猫(鴨土) 土総受けワンライ

 俺はさすらいの猫。一つの場所に留まらず、雲のように気ままに旅をしている。


◯月✕日
 エサを探してあちこち歩いていたら、たくさんの猫が暮らしている家を見つけた。みんな黒い毛のようだ。

◯月✕日
 隙間から中に入った。広々とした庭があり、陽当たりもよい。黒い毛の猫たちには気付かれなかった。

◯月✕日
 ここには水場がある。気をつけよう。この家の猫が一匹落ちていたが、水は平気らしい。

◯月✕日
 庭でこの家の黒い猫と目があった。急いで逃げたが、追ってくる気配はない。

◯月✕日
 黒い猫たちが俺を探しているらしい。一匹の猫が俺にご飯を差し出した。咥えて逃げる。

◯月✕日
 黒い猫たちに囲まれた。だが、みんな俺にご飯を差し出してくる。みんないいやつ。

◯月✕日
 すっかりこの家にも慣れた。散歩から戻ってくると、みんなしてご飯を差しだしてくる。ここの猫たちは狩りが上手いみたいだ。これだけ多いのだから、狩りができなければ飢えてしまう。ちゃんとしてる証拠だ。

◯月✕日
 目つきの鋭い猫が、俺のエサに白い何かをかけやがった!毒かもしれない。一旦逃げる。

◯月✕日
 前足のない猫がいた。狩りが出来るか心配だ。他の猫がご飯を持ってきていた。助け合いの出来るいい関係性のようだ。

◯月✕日
 地味な猫と遭遇。猫じゃない動物もいた。あれはゴリラとか言う動物らしい。

◯月✕日
 ゴリラが目つきの鋭い猫にパンチされていた。目つきの鋭いヤツがここのボスだろう。先日の白い何かも、よそ者を警戒してのことかもしれない。ボスは群れを守る義務がある。

◯月✕日
 前足のない猫が、目つきの鋭い猫と喧嘩していた。群れの方針を決めるのに必要だから仕方ない。
 ご飯を食べたあと前足のない猫が「こんなつもりじゃなかったのに」と言っていた。その後、目つきの鋭い猫にまた白い何かをすすめられた。恐る恐る食べてみる。やっぱり毒かもしれない。
 目つきの鋭い猫も「こんなつもりじゃなかったのに」と言っていた。

◯月✕日
 勘のいい俺は気が付いた。前足のない猫は、好きな雌猫がいるようだ。俺は各地の雌猫とニャンニャンしてきたその道のプロだ。任せておけ。

◯月✕日
 勘のいい俺はさらに気が付いた。目つきの鋭い猫も、好きな雌猫がいるようだ。同じ群れの中に居るのか。それとも外か。まずは集会で情報収集しよう。

◯月✕日
 やめろ!!ニ゛ャアアアアアアアアアアン!!
 ……地味な猫に洗われた。

◯月✕日
 どうやら前足のない猫と、目つきの鋭い猫は好きあっているらしい。俺と二匹だけになると、相手をどう思っているか話しかけてくる。恋愛相談は得意分野だ安心しろよ、恋愛経験の浅い子猫ちゃんたち。
 ただ二匹は、お互い素直になれないようだ。わかるぜ、俺も。これが発情期なのか本物の恋なのか分からねぇよな。
 ……性別?おいおい、俺のような今どきの猫は「こんぷらいあんす」にも配慮できるんだぜ。

◯月✕日
 前足のない猫が俺を追ってくる。よおしいいぞ。そのまま、付いてこい!
 ちゃんと伝えなきゃ意味がないぜ。代わりに俺が渡してやるよ。




 
「待て!待つんだ!」
 伊東は、すいすい走る猫を追いかけていた。その猫が、渡すつもりのない手紙を咥えて走り出してしまった。
 少し前から、屯所に現れた野良猫である。よく隊士にご飯を貰ったり、遊んでもらっているところを見かけた。人懐っこいのか、伊東のところにも遊びに来て、ゴロゴロして帰っていく。素直に撫でさせてもくれる。
「素直になってくれれば……いや、それは僕も同じか」
 最初から素直に、自分の心に気づいていれば。もっと違う未来があったのだろう。真選組を分断し、多くの犠牲を払った。
 死をもって償うべき自分をもう一度拾いあげたのは、一番大嫌いな相手「だった」
 一度死んで、もう一度生を受けた時、そこにあったのは恋である。
 人を好きになる資格などないのに、それでも明確に自分の心は変わってしまっていた。
 とんでもなく運が悪い。猫を追いかけていると、ちょうど角から土方が歩いてくる。猫も伊東もそれなりのスピードで走っていて、そのまま土方に追突した。
「伊東!テメェ廊下走ってんじゃねぇよ!」
「君こそ、ぼーっと歩いてるからじゃないか!」
 ああ"こんなつもりじゃなかった"いつもそうだ。感謝して好意も寄せているというのに、たったの一ミリも素直になれはしない。
「あん?こりゃ……手紙か……?」
 ぶつかった時に宙に舞った手紙が、土方の顔の前に落ちる。普通は中身など見ないが、これは流石に不可抗力だ。誰も悪くない。悪いのは伊東の運である。
 宛名がなくとも、誰がどう見ても恋文である。それが伊東の筆跡だと、土方は確実に分かるだろう。
 土方は怒るだろうか、それとも軽蔑するだろうか。人を好きになる資格のない人間が、恋文などしたためたのかと。
「……お前好きなヤツいるのか」
 小さな声は聞き間違いかと思った。土方の顔は曇り、しまったと口元を抑えている。こんな時に何と言えばいいのか。
「ニャア」
 猫が鳴いた。まるで「今だ」とでも言うように。
「か、勘違いするなよ!?それは君に宛てたものだからな!?」
「え……?あ……え……?」 
 何を言っているのだ。もっとマシなことが言えなかったのか。自分でも意味が分からない。これなら最初から素直に言った方が何倍もよかった。
 ただ、予想に反して土方の耳は赤く染まっている。
 猫は二人を置いて庭の方に歩いていった。
「ニャア」
 振り返って一声鳴いた。
  
 


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