に○パロ

※某ソシャゲのパロです。
調べてはいますが、元ネタには男性型は存在していないので、初っぱなからご都合展開です。というか世界観をお借りしただけの、ほぼご都合展開だと思ってください。 
なんでも許せる人向け



 数百年前、突如として現れた「天人」により地上は瞬く間に占拠された。人口が約10分の1程度になった人類は、地下へと逃れ地上を奪還しようと抵抗し続けている。
 地下に暮らす人間は、人工の太陽と雨に打たれ、完璧な栄養素を練り込まれた食品を口にする。すでに本物の太陽を知らぬ子らが、生活する程の時間を人類は地下で過ごしていた。
 人類は科学の力を結集させ「天人」に抵抗するための人型の兵器―――ヒューマノイドを産み出した。容姿は人間そのもので、むしろ言われなければ見分けがつかない。しかし、中身は兵器である。見た目が可憐な少女であっても2トンもするような重火器を軽々と担ぎ上げ、戦場へと赴く。脳と心臓にあるコアの機能が失われなければ、手足が捥がれても新しい身体で再び戦場へと向かう。
 そうして人類は抵抗し続けている。だが、奪還したとされる地上はまだ1坪にもみたないと言われていた。
 

「指揮官様。おはようございます」
「ああ、おはよう。もうそんな時間か」
 高杉は「ありがとう」と声をかけた。それは起こしてくれた事への感謝でもあり、夜通し見張りをしていてくれた事へでもある。それに、高杉のヒューマノイドである土方は「大丈夫です。それより、よく眠れましたか」と答えた。
 ヒューマノイドに疲労や痛覚の概念はない。あれば戦闘に支障が出る。逆に感情や性格の違いはある。それは、元々ヒューマノイドが人間であったからだろう。
 土方から淹れたばかりのコーヒーを受け取った。人工的に作られたコーヒーが美味いのかは、本物のコーヒーの味を知らないから分からない。地下で生産される食料は全て同じだ。それを加工して、それまで人類が食べていた物を模倣しているに過ぎない。
 同じように土方もコーヒーに口をつけた。ヒューマノイドに食事や睡眠は不要であるが、これらは精神面を整える為に必要な行為である。
 カップに入った黒い液体。ブラックであるから、当然砂糖もミルクも入ってはいない。それは土方も同じだが、どうしても胸が痛んでしまう。彼の食事に何も入らないはずがないからだ。
 
※※※※※

「高杉!また、サボってんのかよ」
「あぁ?あんな講義受けてどうすんだよ」
 何百倍という倍率を勝ち抜き合格した士官学校は、蓋を開けてみれば精神的な講義ばかり。期間も一年もなく、戦場に放り出されまともな指揮をとる事も出来ず大半が死んでいる。
 優等生で真面目な土方は何故か不真面目な高杉をよく気にかけた。一方の高杉も土方の事は気に入っていたくらいだ。いつの間にか一緒に居る時間が増え、高杉の気持ちが徐々に土方へと傾いていくのにそう時間はかからなかった。
 二人とも士官学校を卒業し、即戦場へと送り込まれた。それぞれにヒューマノイドを与えられ、それぞれの戦場へと赴いた。
 新人の指揮官が無事に帰還する確率は極めて低い。五体満足で帰還しても、目の当たりにした現実に耐えられず自死する者もいる。
 そんな現実の中で、高杉と土方は生きて帰還した。ヒューマノイドも自身も大怪我を負ったが、どうにか戦果を上げた。2人仲良く病院のベッドで隣になった時には流石に笑ってしまったが。
「食うか?土方スペシャル」
「いらねぇ」
 こっそりとヒューマノイドに持ってきて貰ったマヨネーズ。病院食にかけている様子をげんなりとした顔で高杉は見ていた。見慣れた光景ではあるが、やはり一度も美味しそうとは思えなかった。だが、包帯以外は元気そうなので喜ばしい事である。
 1ヶ月と半分で退院しまた戦場へと向かった。次もまた2人とも生還し、自室で小さな祝勝会を開いた。
 上層部からも新人が生きて帰ってきた事で、それなりに注目されるようになった。小さな戦果であれ、情報や資源は貴重な物である。与えられる任務も徐々に難しく危険度が増していくようになった。
 毎回、命からがらで帰って来ている。だが、なんとなく土方と自分は上手くいくんじゃないかとどこかで油断をしていた。
 
※※※※※

「初めまして、指揮官様。本日より着任しました、土方十四郎です。よろしくお願い致します」
 長期任務から帰還し、久しぶりに再会した土方は土方ではなかった。指揮官の制服ではなく、黒黒字に金縁の初めてみる格好だった。
 そこで副司令から聞かされたのは、土方の事実上の戦死である。
 では目の前に居る土方は何者なのか。答えはヒューマノイドである。
 土方は任務中、天人の奇襲を受け重症を負った。彼のヒューマノイドたちはどうにか土方を地下まで連れ帰ったが、ほぼ手遅れと言ってもいい状態であった。助かる道はただ一つ。脳髄を移植し、ヒューマノイドとして生かされる事。
 それを土方は了承した。上層部としても経験のある指揮官を失うのは惜しい。そこにヒューマノイドとしての戦闘力も加われば鬼に金棒と言ったところか。
 幸いにも土方は適合したらしい。さらに適正の高い特化型のようだ。適合できず発狂する者も居れば、適合しても量産型と呼ばれる消耗品のような存在になる者もいる。
 しかし、不要な記憶は消去されている。ヒューマノイド化する際に脳と身体の不一致による混乱を防ぐ為である。特化型の中には記憶を保持している者もいるが、そこまでは高望みとしか言いようがない。
 あまりに酷ではないか。「どうして俺なのか」と無表情な上官の胸ぐらを掴み声を荒げてしまった。
「彼の指揮官が戦死し、着任できるのが君以外居なかった」
 淡々と告げられた言葉。戦場で一人のヒューマノイドを失った高杉と、一人の指揮官を失った土方。その二人がタイミングよく帰還した。たまたま、偶然。ただそれだけの理由で。
「承知しました」 
 拒否権はあってないような物、と心得ている。だが、土方を自分以外の指揮官に渡すなど絶対に許せなかった。
 

※※※※※

「そろそろ出るぞ」
「承知しました。現在、周辺に天人の気配はありません。任務を遂行します」
 手早く準備を整える。あまり長居をすると天人に遭遇する確率がはね上がってしまう。
 土方の腰にはヒューマノイドには珍しく刀が下げられている。天人の侵攻初期には近接部隊も居たが、重火器による遠距離攻撃の方が有効とされ現在は生産されていない。
 土方は戦場に赴く時、必ず刀を持っていた。時代遅れのアンティークとも言われたそれを磨きあげ大事そうにしていた。
 天人の奇襲を受け、地下に運ばれた時。折れた刀を握りしめていたそうだ。そういう理由なのか、気紛れなのか。土方には近接武器を与えられる事になった。
 その日を境に死に物狂いで任務を遂行した。何人ものヒューマノイドが破壊された。完治に何ヵ月もかかるような怪我を負っても、戦場へと向かった。まるで狂人だと、量産型のように心を失くしたと指を指されても。
 そうしてようやく手に入れた特権。土方とただ二人で地上へと上がり、誰にも邪魔をされる事なく与えられた任務を遂行する。
 異端児のような扱いもされるが、地上には天人の侵攻初期から存在する、最早おとぎ話のようなヒューマノイドたちも居る。それの人間版とでも考えればいいだけだ。
「5km先に天人の反応があります。迎撃しますか?」
「数は?」
「10体ほど」
「いけるか?」
「いけます。エンカウンター」
 土方が戦闘態勢に入る。先制攻撃と振るった刀から放たれた衝撃波が2体の天人を捕らえた。
 約1分後に交戦状態になった。天人の銃弾の雨を土方の衝撃波が切り裂く。軽々と振るわれる刀はとても人間が持てるような重さではない。それを片手で振り回すのだから、彼が人間ではない事を物語っている。
「戦闘終了しました。お怪我はありませんか、指揮官様」
「ああ、大丈夫だ。お前こそ問題ないか」
「ありがとうございます。問題ありません」
 問題ない、と返ってきたが頬に小さな傷が出来ているのが見えた。銃弾が頬を掠めたのだろう。 
 ヒューマノイドには自己修復機能がある。この程度の傷であれば、数分も経てば跡形もなく消えてしまう。
「……あっ、指揮官…様っ…」
 労るようにその傷に触れた。人工的に作られた人間と同じような肌。その下には人工的に作られた骨格や内臓が詰まっている。
 声も顔も身体もクソ真面目な性格も土方そのものなのに、目の前に居るのは土方ではない。
「痛くないか?」
「……痛覚は遮断していますので。……でも」
「でも?」
「でも、許されるならもう少しこのまま」
 頬に触れる指先に土方の手が重なった。体温のように暖かいが機械から発せられる熱に過ぎない。
「……指揮官様。なぜか、あなたに触れられると…嬉しくて堪らないのです」
 迷子のような目で土方が高杉を見た。土方の目にはどこか寂しそうな高杉の顔が映っている。
「……俺も嬉しいよ。土方」
 そう返すと高杉は静かに目を閉じた。 

 
 

 
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