桂土

「桂ァーーー!!」
「どうした?土方」
「どうした?じゃねぇ!!いい加減、その校則違反の髪を切りやがれ!!」
 そのやり取りに周りの生徒は「ああ、いつものか」と全く気にする様子はない。風紀委員の土方は桂の長髪を注意する。だが、桂は毎回飄々とした態度でそれを躱している。
 JOY4と呼ばれる4人組の1人が桂だ。彼らは堂々と校則違反をしているが、生徒からの人気は高い。逆に風紀委員の方が煙たがられる程だ。
 桂はJOY4の中でも真面目な方だ。成績も1、2を争うし生徒会の書記も努めている。しかし、頑固で融通が効かないのが玉に瑕である。
 桂は髪型は自由だという考えがある。校則では短髪とあるが、別に短髪にしなければいけない理由はない。まあ、派手な髪色となるとそれは学生の身分にはそぐわないが髪型くらいはいいだろう、と考えている。
 一方の土方は生徒の模範となるべき生徒会役員が校則違反は何事だと考えている。確かに間違いではない。桂自身もそこは納得できる理由ではあるが、やはり髪型くらい好きにすればいいと思う。
 そこで閃いた。なぜこの考えにたどり着かなかったのかと驚いたが解決方法が見付かったなら実行すればいいだけだ。
「そんなに言うならば校則を変えよう」
「はぁ?」
「生徒会長に立候補しようと思っていてな!会長になったら不要な校則は変える!それでいいだろう?」
「別に髪を切ればいいだけの話だろ!」
「土方、副会長に立候補してくれ。心配しなくても俺が推薦しよう!」
「話聞いてる!?」
 突然、校則を変えるだけではなく土方を副会長に推薦するとまで言い出した。その間も土方が説得を試みようとしているが、桂は全く聞く耳を持たない。
「校則を変えられるか側で見ていてくれ。駄目だったらその場で髪を切る。有言実行できるか副会長という立場なら監視もしやすいだろう?」
「ああ、まあ……そうだな」
 その会話ん聞いていた生徒たちは「土方がまた言いくるめられた」といつも通りの感想を持った。


※※※※※

「総理、本日の予定ですが」
「総理じゃない桂だ!!」
「会議の後は昼食会。それが終わりましたら、次の法案に向けての会議です」
「わかった。ありがとう」
 定番と化したやり取りに表情を変えずに土方が淡々と予定を告げた。桂の幼馴染みが付けたあだ名のせいで毎回このやり取りをする羽目になる。もう慣れてなんとも思わないが、初めの頃は青筋を立てる事も珍しくなかった。
 書類に向かう桂の長い髪がさらりと流れる。学生時代から変わらずこの長さを保っている。
 結局、土方は桂の髪を切らせる事は叶わなかった。桂が校則を変えてしまったからだ。そうなってしまえば、土方は口出しをする事が出来ない。
 もうそれでお役御免だと思っていたが、桂との縁は切れる所か振り回されてばかりだ。
 同じ大学を出て政治家になるから手伝って欲しいと言われ、気付けば秘書という立場になっていた。
「法案の資料をくれないだろうか?」
「ここに」
 分厚いファイルを手渡すと、桂は真剣な表情で文字を追う。今、手掛けている法案は同性での結婚を認めるという物だ。
 生き方は多様化しているが、同性での婚姻は未だ認められていない。諸外国ではその動きは活発であるとあうのに、この国はどれだけ遅れているのだ!と憤慨していた。
 反発は多い。マイノリティが認められてきている世の中とはいえ、政治家には言い方は悪いが年を取った者が多い。桂も総理というには若すぎるという、どうでもいい理由で反発が強かった。
 だが蓋を開けてみれば、桂は圧倒的な票差で総理という椅子まで登り詰めてしまった。能力も人望も年齢ではないと自らが証明してみせた。
「本当にこの法案が成立できると思うのか?」
「……まだ法も整理されていないからな。まずはパートナー制を導入し、次に本命の同性婚の法案を成立させる」
「流石に今回は簡単にいかねぇんじゃねぇのか?」
「大丈夫だ。今回も上手くいく。お前を口説く以上に難しい事はないからな」
 そう言うと桂は土方のネクタイを引っ張った。だが桂の口唇に触れたのは手のひらだ。
「仕事中だ」
「少しくらいいいだろう」
「駄目だ」
「お前は昔からそういう所は厳しいな」
 仕方がないと笑うと再び資料と向き合った。
「そういえば、銀時たちが久しぶりにいつもの店に行こうぜって」
「分かった。近日中には行けるように調整しよう」
「全く、総理大臣を居酒屋に誘うなんてすげェ度胸してるよな」 
「ははっそういう変わらない所がいいんじゃないか」
「そうだな」
 お互いに向ける笑顔は、学生の時とは変わってしまった。だがそれが悪い物ではないと揃いの指輪が証明してくれている。

1/1ページ
    スキ