four flowers
新人隊士×副長
初任給。仕事に就いて初めて貰う給与である。同期にたちは「まず両親に」とか「彼女にプレゼント」など、その使い道で盛り上がっている。
一方の俺はというと、両親はいないし彼女もいない。けれど、俺を拾って育ててくれた人とお想い人はいる。それは奇しくも同じ人物であったりする。
「十四郎!」
「お前なぁ。入隊したんだから呼び捨てはヤメロっていつも言ってんだろうが」
「仕事終わってんだからいいだろ別に」
「よくねぇよ」
縁側で煙草をふかす十四郎の隣に腰を下ろした。制服ではなく着流し姿である。
十四郎は、俺を拾って育ててくれた親のような存在だ。そのせいかクセが抜けずに呼び捨てしてしまう。まぁ、多少わざとだったりするのだけれど。
同期が萎縮して近よりたがらない、副長室も遊び場同然。自分の部屋はあるがこうして毎日のように副長室に通っている。
「なぁ十四郎。初任給って何に使った?」
「なんだ突然」
「ほら、俺初めて給料貰った時に同期がそれで盛り上がってて、十四郎は何に使ったのかなぁーって」
「さぁ、なんだったかな」
ふぅと煙を吐いた。その様がかっこよくて、コッソリ吸った事もあったが見つかってしこたま起こられた。旨いとも思わなかったし、甘いレロレロキャンディの方がよっぽど旨いと思う。
「ちなみに、どのくらい貰ってんの?」
「……お前なぁ、人の給与なんて聞くもんじゃねぇぞ」
「えー!だって気になるじゃん!偉くなったらどのくらい稼げるか!」
顔の前で手を合わせて「ね!お願い!」と拝み倒せば、大抵十四郎は折れる。明らかな子供扱いと立場が対等でない事を自覚させられる。
いつか、俺が俺として見て貰えるようになるまで諦めない。入隊したのはその第一歩だ。
「ほらよ」
「……ヒィッ…!?」
見せられた明細に悲鳴が上がった。自分の給与より二三倍はある。組のナンバー2とペーペーの新人じゃ格差は当たり前だと思っていたが、予想以上で正直ベコベコに凹みそうである。
「ん?さっきまでの威勢はどうした?」
目の前にはニヤニヤと笑う十四郎。こうなるとわかってて見せてきたに違いない。
「俺も副長になればそんくらい稼げるようになる?」
「副長?お前がぁ?」
それを聞いて腹を抱えて笑われた。笑う所を久しぶりに見たのは嬉しい。いや、やっぱり嬉しくない。
「俺だってやれば出来るんだよ!」
「まだ俺から一本取った事ねぇし、入隊試験のペーパーテストは散々だったのに?」
「うるせぇ!」
どちらも事実で言い返せない。入隊試験に至っては実技は満点だったが、ペーパーは落第ギリギリだったらしい。
剣の腕も知識も男としてのかっこよさも、十四郎には到底及ばない。おまけに歳は十も離れている。出会い方も育ての親だし、家族愛はあっても恋愛要素は全くない。
悔しくて堪らない。けれど、その悔しさが原動力でもある。十四郎と肩を並べて認めて貰う時まで歩き続ける。
「ところで、お前は初任給を何に使ったんだ?」
その質問で本来の目的を思い出した。初任給で買った物を十四郎に渡す為に来たのだ。
懐からラッピングされた箱を取り出して十四郎の目の前に差し出した。
「これ。十四郎に。その…今までのお礼っていうか……母の日的な…?」
「母の日にはまだ早ぇぞ」
「いいから!受け取れよ!」
「はいはい」
「早く開けて!」
「お前、それ人にお礼する態度じゃねぇぞ」
そう言いながらも破れないようにと丁寧に包装を解いていく。十四郎の指が動くだけでドキドキした。
「へぇ…見事なもんだな」
「プリザーブドフラワーって言うんだって」
男の十四郎に花なんて、と思ったが他の国ではバレンタインに男性から花を贈るのが主流らしい。
捕り物で店に被害を出してしまった為に謝りに行ったのが切欠だった。顔が怖くて「あ、これ死んだ」と思ったのだが、誠心誠意地面に頭を擦り付けて謝ったら許してくれた。それどころか「町の平和の為に働いてくださってるのですから」と逆に頭を下げられてしまった。
その店にプリザーブドフラワーが飾れていて心惹かれた。そこから贈り物の話になり、協力をしてくれたのだ。
色や花の種類、本数に花言葉。特別なオーダーだったから時間がかかってしまったが間に合って良かった。
「お前も粋な事出来るようになったのか。しょんべん漏らして泣いてたつーのによ」
「いつの話してんだ!」
カラカラと笑う十四郎が俺の頭を撫でる。子供だった時に何度も頭を撫でてくれた。
「ま、ありがよ」
いつか貴方の隣に立てた時、花に込めた意味を伝えようと思う。
初任給。仕事に就いて初めて貰う給与である。同期にたちは「まず両親に」とか「彼女にプレゼント」など、その使い道で盛り上がっている。
一方の俺はというと、両親はいないし彼女もいない。けれど、俺を拾って育ててくれた人とお想い人はいる。それは奇しくも同じ人物であったりする。
「十四郎!」
「お前なぁ。入隊したんだから呼び捨てはヤメロっていつも言ってんだろうが」
「仕事終わってんだからいいだろ別に」
「よくねぇよ」
縁側で煙草をふかす十四郎の隣に腰を下ろした。制服ではなく着流し姿である。
十四郎は、俺を拾って育ててくれた親のような存在だ。そのせいかクセが抜けずに呼び捨てしてしまう。まぁ、多少わざとだったりするのだけれど。
同期が萎縮して近よりたがらない、副長室も遊び場同然。自分の部屋はあるがこうして毎日のように副長室に通っている。
「なぁ十四郎。初任給って何に使った?」
「なんだ突然」
「ほら、俺初めて給料貰った時に同期がそれで盛り上がってて、十四郎は何に使ったのかなぁーって」
「さぁ、なんだったかな」
ふぅと煙を吐いた。その様がかっこよくて、コッソリ吸った事もあったが見つかってしこたま起こられた。旨いとも思わなかったし、甘いレロレロキャンディの方がよっぽど旨いと思う。
「ちなみに、どのくらい貰ってんの?」
「……お前なぁ、人の給与なんて聞くもんじゃねぇぞ」
「えー!だって気になるじゃん!偉くなったらどのくらい稼げるか!」
顔の前で手を合わせて「ね!お願い!」と拝み倒せば、大抵十四郎は折れる。明らかな子供扱いと立場が対等でない事を自覚させられる。
いつか、俺が俺として見て貰えるようになるまで諦めない。入隊したのはその第一歩だ。
「ほらよ」
「……ヒィッ…!?」
見せられた明細に悲鳴が上がった。自分の給与より二三倍はある。組のナンバー2とペーペーの新人じゃ格差は当たり前だと思っていたが、予想以上で正直ベコベコに凹みそうである。
「ん?さっきまでの威勢はどうした?」
目の前にはニヤニヤと笑う十四郎。こうなるとわかってて見せてきたに違いない。
「俺も副長になればそんくらい稼げるようになる?」
「副長?お前がぁ?」
それを聞いて腹を抱えて笑われた。笑う所を久しぶりに見たのは嬉しい。いや、やっぱり嬉しくない。
「俺だってやれば出来るんだよ!」
「まだ俺から一本取った事ねぇし、入隊試験のペーパーテストは散々だったのに?」
「うるせぇ!」
どちらも事実で言い返せない。入隊試験に至っては実技は満点だったが、ペーパーは落第ギリギリだったらしい。
剣の腕も知識も男としてのかっこよさも、十四郎には到底及ばない。おまけに歳は十も離れている。出会い方も育ての親だし、家族愛はあっても恋愛要素は全くない。
悔しくて堪らない。けれど、その悔しさが原動力でもある。十四郎と肩を並べて認めて貰う時まで歩き続ける。
「ところで、お前は初任給を何に使ったんだ?」
その質問で本来の目的を思い出した。初任給で買った物を十四郎に渡す為に来たのだ。
懐からラッピングされた箱を取り出して十四郎の目の前に差し出した。
「これ。十四郎に。その…今までのお礼っていうか……母の日的な…?」
「母の日にはまだ早ぇぞ」
「いいから!受け取れよ!」
「はいはい」
「早く開けて!」
「お前、それ人にお礼する態度じゃねぇぞ」
そう言いながらも破れないようにと丁寧に包装を解いていく。十四郎の指が動くだけでドキドキした。
「へぇ…見事なもんだな」
「プリザーブドフラワーって言うんだって」
男の十四郎に花なんて、と思ったが他の国ではバレンタインに男性から花を贈るのが主流らしい。
捕り物で店に被害を出してしまった為に謝りに行ったのが切欠だった。顔が怖くて「あ、これ死んだ」と思ったのだが、誠心誠意地面に頭を擦り付けて謝ったら許してくれた。それどころか「町の平和の為に働いてくださってるのですから」と逆に頭を下げられてしまった。
その店にプリザーブドフラワーが飾れていて心惹かれた。そこから贈り物の話になり、協力をしてくれたのだ。
色や花の種類、本数に花言葉。特別なオーダーだったから時間がかかってしまったが間に合って良かった。
「お前も粋な事出来るようになったのか。しょんべん漏らして泣いてたつーのによ」
「いつの話してんだ!」
カラカラと笑う十四郎が俺の頭を撫でる。子供だった時に何度も頭を撫でてくれた。
「ま、ありがよ」
いつか貴方の隣に立てた時、花に込めた意味を伝えようと思う。
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