に○パロ
※アーク……人類が生活している地下都市。人類最後の生存地。
「戦闘終了しました。指揮官様お怪我は?」
「ない。大丈夫だ」
土方が鞘へ刀を戻す音が静かに響き渡った。探索中に天人と交戦する事はよくある。しかし、今回はヒューマノイドとの戦闘が含まれたあった。
「……侵食か」
高杉は見開かれたままの、ヒューマノイドの目蓋をそっと閉じてやる。そして静かに黙祷をした。
通常、天人の戦闘用として開発されたヒューマノイドは人類側に攻撃を行う事はない。だが、天人に侵食されたヒューマノイドは別である。
侵食とは、天人によってヒューマノイドの脳を強制的に乗っ取られた状態である。つまり、人類を攻撃対象とする。侵食後、三時間以内であれば治療は可能だ。しかし、治療は全ての記憶を失う事になる。そもそも、地上で戦闘をしていてそこから三時間以内に治療可能な設備に辿り着くのは奇跡に近い。侵食されたヒューマノイドは、ほぼ殺処分になると思っていい。
侵食されたヒューマノイドによって、部隊が全滅した話は山程ある。ついさっきまで行動を共にしていたのに、次の瞬間には銃口を向けられている。侵食されているからは判別が難しく、唯一の判断材料とすれば「目が赤色に染まる」という事くらいだ。
「侵食を誘発する天人が居る可能性が高いです。指揮官様、ここは一度撤退しては」
「そうだな。他に侵食されたヤツが居るとも限らねぇ」
一度、アークに戻り報告と装備などの補充も行いたい。
「土方、袖が破れているが怪我をしたのか」
「かすり傷です。すぐに修復され、戦闘には問題ありません」
「だが、侵食されたヒューマノイドが居た。あの中に侵食誘発型が居たかもしれねぇ」
「いえ、あの中には確認できませんでした」
「……ならいいんだが」
高杉に不安が過る。侵食はヒューマノイドにとっては死を意味する。もし、土方が侵食されれば高杉は自らの手で殺さなければならなくなる。
「指揮官様。約五キロメートル先に救難信号を確認。救援に向かいますか?」
「わかった。急ごう」
土方に担がれながら救援に向かう。自力で走るよりも、圧倒的に早いからだ。
「救援ありがとうございます!」
片腕を失くしたヒューマノイドが土方に向けて言う。天人の数はそう多くはなかった。土方の刀が天人を両断していく。それまで劣勢だったヒューマノイドたちの勢いが増していった。
「た、助かった……!」
指揮官は新人のようで、ロクに戦術も知らないようだった。これまで量産型のヒューマノイドに全て任せ、物陰から眺めていただけである。
高杉は安全そうな場所に新人を引きずっていく。生き残る方法を身に付けるのも、指揮官の勤めだ。
やがて静かになり周りを確認する。確実に安全であることがわかるまで、気を抜いてはいけない。
ボロボロのヒューマノイドと土方が、ゆっくりとこちらに歩いてくる。生存したと喜ぶべき瞬間である筈なのに、どうにも嫌な予感がする。
「救援ありがとうございます」
「ああ、本当に助かっ……!」
飛び出した新人が倒れた。額から流れる血が地面を赤く染めていく。一方のヒューマノイドの銃口からは静かに硝煙が立ち上る。
「救援ありがとうございます救援ありがとうございます救援ありがとうございます救援ありがとうございます救援ありが」
赤い目をしたヒューマノイドが言葉を繰り返す。初期であればまだ回復は可能だが、これは完全に侵食されている。赤い目は高杉を捉えた。
「土方!」
その一言でヒューマノイドの頭が地面へと転がる。それを追うようにゆっくりと身体が倒れていく。
「助かった」
今度こそ安全であることを確認してから、土方の前へと出る。いつもならを見せてくれるのに、なぜか伏せたままだ
「……いえ、まだ終わっていません」
顔を上げた土方の目は赤く染まっている。
「……うそだ」
「まだ終わっていません。もう一機侵食を受けたヒューマノイドが、ここに」
高杉は目を見開きながら、首を横に振った。いつ、どこで、なぜ、そんなはすがない。
受け入れられない現実にただ否定し首を振る事しか出来ない。一番近くの治療施設は、どう見積もっても三時間では辿り着けない。
この場で土方を救えるのは高杉しかいない。懐に仕舞われた、対ヒューマノイド用の銃。指揮官には、ヒューマノイドを殺す事ができる銃を配布されている。
「もう、時間は僅かです。指揮官様、お願いします。俺が、俺である内に」
土方が戦死したと聞いた絶望と。ヒューマノイドとして再び生を受けた絶望と。また再び失う事になる絶望と。そして、引き金を引くのが高杉であるという絶望。
土方の震える左手が、刀を抜こうとする右手を抑えている。ガチガチと金属の音が鳴り響いていた。
高杉は口唇を噛むと懐に手を伸ばした。震える手が硬く冷たいグリップに触れる。口内は鉄の味がする。
入学試験でも、初めて戦場に立った日にも、土方以外全滅し天人の大群に囲まれた日にも、こんなに手が震えた事はない。
高杉は土方の額に銃口を向ける。射撃の腕前は一番だった。それなのに一向に狙いが定まらない。
突然土方は距離を詰めた。左手は向けられた銃を掴んだ。
「……ここです。指揮官様」
このまま引き金を引く。それだけでいい。
「……できねぇ」
「お願いします、指揮官様。ここで俺を殺してください。そして、地上の奪還を。………お前にしか頼めねぇんだ、高杉」
高杉の叫びが静かな広野に響き渡った。
高杉はもう何時間もその場から動く事が出来なかった。遮蔽物も殆んどないような広野に、ヒューマノイドすら居ない。天人に見つかりでもすれば、一瞬で殺されてしまうだろう。
人間だったなら遺体を連れ帰るなり埋葬するなりできた。しかし、ヒューマノイドの戦闘用ボディはとても生身の人間に運べるような代物ではない。開いたままだった目を閉じて、黙祷を捧げることしかできなかった。
『お前にしか頼めねぇんだ、高杉』
侵食によって失くした記憶が戻ったのだろうか。最期の声と静かに笑った土方の顔が忘れられない。
「……土方」
高杉はただ静かに空を仰いだ。
「戦闘終了しました。指揮官様お怪我は?」
「ない。大丈夫だ」
土方が鞘へ刀を戻す音が静かに響き渡った。探索中に天人と交戦する事はよくある。しかし、今回はヒューマノイドとの戦闘が含まれたあった。
「……侵食か」
高杉は見開かれたままの、ヒューマノイドの目蓋をそっと閉じてやる。そして静かに黙祷をした。
通常、天人の戦闘用として開発されたヒューマノイドは人類側に攻撃を行う事はない。だが、天人に侵食されたヒューマノイドは別である。
侵食とは、天人によってヒューマノイドの脳を強制的に乗っ取られた状態である。つまり、人類を攻撃対象とする。侵食後、三時間以内であれば治療は可能だ。しかし、治療は全ての記憶を失う事になる。そもそも、地上で戦闘をしていてそこから三時間以内に治療可能な設備に辿り着くのは奇跡に近い。侵食されたヒューマノイドは、ほぼ殺処分になると思っていい。
侵食されたヒューマノイドによって、部隊が全滅した話は山程ある。ついさっきまで行動を共にしていたのに、次の瞬間には銃口を向けられている。侵食されているからは判別が難しく、唯一の判断材料とすれば「目が赤色に染まる」という事くらいだ。
「侵食を誘発する天人が居る可能性が高いです。指揮官様、ここは一度撤退しては」
「そうだな。他に侵食されたヤツが居るとも限らねぇ」
一度、アークに戻り報告と装備などの補充も行いたい。
「土方、袖が破れているが怪我をしたのか」
「かすり傷です。すぐに修復され、戦闘には問題ありません」
「だが、侵食されたヒューマノイドが居た。あの中に侵食誘発型が居たかもしれねぇ」
「いえ、あの中には確認できませんでした」
「……ならいいんだが」
高杉に不安が過る。侵食はヒューマノイドにとっては死を意味する。もし、土方が侵食されれば高杉は自らの手で殺さなければならなくなる。
「指揮官様。約五キロメートル先に救難信号を確認。救援に向かいますか?」
「わかった。急ごう」
土方に担がれながら救援に向かう。自力で走るよりも、圧倒的に早いからだ。
「救援ありがとうございます!」
片腕を失くしたヒューマノイドが土方に向けて言う。天人の数はそう多くはなかった。土方の刀が天人を両断していく。それまで劣勢だったヒューマノイドたちの勢いが増していった。
「た、助かった……!」
指揮官は新人のようで、ロクに戦術も知らないようだった。これまで量産型のヒューマノイドに全て任せ、物陰から眺めていただけである。
高杉は安全そうな場所に新人を引きずっていく。生き残る方法を身に付けるのも、指揮官の勤めだ。
やがて静かになり周りを確認する。確実に安全であることがわかるまで、気を抜いてはいけない。
ボロボロのヒューマノイドと土方が、ゆっくりとこちらに歩いてくる。生存したと喜ぶべき瞬間である筈なのに、どうにも嫌な予感がする。
「救援ありがとうございます」
「ああ、本当に助かっ……!」
飛び出した新人が倒れた。額から流れる血が地面を赤く染めていく。一方のヒューマノイドの銃口からは静かに硝煙が立ち上る。
「救援ありがとうございます救援ありがとうございます救援ありがとうございます救援ありがとうございます救援ありが」
赤い目をしたヒューマノイドが言葉を繰り返す。初期であればまだ回復は可能だが、これは完全に侵食されている。赤い目は高杉を捉えた。
「土方!」
その一言でヒューマノイドの頭が地面へと転がる。それを追うようにゆっくりと身体が倒れていく。
「助かった」
今度こそ安全であることを確認してから、土方の前へと出る。いつもならを見せてくれるのに、なぜか伏せたままだ
「……いえ、まだ終わっていません」
顔を上げた土方の目は赤く染まっている。
「……うそだ」
「まだ終わっていません。もう一機侵食を受けたヒューマノイドが、ここに」
高杉は目を見開きながら、首を横に振った。いつ、どこで、なぜ、そんなはすがない。
受け入れられない現実にただ否定し首を振る事しか出来ない。一番近くの治療施設は、どう見積もっても三時間では辿り着けない。
この場で土方を救えるのは高杉しかいない。懐に仕舞われた、対ヒューマノイド用の銃。指揮官には、ヒューマノイドを殺す事ができる銃を配布されている。
「もう、時間は僅かです。指揮官様、お願いします。俺が、俺である内に」
土方が戦死したと聞いた絶望と。ヒューマノイドとして再び生を受けた絶望と。また再び失う事になる絶望と。そして、引き金を引くのが高杉であるという絶望。
土方の震える左手が、刀を抜こうとする右手を抑えている。ガチガチと金属の音が鳴り響いていた。
高杉は口唇を噛むと懐に手を伸ばした。震える手が硬く冷たいグリップに触れる。口内は鉄の味がする。
入学試験でも、初めて戦場に立った日にも、土方以外全滅し天人の大群に囲まれた日にも、こんなに手が震えた事はない。
高杉は土方の額に銃口を向ける。射撃の腕前は一番だった。それなのに一向に狙いが定まらない。
突然土方は距離を詰めた。左手は向けられた銃を掴んだ。
「……ここです。指揮官様」
このまま引き金を引く。それだけでいい。
「……できねぇ」
「お願いします、指揮官様。ここで俺を殺してください。そして、地上の奪還を。………お前にしか頼めねぇんだ、高杉」
高杉の叫びが静かな広野に響き渡った。
高杉はもう何時間もその場から動く事が出来なかった。遮蔽物も殆んどないような広野に、ヒューマノイドすら居ない。天人に見つかりでもすれば、一瞬で殺されてしまうだろう。
人間だったなら遺体を連れ帰るなり埋葬するなりできた。しかし、ヒューマノイドの戦闘用ボディはとても生身の人間に運べるような代物ではない。開いたままだった目を閉じて、黙祷を捧げることしかできなかった。
『お前にしか頼めねぇんだ、高杉』
侵食によって失くした記憶が戻ったのだろうか。最期の声と静かに笑った土方の顔が忘れられない。
「……土方」
高杉はただ静かに空を仰いだ。
2/2ページ
