おままごと
「おままごとするアル」
「へ?」
「ん?」
昼下がりの万事屋で、神楽が「おままごとする」と言い出した。突然、言い出すのは今に始まった事ではないのでそのまま流そうとした。
「おままごとするアル!」
もう一度。今度は力強く。自分は本気だと言っている。
俺は再度流そうとジャンプを読んでいたが、土方は新聞を読む手を止めた。
「ああ、いいぞ」
「やったー!トシ大好きアル!」
神楽は跳び跳ねて喜び、土方に抱きつく。
「あんまり跳び跳ねてるとお登勢さんに怒られるからな」と言うと、素直に土方に従った。
外は土砂降りの雨。神楽も友達との予定がキャンセルになり、俺達も家でまったりしようという事になった。
予定が駄目になった悔しさと、手持ちぶさたな昼下がり。午後のテレビは特に面白みのないワイドショーと犯人も結末も分かっているドラマの再放送ばかり。昼寝をしようにも、元気が有り余っている。
ようするに退屈が限界になってしまったのだ。
子供の遊びなんて、と断るかと思ったが土方が思ったよりも乗り気で驚いた。よく神楽にお菓子を買い与えているので、甘やかし過ぎないように言っているが、本人はそんな事はないと否定している。
鬼の副長が見世の花魁と遊ぶならまだしも、年端もいかない少女と可愛らしいおままごとに興じる姿を誰が想像できようか。世の女性たちは卒倒しそうな内容である。喜びそうなのは総一郎くんくらいだろう。
「じゃあ配役を決めるネ!私がマミー、定春がパピー、トシが子供、銀ちゃんはペットの亀アル!」
「俺が子供ぉ!?」
「俺がペットぉ!?」
同時に異議の声が上がる。だが、本日の主役は配役を変える気はないようだ。
「神楽、その…俺がなんで子供役なんだ…?せめて父親とかな…?」
「トシは子供の日生まれだから子供ネ」
「お、おう。そうか、そうだな」
何故か納得する土方。いいのかそれで。タバコの代わりにおしゃぶり咥えさせられても知らねぇからな。………倒錯的でそれはそれでアリ…か?
「なんで俺ペットなの!?俺がパピーで、土方がマミー、神楽が子供じゃねぇの!?定春にパピーは無理だろ!」
「何言ってるアルか。定春は強くて、大きくて、頼れるアル!1日中、亀みたいに動かずにダラダラしてるだけのマダオとは大違いネ」
「くくっ!違ぇねぇ!」
「ひどくないっ!?」
俺が亀みたい、と言われたのがツボに入ったのか肩を震わせて土方が笑う。さらに、神楽が「銀ちゃんのマネ」と言って亀みたいな動きをするから、土方は目尻に涙を浮かべて笑い転げていた。
「銀ちゃんは亀」で自分が子供の配役なのはどうでもよくなったのか、土方は神楽にどんな風にすればいいか聞いている。
ペットは嫌だと抗議はしたが2人は聞き入れてくれない。それどころかペットの名前はどうするか、なんて設定を掘り下げてくる。
「もう、あなたったたら休日は寝てばっかりアル」
「くぅん」
「仕事って言いながら毎晩飲んだくれているわよネ?」
「わうぅ…」
パピー役の定春に話かけるマミー役の神楽。
定春は眉毛を下げて、内容が分かっているのか分かっていないのか困ったように返事をしている。
おままごとにしては生々しい。少し耳が痛くなるのは気のせいか。
「ほら、トシ早くご飯食べて寺子屋に行くアル」
「お、おう」
「おう、じゃなくて『はい』アル。こんな所ばかりパピーに似てしまったネ」
「は、はい…」
土方も想像していたおままごとと違ったようで、かなり戸惑っているようだ。
困り顔な定春と戸惑いながらも、子供役をこなそうと必死な土方を眺めてかれこれ1時間。
ペットの亀、こと俺は一切触れられない放置プレイをかまされている。
動かない、セリフもないならジャンプでも読もうかと思ったが「亀はジャンプ読まないアル」と真っ先に取り上げられてしまった。
それからずっとリアルで生々しいおままごとを眺めている。女の子は何歳だって女だとよく言ったものだが、内容を聞いていると神楽の友人関係や寺子屋が少しばかり心配になってくる。
子供は出かけ、パピーは寝ている設定になったからか神楽は1人家事の真似事を始める。
子供の成績に始まり、パピーの稼ぎが悪いとか、休日はぐうたらしてるとか、働かずにギャンブルばかりで、酢こんぶの1つも買ってくれないと言いながら掃除機をかけるフリをする。
後半から明らかに俺への愚痴が始まっていたような気がするが、今は亀なので反論はできない。
一度部屋の外に出た土方が戻ってくる。手にはチラシで作った寺子屋の教本、インク切れのボールペン、短くなった鉛筆を持っている。
まだ続く愚痴を聞いて土方が心配するような視線を向ける。たぶん、土方も似たような事を考えてるんだろう。
「あ、雨が止んでるアル!」
神楽の明るい声に外を見ると、まだ日は差していないが確かに雨が上がっていた。
「買い物行きたいアル!」
「もうおままごとはいいのか?」
「1日中家の中なんて退屈アル!夕ご飯買いに行くネ!」
「銀さんも賛成〜」
動かなかったせいで身体を動かすとバキバキと鳴った。これで亀役も終わりだ、と思い土方を見れば同じように安心したような顔をしていた。慣れない事をして疲れたらしい。
「神楽、何が食いてぇ?」
「肉!!肉がいいアル!!」
「銀時、肉がいいらしいぞ」
「何にすっかなぁ…スーパー行って考えるか」
「エコバッグ持ったヨ!トシは忘れ物ないアルか?」
「おう、大丈夫だ」
「定春、留守番よろしくな〜」
「わん!」
定春は居るが念のため戸締まりをして3人で万事屋の階段を降りていく。
その頃には少しずつ、晴れ間が見えるようになっていた。
「ほら、トシ手繋ぐヨ!」
「こういう時は神楽が真ん中じゃねぇのか?」
「子供は今私の子供アル!だから真ん中に来るのが普通ヨ!」
「え?まだその設定続いてんの?」
「それに、銀ちゃん水虫だから手繋ぎたくないアル」
「えっ!?違うからね!?銀さん水虫じゃねぇから!お願い土方そんな目で見ないで!!」
無事に手を繋ぐのを許して貰え、土方を真ん中にして3人で手を繋いで歩く。
土方はその位置がむず痒いのかなんとも言えない表情をしているが神楽が「子供は目一杯甘えるものヨ」と言われて、腹を括ったらしい。
「あら、神楽ちゃん家族でお出掛けかい?」
「そうアル!一緒にスーパーに買い物に行く所ヨ!」
神楽が笑顔いっぱいに応える。
血の繋がりもなければ、親がわりは男同士だけれどおままごとじゃない本物の家族だと、胸を張って言う。
「あ、新八に飯食いに来るか電話しとくぞ」
「やっべ、アイツ以外と拗ねるからな」
「家族団らんアルな!ねぇ、銀ちゃんとトシはいつ結婚するアルか?」
「土方と俺は好き合ってるけど、法律上男同士は結婚出来ねぇんだよ」
「大丈夫ある。そよちゃんに話したら法律変えるから任せて、って言ってたヨ」
「マジか…明後日、登城でそよ姫様に会う予定なんだが…」
「土方…もう腹括るしかねぇな」
「そよちゃんが結婚式は国を上げてやるって言ってたから楽しみネ!」
「「それはやめて!!!」」
変な形をした愛すべき家族が、国中から祝福を受ける未来もそう遠くはないようだ。
「へ?」
「ん?」
昼下がりの万事屋で、神楽が「おままごとする」と言い出した。突然、言い出すのは今に始まった事ではないのでそのまま流そうとした。
「おままごとするアル!」
もう一度。今度は力強く。自分は本気だと言っている。
俺は再度流そうとジャンプを読んでいたが、土方は新聞を読む手を止めた。
「ああ、いいぞ」
「やったー!トシ大好きアル!」
神楽は跳び跳ねて喜び、土方に抱きつく。
「あんまり跳び跳ねてるとお登勢さんに怒られるからな」と言うと、素直に土方に従った。
外は土砂降りの雨。神楽も友達との予定がキャンセルになり、俺達も家でまったりしようという事になった。
予定が駄目になった悔しさと、手持ちぶさたな昼下がり。午後のテレビは特に面白みのないワイドショーと犯人も結末も分かっているドラマの再放送ばかり。昼寝をしようにも、元気が有り余っている。
ようするに退屈が限界になってしまったのだ。
子供の遊びなんて、と断るかと思ったが土方が思ったよりも乗り気で驚いた。よく神楽にお菓子を買い与えているので、甘やかし過ぎないように言っているが、本人はそんな事はないと否定している。
鬼の副長が見世の花魁と遊ぶならまだしも、年端もいかない少女と可愛らしいおままごとに興じる姿を誰が想像できようか。世の女性たちは卒倒しそうな内容である。喜びそうなのは総一郎くんくらいだろう。
「じゃあ配役を決めるネ!私がマミー、定春がパピー、トシが子供、銀ちゃんはペットの亀アル!」
「俺が子供ぉ!?」
「俺がペットぉ!?」
同時に異議の声が上がる。だが、本日の主役は配役を変える気はないようだ。
「神楽、その…俺がなんで子供役なんだ…?せめて父親とかな…?」
「トシは子供の日生まれだから子供ネ」
「お、おう。そうか、そうだな」
何故か納得する土方。いいのかそれで。タバコの代わりにおしゃぶり咥えさせられても知らねぇからな。………倒錯的でそれはそれでアリ…か?
「なんで俺ペットなの!?俺がパピーで、土方がマミー、神楽が子供じゃねぇの!?定春にパピーは無理だろ!」
「何言ってるアルか。定春は強くて、大きくて、頼れるアル!1日中、亀みたいに動かずにダラダラしてるだけのマダオとは大違いネ」
「くくっ!違ぇねぇ!」
「ひどくないっ!?」
俺が亀みたい、と言われたのがツボに入ったのか肩を震わせて土方が笑う。さらに、神楽が「銀ちゃんのマネ」と言って亀みたいな動きをするから、土方は目尻に涙を浮かべて笑い転げていた。
「銀ちゃんは亀」で自分が子供の配役なのはどうでもよくなったのか、土方は神楽にどんな風にすればいいか聞いている。
ペットは嫌だと抗議はしたが2人は聞き入れてくれない。それどころかペットの名前はどうするか、なんて設定を掘り下げてくる。
「もう、あなたったたら休日は寝てばっかりアル」
「くぅん」
「仕事って言いながら毎晩飲んだくれているわよネ?」
「わうぅ…」
パピー役の定春に話かけるマミー役の神楽。
定春は眉毛を下げて、内容が分かっているのか分かっていないのか困ったように返事をしている。
おままごとにしては生々しい。少し耳が痛くなるのは気のせいか。
「ほら、トシ早くご飯食べて寺子屋に行くアル」
「お、おう」
「おう、じゃなくて『はい』アル。こんな所ばかりパピーに似てしまったネ」
「は、はい…」
土方も想像していたおままごとと違ったようで、かなり戸惑っているようだ。
困り顔な定春と戸惑いながらも、子供役をこなそうと必死な土方を眺めてかれこれ1時間。
ペットの亀、こと俺は一切触れられない放置プレイをかまされている。
動かない、セリフもないならジャンプでも読もうかと思ったが「亀はジャンプ読まないアル」と真っ先に取り上げられてしまった。
それからずっとリアルで生々しいおままごとを眺めている。女の子は何歳だって女だとよく言ったものだが、内容を聞いていると神楽の友人関係や寺子屋が少しばかり心配になってくる。
子供は出かけ、パピーは寝ている設定になったからか神楽は1人家事の真似事を始める。
子供の成績に始まり、パピーの稼ぎが悪いとか、休日はぐうたらしてるとか、働かずにギャンブルばかりで、酢こんぶの1つも買ってくれないと言いながら掃除機をかけるフリをする。
後半から明らかに俺への愚痴が始まっていたような気がするが、今は亀なので反論はできない。
一度部屋の外に出た土方が戻ってくる。手にはチラシで作った寺子屋の教本、インク切れのボールペン、短くなった鉛筆を持っている。
まだ続く愚痴を聞いて土方が心配するような視線を向ける。たぶん、土方も似たような事を考えてるんだろう。
「あ、雨が止んでるアル!」
神楽の明るい声に外を見ると、まだ日は差していないが確かに雨が上がっていた。
「買い物行きたいアル!」
「もうおままごとはいいのか?」
「1日中家の中なんて退屈アル!夕ご飯買いに行くネ!」
「銀さんも賛成〜」
動かなかったせいで身体を動かすとバキバキと鳴った。これで亀役も終わりだ、と思い土方を見れば同じように安心したような顔をしていた。慣れない事をして疲れたらしい。
「神楽、何が食いてぇ?」
「肉!!肉がいいアル!!」
「銀時、肉がいいらしいぞ」
「何にすっかなぁ…スーパー行って考えるか」
「エコバッグ持ったヨ!トシは忘れ物ないアルか?」
「おう、大丈夫だ」
「定春、留守番よろしくな〜」
「わん!」
定春は居るが念のため戸締まりをして3人で万事屋の階段を降りていく。
その頃には少しずつ、晴れ間が見えるようになっていた。
「ほら、トシ手繋ぐヨ!」
「こういう時は神楽が真ん中じゃねぇのか?」
「子供は今私の子供アル!だから真ん中に来るのが普通ヨ!」
「え?まだその設定続いてんの?」
「それに、銀ちゃん水虫だから手繋ぎたくないアル」
「えっ!?違うからね!?銀さん水虫じゃねぇから!お願い土方そんな目で見ないで!!」
無事に手を繋ぐのを許して貰え、土方を真ん中にして3人で手を繋いで歩く。
土方はその位置がむず痒いのかなんとも言えない表情をしているが神楽が「子供は目一杯甘えるものヨ」と言われて、腹を括ったらしい。
「あら、神楽ちゃん家族でお出掛けかい?」
「そうアル!一緒にスーパーに買い物に行く所ヨ!」
神楽が笑顔いっぱいに応える。
血の繋がりもなければ、親がわりは男同士だけれどおままごとじゃない本物の家族だと、胸を張って言う。
「あ、新八に飯食いに来るか電話しとくぞ」
「やっべ、アイツ以外と拗ねるからな」
「家族団らんアルな!ねぇ、銀ちゃんとトシはいつ結婚するアルか?」
「土方と俺は好き合ってるけど、法律上男同士は結婚出来ねぇんだよ」
「大丈夫ある。そよちゃんに話したら法律変えるから任せて、って言ってたヨ」
「マジか…明後日、登城でそよ姫様に会う予定なんだが…」
「土方…もう腹括るしかねぇな」
「そよちゃんが結婚式は国を上げてやるって言ってたから楽しみネ!」
「「それはやめて!!!」」
変な形をした愛すべき家族が、国中から祝福を受ける未来もそう遠くはないようだ。
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