教師×生徒

 おはよう、父さん母さん。今日は報告があります。こうして毎日話してるのになんだろう緊張してしまうな。
 俺はこの家を出る事になりました。春から先生と一緒に暮らします。卒業したからもう先生じゃねぇんだけど、癖になっててつい先生って呼んじゃうんだよな。本当は名前で呼べたらって思うけどやっぱりちょっと恥ずかしくて…先生は気にしないって言ってくれてるけど、総悟が「愛想尽かされますぜ」とか言うし…
 先生と初めて会った時、まさかこんな風になると思わなかった。初対面でめちゃくちゃ睨んできたと思ったら、訳の分からないポエム言われるし。急に動かなくなって呼吸止まったり、鼻をよく抑えてて鼻貴族のボックスティッシュを持ち歩くようになったり、何もない空間に喋ったりと、言動に奇行が多くて一時期残念なイケメンとか奇行種とか呼ばれてたのは秘密です。
 絶対に関り合いになるものかと必死に逃げたけどいつの間にか捕まっていました。先生は今も時々変な時があるけど、本当は優しい人でした。格好いいけど可愛い所もあって今では大好きな人です。先生に「好きだ」と言われた日を俺は一生忘れません。
 少し前に「一緒に暮らさないか?」と言われました。俺はその言葉だけで嬉しかったけど「家族になりたい」と言われて気が付いたら泣いていました。
 でも俺を育ててくれた義兄さんと義姉さんの事もあるし、すぐには決められなかった。先生と一緒に暮らしたいっていう気持ちと、大好きな家から離れたくない気持ち。両方合ってどうしたらいいんだろうって分からなくなって、ぐちゃぐちゃになってしまった。
 そうしたら先生が落ち着いてゆっくり考えようって、ココアを淹れてくれた。そしたら少し落ち着いてきて、ポツポツと言葉…殆ど単語だったけどそれを全部拾い上げてくれた。そうしたら分からなかった気持ちが分かって先生は凄いなって。それで先生と暮らすって結論を出した。義兄さんたちと今生の別れでもないし、俺と暮らしたからって家族じゃなくなる訳じゃないだろ?って先生が言った。
 俺を引き取って育ててくれた義兄さんと義姉さん。突然転がりこんできたのに笑顔で迎えてくれた二人。それなのに自分の身勝手でこの家を出るのが申し訳なく思えた。
「それは義兄さんたちが言ったのか?」
 違う、と首を振った。
「お前の義兄夫婦や両親が望む事は、お前が幸せになる事だろう?」
 寂しがるかもしれないけれどそれを怒るような事はしない。それはお前の心の声だ。その声は聞かなくていい。そう言って抱き締めて頭を撫でてくれた。すると魔法みたいにそんな事を言う俺の中の俺はどこかに消えていった。
「今度、挨拶に行こう。一度"娘さんを俺にくたざい"っていうのをやってみたかったからな」
「なんだよそれ。先生殴られるかもな」
「殴られるくらい平気だな。何回包丁向けられたと思ってんだ」
 自慢気に言う先生に「この人職業間違えてるよな」って思ったけど、先生が先生でよかった。
 義兄さんたちに話すってなった。付き合ってるっていうのは言ってあるけど、やっぱり緊張した。俺から話すって言ったのに直前になると震えた手を先生はぎゅっと握ってくれた。
 先生と暮らしたいと言うと義兄夫婦は笑って頷いてくれた。義兄さんが先生に「よろしく頼みます」って頭を下げたら「勿論です。必ず幸せにします」って先生も頭を下げた。
「トシはこれから先もずっと俺たちの家族だからな」
 まるで心の内を見透かされたように義兄が言う。その言葉に涙が溢れて止まらなかった。血の繋がりはないけれど、義兄さんたちの子供に家族になれて本当によかったと思う。
 俺、二十歳になったよ。小さな頃に父さんと母さんが居なくなって、その意味が分かった時には毎日のように泣いて義兄さんと義姉さんを困らせてしまった。どうして俺だけ置いていったの?俺も一緒に行きたかったって、言って泣かせてしまった日もあった。
 父さん、母さん。俺を産んでくれてありがとう。義兄さんと義姉さんと出会えて、先生にも出会えた。
 ああ、先生が迎えに来てしまったからこの続きは成人式の後にするね。それじゃあ、行ってきます!


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