愛しい暴君
「おい。なんでテメェが居るんだ」
「あ?居ちゃ悪ぃか」
目の前でゴロリと横になり、漫画雑誌を読み耽っている土方は特に気にした様子もない。それどころか、ページを捲りながらせんべいをバリバリと食べている。畳には破片が落ちる。気付いているのかいないのか、破片を片付ける素振りはみせず2枚目に手を伸ばす。
久方ぶりに隠れ家に着てみれば土方がいた。綺麗に片付いていた筈のそこは、見る影もない程にぐちゃぐちゃである。
そこら辺にゴミは落ちているし、着流しやは乱雑に置かれ足袋は裏返し。湯飲みや食器は出したままだし、引き出しも開いたまま。
この惨状はどう考えても目の前にいる土方の手によるものだ。隠れ家はいくつかあるが、ここの存在を知っているのは数人の幹部と自分。そして、情人である土方だけだ。その中で訪れるのは自分くらいのものであるから、必然的に犯人は土方となる。目の前の光景を見れば考える必要はないのだが。
それにしてもこの散らかり用はなんだ。たった
1日でここまでなるとは考えにくい。
「非番の度に来てんじゃねぇだろうな?」
「来てるが?」
さも当然のように言い放つ。お互いの立場という物を忘れているのだろうか。
「屯所と私邸はどうした」
「休まらねぇんだよ。総悟に常に命狙ってくるわ、ゴリラの世話もしなきゃならねぇ。ここなら俺とお前しか知らねぇし。それに…」
「それに?」
「汚れんだろ」
「それに」の後を少し溜めるから期待してしまった自分が馬鹿だった。単純に汚れるのが嫌だというのだ。さらにここは汚れてもいいと思っている。
この関係が始まった頃にはもう少ししおらしいというか、罪悪感からかその身を小さくさせていたというのにそれがどうだ。
開き直ったを通り越してふてぶてしい。家主は自分だと言わんばかりである。
縮こまっているよりかはいいが、思っていたのとは違う。結婚したら実はとんでもない恐妻だった、という部下の気持ちが少しわかったような気がした。
痛む頭を抱えて厨に向かう。そこにはそれなりにいい酒が置いてある。やけ酒でもないが酒でも飲まねば気持ちが落ち着かない。ここに土方が来た理由が高杉でなかったから拗ねている、そういうところだ。
流しには食器が何枚か重ねて置かれていた。水に浸けられているだけいい方だろうか。片付ける気は起きないが、土方も片付けるつもりがないだろう。いつも使う物でなく少々いい値段のする食器ばかりなのは確信犯か。
猪口を一応2人分用意して、酒を閉まっている戸棚を開けて取り出した。
それを居間に持って戻ると、土方はチラリとこちらを見るとすぐに雑誌に目線を落とす。
酒は要らないと判断し自分の分だけ酒を注ぐ。
「水じゃねぇか!!」
「くっ…くく…!ひひっ…!」
土方は小刻みに震え、噛み殺した笑い声が聞こえてくる。
やりやがった!一番気に入っていた酒の中身を水に変えられていた。嫌な予感がして厨に戻り置いてある酒を確認すれば、全て水に変えられているではないか。
「土方ァ!!」
怒鳴りながら居間に戻れば耐えきれなかったのか土方が笑い転げている。
「テメェやりやがったな!中身はどうした!」
「あ?中々、美味かったぜ?着物の趣味は悪ぃが酒の趣味はいいよな」
「全部飲むヤツがあるか!」
「いいんだよ。お前の物は俺の物なんだから」
とんでも理論である。いつからジャ◯アンになったのか。少なくとも以前はこんな態度を取る事はなかったように思う。
「まさかここも自分の物だとか思ってねぇだろうなァ?」
「思ってる。お前のなんだから俺のだろ」
「テメェなぁ…」
「だからお前も俺の、な?」
土方の顔が近づいて口唇が重なる。珍しい、と好きにさせていたら畳に倒されていた。
騎乗位の状態で見下ろす土方が舌舐りをする様はなんとも色めかしい。どこでそのスイッチが入ったのか分からないが、とにかく据え膳だ。ありがたく頂くべきだろう。
「固ぇモンが当たってんだけど?」
「据え膳を前にして食わねぇ男がいねぇと思うか?」
「コレ、俺以外に使ったら切り落とすからな」
「肝に命じておく」
妖艶に笑う暴君は本当にやりかねない。
それでも土方を愛しいと思うのは、心がすでにこの男の物になってしまっているからだろう。
「あ?居ちゃ悪ぃか」
目の前でゴロリと横になり、漫画雑誌を読み耽っている土方は特に気にした様子もない。それどころか、ページを捲りながらせんべいをバリバリと食べている。畳には破片が落ちる。気付いているのかいないのか、破片を片付ける素振りはみせず2枚目に手を伸ばす。
久方ぶりに隠れ家に着てみれば土方がいた。綺麗に片付いていた筈のそこは、見る影もない程にぐちゃぐちゃである。
そこら辺にゴミは落ちているし、着流しやは乱雑に置かれ足袋は裏返し。湯飲みや食器は出したままだし、引き出しも開いたまま。
この惨状はどう考えても目の前にいる土方の手によるものだ。隠れ家はいくつかあるが、ここの存在を知っているのは数人の幹部と自分。そして、情人である土方だけだ。その中で訪れるのは自分くらいのものであるから、必然的に犯人は土方となる。目の前の光景を見れば考える必要はないのだが。
それにしてもこの散らかり用はなんだ。たった
1日でここまでなるとは考えにくい。
「非番の度に来てんじゃねぇだろうな?」
「来てるが?」
さも当然のように言い放つ。お互いの立場という物を忘れているのだろうか。
「屯所と私邸はどうした」
「休まらねぇんだよ。総悟に常に命狙ってくるわ、ゴリラの世話もしなきゃならねぇ。ここなら俺とお前しか知らねぇし。それに…」
「それに?」
「汚れんだろ」
「それに」の後を少し溜めるから期待してしまった自分が馬鹿だった。単純に汚れるのが嫌だというのだ。さらにここは汚れてもいいと思っている。
この関係が始まった頃にはもう少ししおらしいというか、罪悪感からかその身を小さくさせていたというのにそれがどうだ。
開き直ったを通り越してふてぶてしい。家主は自分だと言わんばかりである。
縮こまっているよりかはいいが、思っていたのとは違う。結婚したら実はとんでもない恐妻だった、という部下の気持ちが少しわかったような気がした。
痛む頭を抱えて厨に向かう。そこにはそれなりにいい酒が置いてある。やけ酒でもないが酒でも飲まねば気持ちが落ち着かない。ここに土方が来た理由が高杉でなかったから拗ねている、そういうところだ。
流しには食器が何枚か重ねて置かれていた。水に浸けられているだけいい方だろうか。片付ける気は起きないが、土方も片付けるつもりがないだろう。いつも使う物でなく少々いい値段のする食器ばかりなのは確信犯か。
猪口を一応2人分用意して、酒を閉まっている戸棚を開けて取り出した。
それを居間に持って戻ると、土方はチラリとこちらを見るとすぐに雑誌に目線を落とす。
酒は要らないと判断し自分の分だけ酒を注ぐ。
「水じゃねぇか!!」
「くっ…くく…!ひひっ…!」
土方は小刻みに震え、噛み殺した笑い声が聞こえてくる。
やりやがった!一番気に入っていた酒の中身を水に変えられていた。嫌な予感がして厨に戻り置いてある酒を確認すれば、全て水に変えられているではないか。
「土方ァ!!」
怒鳴りながら居間に戻れば耐えきれなかったのか土方が笑い転げている。
「テメェやりやがったな!中身はどうした!」
「あ?中々、美味かったぜ?着物の趣味は悪ぃが酒の趣味はいいよな」
「全部飲むヤツがあるか!」
「いいんだよ。お前の物は俺の物なんだから」
とんでも理論である。いつからジャ◯アンになったのか。少なくとも以前はこんな態度を取る事はなかったように思う。
「まさかここも自分の物だとか思ってねぇだろうなァ?」
「思ってる。お前のなんだから俺のだろ」
「テメェなぁ…」
「だからお前も俺の、な?」
土方の顔が近づいて口唇が重なる。珍しい、と好きにさせていたら畳に倒されていた。
騎乗位の状態で見下ろす土方が舌舐りをする様はなんとも色めかしい。どこでそのスイッチが入ったのか分からないが、とにかく据え膳だ。ありがたく頂くべきだろう。
「固ぇモンが当たってんだけど?」
「据え膳を前にして食わねぇ男がいねぇと思うか?」
「コレ、俺以外に使ったら切り落とすからな」
「肝に命じておく」
妖艶に笑う暴君は本当にやりかねない。
それでも土方を愛しいと思うのは、心がすでにこの男の物になってしまっているからだろう。
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