four flowers

現パロ

「はぁ~~やあっと終わったぜ。なぁ、これから飲みに行かねぇ?」
 背伸びをするとバキバキと骨が鳴る。完成したデータを保存すると銀時が尋ねた。時計は定時から二時間も経っていて、腹の虫も鳴いている。
「いつもの所でいいか?」
「いや、どうせなら酒の美味い所がいい」
 同じように仕事が終わった、桂と高杉がそれぞれ答える。いつもの居酒屋もいいが一段落ついたのだし、ちょっといい店にも行きたい。
「辰馬はどっちがいい?」
 こちらもデータが完成したらしい、隣の辰馬に話を振った。意見が割れて店が決まらない可能性も出てくるが、聞かないという訳にはいかない。
「すまんが、ワシはこれから先約があるんじゃ!」
 そう言うと辰馬は急いで荷物を仕舞う。普段はのんびりとしている彼としては珍しい。あっとい間にコートを着ると「お疲れさん!」と走って出ていってしまった。
「え?何々?辰馬なんかあったの?」
「コレだ」
 桂が小指を立てると高杉も納得したような顔をする。
「はぁ!?アイツ彼女居たの!?いつから!?」
「なんだお前知らねぇのか。去年の終わりくらいに出来たらしいぞ」
「二、三回飲みを断った事があっただろう?あれは全部そうだ」
 キャバ嬢に熱を上げていたのは知っていたが、彼女が出来た事は知らなかった。そういえばと思い返せば、女の子の居る店の誘いを断られた事がある。
「辰馬に彼女…?俺を差し置いて…?」
「まあお前ェには甲斐性がねぇしな」
「すぐ女ヤり捨てるお前には言われたくないね!」
「お前らくだらん事で争うんじゃない」
「「NTR好きは黙ってろヅラ!!」
「ヅラじゃない、桂だ!!」
 しょうもない小競り合いが続いたが、三人の腹の虫が盛大に鳴いた所でピタリと止まる。いたたまれなくなり、荷物を纏めながらとりあえずいつもの店にしようという事になった。もちろん辰馬の彼女の話を酒の肴にする為である。



「でさあ、辰馬の彼女ってどんな女なの?」
 適度に酒が入った所で銀時が話を切り出した。
「ああ…確かアイツが言うには"とんでもなく美人だけど、とんでもなく気が強くて、とんでもなく怖くて、とんでもなく嫉妬深い"そうだぞ」
「"まるで鬼みたいだ、すぐ手が出るし、ヘビースモーカーだ"とも言ってたな」
「それって付き合ってて楽しいのか…?」
 今の所、とんでもなく美人という事以外にいい所がない。完全に尻に敷かれているのは明らかだ。
「今日は、バレンタインの穴埋めだそうだ」
「あーあの日トラブって深夜まで残業になっちまったもんな…」
 システム障害の為に深夜まで対応に追われていた。終わった頃には四人ともぼろ雑巾みたいにヘロヘロになっていたのを覚えている。
「接待でキャバクラに駆り出された時には暫く口を聞いてくれなかった、とも言ってたぞ」
 とんでもねぇ女という情報しかない。そういえば顔に痣を作って出勤してきた時があったが、それも彼女の仕業なのだろうか。
「まあ、辰馬はフラフラしているし多少厳しい女性の方がいいんじゃないか?」
 その後もいくつか彼女と辰馬の話が出てきたのだが、なぜヅラと高杉は知っていて俺は知らないのかも疑問である。
「そりぁ、お前の口と頭が軽いからだろ」
「心読まないでくれる!?口軽くねぇし!つーか頭も軽くねぇわ!!」
「ここで騒ぐな。今は辰馬の彼女の話をしているのだろう?」
 また喧嘩が始まりそうな雰囲気を察して、桂が割って入る。視線がこちらに集まっているのに気付いて、立ち上がりかけた席に腰を下ろした。
「で、結局どんな女なの?」
「知らねぇ」
「写真を見せてくれんのだ。彼女がそういうのが好きじゃなくて、あまり撮らないようでな」
「本当に美人なのかねぇ?」
 結局、桂も高杉も彼女の顔までは知らないらしい。知らない、となると余計に気になるのが人間というものである。 
「じゃあ、今度デートの日を聞き出して尾行しようぜ!」
「面白ろそうだな、乗った!」
「貴様ら人のプライベートに首を突っ込むのは良くないぞ!!」
「えーでもヅラも気になるだろ、辰馬の彼女」
「ヅラじゃない、桂だ!……それはまぁ気にならない訳ではないが…」
「はい、じゃあ決定!今から作戦会議を始めます!」
 追加の酒とつまみを頼むとさらに盛り上がる。なんやかんや言っても桂も乗り気になっていた。そうして悪ガキ三人の夜は更けていくのであった。



 高級レストランの前に黒いコートを着た長身の男性が立っていた。誰かを待っているのだろうか、何度か時間を気にする素振りを見せていた。      
 まるでモデルかのような佇まい。溜め息を吐き、憂いを帯びた表情は通り過ぎる人が思わず振り返ってしまう程だ。
「十四郎ー!!遅れてすまん!!」
「一時間と二十三分の遅刻。切腹しろ」
 辰馬は到着するなり深々と頭を下げて見せたが、舌打ちをされた後、切腹まで言い渡された。    
 必死に謝る様子に今度は別の意味で振り返られる。それにまた舌打ちが聞こえ、辰馬の肝が更に冷える。
「もういい頭上げろ」
「十四郎~~~!!」
「許した訳じゃねぇからな」
「はい……」
 大変ご立腹な様子に流石に涙目である。だが、バレンタインの予定がなくなり、埋め合わせで遅刻となると怒られても文句は言えない。
「そうじゃ!これ!!」
 と十四郎の目の前に赤いバラの花束を差し出した。だが、悲しいかな走ってきたせいで花弁が所々散ってしまっている。
「散ってんじゃねぇか」
「あああ!しもうた!!せっかく十四郎の為に用意したがやき!!」
 大袈裟に頭を抱えるからまた注目が集まる。それに大きく溜め息を吐いて、十四郎は辰馬の手を取った。
「もういいから、さっさと行くぞ」
 引っ張られた手を見ると、真っ黒な手袋が嵌められていた。それに思わず笑みが溢れる。
「それ付けてくれてるんやき」
「た、たまたまだ!」
 クリスマスに贈った手袋をちゃんと付けてきてくれたのが嬉しい。たまたまだ、なんて言ってはいるがたまたま付けてくるような人間ではないのを知っている。
「んふふ。十四郎、好きやか。怒った顔も、照れた顔も好きけんど、でもワシは笑うた顔が一番好きや」
「このバカ…!早くしろ!予約の時間は過ぎてるんだよ!」
 勢いで抱き付こうとしたのだが、スルリと躱され十四郎は一人で中に入ってしまった。このままでは「相手は来れなくなりました」なんて言われてしまいかねない。存外に照れ屋で可愛い恋人の後を慌てて追いかけた。

 
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