ、心配されるような事はされてねぇよ…無事に予算回してくれそうだし、支援もすると言われたしな。ただ…」
「ただ?」
「何かよくわからないんだが、ファンクラブが出来た」
「はいぃ?」
※※※※※
登城した土方は大広間に案内された。
部屋に入ると幕臣の中でもかなりの権力を持つ顔ぶれがズラリと並んでいる。
最近は何もなかったはずだ。近藤さんのストーカーは落ち着いてるし、総悟もサボりはするが始末書の量は減っている。大きなテロもなく、失態もなかったはずだ。やはり予算を増やして欲しいと進言したのがまずかったのか。何を言われてもいいように、可能性を頭の中で探るがどれもピタリと来ない。
動揺を悟られないように身構える。
「土方くん。先日の真選組の予算の件だが。…実に残念だが幕府から君たちに割ける予算はないのだよ。だが、私たちには予算を増やす手立てがある。しかし、タダで…という訳には行かない。君の協力が必要だ。この意味が分かるかね…?」
幕臣がニヤリと口角を上げる。
何を要求してくるつもりだ。押収物の横流し、不都合な物を揉み消せだとかそういう事だろうか。膝の上で握った拳に力が入る。
「という訳で我々は君…じゃなかった君たちの後援会(ファンクラブ)を作ることにした!幕府から予算は回せない代わりにポケットマネー(お小遣い)で組を支援しよう!それに加えて、公式グッズを作りその売上を予算に回す。ああ、心配しなくても君はいつも通りに生活してくれればいい!ただ、たまに会報やグッズ制作に協力してくれたり、後援会に顔を出してくれるだけでいいから!」
「は…?」
聞き間違いじゃなければ、ファンクラブとかグッズとか聞こえたような気がする。
幕臣たちの羽織もいつの間にか真選組風の法被になっているような。
「どうだろうか!?悪い話じゃないと思うのだが!仕事には支障が出ないように配慮するから推させてくれないか!?」
興奮気味にまくし立て、他の幕臣がうんうんと頷いたり中には目を押さえて泣いている者まで居る。
「尊い…」ってなんだ?
「え、あ、はい」
「本当かね!?ありがとう!ありがとう!!」
気圧されて「はい」と答えてしまったが、よかったんだろうか。予算も支援もしてくれる、不利益は発生しない。こんな美味い話があっていいんだろうか。
「それではここに土方くん後援会(ファンクラブ)の発足を宣言する!後援会(ファンクラブ)法度第一条! 土方くんの許可がないかぎり土方くんに勝手に触れてはならない!第二条!一定の距離をとること!第三条!回りの人に迷惑をかけない!第四条!抜け駆けしない!繋がらない!ファンレターやプレゼントは後援会を通す!個人的に渡してはならない!」
この話を持ちかけてきた幕臣がリーダーということなのか、発足を宣言した後に法度を読み上げていく。他の幕臣たちもそれに習い復唱する。
何も見ずに読み上げるとか、もう完全に発足させる気満々だったじゃん。もう俺のファンクラブって完全に言っちゃってるし。
「土方くん!君が作った局中法度を参考にファンクラブでも後援会法度を作ってみたんだが、どうだろうか!?」
「あ、はい。いいと思います」
「それはよかった!それでは早速で申し訳ないのだが、これよりグッズ購入者限定の握手会を行いたいんだがいいだろうか」
もうグッズも作ってんじゃねぇか!なんだそのタオルにうちわ!法被だけじゃなかったのかよ!
もうこうなれば自棄だ。考えても無駄だと判断しさっさと終わらせて早く帰ろうと思いながら頷いた。
※※※※※
「で、その握手会を今までやっていたと」
「そういう事だ」
そのせいでいつも以上にぐったりしていたと。
ねぇ、ところで幕臣ってみんなお小遣い制なの?嫁には誰も勝てねぇの?世知辛ぇなオイ。
「本当は握手会だけの予定だったんだが、撮影会も始まって、ついでに会報誌の写真とインタビューもしたいって言われて」
「断ればよかったろ!」
「だって、予算増やしてくれるっていうし、それにマヨいっぱいくれたし」
なんでそこだけチョロ方なの!?その内えっちな写真とか撮られそうでめちゃめちゃ不安になってきた!
「まぁ、悪い話じゃねぇし、俺が耐えればいいだけの話だ。近藤さん達には黙っててくれねぇか…?」
この台詞使い方合ってるのかな!?間違ってるのかな!?
「でででででもよ!その内えっちな事を要求されたり、それをネタに脅されなりするんじゃねぇの!?」
「いや…たぶんそれはねぇと思う…俺がスカーフ取って上がシャツだけになったら何人か鼻血出して倒れたから」
幕臣はみんな童貞(新八)なのか!?お小遣い制のうえに全員新八かよおおおおおお!!
ヅラも高杉もテロしなくても幕府滅びるから!!
幕臣に新八しかいない幕府なんて滅びる以外ねぇから!!
「月に一回程度後援会があるから、分かったら予定いれとくな…わりぃ、なれねぇことしてつかれてんだ…おやす…み…」
気疲れと体力の限界に来たようで、念のため俺が引いておいた布団に倒れこみ、土方がそのまま安らかな寝息を立て始める。
なんだろうこの虚しくなるような感じ。
苦しくならないように、寝間着に着替えさせたけど全く起きないので余程疲れたらしい。
無事ならそれでいいか…と思いながら副長室の障子を閉めた。
※※※※※
お清め展開を期待していた訳ではないが、念のため覚悟を決めていたのになんという事だ。
その後、土方の後援会の会報誌を見せて貰ったが普通にアイドルなんかの会報誌だった。
後は攘夷浪士に拉致されて…っていう展開くらいか?拉致された先で暴力じゃ効果がないから、媚薬的な薬を投与されてだな…
そこに俺が颯爽と現れて助けるというやつだな。けど、薬のせいで身体が熱くて仕方がない土方は蕩けた目をしながら「ぎんときぃ…♡」と俺を求めて…
頼む!別にお清めとかお仕置きには興味なんてこれっぽっちもないけどー!
その瞬間、万事屋の電話がけたたましく鳴った。
「旦那!副長が何者かに連れ去られたようです…!」
ほらきたー!!すげぇなこのノート!!こんな事まで出来るのか!!
「わかった…!すぐに行く!!」
それだけ言って電話を切った。ベスパに乗り屯所に全速力で向かう。
※※※※※
「旦那、こちらが犯行声明です」
『貴様らの副長は預かった。返して欲しくば2時間以内に、捕らえられている我らの同士を全て開放しろ。それが出来なければ、副長の命はないと思え』
2時間なんていう無理難題な期限をふっかけて、始めから土方を無事に返すつもりなどないのだろう。おまけに、真選組の失態として世間の評価を落とす心積もりなのだろう。
「場所はわかんねぇのかよ?」
「既に特定済みです。かなり杜撰な計画のようで、あちこちに痕跡が残ってました」
広間に広げられた地図に×印が付けられている。
今は廃棄された雑居ビルでいかにもな場所である。
「なぁ、ゴリラ俺に行かせてくれねぇか?」
「そう言うと思っていた。俺達が突入するから、万事屋お前は別ルートからトシを救出してくれ」
付き合っているのを知っているし、同意してくれると思っていた。何としても、土方のエロエロな姿を俺以外に見せてなるものか!
※※※※※
爆音を合図に裏口から侵入する。
久しぶりに破壊できるとなって、総一郎くんの気合いは充分らしい。
土方が居るのは最上階。雑居ビルは単純な作りで、位置は全て頭に叩きこんである。
あまり広くないお陰で、あっという間に目的の扉の前にたどり着いた。
「土方返せコラアアアアア!!」
「呼んだか」
「へっ??」
勢いよく扉を蹴り開けると目の前には土方の姿。多少制服に汚れていたが、怪我もなくむしろ暴れたのか元気になっている気がする。
奥に目をやれば、縛り上げられた攘夷浪士が転がっている。
「えっ?土方、お前拉致られたんじゃ?」
「そうだが。相手が雑魚すぎて腹ごなしにもならなかった」
うん。やっぱり軽く暴れて返り討ちにしたらしい。
むしろ、暴れ足りずストレスがまだ発散しきれていないようだ。
「スマホ貸してくれ。コイツらに壊されちまって連絡出来なくてすまない」
「い、いやいいって事よ」
土方が電話をしている間に転がされてる攘夷浪士に近づいて胸ぐらを掴む。土方に聞こえないよう小声で問う。
「おい!なんで、土方ピンピンしてんだよ!痛めつけたりとかなかったのかよ!」
「その前にボコボコにされちまって…俺もう攘夷浪士辞める…」
「大人しくさせるために、媚薬使うとかあったろ!」
「兄ちゃん、媚薬なんてそんな便利なモンは現実に存在しないんだよ」
「えっ」
「そりゃあさ、ちょーーーっとばかりそんな気分になるらしいけど、所詮は気分だよ気分。漫画やAVみたいにはいかねぇよ」
「ええっ」
「そうそう。兄ちゃん、悪い事は言わねぇ。俺達がが言えた義理じゃねぇが、惚れた相手は真っ当に口説いた方がいい」
え、なんで俺攘夷浪士に諭されてんの?
というかね、これ二次創作だからねエロエロになる媚薬あっても許されるの!なんで、ここだけ現実的な話になるの!
※※※※※
攘夷浪士が真面目な?人達だったが為に真面目に諭された。因みに、みんな深く反省していたらしく、今は模範囚らしい。
媚薬的な展開を期待するなら、頼みの綱は高杉しかいない。好みの女が一緒だったから、土方も好みとかそういうやつでしょ!?
非常に腹立たしく、頼りたくなどないが背に腹は変えられない。頼むー!!高杉ー!!
「坂田さーん。郵便局ですー」
「ほらきた!」
このタイミング、絶対に「高杉が土方を拐いました」みたいな手紙だろ!
ほら見ろ!差出人の名前が書いてない辺り、怪しさ満点だろ!
『土方は美人だ。正直、好みでもある。お前とデキてなければモノにしていたろう。だが、人の情人を奪うような真似は、人の道を外れる許されない行為だ。例え、俺が許したとしても先生は許しちゃくれねぇだろう。それに、人妻やNTRはヅラの方が適任だ。
式が決まったら教えてくれ。プロデュースが必要なら、万斉にツテがあるからそっちに寄越すからいつで』
「お前ぇの席ねえからああああああああああ!!!」
手紙を左右に引き裂き、ありったけの怨念を込めてゴミ箱に叩きこむ。
なんで指名手配中の凶悪テロリストに説教くらってんだ!!人の道外れてるのお前!!つか、式に来るつもりなのかよ!!身長半分になれチビ杉!!
「ん?もう一通封筒があるな…」
『ヅラじゃない桂だ
P.S.式場の前でスタンバッてます』
「連携すんじゃねえええええええ!!!」
なんなのコイツら!!ねぇ!?バカなの!?
スマホを取り出して、履歴から電話番号をタップする。
「もしもし、土方?うん、ちょっと2つ程潰したい攘夷党があるんだけど」
なんだこれ!?俺の知ってる展開となんか違う!!
last case. 俺の知ってる銀土ってなんだっけ??
「銀さん、起きてください!もう時間ですよ!」
「うん?しんぱちぃ〜あと1時間…」
「あと1時間、じゃねぇんだよ!あんた主役なんだから、さっさとしろ!」
「ああ、主役ね。銀さんはジャンプの主人公だから何もしなくても主役だから」
「そうじゃねぇよ!!神楽ちゃん!」
「はいヨ!銀ちゃん、歯ぁ食いしばるネ!」
「へっ?えっ、やめっかぐギャアアアアアアア!!」
吹っ飛ばはれた先にはグレーのタキシードを着た土方が。イケメンは何を着てもイケメンなんだなぁ。
「お前なぁ、お色直しにどんだけかかってんだよ。どうせ寝てたんだろ?」
「は?お色直し?」
「寝ぼけてんのかよ?しっかりしろ」
なかなか起き上がらないでいると「仕方がないな」といった風に土方が手を差し出してくれた。
なぜかいつもより動きにくくて助かったと思いながら、土方の手を取ると自分の手には薄い水色の手袋が嵌められているではないか。
「さて、新郎が戻られた所で披露宴を再開させて頂きます」
えっ披露宴?聞き間違いじゃなければ、披露宴と言わなかったか?誰と誰の?
まさか…土方と俺…?
混乱したままひとまず席に着いて、辺りを見回す。
新八も神楽も正装だし、ババアは目にハンカチを当てて、ゴリラは鼻水流して泣いてるし、総一郎くんは一見退屈そうだが瞳はそうは言っていない。
どう考えても、俺と土方の披露宴だ。いつの間に結婚したの俺??
つうかなんでパー子?新郎なのになんでパー子なの俺!
「それでは、新郎のご友人を代表して桂様からご挨拶です」
ヅラてめぇなんで居るんだああああ!!??
よく見たら高杉も居るじゃねぇか!!
真選組何してんの!?大物の指名手配犯が二人も居るんだよ!?仕事しろ!!ゴリラ脱いでんじゃねぇ!!土方もヅラのスピーチで泣くな!つか、そこ泣く所!?
「それでは、新郎新婦にはご退場頂きこのままホテルへと向かって頂きます」
待って!!いつの間に終わったの!?というか披露宴からのホテル直行って色々とおかしいだろ!!
土方もおかしいと思うよな!?なんで赤くなってんの!?
「銀ちゃんさっさと覚悟決めて行くヨロシ」
「えっまってこの流れは…ギャアアアアアアア!!」
※※※※※
「はっ!ここは!?」
「気が付いたか?」
土方の心配そうな顔が見えた。どうやら気を失っていたらしい。フカフカのベッドに寝かされていた。
たぶんホテルのベッドだろう。少しだけ、神楽にフルスイングで殴られた尻が痛いがそれ以外は大丈夫そうだ。服もドレスからホテルの備え付けであろう、シンプルな浴衣に変わっていた。
よくよく考えれば、ホテルの式場で披露宴なんて普通だ。だから、ここも普通のホテルだと思った。
…ベッドに付いたやたら多いボタンを見るまでは。
装飾がやたら豪華だし、ガラス貼りなのはきっと浴室だろう。
まんま、ラブホじゃねえかああああああ!!
どこに、披露宴からラブホに直行する新婚がいるんだ!!うわあああ嫌だ、今頃他のやつらが何考えてるとか想像したくない。家はやっぱり万事屋なのか?え、嫌だ帰りなくない。年頃の女の子と童貞が居るんだぞ。どんな顔して帰ればいいんだよ。「昨日はお楽しみでしたね」とか言われるんだよ絶対。
とりあえずヅラと高杉は許さん。
「銀時?」
頭の中でヅラと高杉をシバキ上げる方法を考えていたら、再び土方に心配そうに声をかけられた。目を覚ましても何も喋らないから不安に思ったのか、少し泣きそうな顔をしていた。
「あぁ、悪ぃ…ちょっと混乱しちまってて…」
「調子悪いなら今日はもう寝るか?」
「いや、大丈夫。すっげぇ元気だから!」
「そうか…なら、いいんだ」
土方の言葉に引っ掛かりを感じる。いつもならズバズバ言ってくるのに、何か遠慮しているような気がする。まさか、別れようとか?実は偽装結婚でしたとか?全部ドッキリでした!とか?
全部ありえそうで怖い。まじでやめてここで全部嘘でした、なんて打たれ弱いドSには耐えられない。
「銀時…あのよ…疲れてるのは分かってんだけどよ…」
うわああああ思い詰めた顔してるよおおおお。
絶対に何かあるじゃん!!
「もう俺…我慢出来なくて…」
我慢!?足が臭いとか、俺の顔が見たくないとか!?早く保険金よこせとか!?
しかし予想に反して土方は浴衣の帯をほどく。
何?お前眠かったの?寝るの?いやでも帯ほどく必要ねぇか。
「なぁ…早く抱いてくれよ…俺をお前のオンナにしてくれねぇか…?」
ゆっくりと見せ付けるように浴衣を脱ぎ、少しずつ白い肌が露になる。まさか土方のストリップが見えるなんて…!
しかもノーパン!?ノーパンしゃぶしゃぶ天国ですかコノヤロー!!
これはまさしく銀土では!?スーパーアルティメット銀土タイムでは!?
ありがとう銀土の神様!!ありがとうGHノート!!!疑ってごめんよ、お前が神だ。
坂田銀時、男になりまあああああああああーーー
※※※※※
「あああああああ…あ?」
自分の声で目が覚めた。爆睡する神楽には聞こえてないと思うが恥ずかしい。でも、定春は起こしたかもしれない。おはようの挨拶代わりに噛まれる。
何かとてもいい夢を見ていた気がするし、そうでもない気がする。思い出したいけれど、思い出せない。あともうちょっとなんだけど、喉に魚の小骨が引っ掛かってるような感覚が気持ち悪い。
二度寝しようにも、眠気がどこかに行ってしまった。たまにはいいかとそのまま起きる事にした。
定春から挨拶させて頭から血を流しながら朝食を作った。爆睡している神楽を起こす。神楽は半分寝ながらも朝飯をしっかり食べる。俺はブラック星座占いをチェック。結野アナが「天パで根性のネジ曲がってるあなた!素直になるといい事があるでしょう」と言っていた。神楽が全部食べきった所で目が覚めて「銀ちゃん朝ごはんは?」と言った。
それから新八が来て、掃除を始める。
俺はジャンプをソファに横になって読む。神楽は友達と約束があるからと、出掛けて行った。
さて、依頼は全く入っていないのでこれからどうするか。
特にする事もないので、鼻をほじっていたら「仕事を探してこい!!」と万事屋から蹴り出された。
痛む尻を擦りながらとりあえずブラブラと歩いてみる。尻をフルスイングぐでしばかれるのは初めてじゃない気がするのはなぜだろう。
とりあえず、仕事を見つけるなり何かで稼ぐなりしなければ確実に新八と神楽に殺られる。
銀の玉かお馬さんか…あ、あの店新台今日からか!結野アナの言うとおりに素直になって新台打ってきまーす!!
…やべぇ。財布の中身が銀色に輝く100円玉1枚になってしまった。バレたら殺される。
あそこで止めとけばなぁ!今頃パフェ食べ放題だったのに…
少なくとも、万事屋を出た時と同じだけの金額にしなければならなくなった。100円じゃ宝くじも買えねぇや。
肩を落としてトボトボと歩いていると、道の真ん中に黒い物が落ちているのが見えた。
財布か!財布ならありがたい!神様は俺を見放さなかった!
走って近付いてみれば財布でもなんでもなく、ただの汚れた黒いノート。パラパラと捲ってみるが、字が掠れていて読み取れない。まさか死神が持っているようなアレじゃねぇよな?触らぬ神に祟りなし、近くにあったゴミ箱に放り投げる。
神様になれるなら、大金持ちになって働かずに毎日パフェ食いてぇな。
それと、もう1つ。
万に1つもないだろうが、土方が振り向いてくれたら。初めて会った時には、ムカつく野郎だと思っていたのに。気が付けばその姿を探してしまう程になっていた。
けれど、土方からの俺への好意なんて欠片もない。
目が合ったら逸らされる。居酒屋で会えば嫌な顔をされる。道端で会えば秒で喧嘩。ちょっと優しくしようとすれば疑いの眼差しを向けてくる。あげく「金なら貸さねぇぞ」ときた。
脈のなさに我ながら泣きそうになる。脈は止められそうになった事はあるのに。
外に出ると必ず周りをキョロキョロする癖が付いてしまった。そして、視界に入る見慣れた黒い制服。
一人の所を見ると、総一郎くんに逃げられたのだろう。
さて、今日も絡みにいきますか、と一歩進んだ所で今朝の結野アナの言葉が蘇る。
『素直になるといい事があるでしょう!』
パチンコの結果を考えれば、駄目な気がするのだが『今』な気がした。
「土方ー!」
「万事屋?」
クルリと振り返る。その眉間にはシワが寄せられている。
「なぁ、飲みに行きてぇんだけどさ。今日の夜空いてる?」
素直になってみる。
せめて飲み友達くらいにはなれたら。
「……何か企んでやがんのか?」
「違う違う!!その…ただ普通にお前と飲んでみてぇなって…」
素直になるってのはこんなに勇気がいるのか。
「そうだな…19時なら」
「マジで!?」
「奢らねぇぞ」
「お、おぅ…!えーとよ…タバコ屋の角の焼き鳥でどうよ?」
「わかった」
それだけ言って、再び背を向けて土方は去って行った。
もしかしなくても飲みOK貰った!?土方が俺と飲み!?偶然を装って隣に座らなくても、堂々と座れんの!?
「よっしゃあー!!」と声をあげたのもつかの間、財布の中身の事を思い出した。土方と飲み所か、命の危険があった事を忘れていた。
「銀さーん!ちょうどよかった!旦那がギックリ腰になっちまって、病院に連れて行くからさその間だけ店番頼めないかい?」
「よしきた!」
素直になったおかげか依頼まで飛び込んできた。渡りに舟、とはまさにこの事だ。
「銀さんに任せて、さっさと旦那連れてってやれ」
「報酬、色付けとくよ!」
「たっぷり頼むぜ!」
両頬を叩いて気合いを入れて、早速仕事に取り掛かった。
1/1ページ