夏 土総受けワンライ
夏。夏と言えば学生にとっての一大イベント夏休みである。煩わしい学校から解放され、自由な時間を手に入れる。宿題はあれど、部活やバイトに打ち込んだり、友達と遊んでハメを外してみたりと様々だ。寝坊しても怒られない、大嫌いな先生の顔を見なくてもいい最高な時間である。
「……で、なんで俺ん家来んの?」
土方の目の前にはベッドに腰掛けた高杉が居る。昨日終業式が終わり、学校は夏休みになった。とはいえ、教師である土方に休みはない。普通に出勤しなければならないのだが、朝から一つ問題が起きた。
インターフォンが鳴り玄関を開けると高杉が立っていたのだ。「よォ」といつもと変わらぬ涼しげな表情で。驚き固まっている隙に高杉はスルリと中に入った。そのまま土方の寝室に迷う事なく向かったのである。
「夏休みになっちまったからアンタの顔見えねぇだろ」
「意味がわからねぇ……普通は学校行かなくてラッキー!とか教師の顔見なくて清々する!とかだろ!?」
少なくとも土方はそうだった。部活や友達と会えるのはいいが、勉強が好きという訳でもなかった。口煩い教師は嫌いだったし、ちょっとグレた時期もあった。
「俺はアンタに会えないのが寂しいからなァ」
「いやでもな?せっかくの夏休みなんだから、どこかに遊びに行くとか、バイトするとかあるだろ?」
「だからアンタの家に遊びに来てんだろうが。バイトする程金に困っちゃいねぇし」
高杉はいわゆるボンボンである。働かなくてもいいくらいの資産はあるし、一人暮らしさせて貰うくらいの余裕はある。それに、高杉は今までに何度か土方の家に(押し切られる形で)遊びに来た事もある。
「おい!待て!何、荷物を取り出してんだ!」
「課題しなきゃならねぇからなァ。そろそろ出勤しなきゃ間に合わねぇんじゃねぇか?」
時計を見ればもう家を出なければならない時間だ。ここまで把握されているのも少々怖い。
「あああああ!クソっ!お前、絶対に変な事するなよ!課題終わったら帰れよ!いいな!?」
短時間では高杉の説得は難しいと判断し、土方は家を出る事にした。早朝から訪ねてくる辺り、それも計算ずくなのだろう。
「おー」
気のない返事に「絶対帰らねぇな」と思いながらドアを閉めた。
「おかえり」
玄関を開けるとやっぱり高杉は居た。しかし、説得する時間は朝よりもある。どうにか帰って貰いたい。
「えっ。なんだこれ……」
テーブルの上には夕食が並んでいた。土方は基本的に自炊をしない。外食かカップ麺などで済ませてしまう。帰宅して夕食が並ぶ光景など、実家に住んでいた時以来だ。説得するのは食べてからでも問題ないだろう。
「うまっ」
「作ったかいがあったな」
「コレお前が!?」
てっきり出前や出来合いの物かと思っていたが、手作りらしい。嘘ではないかと冷蔵庫を開けると、記憶にない食材が仕舞われている。殆ど使った記憶のない鍋やフライパンを洗った跡もある。
嘘だろ……と思いながらも箸は止まらない。プロとまでは行かないが、一般的な美味しいと感じるレベルだ。しかも、マヨネーズをいくらかけても全く怒られもしない。
気付けば全部平らげてしまっていた。満腹になると惚けていたが、高杉の顔を見て目的を思い出す。
「高杉、もう満足したろ?だから帰れ、な?」
「帰らねぇ。俺は夏休み中ここに居るつもりだ」
「いやでもな。教師の家にずっと泊まるってのは世間的にはあまりよくないしな?」
「毎日、飯作ってもか?」
「うっ……!」
ちょっと揺らいだ。一人暮らしは家に帰っても誰も待っていない。部屋は真っ暗だし、食事なんてまず用意されていない。
「食費や光熱費は気にするな。全部俺が払う」
その手には輝く魔法のカード。土方が持っているカードよりも何ランクも上である。普通の人間は、一生持つことがないかもしれない。
「現に光熱費はずっと払ってるからな」
「……まさかっ!」
数ヶ月前から光熱費の支払いをした記憶がない。振り込み用紙はあるし、その領収証もある。いい加減口座の引き落としに変えようとも考えていた。単に自分が支払った事を忘れているだけかもしれない、とあまり深く考えずにいた。
このままでは養われる……!普通ならありがたい話ではあるが、年下のそれも教え子に養われるのは、大人として教師として絶対に駄目だ。
「絶対に駄目だからな!」
とにかく高杉には帰って貰おう。人として駄目になる前に、どうにかせねばならない。
「……わかったよ」
語彙力もクソもない説得でようやく高杉が渋々折れた。一旦帰って貰ったら、家の鍵を変えるなどして対策を立てよう。
「じゃあな、先生」
少し寂しそうな高杉の顔に胸が痛んだ。土方もこんな顔をさせたい訳ではない。教師と生徒。大人と子供。いくらお互いに好いていたとしても、守らなけばならないラインはある。いくら高杉の頭が切れても、お金があっても大人である土方が守ってやらねばならない。せめて見送るかと土方も一歩外へ出た。
「はあああああ!?待て高杉!!」
驚くべきことに土方の家を出た高杉はそのまま、隣のドアを開けたのだ。
「なんだ?恋しくなっちまったか?」
「違ぇわ!!なんなんでお前隣の部屋!?」
「あァ、どうやらマンスリーでも借りられるみてぇでなァ。じゃ、また明日」
ニヤリと笑うと高杉はそのまま中へと入っていってしまった。土方の波乱の夏休みの幕開けである。
「……で、なんで俺ん家来んの?」
土方の目の前にはベッドに腰掛けた高杉が居る。昨日終業式が終わり、学校は夏休みになった。とはいえ、教師である土方に休みはない。普通に出勤しなければならないのだが、朝から一つ問題が起きた。
インターフォンが鳴り玄関を開けると高杉が立っていたのだ。「よォ」といつもと変わらぬ涼しげな表情で。驚き固まっている隙に高杉はスルリと中に入った。そのまま土方の寝室に迷う事なく向かったのである。
「夏休みになっちまったからアンタの顔見えねぇだろ」
「意味がわからねぇ……普通は学校行かなくてラッキー!とか教師の顔見なくて清々する!とかだろ!?」
少なくとも土方はそうだった。部活や友達と会えるのはいいが、勉強が好きという訳でもなかった。口煩い教師は嫌いだったし、ちょっとグレた時期もあった。
「俺はアンタに会えないのが寂しいからなァ」
「いやでもな?せっかくの夏休みなんだから、どこかに遊びに行くとか、バイトするとかあるだろ?」
「だからアンタの家に遊びに来てんだろうが。バイトする程金に困っちゃいねぇし」
高杉はいわゆるボンボンである。働かなくてもいいくらいの資産はあるし、一人暮らしさせて貰うくらいの余裕はある。それに、高杉は今までに何度か土方の家に(押し切られる形で)遊びに来た事もある。
「おい!待て!何、荷物を取り出してんだ!」
「課題しなきゃならねぇからなァ。そろそろ出勤しなきゃ間に合わねぇんじゃねぇか?」
時計を見ればもう家を出なければならない時間だ。ここまで把握されているのも少々怖い。
「あああああ!クソっ!お前、絶対に変な事するなよ!課題終わったら帰れよ!いいな!?」
短時間では高杉の説得は難しいと判断し、土方は家を出る事にした。早朝から訪ねてくる辺り、それも計算ずくなのだろう。
「おー」
気のない返事に「絶対帰らねぇな」と思いながらドアを閉めた。
「おかえり」
玄関を開けるとやっぱり高杉は居た。しかし、説得する時間は朝よりもある。どうにか帰って貰いたい。
「えっ。なんだこれ……」
テーブルの上には夕食が並んでいた。土方は基本的に自炊をしない。外食かカップ麺などで済ませてしまう。帰宅して夕食が並ぶ光景など、実家に住んでいた時以来だ。説得するのは食べてからでも問題ないだろう。
「うまっ」
「作ったかいがあったな」
「コレお前が!?」
てっきり出前や出来合いの物かと思っていたが、手作りらしい。嘘ではないかと冷蔵庫を開けると、記憶にない食材が仕舞われている。殆ど使った記憶のない鍋やフライパンを洗った跡もある。
嘘だろ……と思いながらも箸は止まらない。プロとまでは行かないが、一般的な美味しいと感じるレベルだ。しかも、マヨネーズをいくらかけても全く怒られもしない。
気付けば全部平らげてしまっていた。満腹になると惚けていたが、高杉の顔を見て目的を思い出す。
「高杉、もう満足したろ?だから帰れ、な?」
「帰らねぇ。俺は夏休み中ここに居るつもりだ」
「いやでもな。教師の家にずっと泊まるってのは世間的にはあまりよくないしな?」
「毎日、飯作ってもか?」
「うっ……!」
ちょっと揺らいだ。一人暮らしは家に帰っても誰も待っていない。部屋は真っ暗だし、食事なんてまず用意されていない。
「食費や光熱費は気にするな。全部俺が払う」
その手には輝く魔法のカード。土方が持っているカードよりも何ランクも上である。普通の人間は、一生持つことがないかもしれない。
「現に光熱費はずっと払ってるからな」
「……まさかっ!」
数ヶ月前から光熱費の支払いをした記憶がない。振り込み用紙はあるし、その領収証もある。いい加減口座の引き落としに変えようとも考えていた。単に自分が支払った事を忘れているだけかもしれない、とあまり深く考えずにいた。
このままでは養われる……!普通ならありがたい話ではあるが、年下のそれも教え子に養われるのは、大人として教師として絶対に駄目だ。
「絶対に駄目だからな!」
とにかく高杉には帰って貰おう。人として駄目になる前に、どうにかせねばならない。
「……わかったよ」
語彙力もクソもない説得でようやく高杉が渋々折れた。一旦帰って貰ったら、家の鍵を変えるなどして対策を立てよう。
「じゃあな、先生」
少し寂しそうな高杉の顔に胸が痛んだ。土方もこんな顔をさせたい訳ではない。教師と生徒。大人と子供。いくらお互いに好いていたとしても、守らなけばならないラインはある。いくら高杉の頭が切れても、お金があっても大人である土方が守ってやらねばならない。せめて見送るかと土方も一歩外へ出た。
「はあああああ!?待て高杉!!」
驚くべきことに土方の家を出た高杉はそのまま、隣のドアを開けたのだ。
「なんだ?恋しくなっちまったか?」
「違ぇわ!!なんなんでお前隣の部屋!?」
「あァ、どうやらマンスリーでも借りられるみてぇでなァ。じゃ、また明日」
ニヤリと笑うと高杉はそのまま中へと入っていってしまった。土方の波乱の夏休みの幕開けである。
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