four flowers
完結編軸if 白詛が解決しなかった世界線
白詛という病が繁栄し世界は死んでしまった。
金を持っている人間たちは宇宙へと旅立って、天人たちは寄り付きもしない。残された人間たちは僅かな資源を奪い合って生きている。
法律なんてものはとっくになくなって、あの世紀末の漫画をそのまま体現したような世界になった。
そんな中でも俺は近藤さんを相棒のエリザベスは桂を奪還し、僅かながら光を手にした。けれどもゆっくりと世界は死に向かって生きている。
「土方、ここに居たのか」
「桂か」
ボロボロになったビルの屋上で煙草をふかしていると桂がやってきた。周りにはあまりこの場所を教えていないので少し驚いた。完全に隠している訳でもないし、桂なら場所の見当をつけるのも容易い事だろう。
「何か用か?」
「いいや」
そう言うと隣に腰を下ろした。柔らかい風が吹き抜けて桂の長い髪を揺らす。
「今日は珍しく平和だな」
「ああ、いつもならイザコザの一つや二つ起きているというのにな」
見下ろした町には人影はない。かつて栄華を極めていた江戸の町はもう遠い過去のようだ。
荒廃したのは町だけでなく人の心も同様だった。罪を犯さなければ生きる事が難しくなった。仲の良かった友人と翌日には殺し合いになる、なんて最早日常の出来事。
当然罰せられる事なのだが、もう法律は機能していない。無力さにやるせなくもなるが、そうでもしないと生き残れないのもまた事実だ。
そういう物が珍しくなかった。朝起きれば何処かで強盗だの人死にだの報告があるというのに。そういう物がなくて、鉄の臭いがする風も吹かない。久しぶりに心が休まるような日だ。
「土方。これからこの世はどうなると思う?」
「そうだなぁ…もう駄目なんじゃねぇの?」
諦めきった訳ではない。今も白詛の特効薬を作ろうと踠いて戦っている人間もいる。行方を眩ませた銀色の髪をした侍が、フラりと戻ってきてどうにかしてくれるような気もする。
それでも、どう足掻いても終わりが見えてしまっている。
隣に座る桂の横顔を見た。何を考えているか相変わらず読むことが出来ない。
「今日が何の日か知っているか?」
「はぁ?」
会話の流れをバッサリと切る問に困惑する。やっぱりこの男の事はよく分からない。
「今日はバレンタインデーというやつだ」
「あー…そんな日もあったな」
女性が男性にチョコレートを贈る日といつの間にか江戸に定着していた行事だ。突然知らない女性にチョコを押し付けられたり、チョコで意識不明になった近藤さんを回収したりとロクな思い出がない。だが、それも今となっては懐かしい平和だった頃の思い出になっている。
「土方」
突然目の前に差し出された桂の右手。何なんだ?と注目すると、何もない空間から一輪の赤い花が現れた。
「これをお前に」
「あぁ…ありがと…」
よく分からないままに礼を言って受け取った。桂は満足そうに微笑んでみせた。やっぱり何がしたいのか分からない。
「まだ花なんてあったんだな」
「俺も驚いた。まだ懸命に生きている命があるのだと」
名前も知らない、ともすればそこら辺に生えていた雑草かもしれない。けれども、まだ諦めるには早いような気さえしてくる。
「最期を綺麗に飾るよりも、共に最後まで足掻いてみせようじゃないか、土方」
「……それも悪くねぇな」
もう少しだけ足掻いてみよう。最期の瞬間がこの男の隣というのもそんなに悪いものでもないかもしれない。
「そうとなったら土方。踊るぞ!」
「はあ!?意味がわからねぇぞ!?」
立ち上がった桂に引っ張り上げられると、抱き締められるような形になった。桂はステップを踏み出して、その足を踏まないようにと必死になる。
「リードは任せろ土方!俺は外交の為にダンスも習得しているからな!」
「マジでなんなのお前!?」
「踊るアホウに見るアホウ。同じアホなら踊らにゃそんそんだ!」
「それ阿波踊り!!」
特大のアホでなければこんな世界はひっくり返せないだろう。もう少しだけこの男に付き合ってやろうと心に決めた。
白詛という病が繁栄し世界は死んでしまった。
金を持っている人間たちは宇宙へと旅立って、天人たちは寄り付きもしない。残された人間たちは僅かな資源を奪い合って生きている。
法律なんてものはとっくになくなって、あの世紀末の漫画をそのまま体現したような世界になった。
そんな中でも俺は近藤さんを相棒のエリザベスは桂を奪還し、僅かながら光を手にした。けれどもゆっくりと世界は死に向かって生きている。
「土方、ここに居たのか」
「桂か」
ボロボロになったビルの屋上で煙草をふかしていると桂がやってきた。周りにはあまりこの場所を教えていないので少し驚いた。完全に隠している訳でもないし、桂なら場所の見当をつけるのも容易い事だろう。
「何か用か?」
「いいや」
そう言うと隣に腰を下ろした。柔らかい風が吹き抜けて桂の長い髪を揺らす。
「今日は珍しく平和だな」
「ああ、いつもならイザコザの一つや二つ起きているというのにな」
見下ろした町には人影はない。かつて栄華を極めていた江戸の町はもう遠い過去のようだ。
荒廃したのは町だけでなく人の心も同様だった。罪を犯さなければ生きる事が難しくなった。仲の良かった友人と翌日には殺し合いになる、なんて最早日常の出来事。
当然罰せられる事なのだが、もう法律は機能していない。無力さにやるせなくもなるが、そうでもしないと生き残れないのもまた事実だ。
そういう物が珍しくなかった。朝起きれば何処かで強盗だの人死にだの報告があるというのに。そういう物がなくて、鉄の臭いがする風も吹かない。久しぶりに心が休まるような日だ。
「土方。これからこの世はどうなると思う?」
「そうだなぁ…もう駄目なんじゃねぇの?」
諦めきった訳ではない。今も白詛の特効薬を作ろうと踠いて戦っている人間もいる。行方を眩ませた銀色の髪をした侍が、フラりと戻ってきてどうにかしてくれるような気もする。
それでも、どう足掻いても終わりが見えてしまっている。
隣に座る桂の横顔を見た。何を考えているか相変わらず読むことが出来ない。
「今日が何の日か知っているか?」
「はぁ?」
会話の流れをバッサリと切る問に困惑する。やっぱりこの男の事はよく分からない。
「今日はバレンタインデーというやつだ」
「あー…そんな日もあったな」
女性が男性にチョコレートを贈る日といつの間にか江戸に定着していた行事だ。突然知らない女性にチョコを押し付けられたり、チョコで意識不明になった近藤さんを回収したりとロクな思い出がない。だが、それも今となっては懐かしい平和だった頃の思い出になっている。
「土方」
突然目の前に差し出された桂の右手。何なんだ?と注目すると、何もない空間から一輪の赤い花が現れた。
「これをお前に」
「あぁ…ありがと…」
よく分からないままに礼を言って受け取った。桂は満足そうに微笑んでみせた。やっぱり何がしたいのか分からない。
「まだ花なんてあったんだな」
「俺も驚いた。まだ懸命に生きている命があるのだと」
名前も知らない、ともすればそこら辺に生えていた雑草かもしれない。けれども、まだ諦めるには早いような気さえしてくる。
「最期を綺麗に飾るよりも、共に最後まで足掻いてみせようじゃないか、土方」
「……それも悪くねぇな」
もう少しだけ足掻いてみよう。最期の瞬間がこの男の隣というのもそんなに悪いものでもないかもしれない。
「そうとなったら土方。踊るぞ!」
「はあ!?意味がわからねぇぞ!?」
立ち上がった桂に引っ張り上げられると、抱き締められるような形になった。桂はステップを踏み出して、その足を踏まないようにと必死になる。
「リードは任せろ土方!俺は外交の為にダンスも習得しているからな!」
「マジでなんなのお前!?」
「踊るアホウに見るアホウ。同じアホなら踊らにゃそんそんだ!」
「それ阿波踊り!!」
特大のアホでなければこんな世界はひっくり返せないだろう。もう少しだけこの男に付き合ってやろうと心に決めた。