こんな花見も悪くない

「銀ちゃん、いいって言うまで帰ってきちゃ駄目アルよ」
「えっ?待って神楽ちゃん??ねぇ、銀さん何かした??」

早朝に叩き起こされるなり、神楽に帰ってくるなと言われ、万事屋から閉め出された。
いや、銀さんまだ着替えてないからね?思い切り寝間着なんだけど。

「もしかして、なんか怒ってたりする?お前のプリン勝手に食った事?俺の下着と一緒に洗濯した事か?それとも、ゲロでマーキングした事か?」

すると、玄関がガラリと開いたのでホッとしたのもつかの間。

「定春」
「アン!」
「ぎゃあああああああ!!!!」

ガブリと頭から噛み付かれ、玄関が閉まる音がして鍵が閉められた。

※※※※※


「で、とりあえずここに来たと」

俺を見る目が「馬鹿じゃねぇの?」と言っている。
逃げ込んだ先は、真選組の副長室。
寝間着でフラフラする訳にも行かないので、ひとまず恋人の所に直行したのである。

「そうなの!ひどくね!?」
「知らん」
「ひどい!土方くんまでっ!」
「俺は仕事中なんだよ!いい加減離れろ!」

文机に向かって書類を作成していた土方の腰に飛び付き、今に至る。

「だって行くとこ、ここしかないしさー。この格好のままな訳にもいかねぇだろ?」
「そりゃそうだが」
「それに、土方くんに会いたかったし」

土方に会うのは実に2週間ぶりだったりする。
本当は新八、神楽と一緒に花見に行こうと計画をしていた。
だが、お互いに仕事になってしまったりとタイミング悪くその日がズルズルと延びた。
花見が出来るのは限られているからと、万事屋と真選組とでそれぞれには行っている。
ようやくお互いの休みが重なりやっと行けると楽しみにしていのだが、当日は土砂降りの雨。
作った弁当を万事屋で食べながら、テレビで桜を見る、というなんとも悲しい花見となってしまった。
しかも、その雨で桜が散ってしまった。休みが重なったのは花見が出来るギリギリの時期であった。全く出来なかった訳ではないのだから今回ばかりは仕方がないね、となった。

「仕事の邪魔すんなよ」
「大丈夫。銀さん後ろでジャンプ読んでっから」
「屯所で読んでいいのはマガジンだけだ」
「へーい」

土方が文机に向き直したのを見て、土方の押し入れに仕舞っていた何週間か前のジャンプと着替えを取り出した。


※※※※※

「トシ、居るかー!」
「なんだ、近藤さん」

時刻も夕方に差し掛かかりそろそろ夕飯だなと思った頃、副長室にゴリラがやって来た。

「トシの今日のお仕事は終了!今から銀時と一緒に万事屋に行きなさい!」
「は?まだ書類終わってねぇんだけど」
「後は俺がやっとくから!二人ともさっさと行った行った!」

あれよあれよという間に、土方から書類は取り上げられる。
これ以上できないようにと、筆まで一緒に取り上げてしまうのだから余程、万事屋に行かせたいらしい。
土方もそこまでされて諦めたのか、大人しくゴリラに従って着流しに着替える。
俺も一緒に、という事は万事屋に帰ってもいいお許しが出たようだ。土方と二人、家に帰るのも悪くない。

※※※※※

「ただいま〜」
「邪魔するぞ」
「銀ちゃん、トシ待ってたヨ!」
「わん!」

玄関を開ければ神楽と定春がお出迎えしてくれた。どこかソワソワしているように見える。

「早くこっちくるネ!」

神楽に手を引かれて土方と二人に応接室を開けると。

「すげぇ…」
「こいつは見事だな…」

応接室の壁一面に桃色の色紙で作られた桜が満開になっていた。

「銀さん、土方さんお帰りなさい」

中央にひかれたブルーシートには新八が紙皿と割り箸、紙コップを用意していた。さらに、5段もある重箱に酒瓶。缶ビールまで。

「お花見行けなかったからな。だったら、ここですればいいアル!」
「お登勢さんに相談したら、重箱やお酒まで用意してくれて。一緒にどうですか、って言ったんですけど今日は自分たちで楽しみな、って。後でお礼言いに行かないとですね」

通りで2人が何やらコソコソしているな、とは思っていたがこの準備をしていたらしい。
壁一面の桜を作るには1日、2日じゃ準備できない。協力してくれたのは、お登勢だけでなく近藤も1枚噛んでいるんだろう。

「よし、じゃあ花見始めますか!」
「「「「かんぱーい!!」」」」

俺と土方は酒を新八と神楽にはジュースをそれぞれ注いだ。重箱を広げれば、おかずがギッシリと詰められている。

「ありがとうな、新八、神楽」
「私、皆とお花見したくて頑張ったネ!」
「おう、すげぇな。こんなに綺麗な桜は初めて見た」
「銀さん、急に追い出されたからてっきり怒ってんのかと思ってたわ」
「私のプリン食べた事も、服を一緒に洗った事も、ゲロ吐いたのも赦してないアル」
「え"っ」
「ゲロを掃除するこっちの身にもなって欲しいですね」
「え"え"っ」
「プリンなら俺が好きなだけ買ってやるよ。掃除機が壊れたって言ってたよな?新しいの買いに行くぞ」
「やったー!トシ大好きネ!こんなマダオはトシには勿体ないアル!」
「ありがとうございます、土方さん!銀さんには勿体ないですよ!」
「そうだなぁ。こんな足の臭ぇマダオはやめておいたほうがいいかなぁ」
「それがいいアル」
「それがいいです」
「ちょっと!土方くん?神楽ちゃん?新八くん?」
「定春もそう思うだろ?」
「わん!」
「定春まで!」

まさかの集中攻撃にガックリと肩を落とす。
甘いはずの桜餅がなんだかしょっぱい。

「でも、そういう所も含めて惚れちまったんだよなぁ」
「土方くん…!!銀さんと結婚しよう!!」
「えー」
「なんで!?」

それから夜中まで騒いだ。下から苦情が来なかったのは気を使ってくれたのだろう。
神楽が大きな欠伸をしたので、お花見はそこでお開き。
客用の布団も引っ張り出して、皆でブルーシートに横になる。
暫くすると、穏やかな寝息が聞こえてきた。
満開の桜の中でゆっくりと目を閉じるのだった。

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