夏 土総受けワンライ
屯所に一通の小包が届いた。毎日何かしら届くその中に、土方宛の荷物があった。
幕臣の中には真選組、というより土方を気に入った酔狂な者が少なからず居る。純粋な好意や不純な動機であったり。とにかく、土方に気に入られたいと物品を送りつけてくる。
丁重にお断りしても大丈夫だからと、聞く耳を持たない。くだらない物を買う金があるなら、予算に回してはくれないか。結局、こちらが怒られるのだから全く大丈夫ではないのだ。
基本的に食品は捨て、物品はいくらか溜まった所で然るべき所に寄付をしている。辟易しながらも土方は一つ一つ中身を確認しては仕分けして、一筆したためる。定型文だが送らないよりはマシ。とりあえずご機嫌はとっておくに越した事はない。
荷物の中に浴衣が入っていた。緑色の黒の縞の入った物だ。メッセージが添えられた手紙と嗅ぎ慣れた匂い。差出人はいつも聞いた事のない名前だ。ご丁寧に名前を変えてくるのは、暇なのであろうか。それを土方は押し入れにそっと隠すと、作業を再開した。
京まで出ると、やはり雰囲気はガラリと変わる。話し方、着物の柄に風景。どれを取っても江戸とは違い、新鮮に感じた。
指定された宿に向かうと、支払いは済んでおりそのまま部屋へ案内される。広い洋室には清潔そうな大きなベッドやテレビが置かれている。あまり洋室は好まないが、キャンセルという訳にはいかない。荷物を下ろすと、中から浴衣を取り出した。
ぴったりで怖い。以前着物を仕立てられたから、その時の情報が残っていたのかもしれないが。
浴室の鏡は無駄に大きく股下くらいまでは十分に映った。悪くない、自然とそんな感想が出た。
ロビーに戻ると、浴衣を着た客がちらほらと見える。みな今日の祭りを目的に来たのだろう。浴衣の貸し出しと着付けのサービスもやっているようだ。旅行客からすればありがたいサービスだ。
一歩外に出れば夏の熱く湿った空気を感じた。日は落ちてきたが、まだじわりと汗をかく程には暑い。
目的地に着いた。初めての場所であったが、浴衣の人間に着いていくだけでよかった。多少キョロキョロしたところで、皆似たような動きをしている。誰も気にする者はいなかった。
屋台の明かりが煌々と輝いている。人の声と祭囃子がそこら中から聞こえていた。いつもなら、制服で眉間に皺を寄せながらこの景色を見ていた。しかし、今日は祭り客で誰も土方という人間を知る事はない。
約束までまだ時間がある。少し腹に入れてこいともあった。暫く歩き回っても怒られやしないだろう。わざわざ出向いてやったのだから、少しくらい待たせるくらいがちょうど良い。
のんびりと祭りを一周し、河の方へと向かう。そこには何隻か屋形船が浮かんでいた。ゆったりと祭りを眺めるにはもってこいだろう。
「遅ぇぞ」
「わざわざ来てやったじゃねぇか。それに五分程度だろ」
まだ岸を離れていない一隻の屋形船に近づくと、不満そうな高杉が現れた。いつもの派手な着物ではなく、こちらもシンプルな浴衣だった。
珍しさにジッと見ていると、機嫌が直ったのか手を差し出してきた。女じゃあるまいし、そんな事をせずとも思ったが素直に手を取ろうとした。
ドン!と最初の花火が咲いた。闇夜に大輪の花と人の歓声が上がる。
「テメェが遅れるから始まっちまったろうが」
「そりゃあ悪かったなァ」
悪びれもせずに言う。その間にも花火は次々に上がり続けている。
ゆっくりと屋形船は岸を離れた。明かりは絞られているが、十分に花火と景色は楽しめる。河に光が反射してきらきらと輝いて見えた。
用意されていた酒を静かに傾けた。会話はないがこの時間は嫌いではない。ただ、花火と人の歓声だけが聞こえてくる。
最後に大輪の花火が夜空を飾った。自然と拍手が起きて、また祭りの喧騒へと戻る。
花火が終わると、どうしようもない寂しさに襲われる。一瞬だけの刹那を切り取ったような美しさ。それは人生や二人の不毛な関係のようにも思えて。
無言のまま肌が重なるのは必然だった。次第に小さくなっていく喧騒の中で、船に暑い息使いと湿った音だけが響く。
睦言もなく埋まることのない寂しさを埋めようと、互いを求めた。熱が近付けば近付く程に、寂しさが身の内に積もっていく。
花火であれば消えた後にも何かが残るのに。この関係は何も生まないし、残りもしない。
それでも離れられないのは、なぜだろうか。その答えを出す事を土方は放棄した。
幕臣の中には真選組、というより土方を気に入った酔狂な者が少なからず居る。純粋な好意や不純な動機であったり。とにかく、土方に気に入られたいと物品を送りつけてくる。
丁重にお断りしても大丈夫だからと、聞く耳を持たない。くだらない物を買う金があるなら、予算に回してはくれないか。結局、こちらが怒られるのだから全く大丈夫ではないのだ。
基本的に食品は捨て、物品はいくらか溜まった所で然るべき所に寄付をしている。辟易しながらも土方は一つ一つ中身を確認しては仕分けして、一筆したためる。定型文だが送らないよりはマシ。とりあえずご機嫌はとっておくに越した事はない。
荷物の中に浴衣が入っていた。緑色の黒の縞の入った物だ。メッセージが添えられた手紙と嗅ぎ慣れた匂い。差出人はいつも聞いた事のない名前だ。ご丁寧に名前を変えてくるのは、暇なのであろうか。それを土方は押し入れにそっと隠すと、作業を再開した。
京まで出ると、やはり雰囲気はガラリと変わる。話し方、着物の柄に風景。どれを取っても江戸とは違い、新鮮に感じた。
指定された宿に向かうと、支払いは済んでおりそのまま部屋へ案内される。広い洋室には清潔そうな大きなベッドやテレビが置かれている。あまり洋室は好まないが、キャンセルという訳にはいかない。荷物を下ろすと、中から浴衣を取り出した。
ぴったりで怖い。以前着物を仕立てられたから、その時の情報が残っていたのかもしれないが。
浴室の鏡は無駄に大きく股下くらいまでは十分に映った。悪くない、自然とそんな感想が出た。
ロビーに戻ると、浴衣を着た客がちらほらと見える。みな今日の祭りを目的に来たのだろう。浴衣の貸し出しと着付けのサービスもやっているようだ。旅行客からすればありがたいサービスだ。
一歩外に出れば夏の熱く湿った空気を感じた。日は落ちてきたが、まだじわりと汗をかく程には暑い。
目的地に着いた。初めての場所であったが、浴衣の人間に着いていくだけでよかった。多少キョロキョロしたところで、皆似たような動きをしている。誰も気にする者はいなかった。
屋台の明かりが煌々と輝いている。人の声と祭囃子がそこら中から聞こえていた。いつもなら、制服で眉間に皺を寄せながらこの景色を見ていた。しかし、今日は祭り客で誰も土方という人間を知る事はない。
約束までまだ時間がある。少し腹に入れてこいともあった。暫く歩き回っても怒られやしないだろう。わざわざ出向いてやったのだから、少しくらい待たせるくらいがちょうど良い。
のんびりと祭りを一周し、河の方へと向かう。そこには何隻か屋形船が浮かんでいた。ゆったりと祭りを眺めるにはもってこいだろう。
「遅ぇぞ」
「わざわざ来てやったじゃねぇか。それに五分程度だろ」
まだ岸を離れていない一隻の屋形船に近づくと、不満そうな高杉が現れた。いつもの派手な着物ではなく、こちらもシンプルな浴衣だった。
珍しさにジッと見ていると、機嫌が直ったのか手を差し出してきた。女じゃあるまいし、そんな事をせずとも思ったが素直に手を取ろうとした。
ドン!と最初の花火が咲いた。闇夜に大輪の花と人の歓声が上がる。
「テメェが遅れるから始まっちまったろうが」
「そりゃあ悪かったなァ」
悪びれもせずに言う。その間にも花火は次々に上がり続けている。
ゆっくりと屋形船は岸を離れた。明かりは絞られているが、十分に花火と景色は楽しめる。河に光が反射してきらきらと輝いて見えた。
用意されていた酒を静かに傾けた。会話はないがこの時間は嫌いではない。ただ、花火と人の歓声だけが聞こえてくる。
最後に大輪の花火が夜空を飾った。自然と拍手が起きて、また祭りの喧騒へと戻る。
花火が終わると、どうしようもない寂しさに襲われる。一瞬だけの刹那を切り取ったような美しさ。それは人生や二人の不毛な関係のようにも思えて。
無言のまま肌が重なるのは必然だった。次第に小さくなっていく喧騒の中で、船に暑い息使いと湿った音だけが響く。
睦言もなく埋まることのない寂しさを埋めようと、互いを求めた。熱が近付けば近付く程に、寂しさが身の内に積もっていく。
花火であれば消えた後にも何かが残るのに。この関係は何も生まないし、残りもしない。
それでも離れられないのは、なぜだろうか。その答えを出す事を土方は放棄した。
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